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見下ろすループは青  作者: 木村薫
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 57 宵の音

 未成年の酔っ払いが出てきますが,未成年の飲酒は法律で禁止されています。 

 念のため。異世界ですから,はい。

 満天の星空に響き渡る歓声。

 浜辺の宴は最高潮だ。ノリに乗った大人達は楽器を爪弾き太鼓を叩き、子供達は踊りだす。穏やかに海からやってくる風は、音に惹かれた精霊達を乗せて辺りを包みこむ。

 闇に潜む精霊も、誘い出され煌いていく。

 目に見える世界と、見えない世界が交わっていく。

 篝火の光と、精霊達の蛍火のような見えないはずの光。漂う音楽にのって流れる蛍火は、ゆったりと人々を包み込む。まるで無限の宇宙空間のよう。天も地も境がなく広がっていく錯覚。


 「ハルキも唄ってはどうだ」

 

 夢幻な光景に見蕩れ、ソレを肴に飲んでいた俺は唐突に掛けられた声に現実に戻される。

 いつの間にか、隣に黒雲が腰を下ろしていた。宴の最初はサンギ達の上座に座っていたのに、いつの間にか無礼講になっていたらしい。

 イルタサは小皿を指で挟んで鳴らし踊り、サンギは女達と笑いあって酒を酌み交わしている。


 「後李で楽師をしていたのだろう? 何でも鬼火を出していたとか」

 「何でそんな事知ってるんですか」

 「双子が楽器を取りにいったぞ」

  

 黒雲はオレの杯に勝手に酒を注ぎ、相変わらず答えにならない返事をする。

 

 「酒は弱い方ではないようだな」

 「まぁ、程ほどに嗜みますよ」

 「ここの酒は美味い。何よりこの絶景にこの楽の音、この楽しげな者達。最高だな」

 「あんたは、これより美味しい酒を飲んでいる気がするけど」

 「……日常を忘れる為の酒など、付き合いで飲む酒など美味くない。どんな美酒より、この宴に勝るものはない」


 黒雲が手酌をしそうな勢いなので、酒を満たしたヤカンのようなソレを慌てて持って黒雲の杯に酒を注ぐ。

 青々とした中に甘い香りが流れる。果実酒のようなソレは、確かに美味い。


 「世界を美しいと素直に認めれる。そういう者達と飲めるのは嬉しい事だ」

 「あぁ……あんたも共生者なんだ」


 黒雲の言葉に、思わず微笑んだ。

 こいつは、共生者だ。

 まるで夢のようなこの光景を、俺が見ている『見えないはず』の光の舞を捕らえているんだ。

 そう思った途端に答えを呟いていた。


 「参ったな。ハルキは会ったその日に判ったか」

 「まずかったか? 」

 「いや。構わぬが、あまり口外はしないで欲しい」

 「ふぅん。まぁ、判った」


 何だか事情があるようだ。

 視線を一度合わせ、軽く杯を持ち上げて一気に飲み干す。まるで誓いの杯だ。

 何を誓う? きっと、これからの未来へ続く関係かな。この付き合いが続くように。

 こいつを知っている。この魂の記憶の中に黒雲の魂は刻まれているだろう、妙な確信。

 なら、黒雲は覚えてるだろうか。

 俺のモヤモヤしたこの感じを、今この瞬間感じているだろうか。

 モヤモヤと。何かを思い出さねばと焦る気持ち。

 何でこうも焦る? 何を思い出さねばいけない?

 この世界に関係があるんだろうか。

 こうなってしまった世界に、関係しているんだろうか。

 深淵の呪縛に絡まれて、争いの血のニオイに満ちていくこの世界に、黒雲の魂は関わっているんだろうか。


 「持ってきましたーっ」

 「お待たせしましたぁ! 」


 どこか舌が回りきってない声が二つ。

 振り返ると、やけに赤い顔をした同じ顔。

 

 「これでしょ」

 「ハルキの三線」

 「オレ達も最初に会った時以来聞いてないなぁ」

 「あの聞いたことない唄」

 「聞きたいなぁ」

 「お前ら……酒飲んだだろう」

 「「飲みましたぁ」」

 「『未成年』が酒を飲むな!……いや、その、もう少し飲み方を考えろよ。水飲んどけ」

 

 思わず日本語が出てしまって焦ったが、酔っ払っているシャムカン達は気づいてないようだ。

 ただ、黒雲の視線がキツク感じる。

 気のせい、ではない。

 慌てて弦を爪弾き、調律を始めた。

 

 「少しだけだぞ。ここのところ、弾いてなかったからな」

 「弾けばいいのに。弾けば命の泉沸くぅ」

 「ナンダそりゃ」


 シャムカンは笑い出し、モルカンは腹を抱え息も切れ切れ。

 何が面白いか判らない俺は、置いてけぼりを食らった感じだ。


 「精霊が踊りだし、その恩恵で寿命が伸びるという格言だな。迷信だが」

 「まぁ、精霊は踊るけどさ」

 「精霊が踊るほどの演奏か? それは楽しみだ」

 「あまり期待するな」

 「いやいや。荒んだ春陽では体験出来ぬよ」

 

 自嘲気味の言葉に、思わず弦から顔を上げた。

 夜風を受け、遠く海の果てを眺めて呟いている。その顔には尊大さは消えていた。何を考えているのか判らない笑顔が消えていた。


 「皮肉な話よ。エリドゥは枯れ果て春陽に精霊は流れたが、戦疲れで荒涼とした人心に精霊は離れていっておる」

 「……」


 返事が出来ず、ただ弦を弾いた。

 闇へと沁みていく音。

 余韻の震えに音を重ねる。弦を震わせ音を揺らして、空気を変えていく。

 黒雲も、荒んでいる。

 何を考えているか判らない心が、何かに深く憂い悩んでいるのだけは感じる。

 俺の魂の底にある黒雲の魂は、もっと明るく強い。

 なぁ。

 まだ互いに何者かすら、明らかにしてないけど。

 けどさ。判るんだよ。

 偶然なんか、ない。

 きっと、この出会いは未来を切り開ける一歩になる。

 自分自身が変化出来る。繋がりから何かが開ける。何かが変化する予兆に出来る。

 弦の震えを、重ね重ね。舞い上がっていく音を意識が追いかける。

 宙へ上りだす意識。

 そっと声を重ねる。

 『砂山』

 何故だろう。この唄は何かに触れる。

 記憶の中、核心のどこかを揺さぶる歌詞。

 荒ぶる海の向こうの故郷を恋しく思う歌詞。

 ……違う。

 一番を唄い上げて気づく。

 荒ぶる海ではない。そこにあるのは、凪いだ海。赤く染まる夕日。恋しい相手を求めて声の限りに唄う人。

 瞬くように脳裏に映像が流れ出す。

 弓を弾き弦を押さえる指先だけは止まらない。止めては、きっと映像が消えてしまう。

 視界から光が消える。記憶に囚われる。

 誰だ。知ってる。お前を知ってる。だって、お前はずっと俺の中にいて唄っていたじゃないか。

 この唄を。この唄を。


 「……帰っておいで 私の宝よ 愛しい宝よ」


 無意識が唄を紡ぐ。掴んだ感触に確信。

 これだ。これが俺の中に鳴り響いてたんだ。

 海の向こうから愛しい魂を呼び寄せる為に唄う、その唄。

 エアシュティマス。あんただろう。

 あんたは、ずっと唄っていたんだな。呼んでくれてたんだな。


 「泣け泣け海よ さめざめ唄え」


 止まらない。

 涙が止まらない。

 弓を引く腕も、弦を抑える指先も、止まらない。

 還っておいで。

 みんな、還っておいで。

 この浜で共に唄った精霊達、還っておいで。

 この浜で別れた仲間よ、還ってきたよ。

 この世界はこんなにも混沌としてしまった。何もかも変わってしまった。

 でも、もう一度唄おう。

 もう一度、響かせよう。

 世界は変えられる。俺が以前変えたように、きっと変えられる。

 だから、もう一度、唄おう。

 

 「ハルルン」


 涙で歪む世界。

 背中に当る柔らかいシンハの体温。

 吸い込まれる。記憶の奥へ。

 

 



 


 

 ようやく『見下ろす』の更新です。

 次回ですが,しばらく時間を持ちたいと思います。とりあえず。

 ここまでの経験で,やっぱり週一で定期的に更新するには6話分のストックは必要で(あくまで,私のペースでは。1話分とかだと,精神的に余裕がなくて怖いのです。小心者なんで)。さらに,今は『恋せよヒーロー』の方をラスト向けてスパートしてます。大分,『見下ろす』の世界に入り込めたので続きを書きたいのですが,以前のような週一更新を目指すなら,ここは頑張って6話ぐらいはストックしたいので。


 本当なら,いつものように次回更新日をきっちりと宣言したいのですが。

 きっちりとストックを作り,ラストに向かいたいんです。

 私の我が侭で申し訳ありませんが,次回更新日の予告は出来ません。

 でも,必ず復帰します。この『ハルンツ』であり『ハルキ』の物語は絶対に描きたいんです。異常と言われても,気持ち悪いと言われても,下手くそなのにと言われても,どー罵られようと。描きたいんです。だから,絶対に復帰します。

 ミルは囚われっぱなしですしね。それに,今の後李編もまとめなければ。


 詳しくは活動報告に書きます。

 更新日が決ったら,ストックできたら,活動報告に書きます。

 『恋せよヒーロー!』で進行状況を書きます。更新目標日,みたいな。

 後書きで。

 

 何はともあれ。

 こんなに鈍くてすみません。

 でも,私に出来る限りの物語を描いていきたいと思います。

 自己満足,ですが。でも,出来うる限り。脳ミソを捻り回して絞り切り,やっていきます。

 では。

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