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なにかいる  作者: ariya
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 とある総合病院勤務のしがない内科医である俺はアルバイトをすることになった。

 それは別の病院当直のバイトの相談であった。

 山の中の古い精神科の病院。


 バイトといっても夜間の病院の管理、時間外外来などはないため入院患者に何もなければ自由に過ごしていい。

 バイト当日に俺は車で30分かけて例の病院へと向かった。


 到着したのは6時過ぎ。

 まだ事務員がいたため、そこでアルバイトの手続きを行う。

 マイナンバーカードと医師免許のコピーを提出して、事務から病院内の簡単な説明を受けた。

 山の中の病院であるが、病院敷地は結構広い。

 精神科外来・病棟の建物だけでなく、重度心身障害者の為の入所施設(とわた学園)も存在していた。そこにも別の当直医がいるとか。

 当直の部屋はそれらの建物とは別の場所。

 奥の方にある一見掘っ立て小屋であった。

 見た瞬間、ちょっとこれはと思ったが中は案外綺麗であった。

 内装は古いには古い。


 朝ドラの昔のやつで見たようなトイレとお風呂であった。

 綺麗に清掃されているとはいえ、さすがにお風呂を使うのは躊躇してしまう。

 まぁ、1日くらい風呂に入らないくらいはどうということもない。

 気になるようなら明日の早朝に総合病院のシャワー室を使用してから外来に出ればいいだけである。

 事務員が帰ったのを確認して、荷物を放り投げる。

 寝る場所は6畳のたたみの部屋。

 田舎の祖父母宅のものよりも年季を感じる畳と襖、押し入れ戸があった。


「あ、やべ」


 俺は明日自分が抄読会の当番であったことを思い出した。

 抄読会というのは論文を読んで、それを内科医たちの前で内容を説明する会のことだ。


「はぁ、めっちゃ寝る予定だったのになぁ」


 幸いWi-Fiが完備されている。

 ipadでそれを繋げて、論文を検索する。

 それを読みながら、メモ帳で必要な箇所をメモしていく。


 PPP・・・


 電話の音がして俺はびくっとした。袋棚の上に設置されている電話が鳴ったのだ。

 電話番号を確認すると病棟からであった。


「はい、もしもし当直の飯田です」


 病棟の看護師からであった。内容は患者の相談である。

 転倒した患者の診察依頼であった。

 さすがに病棟に行く必要があるな。

 春の頃合い、雪の季節は終わったとはいえ、夜はひやりとする。

 普段着と白衣だけでは寒くて、上着も着ればよかったと後悔した。

 それでも当直室に戻るなど億劫である。


 さっさとすませて戻るとしよう。

 病棟の看護師の案内のもと該当患者の診察をしていく。特に外傷はない。本人がいうには頭は打っていないというが、念のため看護師に注意を促すようにと指示を記載して当直室へと戻った。


「あー、寒い」


 古い掘っ立て小屋であり、防寒がエアコン1個のみである。

 雪の季節であれば石油ストーブも出してもらえたらしいが。


「そういえば、河村先生。電気毛布を持って行っていたって言っていたな」


 今後の為に購入を検討した方がいいかもしれない。

 そう思いながら俺は再度作業に戻った。

 まだ半分しか読めていない。


 早く読んでまとめを作らないと。

 まじで寝る時間がなくなる。


「くあー、終わった」


 俺は時計の方をみた。深夜2時30分頃である。

 これなら全然寝れる。

 当直明けは総合病院の本来の業務のこともあり7時に病院を出てもいいと言われている。

 6時30分に起きて、7時に出て、論文とまとめた紙を人数分印刷して外来業務に行けば間に合う。


 目覚ましの設定を行い、電気を消して布団の中へと入り込んだ。

 電気を消すと古い和室、雰囲気がある。

 怖がりな女子にはきついだろうなと思いながら瞼を閉ざした。


 ざっ、ざっ。


 何か音が聞こえてくる。

 引きずるような音である。


 何だ?


 外で誰かが何かを運んでいるのか。

 こんな深夜なのにご苦労なことだ。


 いや、思ったよりも近いような。


 そう思いながらも強い眠気が襲ってきて俺は意識を手放した。


 ぺと。ぺと。


 何かに額を触られているような気がする。

 冷たくてひんやりとした何か。

 ところどころ頬にちくりとしたものがかかった気がする。


 おいおい、やめろよ。


 眠いのに苛立ちをあらわにして目を開けると部屋の中はじんわりと光が差し込んでいた。


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