悪の矜持
§ 南東エリア チームショウゴ視点 §
地下1階・2階・3階と、これと言った特筆すべき敵もおらず、淡々と制圧し4階へ歩を進める。
「ボス、やはり手応えが無さすぎるのではないでしょうか」
「そうよね、発見する残党も戦闘は素人レベルばかり。これじゃ空っぽになったお城を全力で攻めてる頭の悪い殿様みたいじゃない? 籠城戦って訳でもないし。寧ろ無血開城でもすれば良かったのにって思っちゃうわ」
「確かに。でも、外であれだけ砲火してくるって事は、何かしら抵抗する意志ありって事ですからね。 あれで終わりって言われると、それはそれで違和感はありますね。まあ、アルの一掃を喰らってからじゃ戦意喪失するのも分からなくはないですが」
確かに、迎え撃とうと構えていた所に現れたのは、黒い炎となったディノポネラと、あの高出力エネルギー砲を放ったロボットを一刀両断した今や最強のヒーロー、紫の閃光「R」だもの。
しかも、その力を目の前で見せられ、自身の圧倒的火力を児戯の様に一層する程の力を持った存在。
あんなのを見せられたら戦意喪失もしたくなるわよ。
「……なら、『R』だと認識した時点で、始めから攻撃なんてしなければいいじゃない」
「キラさん?」
呟いた言葉を受け、何かまずい事でも言ってしまっただろうかと慌てるショウゴを横目に、セオドラはその意味に引っかかりを感じ、首を傾けしばし考える。
「……なるほど、そう言う事なんですね。ボスが感じた違和感の意味を理解しました」
「えっ!? そ、そう? なら、セオドラちゃんの理解したことを聞かせてくれるかしら」
「この手応えの無さには何か裏があるって事ですか!? 流石、キラさんとセオドラさんだ……。俺は全く気が付かなかったです」
ごめんサトルくん、私もセオドラちゃんが何言ってるのか分かってない。
本当は、あまりにも敵の手応えが無さ過ぎて、愚痴零しちゃっただけなんだけど……。
「おそらく、空城計の逆なのでは、という事です。先手で激しい攻撃を仕掛け、返り討ちに合う様を演出しその後撤退。城を明け渡したかの様に見せかけて、奥におびき寄せた後、有利な位置取りで背後から攻撃を行う。という事を仰りたかったのではないでしょうか?」
「そ、そう! その通りよっ! 私が言いたかったのは、FPSのゲームとかで、まんまと釣られて敵が待ち構えているエリアに誘い込まれて、そのまま一網打尽にされる危険性があるかもしれない、って事よ」
「なるほど! 俺にも理解出来ました! APEX’sで晶がよく使う戦法と一緒ですね!」
「晶ちゃんも中々エグイ事してるわね……。とにかく、少し警戒レベルを上げておいた方がいいと思うわ。特に、背後からの攻撃と急襲に注意して」
「了解しました、ボス! 皆様に展開します」
≪ボスより全員に注意喚起です! ――≫
な、何とか話が繋がったけど……なんか、皆ゴメーン!
≪北西エリア、チーム晶了解です! 現在4階に下りた所≫
≪北東、アル了解! 現在5階中央交差に到達≫
≪南西エリア、チームロック。今の所、特に異常なし。これより4階に進む≫
§ 南西エリア チームロック視点 §
「しかし、流石はアル君って言ったところ? 進むのが早いわよねっ!」
「そうだな! でも俺達だって負けてないだろ? な、ジュンタ!」
「はいっ! これでも一生懸命にやってるつもりなんですけどね! そのうち、落ち着いたら筋トレでも始めようかと思ってます」
「おお、ならそん時は俺が柔道教えるからいつでも言ってくれ! あと、エボ爺もああ見えてかなり強いぞ!」
「え、マジで!? あたしも教えてもらおうかなー!」
拠点内に突入してから楽々と進み過ぎたせいもあるのか、気の抜けた会話をしながら進む。
「だが、まずは瀬尾さんから連絡あった通り、注意しながら進むに越した事はないな」
「まぁ、そこら辺はあたしにお任せ……」
突然、全身を走り抜けるような違和感を感じ、走りを止めて目を閉じる。
「天南先輩?」
何か、もの凄く嫌な感じと、底から湧いてくる様な敵意。
「……なに? ……なんか来る? なんか来るっ! 下っ!?」
≪みんな気を付けてっ! 下からなんかヤバイのが来るっ!≫
「なにっ! お互いの背を守るように固まれ!」
ロックさんの声に反応し背を向け合って、警戒を高める。
足元から微かに伝わる振動は徐々に大きくなり、それに伴って聞こえ始めた機械音も大きくなる。
大方は通り過ぎて行ったが、あたし達の目の前にある壁の向こう側から、派手な破壊音を立てながらこちらに向かって来る多くの音がする。
「さあ、手応えのある敵が来たみたいよ!」
「はっ! 丁度退屈してた所だ! やってやるぜ!」
「慎重に、確実に行きましょう!」
壁を破壊して現れたのは、6体の真っ赤な機体の小型アーマードだった。
≪南西、チームロック! 真っ赤な小型ロボット多数と接敵! 戦闘に入る!≫
§ 北西エリア チーム晶視点 §
「よし、これで4階の掃除も終わりですね!」
「なーんか、かったるいにゃー」
「敵なんて殆どいませんもの、致し方ありませんわ」
「全部、晶の瞬殺で終わりなの」
「でもキラお姉様からの注意喚起もあるから、何が起こるか分からないんだぞ」
「こういう時の恋焦の発言って、何でか現実になるんっすよねー」
≪みんな気を付けてっ! 下からなんかヤバイのが来るっ!≫
「うそぉ!? 恋焦何て事言ったにゃーっ!」
「恋焦お姉ちゃんも、明輝お姉ちゃんも! フラグ発言禁止ですっ!」
「ふっ、ここあは魔性の女! フラグも即回収だし」
「じ、自分は悪くないっすよ!?」
「バカな事言ってないで、それよりも下から何か上がって来ますわよっ!」
足元から感じる振動と音の大きさで、かなり重量のある何かが上がって来ている事が伺える。
「音が強いのはこの壁の向こうですかね! はああぁぁーっ!!」
見えないのは気持ち悪いから、問答無用で壁を破壊した。
すると穴の空いた分厚い壁の向こう側には、エレベーターが通るような縦穴が見えた。
ただ、あり得ない程にドデカイ空間。皆で首を突っ込んで上がって来る音の方向を覗き見る。
「え? ちょっとあのデカブツ、ヤバくないですか? ちょっ! デカすぎますって!」
「もしかしてアレ、地上に出ますのっ!? マズいどころじゃありませんわよ!?」
「拠点内よりも先に、アレ何とかしないとダメな奴じゃないっす!?」
≪南西、チームロック! 真っ赤な小型ロボット多数と接敵! 戦闘に入る!≫
「ロックの方もだっちゃ! ウチらはどうするにゃ晶!」
「このチームのリーダーは晶だぞ!」
「そうなの! ボクらを信頼してやりたいように動くの! 晶っ!」
何がどうなるかなんて想像が付かないけど、このデカブツを地上で暴れさせたらとんでもない事になるのは明白だ。なら、私が取るべき行動はひとつ!
「アレと一緒に地上へ出ます! そして、粉々に破壊してやりましょう!!」
私の決断に、お姉ちゃんたちはちょっと悪そうな笑みを浮かべ、声を大にして応える。
「「了解!」」
≪こちら北西、チーム晶! 地上へ向かう巨大メカと遭遇! 危険と判断し、破壊する為一旦地上に戻ります!≫
そして、デカブツが乗せられたエレベーターにすれ違い様に飛び乗り、地上へと向かうのだった。
§ 南東エリア チームショウゴ視点 §
ちょっと! 何で本当に回り込んで来ちゃうのよ! 全くっ!
こういうのってフラグ回収って言うんだっけ?
脳内で愚痴を零しながら「ツイてないわね」と思う。
セオドラから向けられる尊敬の眼差しがちょっと痛くもあり、ちょっと嬉しくもある。
「ボスの予想通り、やはり回り込んで来ましたね! まだ諦めてはいないようです」
「キラさん! セオドラさん! このまま先に進みますか? それともどちらかの救援に向かいますか」
「今、このチームのリーダーはサトルくんよ! あなたの考えで......」
「ボス! こちらも下から何か上がってきます! 穴を開けますっ!」
セオドラちゃんは壁に手を当て「勁」を発して一面を見事に破壊し穴を開けた。
「……ちょっ! まずいですよコレっ!」
開いた穴から覗き込み、エレベーターでせり上がって来る巨大なマシンに警鐘を鳴らすサトルくん。
何が来ているのかと思い、覗き込んでその危険さをやっと理解した。
こんな巨大なモノに晶ちゃんは立ち向かって行ったっていうの!?
きっと、サトルくんは晶ちゃんに合流し手助けをしたいだろう。
だが、彼の性格なら恐らく……。
「キラさん! セオドラさん! 南西、ロックさんのチームに救援に行きましょう! そして速攻で片付けて地上に向かい、全員であのデカいのをやりましょう!」
そうよね……。そういう判断をするわよね。
でも駄目よ、そんな「心ここに有らず」の状態で戦ったら、痛い目を見る処か、本当に助けたい者すら助けられなくなるかもしれない。
この戦場は全力……いや、それ以上の力を出さなければマズイ状況に追い込まれる、そんな気がする。
これは、最初に敵を侮った私の失態ね。なら、今から取り戻せばいい。
まだ始まったばかり、まだ何も終わっていないじゃない!
「サトルくん! ロックさん、さっちゃん、ジュンタ君。 彼らは、あなたが助けに行かなければいけない程弱い?」
「えっ!? いや、そんな事はない! 誰一人として弱くなどないです!」
「なら、信じてあげましょう? 彼らは必ず勝って、地上へ戻って来ると」
「そうですよ! 兄のあなたが妹を助けに行かないでどうするのですか!」
「キラさん、セオドラさん……」
少し下を向いて、ちょっとだけ零れそうになったものを堪えるショウゴ。
「……ありがとう、ございます!」
「何言ってるの! あなたに全力、いいえ、全力以上を出してもらわないと困るのは私達の方なのよ!」
「そう言う事ですので、さぁ! 来ますよでっかいエレベーター!」
「蟲は苦手だけど、機械なら巨大でも何て事ないわね! 派手に行くわよっ!」
「「了解っ!!」」
すれ違い様に穴へダイブし、敵の巨大マシンが乗るエレベーターに飛び乗った。
≪こちら南東、キラよ! こっちも巨大マシンが地上に出るわ! 晶ちゃんチームに合流するわね!≫
≪キラ姉! ありがとう! 大好きーっ!≫
≪ロックさん、さっちゃん、ジュンタくん! そっちは任せたわよ!≫
≪勿論っ! あたしにお任せーっ!≫
§ WORMS 司令官 Void視点 §
若い奴らを戦場に送り出して直ぐ、私は地下35階にある研究棟へ向かった。
そして今、誰も居なくなった研究室で生体実験ポッドに横になっている。
後は、先程タッチパネルで打ち込んだ命令を実行するだけだと言うのに……。
「……ははっ、ここに来て指が震えるとは、司令官たる私も衰えたものだ」
若者の背中を押しておきながら、この歳になってまだ自分が可愛いとでもいうのか。
「情けない、情けないぞ! 大丈夫だ! 恐ろしい事など何もない! 私は……、私は今! お前達の未来を紡ぐ圧倒的な力となろう!!」
――ピッ!
実行ボタンに触れると、能力者の血清がセットされたターンホルダーが稼働し、チューブを通って体内に流れてくる音が聞こえる。
セット可能なホルダーの数は10あった。
血清保管庫の中で一番厳重に保管されていると思われた棚から、無造作に10個を手に取りセットした。今、10回目の音を聞き終わった所だ。
「……これで、終わり……なのか? 特にこれといった変化もないよう……」
――ドクンッ!
体内に入り込んだ異物らは、生命を手にした事を喜んでいるかのように急激に活発になり、私の中で暴れ始めた。手、足、内臓、神経、脳、そして細胞の一つ一つまで、凄まじい速度で浸食し変化させる。
想像を絶する痛みを伴いながら上げる絶叫は、人間が到底発する事の出来ない様なもので、それは、自らが未知の生命体に変化していく事を容易に認識させた。
「ヴヴヴオ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ォォォォォォーッ!!」
同時に、黒と紺の正に冥府から漏れ出した瘴気や怨嗟とも呼べる様な悍ましい力の奔流が、地下深くから大きな柱となって立ち昇り、そして天を衝く。
§ 北東エリア アル視点 §
ちょっと飛ばし過ぎたかな?
敵が殆どいない上に弱すぎるせいで、5階中央交差に一番乗りで到達してしまった。
キラさん曰く、誘い込んでからの攻撃に注意しろって事だけど、今の所なんの変化も見られない。
チーム分けの時に感じた、嫌な纏わりつくようなものはまだ消えないが。
≪みんな気を付けてっ! 下からなんかヤバイのが来るっ!≫
天南!? え、下から!? って事はアレか? リンちゃんの時に見たロボットか!
火力を投入してきたってことは、確実に決めに来てるってことだよね!
なら、菫でまた一刀両断に……って、数日は無理じゃーん!
てか、外で喰らった集中砲火以上の火力が来るって事?
マジで? ちょっとメンドくさいじゃん!
なら上がって来る途中で叩き落しちゃうか!
≪南西、チームロック! 真っ赤な小型ロボット多数と接敵! 戦闘に入る!≫
ああ、一歩遅かったしーっ!
あれ? って事は、5階のこの中央交差で全員集合出来ないって事だよな?
持ち場離れて合流した方がいいのか?
≪こちら北西、チーム晶! 地上へ向かう巨大メカと遭遇! 危険と判断し、破壊する為一旦地上に戻ります!≫
え、ちょ、待って! 混乱する! は? 巨大メカ!? なにそれヤバくねっ!?
巨大メカに晶が行くの!? 身長足んなくね!?
あ、巨大メカに身長もなんも関係ねーか。
よっし、じゃ俺は天南の方に加勢に行って、サッと終わらして一緒に地上に向かおう。
うん、これだな、これが最適解だ!
≪こちら南東、キラよ! こっちも巨大マシンが地上に出るわ! 晶ちゃんチームに合流するわね!≫
そっちもかよーっ! 巨大メカなのかマシンなのか分かんねーよ!
≪ロックさん、さっちゃん、ジュンタくん! そっちは任せたわよ!≫
≪勿論っ! あたしにお任せーっ!≫
あ、なんか天南、大丈夫そっぽくね? なんかノリノリみたいだし。
んじゃ俺も一旦地上に……。
――オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オオオオォォォォォォーン!!
地下深くから物凄く嫌な気を放つ何かが吹き上げて来るのを感じ、素早く距離を取った。
「ちょーっ!? 危ねぇぇーっ!」
目の前を、黒と紺の悍ましい力の奔流が、階をブチ破って下から突きあげ、掠めて行った。
「ちょおおぉぉーっ!! 何だよコレーっ!? 魔王覇気並みに気色悪りぃんだけどっ!! って魔王覇気ってなんだよ!? ゲームでしか聞いたことねーよ!」
……いや、どっかで聞いたことが? あれ? なんだっけ? 何か俺忘れてない?
なんか思い出しそうで思いだせない! あーっ! やけに引っかかるーっ!
って、いやいや、今そんな場合じゃねーよっ!
まず、それは横に置いておいて……っと。
突然、全身を逆撫でるような不快感、濃すぎる負の感情、強い怨念のようなものを地下深くに感じ取り、意識を切り替えざるを得なくなった。
その気色悪い気を放つナニカは、開いた穴を通って物凄いスピードで飛び上がって来る。
「ヤベぇっ!!、これマジでダメなやつだ!!」
≪緊急っ! アルだ! 何かトンデモなくヤバイ奴が地上に向かってる! 俺が相手をする! 皆は絶対に近づかないでくれ!!≫
そして、地上は混戦を極める事になる。
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