黒い森へ
WORMSの日本支部、BUGSの壊滅と共に、リンとアゲハが消えてから3か月近くが経過した。
防衛省配下のABC(脅威対策局:Anomaly Bind Control)および日本政府を筆頭に、WORMSの拠点が置かれていると判明した対象国との協議が行われ。この度、最後に残ったドイツ、シュヴァルツヴァルトにあるという本部拠点の制圧作戦実行が決定した。
これまで、多くの組織拠点を制圧・壊滅してきたヒーロー達の実績と実力が十分評価された結果であり、今回の制圧作戦においても、それは問題なく成功すると判断されての事だ。
だが、作戦決定の連絡を受けた「ARTISTS JAM」では、当初、組織本部から潰さなければダメだと声を上げていた事もあり、それが一番最後になった事に少し納得のいかない部分もあった。
「そもそも、周囲を囲って逃げ場を無くした状態で城攻めするっていうならまだしも、今回みたいなやり方じゃ本部にまだ残ってたかもしれない大物や強敵なんか、とっくに逃げてるに決まってんじゃんって話で! こんなんで拠点に乗り込んだって、中身が蛻の殻なのは火を見るより明らかじゃん!」
今回の決定についてリモート会議でABCと打ち合わせをしている所だが、今更そんな事を言っても無駄な事と理解しつつも珍しくアルくんが怒っている。
ABC職員でウチとの連絡を担当している『礼門 夏生』さんが、困った表情でアルくんの憤りをウンウンと一身に受けている。
「アルくん、もちろん分かっているとは思うけど、キツく当たっても仕方がないのよ? なっちゃん困ってるじゃない」
「キラさぁ~ん! もう私だって泣きたいですよぉ~。 局長は局長で『今更時間を戻す訳にもいかんからなっ』って言うし~。 分かりますよ? 分かりますケドぉ~っ、アルさん、私だって悔しいんですってばぁ~っ!」
アルくんが何に、そして誰の為にイライラしているのか。その理由が分かっているだけに、健気に受け止めながら、モニター越しにアルをチラチラと横目にしているなっちゃんに気が付いた。
もう少し優しく接してあげないとダメよ? とアルに目で訴えかける。
「ソウデスヨ アルサン オンナノコニハ ヤサシクネ!」
「うぅ~サクラちゃんありがと~! 優しぃ~」
「ナッチャンヲ イジメタアルサンハ イマカラ サンヌキノケイ デス! ハンロンハ ミトメマセンヨ アル」
「サクラも段々と俺の扱い方、雑になってきたよね!?」
「コチラガ ソウテイシテイタ タイミングデハアリマセンガ テキヲツブスコトニ ナンノチガイモアリマセン! アル ワカッタアルカ?」
「頼むから語尾にアルつけるのやめてくれない!?」
そうか、とうとう蟲の頭を潰す時が来たんだ。
寧ろ「やっとか」と言う感もある。
元々は、リンくんが果たしたかった事だった。
だけど今は、私達にとってそれはリンくんの仇討ちという大きな意味を持ったものになった。
もしかしたらリンくんは「復讐」なんて安っぽい感情や言葉で語らないでくれ、って言うかもしれない。
オレはただ。誰かを守る為に、救うために必要なら、全ての悪を叩き潰すだけだ!
うん、多分そう言うだろう。そして自分一人がその責を、罪を背負えばいいって。
でもそれは私が、ううん、あなたの帰りを待っているみんなが許さない。
私達は、仲間であり、チームであり、大切な家族よ。
だから、私達も一緒に背負う! 今も、そしてこれからも!
サクラの言う通り、敵を潰すという事実になんら違いはないわ!
「アルくん、サクラの言う通り、敵を潰す事になんら変わりはないの。やるからには本気で行くだけのことよ。なっちゃん、作戦実行は2日後の夜20時でいいのね」
言葉に乗る圧が変わった事を感じ取り、夏生も本気モードに切り替える。
「はっ! 申し上げます! 明日、18:00。こちらから戦術輸送機『ハーキュリーズMk-3改』を飛ばし、山形空港へ迎えに上がります。現地ドイツの黒い森上空まで、およそ13時間を予定。翌、07:00には出発となります。明日、19:00には山形空港に到着していますので、時間に余裕をもって来て頂ければと思います!」
「ナッチャン カッコイーッ!」
「ありがと~! サクラちゃ~ん!」
「明日はなっちゃんもこっちに来るのよね?」
「はいっ! 道中ご一緒させて頂きます~! 皆さんに会えるのがすっごく楽しみで楽しみで!」
「えっ! なっちゃんこっちに来るのっ!? あ、じゃ、あの、さっきはゴメン!」
「……本当に反省してるんですかぁ~?」
「してるしてる! ホラっこんなに!」
カメラが設置されたモニターの前で両手を合わせ頭を下げるアル。
絵面が仏壇に手を合わせている様にしか見えないから、何をやってもフザけている感じになってしまうのがアルくんの残念な所よねー。まぁ可愛い所でもあるんでしょうけど。
「本気なのかふざけてるのか分かりませんけど、仕方ありませんね~。さっきのはナシにしてあげます。でもその代りと言ったらアレですけど、明日アルさんのサイン下さい! それで許してあげますっ!」
「サインっ!?」
なっちゃんの唐突な無茶ぶりに驚く。
モニター越しになっちゃんが上目遣いで「ダメですかぁ~?」と言えば、全然ダメじゃなくなってしまう不思議。
「アルくんっ! 明日までサイン考えて上手く書けるよう練習する様に! なっちゃんの為にっ! これは業務命令です! それにこれからもこういう場面増えるかもしれないでしょ? 紫の閃光『R』?」
「えぇーっ! そんなの職権乱用じゃん! サイン!? うぇぇーマジかぁー!」
「何言ってるのよ。職権濫用っていうのはね、公務員が職務上の権限を正しく行わず、自らの利害に用いる事を言うのよ? ウチはただのイチ企業ですから、お生憎様。なっちゃんの為に頑張ってね?」
モニターの前でガクっと崩れ落ちるアル。
「あ、それです~っ! 紫の閃光『R』のサインが欲しいのであって、アルさんのサインが欲しい訳ではないので~! では、明日楽しみにしてますね~!」
「あ、なっちゃん! 明日こっちに来たら、皆でご飯いきましょー? もちろん私の奢りで」
「やったぁ~! モチロン行きます、ごちそうになります~! 流石キラさん! ダイスキです~!」
キャッキャする女子2人の隣で、床まで崩れ落ちたアル。
「アル ガンバッテオキテ! ゲンキダシテ!」
「くーっ、ありがとうサクラ! 俺、ガンバル! なんだかんだ言ってもお前は優しいよなぁー」
「アル オキタラ サインノレンシュウ スルアル!」
「やっぱり俺の扱い方、雑になったよね!?」
◇◇◇
翌日夕方、山形空港に戦術輸送機「ハーキュリーズMk‐3改」に乗って到着したABC職員とP‐SACOのメンバー。
入港前に、男性陣はロックさんとアルくんが、女性陣はさっちゃんと晶ちゃんを除いたメンバー全員で空港に行き出迎えた。
男性陣は皆で予約していた居酒屋へ。女性陣も予約していたフレンチレストランヘ行き、明日の事やそれぞれの状況、また他愛もない話で交流を図った。
翌朝、サトルくん、ジュンタくん、さっちゃん、晶ちゃんも始発の電車で合流し、プラスなっちゃんで空港に向かう。
昨晩、ディナーを終えた後に、なっちゃんが空いてるビジネスホテルをスマホで探していたので、ウチに泊まればいいのでは? と皆で誘った所「会社で雑魚寝ですか~」と明らかにテンションが下がったので、無理やり連れてきて空き部屋を使ってもらったら、その豪華さに固まっていた。
アルくんから「 紫の閃光『R』 」のサインも無事ゲット出来たらしく、朝からテンションの高いなっちゃんは、さっちゃんと晶ちゃん、3人で手を繋いで空港に入った。
既にP‐SACOとABCの皆さんは揃っており、準備は万端の様である。
「おはようございます。 今日は長距離フライトになりますので、道中は、大船に乗ったつもりでリラックスして居て下さい!」
元々航空自衛隊だったのだろう。それっぽいフライトスーツに身を包んだABC所属のパイロット2名が、集まった皆に向かって挨拶をする。
「P‐SACO、全36名! 本日はよろしくお願い致します!」
和田さんが挨拶をし私にバトンタッチする。
「皆さんおはようございます。ARTISTS JAM は Artemis5名、および私を含む全13名です。今日は一つの区切りの日となります。情け容赦は一切必要ありません。やるからには徹底的に、完膚なきまでに叩き潰す! よろしいですね? ……私、嫌いなんですよね、蟲」
私の蛇足で場の空気に活が入り、ピリっとした雰囲気に皆の背筋が伸びる。
「全員、気合入れて行けっ! 完膚なきまで蟲を叩き潰せーっ!」
「「おおおぉぉぉーっ!!」」
和田が声を上げると、早朝の空港ロビーに歓声が響き渡った。
パンッ! と手を打ち、ピリっとした雰囲気を破る。
「はいっ! じゃあ、出発までもう少し時間あるわよね? なら、女性陣はそれまで上のレストランでお茶でもしない?」
「はいはーいっ! あたしは紅茶とパンケーキで!」
「ボクはタマゴスープとタマゴサンドがいいなの!」
「私はコーヒーとフレンチトーストがいいですわ!」
「あ、じゃあ私はえーっと――」
階段を上っていく女性陣の後姿を見ながら、残された男性陣は呆気に取られる。
「いやー、気持の切替というか、なんとも勇ましいというか、肝が据わっているというか、とにかくキラ社長は凄い方ですよね。以前の戦闘時も私、ちょっと心がひよってしまった時に怒鳴られましてね。あれ以来気合が入ったというか、恥ずかしい話ですがね」
「え、和田さんもですか!? 俺もしょっちゅうなんでよく分かりますよっ! 今、俺の中で最強はキラさんですから、色んな意味で!」
「ま、社長が言いたかったのは、今日は色んな意味を持った日になるって事だ。だから、冗談抜きで全力で行かないと足元すくわれかねないぞ、アル、ショウゴ、ジュンタ!」
「「了解です! ロックさん!」」
◇◇◇
出発予定時刻15分前、全員が問題なく集合し機内に乗り込んだ。
「今まで乗って来た飛行機と全然違うっすね!」
「し、シートがないにゃ……」
「うわぁ、とっても武骨でカッコイイですねー!」
「ジュンタさん分かります、分かります! このミリタリー感はカワイイです!」
「ジュンタと晶の美的感覚はレベルが高すぎるんだぞー」
機内アナウンスの後、独特なジェット音がゴウと鳴り、機体は地上を離れた。
少しすると低音を響かせるプロペラ音が聞こえ始め、水平飛行に入った事を伝える。
機内には人数分のパラシュートが容易されており、P‐SACOの皆が、それぞれ手に取って確認作業を始める。
甘楽さんが、それを見ているだけで一緒に準備を始めない様子に声を掛けてきた。
「ジュンタ君、まさかと思うけど、そのまま飛び降りる気じゃないよね?」
「あ、そのつもりです! っていうのも、先日、晶さんと共同で自在にウイングスーツを展開できるように改造したんですよ。しかも光学迷彩機能付きなので、地上からは視認出来ないって感じです」
「ああ! クリスマスライブの時の!」
「そうそう、それです!」
「流石にリン先輩の飛行能力と同じようにっては行きませんけど、それなりに飛べる仕様にはなってるはずです!」
「そうそう! 高度が落ちてきた時なんか、風に乗って高度を上げるの結構気持ちいいのよねー、あたしは気に入ってるわよ!」
「さっちゃん、私まだ使った事ないんだけど、本当に落下したりしないわよね?」
「自分らも使うの初めてっす! 不安……よりかは楽しみって感じっすけど!」
「バーンと飛び降りて、ドーンと展開すれば大丈夫だし! 多分」
「そうですわ! 女は度胸っていいますもの、きっと大丈夫ですわ! 多分」
「もし落下したらその時はその時なの! だから大丈夫!」
「もしキラお姉様が落下したら、ウチも一緒に落下するから大丈夫だっちゃ!」
「いや、お前ら1ミリも大丈夫な感じがしないんだけど?」
「キラさん、その時は俺が助けに行くんで、大丈夫です」
「頼りにしてるわよ、サトルくん」
「私もちょっとだけ不安です。 あの、その、ちょっと体重が」
「なら、そん時は俺が瀬尾さんを助けるから、思いっきり飛ぶといいぞ!」
「あの、はい、よろしくお願いします」
「てぇてぇなの!」
「桜煌ぁー、お前なぁー」
「あだだだっ、マスターみたいなグリグリやめろなのアル」
「やっぱりアルさんと桜煌おねーちゃん、仲いいですよね? 何気に社宅の部屋も同じ階のお向かいさんだし」
「そーいう勘繰りお願いだからやめてぇー!? 社宅でドア開けたら偶然出くわした、とかなった時スッゲー気まずくなっちゃうからねっ?」
「そうなの! べ、別にアルの事なんか何とも思ってないの!」
桜煌の表情がちょっと赤くなっているような? と感じとる女性陣。
「「ふぅーん、そうなんだーっ! ふぅーん!」」
あたたかーい目で見守ってあげようという無言の結託が起った事など、男性陣は知る由もない。
◇◇◇
『目標地点、黒い森まで残り10km! 降下準備に入って下さい! 降下後、当機は目標地点を迂回し、フランス、ストラスブール空港に着陸。作戦完了まで待機します』
なっちゃんのアナウンスに皆の顔に緊張が浮かび、言葉はなくとも覚悟と熱が伝わってくる。
――ガゴオォーン……!
後方ハッチが口を開いていき、タクティカルアーマーにパラシュートを背負ったP‐SACOメンバーが降下態勢を構える。
「私達も戦闘服に換装! 行くわよ!」
「「おぉーっ!」」
13人が一斉にポージングし発声する。
「「変身っ!!」」
全員が一気に銀色の光を放ち「天狐」に換装する様は圧巻の一言。
見ていたP‐SACOのメンバーから感嘆が漏れた。
準備が整った事を確認したなっちゃんがアナウンスを流す。
『それでは、ストラスブール空港で皆さんの帰還をお待ちしております。作戦成功を祈る!』
「了解! GO! P‐SACO!」
「「イエッサー!」」
次々と飛び降りて夜の闇に消えて行く雄姿は、見ている者を奮い立たせる。
「よし! じゃあ、蟲退治! 一匹残らず、やっつけろーっ!」
「「おおぉぉーっ!」」
夜の空を滑空し、黒い森を目指す翼の生えた狐達。
WORMS本部壊滅作戦は、今、開始された。
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