ライブ! はじまるよーっ!
今日はクリスマスイブ。Artemisライブの日。
開演は18時半だけど、昨日と同じ様にリハーサルをするとの事で、ホテルをチェックアウトしてそのまま現場に向かう事になった。
Artemisのみんなはリハ―サル。ジュンタさんはステージ演出。キラ姉とセオドラさんは全体のチェック。ロックさんとお兄ちゃんは警護。
みんなそれぞれ仕事に出て行ったので、バスには私とさちこ先輩が残っている。
「さちこ先輩、ライブまでまだ5時間くらいありますよー、またどこか行ってみます? それとも近場を散歩でもしてみます?」
「それもいいんだけどさー、どうしてこうバスの中って、やんわりと陽が射してポカポカして眠くなっちゃうんだろうねー」
「分かります分かります、昨日もしっかり寝たはずなんですけどねー、そう言われると……ふぁ~っ、眠くなって来ちゃいましたー」
「2、3時間くらいお昼寝しちゃおっか! 起きたらライブに丁度くらいの時間だし」
「お昼寝さんせーです!」
2人して大きな欠伸をして、聞こえて来るライブリハーサルの音を子守歌に、バスの窓に寄りかかってお昼寝をするのであった。
◇◇◇
今日のライブを行うにあたって、ステージ設営・ライブ運営を請け負って現場に来ている現地のイベント会社「e:Bent」のスタッフは、この異様な光景に皆戸惑っていた。
なにせ、自分らがセットしたのは、土台のステージとスタッフ用テントだけなのだ。
昨日のリハーサルなんて、何もないステージ上で動きを通しで行っただけ。
今日は本番だというのに、照明は? 音響は? 楽器隊は? スタッフすら全く足りていない。
揃っているのはアイドルだけ。しかもステージ周りの担当をたった一人の男の子が担うという。
どっからどう見ても高校生くらいにしか見えないのだが……。
ウチのリーダーにお願いして、本当に大丈夫なのか「ARTISTS JAM」のキラ社長に聞いて貰った。
「心配するのも当然だと思います、常識で考えれば異常ですものね。でも、大丈夫よ、今まで見たことの無いものを見せてあげるわ。期待してて下さいね!」
と断言され「そうですか」としか返せなかったそうだ。
暫くするとスーツを着た15人程の集団が近づいてきた。
「おはようございます、キラ社長。今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ巻き込んでしまってごめんなさいね、本当に助かります」
スーツ集団の代表かな? キラ社長に挨拶してるけど、パフォーマンス要員か?
いや、ちょっと待て! マジかよ! 挨拶してる人って!
「はぁ!? キラ社長に挨拶に来てる人って、ドンピシャの和田さんじゃないか!?」
「どうなってんだ、今回のクライアント!?」
「なんでアイドルのライブに和田さんみたいな有名人来てんの!?」
「しかもキラ社長の方が立場上に見えるんだけど!?」
ウチ( e:Bent )のスタッフは意味が分からず混乱した。
「いやー、仕事の内容が、Artemisのライブの警備だって聞いた時のウチの社員の騒ぎ様ときたら、そりゃ凄いもんでしたよー! 15人に選ばれる為に、社員全員で3日間山に籠ってバトルロワイヤルで決めましたからねー! あははははっ!」
「今日めっちゃくちゃ楽しみにしてました!」
「命がけで警備というかArtemisの応援に来ました!」
何か今凄いこと言わなかったか……?
「は? ライブ警備の権利を勝ち取る為にバトルロワイヤルだと!?」
「3日間山に籠って!?」
「えっ? 和田さんがライブの警備の仕事すんの!?」
「いやマジどーなってんの、この会社!?」
ウチ( e:Bent )のスタッフは更に混乱した。
「では、本日の警備関連は岩上からお聞きになって下さい。只今呼び出しますので」
瀬尾さんという金髪美女の秘書が、和田さんにそう言ったのが聞こえたが、電話するわけでもなく、メールするわけでもなく、ただ突っ立っている?
意味が分からず見ていると、遠くからガタイの良いスーツ姿の警備の人が走って来て、和田さんと合流した、しかもかなり親し気だ。
「今どうやって連絡した!?」
「何にもしてなかったよね?」
「マジで意味分からないんだけど!」
ウチ( e:Bent )のスタッフは訳が分からなくなった。
「はい、じゃあ本番前の最終リハ、やるわよ!」
「「了解!」」
キラ社長が号令を掛けると、高校生にしか見えない男の子が会場中心付近に移動。
ステージに向かって腕を組んで仁王立ちしたのが見えた。
アイドル達はステージにすら上がっておらず、ステージ裏に集まっている。
「え? どうやって連絡取るつもり!?」
「まさかだけど、もしかしてもしなくても、ドが付く素人集団じゃねーよな!?」
「でもさ、なんかどっかでArtemisって名前聞いたことない? 最近」
「あー確かに! なんだっけー、確かニュースか何かだっけか?」
会場中央で男の子が手を上げた。
――ポポポポポポポポポポポポポムッ!!
おかしな音がしたと思ったら、突如、ステージ中央と左右に300インチ超のモニターが!?
ステージの上下左右、会場全体ぐるりと取り巻くように、スポット、ネオン、レーザー光源だぁ!?
おまけに会場全体を囲むようにスピーカー、そして数多くのドローンだとぉ!?
待て待て! ケーブルは? 電源は!? 意味分かんねーよっ! 何だよこれーっ!!
「「ゔえ゙え゙え゙ええぇぇぇぇーっ!?」」
そして何故かステージ裏にいたはずのアイドルたちの声がスピーカーから響く。
「「ライブ! はじまるよーっ!」」
――ドパンッ! シャララララーッ!
ステージ前にド派手な花火が吹き上がり、いつの間にかステージ上に楽器隊がスタンバっている。
「はっ!? おい! 仕掛け花火なんていつセットしたんだよ!」
「俺やってないっすよ! マジで意味分かんないっスって!」
「ちょっと待って! 楽器演奏してんの人型ネオンなんだけどぉ!?」
「「ナニコレ、ナニコレ、なにこれぇぇぇーっ!?」」
ステージ後方からセンターモニターを突き破ってジャンプして飛んで来たアイドルたち。
決めセリフとハンドサインのアクションを行うと、ライトエフェクトを伴って衣装が変化した。
「「ありえなあああぁぁぁーっ!!」」
全く意味が分からない。
何がどうなって何が起こっているのか、何を見せられているのかすら。
「ジュンタくん、今のとこ! サビに入ると同時に後方俯瞰ドローンからセンターとサイドモニターに映像流して」
「了解です! こんな感じでどうですか」
「OK! 大丈夫よ。 それと効果照明とイルミだけど――」
ヤベエよ、なんだよこれ。ハイテクどころの話じゃねーよ!
「ねぇなんで!? なんで突っ立てるだけなのに機械が動いてんのーっ!?」
「思い出したぁぁ! この前の超能力の戦闘なんちゃらってニュースになってたやつだぁぁ!」
「はぁ!? 俺らって今、超能力を見の前で見せられてんのか!? マジかよっ!?」
「ヤベぇよっ!! コイツはマジでヤベぇよっ!!」
ウチ( e:Bent )のスタッフはテンションが振り切れた。
「「うほおおおおおぉぉぉぉぉぉーっ!!」」
ヤベェって……このライブは伝説になるって!! マジでヤベェって!
全通しで行われたリハーサルが終わると、異次元な空間はどこへやら、全ての機械が一斉に消えた。
残ったのは俺らが作ったステージだけ……。
ヤベェ……ヤバ過ぎんだろっ! なんなんだよコレは!
てか既にみんな「XYZ」に投稿してるしっ!
「マジで見に来ないとダメなやつ! ほんとマジで!」
「世界が変わんぞ!! お前らっマジで来い!!」
「このライブは伝説になるって!!」
「「場所は千葉県! 幕張海浜公園、大芝生広場だ!」」
◇◇◇
夕方17時半、ライブ開演まであと1時間を切ったところで昼寝から起きた。
「ふわぁ~っ、めちゃくちゃ寝ちゃったわねー」
「なんだかすっごく気持ちよく眠れましたー! そろそろ会場に行っていい場所取りますか?」
「そうねー、そろそろ……え? なんか会場の方、もの凄い人だかり出来てない?」
「え? ええーっ!! 人ゴミじゃないですか! え、これ全部お客さんですかね!」
「なんか、凄い事になって来たわね! ちょっと皆のとこに行ってみよ!」
「はいっ!」
ステージだけがポツンと置かれている会場では、既に相当な混み具合を見せている。
スタッフテントで待機していた皆の所に到着した私とさちこ先輩。
「ちょっとー! お客さんの入り凄いんだけどぉぉーっ!?」
「ザっと見ましたけど、軽く5千人は超えてる感じでしたよ!?」
「いやー、もっともっと沢山の人にウチらを知って欲しいっちゃにゃー!」
「そうですわね。今日来てくれた人達の度肝を抜いて、一気に昇りたいものですわ!」
「もしかして一番緊張してるの僕なんじゃないですかね!?」
「大丈夫! ジュンタは出来る奴なの!」
「そうですよ! ジュンタさんなら大丈夫です! 私が保証します! ジュンタさんの楽しいを、見に来たお客さんに見せてあげて下さい!」
「そうね、私たちが今まで経験してきた戦いに比べたら、全然余裕でしょ?」
「キラお姉様の言う通りだし! 大丈夫! 皆で度肝を抜いてやるんだぞっ!」
「ボス、そろそろ皆さんのスタンバイを」
「そうね、じゃあ皆! 今日のライブを伝説にしてきなさい!」
「そっすよ! 気合い入れて行くっす! 円陣組んで例のアレやるっすよ!」
「アレね! あ、ってか、あたしまで混ぜてもらっていいの?」
「当たり前なの、ボクらは皆一心同体なの!」
「そっすよ! さあ皆手を出して」
円陣を組むとバババッと皆の手が前に突き出された。
「明輝、あなたがリーダーよ」
「了解っす! ……今日の、この1時間を伝説に! そしてまだ見ぬ先へ! 一緒に行こうっ!」
「「せーのっ! オォーッ!!」」
伸ばした手の先にグッと力を籠め、一斉に高い高い空へと解き放つ。
◇◇◇
WEBやポスター、SNSでArtemisのライブがある事を知った人たちが会場に押し寄せた。
あの大きな事件の動画で聞こえてきた音楽はナニ?
Artemisっていうアイドルグループらしいぞ?
クリスマスに幕張で無料ライブやるってよ!
そんな情報が広まって行き、結果、会場には1万人に上る観客が押し寄せた。
しかし、会場に着いたものの、予定の場所にはステージの土台がポツンとあるだけ。
機材セットも何もなくね?
ガセ情報なんじゃないの?
でも、とりあえずステージはあるし、警備の人もいるよね?
多くの人が戸惑いを隠せずザワザワと騒ぎ始めた。
開演まであと10分。
Artemisのメンバーは、バラバラに観客に混ざって合図を待っていた。
ジュンタさんは少しだけ混んでいない場所から全体を把握。
私とさちこ先輩は、中心からはちょっとズレた場所だけど、見るには最高のちょっと高台にいた。
ああ、この風景、この体験。リン先輩やアゲハちゃんにも見せてあげたかったな。
≪さあ、みんな! 準備は出来てるわよね! ジュンタくん、始めるわよーっ!≫
≪了解です! よろしくお願いします!≫
≪≪いっけええぇぇーっ!!≫≫
≪ジュンタ! 行きますっ!≫
◇◇◇
日も暮れ、かなり暗くなった18時半。
ステージしかなかった会場に突然、ポポポポポポムッ! と音が鳴る。
なんだなんだと騒めく中、突如として現れた巨大モニターやスポットライトにレーザー光源。
さっきまで暗かった場所が一気にネオンと照明、レーザーで未来的空間に早変わりした。
沢山の驚きの声がどよめく中、突然観客の中から5人の女性が大きく声を上げる。
「「みんなーっ! よーっく、見ててねーっ!」」
隣にいためちゃ可愛い女の子が突然声を上げ、グッと踏ん張りジャンプしたと思ったらステージまで飛んで行った。
「「はぁぁ!? マジかよぉぉぉーっ!!」」
ステージ上には、私服を着たお姉ちゃんたち5人が後ろを向いて立っている。
普通じゃない空間、場面に居合わせているという感覚。
観客は何が起こるのか、ただ静まり返って様子を見守る。
ステージ照明が暗転し、左端の照明が一人を照らす。
「華は香り」
セリフと同時にクルっと振り返り、ポージングを決める。
ライトエフェクトを伴った光を発したと思ったら、次の瞬間衣装が変わる。
さながら魔法少女の変身シーン。
アニメでよくある見えそうで見えないアレに、観客の常識は一瞬で吹き飛んだ。
「「うおおおぉぉっぉーっ!!」」
右端の照明が一人を照らす。
「森は育み」
同じくセリフと同時にクルっと振り返り、ポージングを決めると、また変身した。
「人は焦れ」
「星は煌き」
ステージ上はまた真っ暗に暗転する。
「そして、月は輝く!」
会場中央の上空に、あり得ない大きさの銀月が出現し、怪しく青銀の光を放ち存在感をアピールする。
観客は度肝を抜く演出に腰を抜かしそうになるが、これは演出、これは演出と思い込みながらも、現代科学で表現できるレベルを超えたソレに興奮が破裂する。
「「やべぇぇぇーっ!! ってかヤベぇ超えてんだろぉぉぉーっ!!」」
歓喜の叫びを上げるのであった。
青銀の光の下、ステージ上に5人の姿が浮かび上がる。
そして伝説となるライブが始まった。
「我ら、Goddess of Purity 、 Undulation Resonance! Artemis !!」
「「みんなーっ! ライブ! はじまるよーっ!」」
――ドドドドッパパパパァーン! シュバァァーッ! パラパラパラパラ!
打ち上がる花火と同時に、人型をした何故か動くネオンが現れ、ド派手な演奏で空気を揺らす。
会場のあちこちに光のギミックで具現化された『 Hello ! New World 』のタイトルコール。
幕張海浜公園は、開演から盛大な歓声と共に最高潮の盛り上がりに包まれた。
上空には『 当ライブの撮影・SNS等への投稿はご自由にどうぞ!! 』とメッセージが流れるや否や、サイリウムならぬスマホのライトとフラッシュで溢れ返り、燦燦と瞬く星達のようにライブを彩った。
「さちこ先輩っ! 凄いです凄いですっ! お姉ちゃん達が凄いですっ!」
「きゃーっ!! みんな、サイコーっ! カッコイイーっ!!」
クリスマスイブはまだ始まったばかりだ。
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