Dawn
地下組織WORMSとの戦闘は各メディア及びSNSにより、一夜にして世界に広まる非常に大きなニュースとなった。
防衛省はこの事件をうけ、急遽、テロ等を含む様々な脅威に対抗する目的で「Anomaly Bind Control」略してABCと呼ばれる脅威対策局を設置した。
体制として、局長には麻羽防衛大臣が当たり、人員には防衛省、自衛隊、警察から抜擢した人材を配置。民間連携サポーターとしてP‐SACOが選ばれた。
後日、世界各国に散らばる地下組織の存在を日本政府が認め、ABCを通して公式に発表。
得ている情報を地下組織拠点のある対象国政府へと開示した。
それに伴い、日本政府は超越した能力を持つ人類の存在を示唆し、今回の悪に対する正義として「ヒーロー」の存在を明かした。
対象各国からの要請があれば、ヒーローの派遣体制も整っているとした上で、巨悪への宣戦布告を行った。
ニュースは瞬く間に広まり、ビッグニュースに世界中が湧く。
ヒーローとはなんだ、一体誰がヒーローなんだ。
地下組織とはなんだ、巨悪とはなんだ。
超越した能力とは! と。
ニュース、SNS、動画配信等の話題も毎日それでもちきりである。
勿論、情報に対する疑問の声や、公に情報を開示する様求める声も少なくない。
早い段階でメディアに映像情報を流した事が功を奏し「天狗 䮼」の存在は世界中の人が知る所となる。
顔や素性は秘匿されているが巨悪と対峙したメンバーらの姿。
地下組織率いる超越した能力を持った悪の姿。
また、その壮絶な戦闘映像を多数開示した事で、それらは真実味を増した。
早々とヒーローの派遣要請を行った対象国では、速やかに組織拠点の制圧が行われると同時に、開示された情報を元に、組織構成員および組織に関与した大物が次々と逮捕される。
制圧および大物の逮捕が完了した後、国は開示された情報を公に公開。
職場の同僚が、良き隣人が、知人が、家族が。
数多くの逮捕者を出し、この世に悪が蔓延っている事を白日の下に晒した。
そして、それらは現実味を増す格好の材料となった。
静観していた対象各国は、それを受け我先にとヒーローの派遣要請に手を上げる事になる。
ある国では財務のトップが、ある国では大統領が、ある国では国防のトップが。
正義の名の下に、鉄槌は等しく振り下ろされた。
そんな中『天狗 䮼』の消失は世界にとって大きな損失だとする声も上がる。
しかし、ヒーローを知る者、助けられた者、見た者、そして多くのメディアはこう語る。
「天狗 䮼だけがヒーローではない! 彼が居なくとも我々には、紫の閃光『R』と、神使『天狐』、そして、月の代行者『Artemis』がいる!」
あの激しかった戦闘映像が世に出回った事により、Artemisの知名度は瞬く間に上昇し、国内外問わず多くの問い合わせや興行依頼が「ARTISTS JAM」に殺到した。
「Artemisを呼ぶには、一体どこに連絡するといいんだ!?」
Artemisコールセンターと化した防衛省配下のABCは困り果て、麻羽局長に相談。
ABCは「ARTISTS JAM」代表 煌と協力し、落し所として以下を告知。
「ヒーロー、月の代行者『Artemis』は『ARTISTS JAM』所属のアーティストとして活動する事となった為、以降『Artemis』に関するお問い合わせは『ARTISTS JAM』まで」
ヒーロー派遣要請関連の窓口はABCが、Artemis関連の窓口は「ARTISTS JAM」が。
どちらかに依頼があれば、必ずもう片方を抱き合わせにするという手法を取り、各国の地下組織拠点制圧を進めてきた。
「そもそも、Artemisは元からウチのアーティストなんですけどね。もっとも、麻羽大臣から『そういうことにして貰えないだろうか』とお願いされれば断る事なんて出来るわけないじゃない。まあ、おかげでこっちからお願いしていた飛行機の件はクリア出来たから訳だから、結果的には渡りに船だったんだけど」
ヒーロー派遣要請のあった国にArtemis共々渡航し、ライブ興行を行う裏でヒーローによる地下組織拠点の制圧を行う。
オーストラリアはパースにある「パース・アリーナ」最上階で、Artemisライブの幕を上げるタイミングを計っているキラは、壁に背をもたれながら腕を組みそう呟いた。
会場では、既に鳴り止まないアルテミスコールの嵐。
「ボス、スタンバイOKです。 いつでも行けます」
「セオドラちゃんがマイペースで本当に助かるわー。もう私、あなた無しではやって行けそうにないわよ。でもまあ、そうね、そろそろ頃合いね」
≪皆! 今日もよろしく頼むわよっ!≫
≪≪了解!≫≫
パース・アリーナの照明が暗くなり、ステージ中央に仄かな淡い水色のライトが当てられる。
「「みんなー! ライブ! 始まるよーっ!」」
≪3・2・1 FIRE!≫
キラの合図と共に、ステージ脇から盛大に花火が打ち上がり、ド派手な音楽が鳴り響く。
「我ら、Goddess of Purity 、 Undulation Resonance! Artemis !」
共鳴する5人の力強いハーモナイズ。
現実のステージ演出とPACSで創造された仮想空間の共演。
それによって醸し出されるアーティストとオーディエンスとの一体感、没入感。
会場中を数多くの光のギミックとネオン調で具現化された『 Hello ! New World 』のタイトルコールがド派手な音楽と共に飛び回る。
会場は、開演から盛大な歓声と共に最高潮の盛り上がりに包まれた。
◇◇◇
キラの合図と共に、州都パースの地下に展開している組織の拠点に制圧部隊が突入する。
北側からアル、南側からショウゴ、東側からロック、西側からP‐SACOとオーストラリア国防軍ADFから特殊空挺部隊連隊SASが担当し、それぞれの後方から地元警察が追随する格好だ。
リン消失から3か月が経過し、各国の組織拠点を制圧してきて思った事がある。
「超能力者って、結構いる」
リンを始めとする自分達、それとWORMS最強部隊を名乗った奴らは別格としても、それなりの力を持った能力者が各拠点に少なからずいるのだ。
大きな問題なく制圧・対処出来ている今のうちはいいが、時が経てばいずれその力は均衡してくるだろう。
それが何時なのか今はまだ分からないが、その時は必ず来るとキラは考える。
徐々にではなく、どこかの時点でイレギュラー的に、そして急激に転換すると。
「歴史的に見てもパラダイムシフトは頻繁に起こってきたけど……もしそうなったら、世界は混乱に陥るわね。だとしたら私達は黎明期の能力者として、きっと未来の為に成すべきことがあるはず」
何にしろ今は難しすぎて答えなんて出せないけど……と続く呟きを飲み込んだ。
≪いつ、何が起こるか分からないわ、慢心せず、気を引き締めて取り掛かって≫
≪≪了解した!≫≫
ここからかなり距離の離れた場所でライブを行っているArtemisの歌が始まると、アル、ショウゴ、ロック体表を五色の光が走る。
≪くぅ~っ、俺の為に皆ありがとーぅ!≫
≪おっ! ライブ始まったな! 今日もヨロシク頼むぜー嬢ちゃんたちっ!≫
≪皆、いつも悪いな、ありがとう≫
≪別にアルの為じゃないにゃ!≫
≪アルは黙って仕事しろなの!≫
≪任せろだぞ!≫
≪こっちも頑張るっすよー!≫
≪そちらもお気をつけて頑張って下さいですわ!≫
「んんーっ! 皆、俺に対して手厳しいよなぁー」
そんな事を呟きながら、地下通路を高速で移動しつつ手応えの無い敵を伸していくアル。
やはり、各国で多数の拠点を潰して回ってるせいか、内部で出くわすのは雑魚ばかりで「残党」という感が拭えない。
「……ここも既に捨てられた拠点、かな」
今日の仕事(制圧)は早く終わりそうだなと思い、ふと考える。
そういえば、俺ってまだArtemisのライブ、生で観た事なくね?
そもそも毎回裏方仕事ってのもなんか不公平な感じじゃね?
速攻で今日の仕事(制圧)終わらせて、ライブ観に行ってもいいんじゃね?
んー、でもキラさん怒ると怖いしなー。
とりあえず聞いてみるだけタダだし、ダメ元で言ってみようかな?
≪あー、えーっと、ロックさん、ショウゴ先輩?≫
≪≪どうした?≫≫
≪一応聞きますけど、今日の仕事速攻で終わらせてライブ観に行きたいなーとか言ったら怒ります?≫
≪ああ、そういえばアルはArtemisのライブ、まだ見た事がなかったんだったな。やる事さえきちんとやったなら俺は別にいいと思うんだが、社長に聞いた方がいいだろうな≫
≪スマン! 俺はまだ内定貰っただけのインターンの身だからな、何とも言えん。まあ、俺的には問題ないと思うが≫
≪ですよねー。一応、速攻で仕事終わらせてから聞いてみる事にします!≫
まず先に、やる事やっちゃおうか!
なら、後ろからついて来てる地元警察の方々にも、一応手早く終わらせるって事、説明しておかないとだよね?
クルっと後ろを振り返って片手を上げると、皆「何だ、何だ?」と視線を集めてくれた。
「 Um, I'll try to finish this up as soon as possible. 」
( えーっと、できるだけ早く終わらせようと思うんだけど )
「 What the hell !? 」
( おいおい、マジかよ!? )
「 There are dangerous people down there ! 」
( この下には危険な奴らがいるんだぞ! )
「 Are you insane !? 」
( お前、正気か!? )
「 It's totally fine ! I'll be with you in a sec. 」
( 全然大丈夫! ちょっと待っててね )
「 Stop it ! 」(やめておけ!)とか「 Rethink it ! 」(考え直せ!)とか言ってくるが……。
すまない、それは出来ない!
え? 何故かって?
それは……Artemisのライブが俺を待っているから、だよ!
俺は上げていた片手で パチンッ! と指を弾き、そして呼ぶ。
「よし、行こうか! 菫!」
弾いた指先から紫の閃光が走ったと思った瞬間、アルの隣に美しい女性を模った紫電が現れ、放電音を発しながらアルの首に腕を回し纏わり付く。
驚きのあまり尻餅をついたり、言葉を忘れて見入る警察官達。
両手を横にバッ! と大きく広げアルは叫ぶ。
「雷装!」
――バチッ! バチチッ! チッチリリッチチチッチチリッ!!
そこには、紫電を纏ったヒーロー、紫の閃光「R」の姿があった。
感激して泣き始める警官、胸の前で両手を組んで感激する警官、興奮し過ぎて叫ぶ警官。
「 Are we dreaming !? 」
( 俺達は夢でも見てんのか!? )
「 A purple flash, " R " !! 」
( 紫の閃光『R』だ! )
頭の横で二本指で敬礼のように、チャッ! とジェスチャーして紫の閃光を残して姿を消した。
ちなみに英語が話せるのかって?
何を言ってるんだ?
当然、話せるわけないじゃないか!
これはジュンタのPACSアイテム新機能「自動翻訳」だよ。
詳しい説明はしてもらったけど、ぶっちゃけ理解できなかった、あははははっ!
あ、ちなみに俺のPACSアイテムは、リンちゃんとお揃いのフェザーリングにしたよ。
紫の閃光を残しながら超超高速で移動して、拠点内全て一気に掃除した。
2名程、俺の移動速度に反応した感じの奴もいたけど、まあそこまでだよね。
全50階、総勢386名、全員行動不能にするまで1分も掛からなかった。
元の警官らの所に戻って終わった事を伝えると
「やべぇ、最高にクレイジーだぜ!」
「握手してくれ!」
「家族に自慢するよ!」
って、職務忘れて喜んでたよね、うん、よかったよかった。
けど、その前に俺「R」じゃなくて「アル」なんだけどね。
発音的なアレで「R」になってしまうみたい。
もう浸透しちゃったみたいだから、まいっか!
それより! キラさんに連絡だ!
あ、その前にロックさんとショウゴ先輩に連絡だ。
≪殲滅・制圧、完了しましたー!≫
≪早いなっ!≫
≪なら、後処理は現地の方におまかせだな。お疲れさん! アル! ショウゴ!≫
≪アル、今度は俺にも少し残しておいてくれ。入社する前に少し慣れておきたい≫
≪すいません、了解っす! じゃ、ちょっとキラさんにライブの件、聞いてみます!≫
ちょっと緊張するな。だって要は「仕事終わったから早帰りしてイイっすか!」って事だろ?
普通のサラリーマンじゃ絶対に言えないよ。
≪キラさん! 拠点の制圧、完了しました!≫
≪あら、予定より随分と早いわね! お疲れ様。で、どうしたの? 何かあった?≫
≪えーっとですね、あのー、早く終わったんで俺もArtemisのライブ観たいなーと≫
≪いいんじゃない? まだライブ開始から20分、じっくり楽しめるわよ≫
≪マジっすか! やったぁー! ありがとうございます! んじゃ早速!≫
≪あ、ちょっ! 流石に雷装のまま......≫
――バチチッ! チッチリリッチチチッチチリッ!
CTLの位置表示を頼りにArtemisの皆のところに来たら、会場ステージの真上でした。盛に盛り上がっている所、しかも楽曲的に丁度いいタイミングで現れた今話題のヒーロー「紫の閃光『R』」に、会場は最高潮を超えて盛り上がりを見せる。
「 Wooohoooooo !!!!!! 」
( うおおおおおおおおおーっ!!!! )
爆音で鳴り響く楽曲とオーディエンスの歓声、非現実な演出のど真ん中。
「やべぇえええーっ! すげぇえええーっ! カッコイイぃーっ!」
やっぱリンちゃんスゲェーよーっ! 最っ高ーっ! と、声にならない声を上げた。
全てはリンちゃんから始まった。
それが今、こんな凄い事になってんだって事、早く教えてやりたい!
早く戻って来いよ! 皆、待ってんぞ!
感動に浸っているとステージ上のArtemisからMCが聞こえる。
「飛び入り参加した今話題のヒーロー「R」に、私達からのプレゼントを贈るわ! 受け取って頂戴っ!」
「「ムーンショット!」」
ステージから白銀の光の矢がアルに向かって放たれ、貫かれたアルは紫の閃光と共に白銀の光を纏い、激しくゴウッと噴き上げる。
丸みを帯びて噴き上げるそれは、まるで会場に降り立った銀月のように存在をアピールする。
会場はArtemisコールとRコールで溢れ返った。
最上階では額に手を当てたキラが溜息をつきながら零す。
「だから雷装したまま会場来ちゃダメよ、って言おうとした所だったのに。アルくんもリンくんと一緒で只者じゃないわね、全く」
全く、と言いながらも楽しそうに笑みを浮かべるキラを見て、横に控えているセオドラが補足する。
「お二方とも、常識では計れない……いえ、私達の常識をあてはめて考えること自体が間違っているのかもしれませんね。本当に凄い方達です」
「そうね……本当にね」
会場の開いた天井から見える空に顔を向け、視線を遠くするキラ。
リンくん、あなた今一体どこで何をしているの?
早く帰って来なさいよ……。
「……バカ」
思わず口から零れた言葉にハッとしたが、会場の音楽と大歓声に紛れて消えた。
一方、日本で居残り組の3人、ジュンタ、天南、晶は、期末テストの真っ最中。
オーストラリア行きたかったのにーっ! と、悔しがるのであった。
◇◇◇
世界にヒーローが台頭していくにつれ、悪はその色をより濃く強くする。
「闇に潜み、世界を操ろうとした者たちの、古き支配体制は崩壊した」
身に覚えのある者、保身を図る者、権力に縋る者、反発する者、そして因縁のある者。
「世界は、能力や資質のより優れた、少数のエリートによって支配されるべきである」
炙り出された悪は、集い、集団となる事で決起する。
「今、新たな秩序が生まれようとしている」
新たな場所で、新たな勢力が産声を上げようとしている。
プラチナブロンドに灰色の目をした傾国ノ色を持つ女性。
彼女は、集った同士達に向け絶対的な象徴として強く言葉を発する。
「祝福されし子供たちよ、我々は、その夜明けを告げる星、正しき道を照らす灯! 光明をもたらす新たな勢力として、今、歴史の表舞台に立つ! 正義の旗を掲げよ! 未来を切り開き、そして世界を革新せよ! 同士達よ、我らこそが正義である!」
さも飛び立たんばかりに両手を大きく広げ、彼女は声高らかに宣言する。
「今ここに、白の帝国 『 Weiße Reich 』 設立を宣言する!」
そして彼女は宙に浮き、背に受ける陽光を反射し神性を醸し出し、その神聖性と絶対的な象徴として名を告げる。
「アタクシの名は『 Eine 』! 唯一至高の『 Eine 』である!」
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