師匠とイロハの地球文化満喫な一日
§ イチ視点 §
意識を失った瞬間、地上から地の底へと落とされ、肉体と魂がバラバラになる感覚を覚えた。
そして、バラバラになり軽くなったオレだったものは、地の底からゆっくりゆっくりと地上の元の場所へと浮上していく。
魂を核として、浮上するにつれ様々なものが混じり合って肉体が再構成されていく様な、新しい自分として生まれ変わっていく感覚。
温かい光のようなものに包まれると、満ちていくエネルギーが全身に行き渡り、安堵する。
地上に近づくにつれ意識をグイグイと引き上げられる。
「さあ、目覚めろ」
と言われているかの様に。
本来の身体に意識が戻り始めると、耳にはテレビから流れて来る音と、何やら叫び声が聞こえる。
パッと目を開けると、照明を消してさっきオレが見ていたホラー映画を見ている。
「地球にはこんなバケモノが存在するのかっ!? ちょっ! ひぃぃーっ!」
「黒い長い髪コワイ、黒い長い髪コワイ、黒い長い髪コワイ!」
それを眺めながらニヤニヤ楽しんでいるゼロ。
「ゼロ……、流石に趣味悪くないか? あ、自分にもダメージ来るなコレ」
「お、起きたなイチ。 どんな感じだった?」
「んー、なんていうか新しく生まれ変わった感じ? かな? どのくらい意識失ってた?」
「ほんの20分位だな。 洗い物は全部終わってるから、イチも風呂入って来いよ。 明日も学校だろ? オレは最後に入らせてもらうから」
「じゃあ、遠慮なしに先に入らせてもらうぞ。 ああ、眠くなったら布団はー」
「大丈夫、隣の押し入れからお客用の出して使うよ」
「説明要らないってスッゲー楽だな! じゃあ風呂入って来る」
湯船にゆっくり浸かりながらさっきの体験を思い返す。
体感としては数時間だったけど、実際はほんの20分しか経っていなかった事に驚いた。
ゼロはハッキリ言わなかったけど、覚醒したとしてもオレに一体どんな能力が芽生えたのか。
今日はえらく忙しい一日になった感じだったけど、疲れは全くと言っていいほどに無い。
ゼロの世界とオレの世界。
ゼロの話を聞く限りではだけど、今のオレには到底信じられない程に乖離した世界になっていて、正直こっちの世界が平和で良かったと思った。
でもゼロの言う通り、いつ何がどうなって事が起こるかは分からない。
「そうなった時の為の力、なんだよな? ……うん、今はまだ分からないな」
風呂から上がり、自分は先に寝るから後は自由にしててくれとゼロに伝えた。
「あ、そうだ。元の世界に戻る時、出来れば見送りとかしたいしさ、明日学校から帰って来るまで待ってもらえると嬉しいかな」
「了解した、そうするよ。じゃあ明日はタラとイロハにちょっと地球を見せて回ろうかな。もちろんここら辺でウロウロしたりしないから、心配いらないぞ」
「ああ、いいねそれ! ちなみに何処行くとかあるか?」
「あー、うん、そうだなぁ。師匠がずっと科学・科学って言ってるから、やっぱ仙台とか東京?」
「え、東京? 遠くね? 新幹線で?」
「ああ、超高速で空飛んでいこうかなって思ってるぞ」
「ちょっと待って! ゼロ、空飛べんのか!」
「言ってなかったっけか、飛んでみるか? 空。元の世界と繋がれば、宇宙でも深海でもどこでも行けるんだけど、今は空気あるとこしか無理だな」
「宇宙!? マジで!? いや、スゲェな! 夢広がるなっ! 行く、行きますとも空!」
「師匠、イロハ、ちょっとイチと飛んでくるから、映画見て待っててな!」
ホラー映画が怖すぎたのか、イロハが師匠の膝の上に抱っこ状態で座ってる。
「は、ははは早目に帰って来るんだぞ」
「こ、怖いけどアタイはこれ見てるからー」
「よし、んじゃ庭から行こうか!」
フワっと浮き上がって夜の街の上空に飛んだ。
「本当なら、宇宙までなんてものの数秒なんだけどな」
「いやいやいや、充分凄いって! オレも単独で飛べるようになるかな」
「元が同じなんだから、そのうち飛べるんじゃないか? 色々と試してみるといいぞ」
そんなことを話しながら、しばらく空を飛ぶ感覚を楽しんだ。
家に戻ったら、映画も丁度終わった頃合いだった。
布団を敷いてあげたら、イロハちゃんが「フカフカー!」ってめっちゃテンション上がってた。
「あ、ゼロ。明日皆で楽しむのにコレ使ってくれ、服も買わないといけないだろうし」
封筒に10万円入れて手渡した。
「え!? こんなにいいのか? 勿論有難く使わせてもらうけど」
「あはははっ! そう言ってもらった方が気が楽だな。 んじゃ、おやすみー!」
「ああ、おやすみー」
「色々と助かったし面白かったぞ、イチ、今日はありがとう! おやすみー」
「イチ、アイス美味しかっタゾー!」
オレもベッドに入って寝ようと思ったけど、色々な事が一気に起きすぎて中々興奮が収まらなかった。
次の日の朝は、6時の目覚ましが鳴るほんの少し前に起きれた。
ゼロ達も昨日は相当忙しかったんだろう、爆睡してる気配しかしない。
ゆっくり寝かせてあげたいので、今朝はコンビニでサンドイッチでも買って食べようかと思い、ちょっと早めに家を出た。
今日は、話で聞いていた問題の金曜日。
いつもの横断歩道で信号待ちをしていると声がした。
「りーん! おはよー!」
いつもと同じ様に麗が合流する。
オレはゼロに感謝しながらも、少し、悪いなと思う。
「ああ、おはよう! 麗、ちゃんと朝飯食ってきたか?」
いつもと変わらない挨拶をするのだった。
◇◇◇
§ ゼロ視点 §
朝起きたら10時ちょい前で、イチはもう学校に行った後だった。
師匠とイロハはまだ爆睡してたので、今のうちに彼女らの服を適当に見繕ってくるか、と、イチの私服を借りて着替える。
まあ結局はオレの服なので、いつもの私服に着替えた感じではある。
必要なのは上下の服と下着、イロハは帽子も、だな。
ウニクロは確か10時半からだったか?
しもむらなら10時から開いてたと思うから、よし、しもむらで全部揃えよう。
朝一で行って、ちょっ早で買い物すれば、女性用下着も怖くない! はずだ!
逆に師匠とイロハを連れて行くと、大変な事になりそうなのが目に浮かぶ。
イチの靴を借りて家の庭からしもむらの裏手までひとっ飛びし、開店と同時に入店。
まずは人が少ないうちにと思い、似合いそうな下着を上下2セット、サイズも多分合うだろう物をカゴに入れた。
ちょっと店員の視線が刺さっているような気もしなくもないが、次は上下の服だ。
師匠には、黒ベースに赤系の花柄が散りばめられたロングスカート、黒のストッキング、薄いベージュの薄手タートルネックセーター、ファーの付いた白のロングダウンコート、柔らかめのロングブーツをチョイス。
イロハには尻尾が隠せるから丁度いいと思い、ブルーデニムのオーバーオール、オフホワイトのタートルネックセーター、ぶら下がり手袋の付いた黒猫耳の帽子、薄ピンクのマフラー、カエルの形をした首から吊り下げられる蛍光グリーンのガマグチ財布、白の靴下と白のスニーカーをチョイス。
オレは黒のパーカーとワインレッドのカーゴパンツ、適当な黒のブーツと大きめの白のヘアピンを選んだ。
そそくさと会計に行くと、レジ脇に控えめな細めの金のネックレスが置いてあった。
師匠に選んだ服の首元が寂しい感じがしたので、ついでにそれも一緒に買った。
平日の朝一で入店し、女性物の下着と服、靴など、一式を買って行くあやしい若い男。
レジのお姉さんはギクシャクと訝しみながらも会計してくれた。
「全部で48,726円です」
イチに貰った10万円の半分が吹っ飛んでしまった事に、若干スマンと思うが、それよりも早く店を出たかった。
袋3つにもなる大荷物を抱えて店の裏手に回り、飛行で家の庭に帰ってきて少しホっと一息ついた。
まだ寝てるかなと思い、静かに中に入ると既にテレビの音が流れている。
「あ、もう起きてたのか、ごめんごめん、ちょっと買い物に行ってきたから」
「なにっ! 私も一緒に行きたかったぞっ! 何故起こしてくれなかったんだ」
「リンだけずるい! アタイも行きタかっタっ!」
そもそも外に出歩けるようなこっちの世界の服が無かっただろう事を説明し、買ってきた服に着替えてから、イチが帰ってくるまでこっちの世界をちょっと見に行こうと促した。
その結果、いきなりその場で着替えようとしたので
「ちょーっと待てっ! その場でいきなり脱ぐなっ!」
服の着方を教えるのはいいが、如何せん下着の着方に関してはオレが教えるのは問題があるので、イチのタブレットを借りて動画を検索して教えた。
「テレビとかこの板とか、一体どういう仕組みで動いているんだ? ほんとに科学は面白いな」
あ、はい、まず買ってきた服に着替えて貰っていいでしょうかね、という心の声が漏れそうだ。
着替えたら外で美味しいものが食べられるぞ! と言ったら慌てて着替えに取り掛かった。
2人とも無事着替えが終わり、脱衣所の鏡で自分を見て感嘆の声を上げる。
「なっ! これが、私か! こっちの世界の衣服はなんと機能的で素晴らしい出来なんだ! 美しいな! おいリン! 私が何か美しいぞっ!」
「んんーっ! イロハもすっごい似合ってて可愛いぞー!」
「ありがとリン! アタイこれ気に入っタ! カワイイっ!」
猫耳帽子を被り、ぶら下がっている手袋をしてカエルのガマグチ財布をプニプニしてる。
「よし! 着替えも完璧に出来たので、これから仙台市という街に出掛けたいと思います!」
「いよいよ地球の文化や科学に触れるのだな!」
「美味しいもの食べるゾーっ!」
とは言え、直で仙台市まで飛行しても人目が多すぎて降りる場所が無さそうだ。
なら近場まで行って、そこから電車を使うか。
「行くぞー!」
「おーっ!!」
庭から飛び立ち、誰にも見つからない様に大崎市は古川駅の横に降りる。
綺麗に整備された道路、建物はもちろん、商店街に見えるアーケードや街並みの風景に感激する2人。
そして駅から伸びる電車用の高架に驚く師匠。
「な、なんなのだ、あの空中に浮かぶ道のような物は!?」
「ふっふっふー、これから電車という乗り物に乗って、その道を使ってデカイ街に行きまーす!」
「なに!? ここよりもデカイ街だとっ!? ここですらジルバニアの王都以上に発展しているのだぞ!」
「リン、早くそのデンシャってのに乗ってみタい!」
「きっと腰抜かすくらいアストルミナとの違いにビックリするぞー?」
「よ、よぉーし! た、楽しみにしておく! では行こうか!」
オレ達は駅に入り、周りをキョロキョロする2人をあまり気にしない事にして、切符を買って快速列車に乗った。
そもそも構内アナウンスにすらビックリした2人だが、乗った電車が動き出すと、流れる景色に言葉を失っていた。
まあオレはそれをニヤニヤ面白く見ていたわけだが。
とはいえ、アストルミナでの移動手段と言えば、馬、馬車、荷車がメインだから、近代文明を見てカルチャーショックを受けて貰わなければつまらない。
「そろそろ仙台駅に着くぞー! イロハ、はぐれない様にオレと手を繋ぐぞ」
電車がホームに入り、多くの人が視界に入り始める。
「わかっターっ!」
「リ、リン、私も手を繋いでいいだろうか? こんなに人が多いとは思ってもみなかったからな」
「んじゃ、師匠は反対からイロハと手を繋いでくれ」
「りょ、了解した」
プシューッ! ドアが開きホームに降りると、一気に街の喧騒が耳に入ってくる。
「んな! ど、どこかで戦闘でも起こっているのか!?」
「違う、ただウルサイだけダゾー」
「おーっ! イロハの方が肝が据わってるな! やるなイロハっ」
「しっしっし! 本番はこれからダっ!」
怖いものなしなイロハと対比して、師匠は少しビビリ気味の及び腰だ。
「あっれー? 師匠、折角こっちの服着てカッコよくなったのに、そんな背中丸めて歩いてたら美人が台無しになるんじゃないですかー? イロハはカワイイからそのままでいいぞー!」
「しっしっし! タラ! アタイの勝ちっ!」
「くっ! わ、私だってもちろんやれるとも!」
どうだ! と言わんばかりに宮廷作法並みの姿勢になり、カッコよく歩き始める。
イロハと手を繋ぎながらだが……。
だが流石は師匠、男女問わず周りの視線をかなり集めてめっちゃ目立っている。
2人とも容姿が異常に整っているうえに銀髪、という土台あっての事ではあるが。
結果、周囲の反応は素直だ。
師匠を見て「キレーっ!」となりスマホを向けられ、
イロハを見て「カワイイーっ!」になりスマホを向けられ
最後にオレを見て「……ダレ?」になりスマホを降ろされる。
「し、しかし人が多すぎやしないか!? ここはさっきの駅というものだとは思うが、そもそも駅とはなんだ?」
「そうだなー、あっちの感覚で言えば、馬車の乗り合い場ってところだろうな」
「んなっ、だ、だとしたら地球の乗り合い場は凄まじい技術と統制力を持っている事になるぞ!」
「あははっ、まあそういう事になるかな? ってか、地球上どこに行っても似た様なもんだよ。これも科学が発展した恩恵とも言えるかな」
話しながら歩いていたら、そろそろ外だ。
「さあ、発展した街へようこそ!」
といいながらぺデストリアンデッキに出た。
行き交う沢山の人々、車、立ち並ぶビル、デジタルサイネージ、照明、混ざり合う音。
見た事のない景色と雰囲気にテンションが振り切れる。
「「ふおぉぉぉーっ!!」」
目をキラキラさせながらキョロキョロ首を振っては背伸びしてあちこちを眺める2人。
めちゃくちゃ楽しそうで何よりだ。
「よーし、んじゃまずは商店街に行ってみようか」
「「おーっ!」」
だとしたら、ハピナからクリスロード、一番町商店街へと歩いてみるか。
整備された歩道にびっしりと並ぶ様々なお店、お店、お店。
周りの目も気にせず、あっちにキョロキョロ、こっちにキョロキョロ。
コレは何だ、アレは何と、そのはしゃぎっぷりと言ったらもう、凄いの一言。
しかも一番最初に引っかかったのはやはり食べ物系だった。
牛丼屋を見つけては「食べてみたい!」と言うので引っかかり。
たこ焼き屋を見つけては「いい匂いがするゾ!」と引っ張られて引っかかり。
ラーメン屋を見つけては「なんだこの食べ物は!?」とラーメンに引っかかり。
お洒落な喫茶店を見つけては「甘い匂いがするゾ!」と引っ張られケーキとパフェに引っかかり。
いや、君たちの胃袋って一体どうなってんの!?
途中、ゲームセンターでビカビカの照明と爆音のBGMにクラクラしながら遊んだり。
有名デパートでは、高級な物を見て眉間に皺を寄せて唸る師匠に笑ったり。
楽器屋ではDTMのドラムマシンやリズムマシンに興味深々だったり。
駅前まで戻ってはパルコでIMAX映画を体験してもらったり。
SS30からオレンジ色に染まり始めた仙台の街を一望した所で、やっと一息ついたのが今だ。
眼下に広がる街を眺めながら、師匠は何やら思い耽っているように見えた。
「師匠もイロハも、流石に遊びすぎて疲れただろ?」
「いや、全く疲れは感じていないぞ。しかしなんと言うか、今までの常識や価値観といったものは、こうも簡単に覆るのだな」
「……そうかもな。でもまあ、こういう街や場所があるってだけの事だよ。それに田舎の方に行けば、アストルミナのような場所もあるしな。言い換えれば、選択肢の多い世界、だとも言えるかもしれないな」
「なるほどな。私は、この世界に高度な文明や発展をもたらした科学や様々なものに敬意を表するよ」
「そう言って貰えると、なんだか少しホッとするな」
「それは、どういう意味だ?」
「それだけ色んな欲望が渦巻いてるって意味。この地球の人間たちは、ここだけじゃ物足りなくなって、その科学の力を使って月まで行って、今度はもっとその先へと手を伸ばしてる。もちろん同じ地球人同士でも争いが絶えず、常にどこかで戦争が起こってる。本当は醜い世界なんだよ」
「そうなのか? アタイから見ればアストルミナもこの地球も、やってる事に大した違いなんてないと思うゾ?」
オーバーオールのポケットに手を突っ込みながら、師匠と同じ様に眼下の街を眺めていたイロハがそう答える。
オレはイロハの頭に手を乗せ、ポンポンと撫でた。
イロハはオレの方を向いてニカっと笑って答えた。
「しかし、今日は凄い体験ばかりだったよ。私は映画とゲームセンターが気に入ったな」
「うん、地球の楽しいは制覇しタ!」
チッチッチッ! オレは人差し指を立て横に振る。
「いいや、楽しいの巣窟『サブカルチャー』をまだ教えてないぞ? 特に日本においてはな!」
師匠とイロハの首がグリンっと回ってオレをキラキラした目で見る。
「それは何だ! 早く教えろ!」
「リン! 勿体ぶるの禁止ダ!」
めっちゃ胸倉と服の裾を掴まれガクガク揺すられるオレ。
「その代表格は……! マンガ本とアニメだっ!」
「だからそれは何なんだ、早く教えろ」
「教えろ、教えろーっ!」
ガクガクに揺すられる。
「よし、なら家に帰るか。 マンガ本とアニメは家にある!」
「よし、今すぐ帰るぞリン!」
「お、おお!」
歩き出そうとしたら、イロハがグッとオレの服の裾を引っ張って止める。
「リン、イチにお土産、タコ焼き買っていこー? あれ美味しかっタ!」
その優しさに思わず微笑みが零れ、また頭をポンポンと撫でた。
「ああ、タコ焼き買って帰りますか!」
さっきのたこ焼き屋に戻って、皆の分を注文しようとしたらイロハがグイっと前に出て
「アタイのはクジョウネギマヨ5人前とコクうまソース3人前でー!」
最後は、若干ハメられた感が拭えなかったけど、師匠とイロハの地球文化満喫な良い一日だった。
「あ、ついでにアイスも買って帰ろうじゃないか!」
って、師匠もかーい!
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