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Rising Force - Genesis -  作者: J@
異界編

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超えた先

 逆巻くゲートに飛び込んだオレたち。

 入り口を見た時はちょっと恐怖感もあったが、シャドウナイトが作った(いびつ)で不安定な空間とは違い、イロハの展開したゲートは非常に安定していた。

 空間の中はゆっくりと揺蕩(たゆた)う深海の様でもあり、とても神秘的でいて優しいものだった。


「これは……! 私は、こんなに美しくて神性を感じるものを見た事がないぞ!?」


 師匠は上下左右さえ覚束(おぼつか)ない空間で、重力も、時の流れさえ感じないような闇と光の空間に息を呑む。


「シャドウナイトの空間とは全くの別物だな。 スゲェよ、イロハ!」

「アタイが作ったんダ、当然ダロ? しっしっし!」


 今オレ達は、前に進んでいるのか、(のぼ)っているのか、落ちているのか、はたまた静止しているのかすら分からない。

 暗闇の中、数多(あまた)の光が漂い、その一粒一粒の光の中には、それぞれ違う光景・世界が内包されている。

 それぞれの世界を大事に大事に、あたかも優しいベールで包み込むように。


「リン! あそこ! 変な生き物がいるゾっ!」

「リン、あの乱立するモノリスみたいな建造物は何だ!? リン、何故島が空に浮いているんだ! おい、星の空を巨大な箱舟が飛んでいるぞ! 夜の街が七色に光り輝いているだとっ! あそこなんて上も下も大地で何故太陽が真ん中にあるんだ!」


 イロハも師匠も、勿論オレも、その世界の多様さと別世界の多さに驚いた。

 師匠なんて下手したら「全部の世界に行ってみるぞ!」と言わんばかりの勢いだ。

 確かに都市伝説で語られているような世界もそこら中に見えているので、とても興味をそそられる。

 見た事もない不思議な世界や、都市伝説の世界に行ってみたい気持ちが当初の目的をグイグイ押しのけていく。

 葛藤に負けそうになっていると、数個の光が輝きを増す。

 光が大きくなっているのか、近づいて来ているのか、全く距離感が掴めないが、その中にある光景は見えている。

 透明なドームで覆われている未来的宇宙都市の世界。

 天も地も一面肥沃(ひよく)な大地と発展した都市で埋め尽くされた世界。

 水と緑と巨大な木々に覆われた美しい世界。

 焼けた大地と砂漠に見た事もない生き物が跋扈している朽ちた世界。

 氷に覆われた大地で争い合う世界。

 光と闇に二分(にぶん)している世界。

 そして、遠い昔の出来事の様に、懐かしさすら感じる元の世界……。

 どの世界も等しく好奇心と探求心を(くすぐ)り、魅力的に映るが……。


「今回行くべき世界はもう決まってる! これだ!」


 オレの意思が決まった事を空間が察したのか、選ばれなかった世界は遠ざかっていく様に数多(あまた)の光へと戻っていき、選択した世界の光は近づくように強く輝き大きくなっていく。


「しっかり掴まってろっ!」


 師匠とイロハが更に力を込め、振り落とされない様ギュッと掴まる。

 (まばゆ)くホワイトアウトする視界に、(たま)らず瞼を閉じる。

 身体が勢いよく世界に引っ張られる感じと共に、何かトンネルのようなものを通り抜ける感覚に近いものを覚えた。


 光が収まったことを瞼越しに感じ、目を開ける。

 視界が戻ると目に映ったのは、沈んでいく太陽が濃いオレンジから濃紺へと、空にグラデーションを描いている様だった。

 懐かしい風景が視界に入ってきた。


「ここは……学校の屋上?」

「リン、成功しタ?」


 オレの背中に張り付いたままのイロハが、首を傾げながら聞いてくる。

 師匠は、目に映るアストルミナの世界と違い過ぎる風景と街の騒音に腰を抜かしたのか、驚きを隠せないまま目と口を大きく開けたままペタンっと座ってしまった。

 周囲の見知った山と街並みに、ここが地球である事を認識する。


「ああ、多分な。半分は成功と言えるかな?」

「半分? なんでダ?」


 世界線の移動は成功したのかもしれないが、今は「いつ」だ?


「過去に遡った事の確認をしないと」


 屋上から下を確認するが、人の居る気配はない。

 部活も終わり、学生らは皆帰宅した後なのだろう。


「師匠、大丈夫? 立てそうか?」

「あ、ああ、何とかな」


 そう言って立ち上がるが、カルチャーショックは相当大きかったらしく、大きく開かれた目はまだ街並みに釘付けだ。


「リンよ、これが地球の世界、これが科学というものなのか……」

「んー、まぁ科学と言えばそうかもしれないけど、この街は田舎だからなぁ。 誇張なしに言っても、ほんの一端だな」

「……ほんの、一端だと……」


 今の師匠は、まるでオレが初めて仙台市に行った夜と同じ状態になっている。

 あの時は、オレも別世界に来てしまった様なその圧倒的存在感に、駅を出たとこのペデストリアンデッキの端っこで、30分程腰が抜けて動けなかったもんだ。


「大丈夫! 師匠ならすぐ慣れるだろうし、それに、その有用性と便利性を体験したら、もう元の生活には戻れないと思うぞ?」


 意地悪な笑みを浮かべて言う。


「なに! そんなにかっ! これは、いつまでも驚いてばかりいられんぞ!」

「心配しなくても、ちゃんと大都会も見せてあげるって」

「ぜっ! 絶対だぞっ!」


 物凄く楽しみな顔をしているので、後で東京の夜の摩天楼を見せに連れて行こうと思う。


「ああ、勿論! でもまずは、今が『いつ』なのかを調べないと」


 気が付くと、イロハはオレの背中に張り付いたまま寝ていた。


「ここまで連れて来てくれてありがとうな、イロハ。 あとで美味いもんでも食べに行こう、それまで少し寝な」


 ホッペをプニプニすると


「うぅ~ん、ごはん~、ムニャムニャ……」


 また寝息を立てて大人しくなってしまった。

 屋上のドアは閉まっていたが、能力(ちから)で鍵を開け校内に入る。


「リン、この建物は何だ、どういった目的で使われているんだ?」


 アストルミナの世界にも、お城や貴族が住むような高級な邸宅ももちろんあったし、お金の掛かった煌びやかな内装もあった。

 だが、この建物の作りは堅牢で大きく、あちこちに同じ部屋があり、透明で薄い高価なガラスがふんだんに使われている、なのに内装は質素、というのは師匠にとってすごく奇妙に見えたらしい。


「ここは学校だよ、オレが通っていた学校」

「なるほど、だからテーブルとイスが沢山あるわけだ。 しかしまぁ、なんとも味気ない効率重視な作りだな」

「まあな、建物を作るにも住民の税を使っているし、維持するのも運営するのも、全部住民の税を使っているから味気なくなるのは当然だな。 ま、あっちの貴族なら見栄の張り合いで豪華にする所だろうけど」

「ふふっ、そうだな」


 気が付くと、無意識にオレのクラスの前まで来ていた。

 日時ならどこのクラスででも確認出来たはずなのに、そんな自分になんかちょっとイラっとした。

 ガラガラっとドアを開け、壁に貼ってあるカレンダーと黒板に書きっぱなしの日付を確認する。

 カレンダーは「2039年4月」、黒板は「4月〇日」


「この日付って……、おいおい、マジか」


 オレは慌てて時計を見る。

 時刻は18時40分を指している。

 あからさまに慌て始めたオレを見て、師匠が声を掛ける。


「どうしたリン、失敗したのか?」


 オレは師匠に向き直り、首を振って唾を呑み込んだ。


「いや逆だっ!! 成功したんだっ!! しかも、戻りたかった『時』に、正確にっ!!」


 忘れもしない、あの夜、アルの家のコンビニで見た監視カメラの時刻は18時55分頃。


「今日、今から15分後に事件が起きる! オレはそれを食い止めて、何も起きなかった歴史に書き変える!!」


 師匠は何かもの言いたげに見えたが、オレの意思を尊重してくれたのか、グッと堪えた事にオレは気が付いていた。

 大丈夫、師匠が何を言いたかったのか分かってる。

 マルチバース理論なんて言ったけど、所詮理論、空想でしかない事は重々承知している。

 タイムパラドックスにより、今のオレという存在が消える可能性だって十分ある。

 だけど、そのタイムパラドックスでさえ理論であり、空想でしかない。

 なら、オレが証明して見せようじゃないか。

 でも、何となくだけど答えはもう知っているような気もする。

 ゲートの中で見た数多(あまた)の世界、あれが答えなんだと漠然と感じる。

 そう、世界は分岐する。

 分岐点を境に新たな世界として生まれ、そしてあの空間に光の一粒として現れる。

 だからオレは師匠に断言する。


「大丈夫、オレは消えたりしない!」


 目的の時刻まで後十数分。

 寝ているイロハを抱っこした師匠と共に、飛行でアルの家のコンビニ近くまで来た。

 これからやってくるであろう(れい)と、その後ろから来る黒のワンボックスカーに見つからない場所から現場の様子を伺う。


 辺りはもう既に暗く、遠くから揺れる光がこっちに向かって来るのが見えた。

 ペダルを漕ぐのに合わせて左右に揺れるライト、自転車だ。

 オレは目を瞑り、ひとつ深呼吸する。

 カッと開いたその目に迷いはない。

 少し上空に飛び上がったオレ達は、自転車の後方へとすれ違う。

 暗かったが確かにそれは(れい)だった。

 カゴに買い物袋を入れ、楽しそうに鼻歌を歌いながら一生懸命に自転車を漕いでいる。


「あぁ……(れい)。……(れい)は、何も知らず、ずっとそのままでいてくれ……」


 この世界の住人じゃないオレが、直接してあげられる事は何もない。

 だからせめて、命だけは救っていくよ。

 自転車の後方から走ってくる黒のワンボックスカーのライトが見える。

 オレは車のライトを()()、上空千メートルまで一気に()()()()、オレ達も上空へ飛んだ。


 自転車を漕いでいた少女は、ふと自分が呼ばれたような気がして、コンビニの駐車場で止まり後ろを振り返り首を傾げる。


「……ん? なんか……呼ばれたような?」


 日もすっかり暮れ、やがて夜がやって来る。


「オバケが出る前に早く帰ろっ! あーっ、土曜日が楽しみだなーっ!」


 そう言って、少女はまた鼻歌を歌いながら、ペダルをグっと踏み込んだ。



    ◇◇◇



 上空に浮かんだままの車の中では、男4人がパニックに陥っている。


「なななんななんなんだ! おおおおいいいーーっ!!!!」

「とっ! とっ! とん! とんで! 飛んでるぁあーー!!」

「ひぃやぁぁぁーー!!!!」

「あああぁぁばばばっぁぁ!!」


 オレが車のボンネットにゆっくり着地すると、パニックに拍車がかかったのか、4人が悲鳴を上げながら後ろに逃げ、身を寄せ合ってガタガタと震えている。

 構わず車のバックドアを()()、中から4人を()()()()()()()()()にし、オレの前に並べた。

 4人は声も出せずにただ歯をガチガチと鳴らし、痙攣でもしているのかと思う程に体中を震わせる。

 車は邪魔なので、四人の目の前で掌を握り込む動作と同時にバッキボキのスクラップにして見せ、出来た鉄くずは宇宙に向けて飛ばし、大気圏で燃え尽きさせた。

 上空千メートルでそれを見せられた4人のズボンに湯気が立つが、オレは気にせずこいつらの顔を間近でじっくりと見る。


「お前ら、あの夜に、あの場所で見た奴らに間違いないな。 よし、なら次は猿羽根山(さばねやま)だ」



    § チンピラ視点 §


 何が起きているのか全く理解出来ず、おかしな力で捕縛されたまま連れ回されている。

 とにかく恐怖と寒さで歯と身体の震えが止まらない。

 俺らが女子高生を拉致って連れて来る予定だった建物に、さっきの男が一人で入って行った。

 今ここには、俺たち4人とガキを抱えてる女一人だけ。

 今の内ならこの女を言いくるめて逃げられるんじゃねーのか?

 中にいるリーダーと、仲間もろとも餌にすれば何とかなるんじゃねーのか?

 最悪、この女と子供を殺してでも逃げられれば御の字だ!


「な、なぁ、アンタ! 俺らを見逃してくんねーか!」


 俺が声を出してそう言うと、仲間もやっと言葉を出し始める。


「お、俺ら何にも悪い事なんてやってねーよな? なっ!?」

「家に帰らねぇと! 待ってる奴がいるんだ! 頼む! この通りだっ!」

「死にたくねぇ! 助けてくれよぉぉ! 一生のお願いだ!」


 女に俺達の言葉が届いたようで、顔を向け口を開く。


「……お前らを助けたとして、私に何の得があると?」


 女の銀髪と目が、月の光を反射し真っ白に輝く。

 その美しさに、正直、俺はこの女が死神か悪魔に見えちまってブルってしまい、そっからは何も言葉が出なくなった。


「そもそも、お前たちをどうするか、どう裁くかを決めるのは私ではない」


 建物の中から足音が聞こえ、男がリーダーと他の連中を空中で捕縛したまま出てきた。

 男は、俺らを連れてまた上空に飛んだ。

 今回の誘拐実行グループ十数名。

 俺らはさっきよりもさらに高い所まで連れて行かれ、横一列に身動き取れないまま並べられた。

 ここは高すぎて息が吸えない、苦しい、頭が割れそうに痛い。

 そんな事は男には関係がなく、俺らの前に来て話を始める。


「やあ、こんばんは。 突然こんな所まで連れてこられて、意味、分かんないよな?」


 一人一人じっくりと顔を確認される。


「よし、これで、あの夜に居た奴らは全員だな」


 呼吸が出来ず、カヒューッ、カヒューッという音が漏れ、意識が遠くなっていく。


「ああ、息が出来なくて苦しいか? 飛行機が飛んでる高さだからな、当たり前だ」


 男はニヤっと口の端を上げると


「じゃ、早速移動しようか」


 そう言うと物凄いスピードで落下し、場所を移した。


「ッ!! カハッ!! グッ、ゲハッ、ゲハゲホッ!!」


 急激に呼吸が戻ったせいで、肺がおかしくなる位に痛く(むせ)た。


「おいテメェ! ゲホッ! こんのクソガキが!! 舐めやがってっ!」


 メンバーの一人が息巻き、それに釣られてリーダーも口を開く。


「お前は、誰だ! なんの目的でこんな事をする! どこだここはっ!」


 男は、俺らを並べたまま話を始める。


「では、これからお前らには、報いを受けてもらう。 まぁ、正確に言えば、この世界線ではまだ起こってない事だけどな。 理不尽だなんて言わないでくれよ? やったのは間違いなくお前らなんだから」


 俺は理解した。

 今日、この場所が俺の墓場なんだと。

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