ジャンプ
イロハの空間干渉と師匠の時間干渉。
二人の能力があれば過去に戻れる! あの事件を起きなかった事に出来る!
オレは師匠とイロハに気持ちを打ち明け、協力してもらえないかと相談した。
「リンが行くならアタイは付いて行くだけだゾ! 難しい事は考えるの苦手ダ」
イロハは特に何も考えていないようにも見えるが、単にオレと一緒に居られればそれでいいって理屈なんだろうな。可愛くて頭をワシャワシャ撫でたら、尻尾をブンブン振る。
「うーんっ! イロハは今日もクソ可愛いなっ!」
「んっふーっ!」
肉を頬張りながら鼻息と共に胸を張ってドヤ顔になる。
反して、師匠は非常に難しい顔をしてオレを見る。
「リン、お前は簡単に言うけどな、それは非常に難しいか、今はまだ無理があるだろう?」
簡単に考えていたオレは「え、なんで?」と説明をお願いした。
「そうだな、解り易く説明するには……」
そう言いながらも師匠は、オレの隣にイスを持ってきて座る。
「いいかい、このアストルミナの世界はお前のいた世界とは違う、という事は判るな?」
「ああ、勿論」
「言語も知識も、まして理さえも違うこの世界は、お前のいた地球の世界、そうだな……仮に世界線と呼ぶ事にするが、地球の世界線とアストルミナの世界線は全くの別物だという事だ」
箸を二本取り出す。
「これがお前の元の世界、地球の世界線だ」
箸を一本、横にして置く。
「そして、こっちが今いるアストルミナの世界線だ」
箸をもう一本、下に置く。
「一番右端が現在で、左端が過去だとする。 ならここで影渡りを使って過去へ飛んだとしたら着地点は何処になる?」
下の箸、アストルミナの世界線の右端「現在」を指差してオレに問う。
「えっと、ここに飛ぶ?」
オレはその箸の左側を指差した。
「うん、そうだな。 なら、ここの過去に行くにはどうしたらいい?」
師匠は上の箸、地球の世界線の左端「過去」を指差す。
下の箸の右端から、上の箸の左側へ。
アルトルミナの現在から、地球の過去へ。
「世界線の移動が必要になんのか!」
「そう、お前が辿り着きたいのは地球の過去であって、このアストルミナの過去じゃない。これが難しいと言った理由だ。結局当初の『異なる世界を渡る方法』という壁に当たることになる」
「マジかーっ、スタートに戻ったかー」
両手を上に伸ばし、イスの背もたれで背伸びする。
「ちくしょー!」
「まぁ、そう落ち込むこともないさ。どんな時でも自分の頭で考える癖を付けておくことだね。そうすれば自ずと道は見えて来るものだ。地頭は悪くないんだから、諦めなければなんとかなる」
うーん、高出力エネルギーの衝突を再現出来ればもしかしたら……か。
「師匠はそう言うけどさ、そもそもオレって感情優先で行動するとこあるから、頭使うのって本当は苦手なんだよなぁー」
「知ってるよ、このバカ弟子が」
と頭をポンと叩かれる。
オレは、師匠のこの優しい頭ポンが実は結構好きだ。
そう口にしながらも何かが引っかかる、違和感のような? 何かを見落としているような?
「うーん……何か忘れてるような……」
箸を一本手に取って鼻の下に挟みながら、両手を頭の後ろで組んで唸りながら考える。
気が付くとイロハも隣でオレの真似をして、イスごと後ろにひっくり返った。
――バタンッ! ゴッチーン!
「痛っターっ!」
思いっきり打ったみたいで、後ろ頭を抱えている。
「あはははっ、まだまだだ修業が足りないな、イロハ!」
「うーっ、目がチカチカするゾー」
チカチカ……? 何か大事な事……チカチカ……。
「んっ! 思い出したっ!」
勢いよく後ろ頭から手を上げたら、イスごと後ろにひっくり返って思いっきり頭を打った。
――バタンッ! ゴッチーン!
「痛ってーっ!」
「しっしっしっしっ、リンもまだまだ修行が足りナい!」
二人仲良く床にひっくり返って大笑いしてるのを、師匠はやれやれという顔で笑う。
「んで、何を思い出したって?」
「そうだ、それだっ! 思い出したんだよっ!」
オレは影渡りした時に空間の中で見た沢山の光の中に、ビルや車やネオン街など元の世界でよく見た場所が映ってた事を思い出した。
「あれは間違いなく現代地球の建造物だった!」
その他にも見た事もない不思議な光景も沢山そこには存在していたが、オレはその光が影渡りの出口だと確信し、見えた光景の場所に取り着くのだと説明した。
現に、オレとイロハはそうやって師匠の元に帰って来たんだから。
「……俄かには信じがたいが、お前とイロハがそう言うのならそうなんだろう。 という事は、こちらの世界に迷い込んで来る地球人というのは、案外それが原因なのかもしれないな」
師匠が予想していた通り、シャドウウルフやシャドウナイトが開いた影渡りの空間に、何らかの偶然か悪戯か、もしかしたら本当にたまたま落ちてしまった地球人がアストルミナへ渡って来たのかもしれない。
「これも科学と一緒だな……」
そう言って師匠は額に手を当て、やれやれという顔をして眉間に皺を寄せ頭を振っている。
「師匠、どういうこと?」
「今のも科学と一緒でこの世界の常識をひっくり返す事柄だって事だ! 百歩譲ってアストルミナに科学が広まり発展するのはいいとしよう、だが影渡りの空間で別の世界、まして過去や未来に飛べると知られたらどうなる? 領地拡大だの、過去の改変だの、暗殺だの言い始める輩が必ず出るぞ!?」
確かにそう考える腹黒い人間はどこにでもいるだろう、だが。
「うーん、まぁ大丈夫なんじゃないか? だって、昔からこっちに落ちてきた別の世界の住人がいるってのに科学の『カ』の字もないわけだし、影渡りが使える人間がいるわけでもないし、ましてオレ達みたくシャドウナイトの影渡りに飛び込んでみようって酔狂な人間は今後も出ないだろうし、まして時間干渉の能力なんて師匠しか持ってないし、誰に話したわけでもないし、それに・・・ 世界線を渡るなら三人で、だろ? なら科学も空間干渉も時間干渉も、誰も知り得ない」
「そうダー! 三人でいくゾー!」
「師匠を地球に連れて行くって約束もあるしな」
師匠は額に手を当てたまま、ハァーっと溜息をつく。
「まったく、物は言いようだな。わかった、お前の言い分に乗ってやる」
仕方のない奴だと言わんばかりにフッと声を出して微笑んだ。
「よっし! やったなイロハ!」
「やっタな、リン!」
「「イエーィ!」」
両掌をパチンと打ち合わせてガッツポーズをとる。
「で、いつ実行するつもりなんだ? 気が変わらない早いうちが私はいいと思うぞ?」
やると決めたら迷いのない師匠。
「えーっと、師匠も色々準備とかあるだろうから……来月くらい? とか?」
「……よし、明日だな。 今日はしっかり寝て、明日早めに朝食を食べたら決行だ」
「けっこうダっ!」
イロハが手に持った肉を掲げて大きな声で宣言する。
「んなっ! えっ? 明日!? 知り合いに挨拶周りとかこの家の始末とか色々やり残した事とか未練とかあるんじゃないの?」
言い出しっぺはオレだけど、流石に明日の朝に決行とかは性急すぎないか?
「バ・カ・も・の! 一体どこの世界に『ちょっと別の世界線に行くもので』と挨拶する輩がいるんだ? それこそそういった手段がある事が知れてしまうじゃないか。 それにこの世界に未練など一片もない。 私に未練があるとすれば、それは地球に行けてないという事だけだ」
確かに、先に延ばせば延ばしただけ「まだ行けない」って理由を作ってしまっているって事になる。
師匠の言う通り、気が変わらないうちに行動あるのみだな。
「了解した! 明日の朝、決行だ!」
「ダーっ!」
◇◇◇
多分、今日この世界を発ったら、もうアストルミナの地を踏むことも無いんだろうな。
そう思ったらちょっと名残惜しくなって、朝からホーンラビット(角の生えたウサギの名前だそうだ)を捕まえて唐揚げにしました。
「朝っから♪ カラアゲ♬ カッラアゲ~っ♪」
「リン、流石に朝から揚げ物はきつくないか!? まあ美味しいんだが」
イロハと師匠の反応に差があり過ぎる、今日の大勝負前の朝食。
「食べて片づけたら、いよいよ世界線を超えて地球へ行くぞっ!」
「いくゾー!」
片手を突き上げ、色々な意味を含んだ自分への鼓舞を行う。
「運がよければ、お前の本来の世界の、戻りたい過去に辿り着くだろう」
師匠が唐揚げを食べながらちょっと気になる言い方をした。
「え、じゃ、運が悪かったら?」
「うーん、失敗したと仮定すると、そうだな……そもそも何も起きないか、この世界の過去に遡るか、はたまた全く違う別の世界に飛ばされるか、もしくは空間から出られないか、と言ったところか」
なんかすごい怖い事を言った気がするんだけど?
「出られなくなるって聞くと、ちょっと尻込みするな」
「ふふっ、止めるなら今のうちだぞ?」
オレにそんな気がない事を重々承知の上で悪戯に揺さぶってくる。
「いや、勿論やる、やりますよ! オレが過去でやる事もそうだけど、師匠との約束も果たしたいし、それに二人に本物の『うな重』食べさせたいしな!」
「本物のウナジュー! アタイ食べる!」
「まったく、お前には別の意味で敬意を表するよ」
柔らかい笑みで「お前はそういう奴だよな」と表すが、キッと表情をきつくしてオレに忠告する。
「それとよく聞きな。 過去に戻って事象の書き変えを行うという事に、一抹の不安がある事を忘れるな。 何がどう作用するのかなんて全くの未知だ、誰もそれを成した事がないんだから当然だな。 お前が超能力に目覚めた切っ掛けは、大事な友の死を目の前で体験した事が原因だったな?」
オレはただ首を縦に頷いた。
「つまり、遡った過去の世界でその友を救うという事は、お前のその力は目覚めなかった、という事になる。 もしかしたらその元凶を排除した時点でお前は力を失い、本来の時間に戻れないどころか、そもそも今のお前という存在すら消えてしまうかもしれない」
師匠は少ない情報から仮説を立て、なんと自力でタイムパラドックス理論まで辿り着いた。
「師匠、すげぇ! それ、地球では物理っていう学問の学者が言った『タイムパラドックス』っていう理論だよ。正直、驚いた、本当に」
正直に感想を述べたら鼻で笑われた。
「ふっ、そうなのか? ちょっと考えれば辿り着く答えだと思うんだが。なんせ、過去に戻るという事はその時点での自分が存在しているって事だからな。過去を改変すれば現在の自分の存在を否定する事に繋がりかねない、という事だろう」
半分正解で、半分間違い、いや、解答としては不十分、かな?
「ふっふっふー、師匠は充分すぎる程賢くて凄いけど、最近の理論は進化してるんだぜ?」
ちょっとだけ映画や小説で齧った知識を、さも胸を張って引用してみる。
「なんだ、勿体ぶらずに早く話せ、何がどう進化してるんだ」
ちょっと表情がマジなので、起られる前に説明する。
「元々一本だった世界線で過去を改変すると、その時点で別の世界線として枝分かれするっていう『マルチバース理論』って言うのがあって、要はオレが過去を改変しても、友達が生きている新しい世界線と、元々の世界線が存在する事になって、結果、オレは消えないってわけ!」
目を丸くしてちょっとだけ考え込んだ師匠は、直ぐに顔を上げた。
「成程、理解した。という事は、その理論で行くと枝分かれした別の世界線は無限に増え続ける訳だが……要は子細な改変では世界線の枝分かれはしない、という制限があるという事だな」
なんかドヤってすいませんでした、予想以上の答えでした、それ以上はオレも分かりません!
「サスガシショウー! ソノトオリダヨー!」
「なんでカタコトになった?」
つまらなそうに聞いていたイロハが痺れを切らす。
「タラ! リン! 朝ゴハン食べタ! 早く行こー!」
決死のダイブを促すのであった。
準備を整えたオレ達は庭に出る。
「じゃ、出すゾー! んんーっ!! ダっ!」
――ブォン……
シャドウナイトのような地面に空いた穴ではなく、目の前にワープゲートの様な状態で穴が開く。
黒く渦巻くゲートの中に、キラキラと沢山の星がちりばめられた様で非常に綺麗だ。
が、その光の一粒一粒が出口なのだと考えると、それはそれで恐ろしさも感じる。
「これは……、飛び込めと言われても、流石に私でも足が前に出ないぞ」
「オレとイロハは二度目だから、まぁ、うん、何とか行けそうだ」
オレは師匠に手を伸ばして、師匠はその手をしっかと掴む。
「アタイはこっち!」
と、オレの背中にピッタリ張り付き、首に手を回して、足で胴をガッチリと掴んだ。
オレは飛びたい先のイメージを強く、濃く描く。
元の世界、宇宙、地球、日本、街、そして戻るべき時へとイメージする。
「師匠っ!」
「分かった! よしっ、ヘイスト!!」
時間干渉により黒く渦巻くゲートは速度を増して渦巻き、そしてその回転はついに逆巻いて見えた。
「行くぞっ!」
オレ達は決死のダイブを決行し、そして、世界と時間を飛び越える。
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