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Rising Force - Genesis -  作者: J@
事件編
8/124

雷鳴

 街から離れるにつれ街灯がまばらになり、夜の闇が更に拡がって行く。

 先ほど隣町に入り、猿羽根山(さばねやま)まではあと2、3kmといった所まで来た。


「休憩入れなくても大丈夫かー?」

「俺の方は全然行けるー リンちゃんの方こそ大丈夫ー?」

「オレも行けるー! 急ぐぞー!」


 大きな河川の橋に差し掛かる。

 この雨で川の水量も勢いも増しており、ゴォーっと全てを押し流していく音が恐怖を煽る。

 今のオレの心情に似ていると思った。

 これからも続くと思っていた日常、当然そこにあると疑いもしなかった笑顔。

 穢され、壊され、……そして流されていく。

 黒に染まる中を目一杯自転車で駆け、絶え間ない雨に打たれながらオレは自問自答する。

 そうか、オレは悔しいんだ。自分の力の無さに、出来ることの少なさに、矮小さに。

 だからオレは怒っている。全てを無にしてしまいたい程の強い怒りを。

 ただ黒く暗く、全てを押し流していくこの川のように、無慈悲な怒りを。

 ギリっと奥歯を噛み締めながら、更に暗闇へと進んで行く。


「リンちゃん! こっちこっちーっ!」


 アルの声で、猿羽根山(さばねやま)への登り口を少し過ぎている事に気が付き、もう少しでトンネルに入ってしまう所だった。


「悪りぃ、助かった」

「こっからは、もっと注意して行かないとだよ」


 確かにそうだ、この先に(れい)と犯人がいるかもしれないんだ。注意してかからないと。


「んで、この先のどっかに黒のワゴン車があるかもしれない、って事だよね?」

「ああ、賭けだけどな」


 自転車は登り口の端の影に隠して停めた。

 もし、犯人の車がここを通ったとして、自転車を見つけたら必ず警戒するだろう。

 ここから先は誰にも見つかっちゃいけない。

 山の上に向かう道路に沿って、直ぐ隠れられる様、茂みに近い端っこを歩く。

 気が付くと少し体が震えている。これは怒りか? それとも怖さか?


「暗いし、範囲も広そうだから二手に分かれる? それとも一緒に行動した方がいいかな?」


 確かに二手に分かれた方が効率はいい、発見した時は携帯で連絡すればいいか?

 いや、この暗さだ、ある程度の場所を言われても合流出来る気がしない

 もし見つけたとしても、携帯で連絡出来ないようなシチュエーションだったとしたら、状況は悪化する。どう動くのが一番いいんだ? 情報を整理する。

 大きめの黒のワゴン車でも走れる道が必要だ。それに拉致監禁しておくのに適した建物も必要。なら、音が漏れないようにしっかりした壁があって、ある程度の大きさも必要?


「リンちゃん?」


 黙りこくって考え込むオレを心配して声を掛ける。


「……ああ、ゴメン。うん、一緒に行動したほうが良さそうだ」

「オーケー! 了解した」


 腰に刺した白黒の二刀流バールを引き抜き、そう答えるアル。


「それと、場所は2つに絞られた」

「オーケー! ん? いつ絞られたし?」

「今の時点で、分かってる情報を整理したら2か所になった、多分だけど」


 考えたことの説明を全部すっ飛ばした。

 説明するのが面倒ってのもあったけど、コイツならなんか理解してくれそうな気がした。


「う、うん、まぁ、アレだね! やっぱリンちゃんは色々と特別だわ」

「オレが特別? いや、そんなわけないだろ? よっぽどアルのほうが特別だよ」

「お、おう! えっと、ありがと? でも、俺ソッチの気はないんだからね!?」

「ばっ! おまっ! オレだってないわ!」


 小声で笑いながら冗談を言う。

 ……アル、やっぱりお前は特別だよ。

 さっきまでの体の震えはもう消えていた。

 道路沿いに茂みの中を掻き分けて進んで行く。


「犯人の車が通るかもしれないし、向かう先のどこかで見張りとかいたら不味い。ライトは点けないほうがいい」

「合羽はどうする? もう脱いでく?」


 目を閉じて周囲に耳を澄ますと、生い茂った木々達を打ちつける強い雨音は、さながら鳴り止まない拍手喝采のよう。ビニール合羽を打つ音なんて聞こえやしないだろう。


「今はまだ大丈夫……だと思う。でも、建物が特定出来たら、近づいて中を確認する必要があるかもしれない。そん時はオレが脱いで近づく」

「了解。でも、なるべく遠間から確認できるといいね。警察にも通報しないとだし、何より危ないし」

「うん、確かに。……そうだな、一応今のうちに確認しとこう」


 進みながら、この捜索隊の行動フローを確認する。

 1.車を発見する

 2.車の周辺で建物を特定する

 3.建物内に麗が拉致されているだろう事を確認する

 4.大まかにでも犯人の人数などを確認する

 5.警察に通報する


「うん、大丈夫、やらなきゃいけない事は把握した。した……けどさ、もし、どっちかが見つかったり捕まったりしたらどうする? 多分パニくって下手踏むのが一番危ないと思うんだ」


 アルの言う通り、オレもそこは考えてたけど、そうならないように立ち回るつもりでいたから、まさかの場合は起きないだろうと高を括っていた。

 ゲームのガチャで「大当たり確率90%」なんてものを引いても、何故かハズレの10%を引いてしまう様に、まさかは結構容易に起きる。


「だな、もしもの場合も決めておいた方がいいよな。……強引だけどオレが決めていいか?」

「もちろん、この捜索隊のリーダーはリンちゃんだよ、いいに決まってんじゃん!」

「んじゃ……もし、片方が見つかったり捕まったりした時は、もう片方は絶対に見つからない事。捕まらない事。直ぐに距離を取って隠れる事。そして警察に通報する事。最後に、間違っても助けようとしない事。かな」

「それってリンちゃんだけが危ないんじゃ!?」

「そんな事はないよ、何がどう転ぶかなんて分からないし。それに、もし2人が一気に見つかったとしたら、そん時は……」

「そん時は?」

「躊躇せず、お前の二刀流をお見舞いしてやればいい!」

「了解、任せろ! 自信は全くないけど! てかリンちゃんは?」

「オレはアルに負けない様に、もっと早く一撃お見舞いしてやる! 殺さない程度に警察が到着するまで無力化出来れば充分」

「手加減にも全く自信ないけど!?」

「何にしろ、2人とも捕まったらゲームオーバーだ。オレがもしも捕まった時は頼りにしてるぜ、アル」


 一瞬、目をパチクリし呆けるアルだが、自信たっぷりに答える。


「よっし、任された!」


 右拳を握り親指を上に立て、胸の前でトントンと心臓部を軽く叩く。


 目星を付けたのは2か所とは言っても、この猿羽根山(さばねやま)に最後に来たのは小学生の頃だから、記憶は曖昧。年数も経過してるからどこか変わってるかもしれない。

 一つは、頂上付近にある木造の建物。もう一つは、地下に雪室がある倉庫の様な建物。

 このまま道なりに進めば木造の建物へ、途中から横に入れば倉庫の様な建物へ行く。

 ここから距離的に近いのは倉庫の方。オレたちはまず倉庫を目指す事にした。


 先は暗くて良く見えないが道は勾配があり、上りながら曲がっている。

 雨で足元はグシャグシャ。斜面の茂みを進むのは無理そうなので道路へ出た。

 舗装も綺麗な状態では無い為、流れる雨が亀裂でうねりバシャバシャ跳ねる。

 これだけの雨量があると土砂崩れも起きそうで心許ない。

 上りカーブを超えると少し平坦になり、突然左側に少し開けた場所が見えたと思ったら、目の前に傘を差してタバコを吸ってる男が立っていた。


「んなっ! 誰だおめぇ!!」


 この雨で傘に当たる雨の音、タバコの臭い、茂みで出来た死角で全く気が付かなかった。

 夜の山で散歩!? 近隣住民? なんでこんな所に人が? いや違う、コイツは!

 突然の鉢合わせに戸惑い、躊躇したその一瞬。

 ボグッ! という鈍い音がして、糸が切れたかの様に地面に崩れ落ちた男。


 ――ピシャーンッ!!


 この豪雨で初めて鳴る雷と共に、その背後から二刀流を振り抜いた前傾姿勢のアルが、雷光に照らし出される。


「躊躇せず、二刀流お見舞いしてやったぜ?」


 二刀流バールを腰に戻しながら、アルは「へへっ」と笑った。


「……ごめん、助けられた。ありがとう」


 アルの肩に額をくっつけてそう言った。

 判断が遅れて動けなかった自分が悔しく、恥ずかしい。

 ちょっとだけ悔し涙が出た気がしたけど、それが雨なのかも判らない。


「任せろって言った手前、俺がリンちゃん守らないとじゃん? でも手加減は無理だったぽい!」


 でも、これで確率は高まった。この先に(れい)がいるかもしれない。


「次は、迷わない!」


 オレたちは、空を裂くような稲妻と雷鳴を引き連れて、先へ足を進めた。

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