新たな世界で
小鳥の心地よい囀りと通り抜けていく風に、意識を引き上げられた。
頬には固くて冷たい感触が、身体は何かが突いている感じがする。
まだ、えらく眠いうえに身体も相当疲れているのか寝返りを打つ事もままならない。
ん? ここって家のベッドだったか?
昨日は一体どうやって帰って来た?
混濁する意識に逆らいながら無理やり瞼を開けた。
目の前には砂利が見える。
ハッキリしない頭を動かして記憶を辿る。
ああ、そうだ。BUGSを襲撃して、アルを助けた。
それからディノポネラと戦って、なんかロボットが出てきて、とんでもない攻撃を相殺したらブラックホールみたいなのが出来て、そして……それに吸い込まれたんだったか?
「ここは……何処だ?」
あの世って感じでもないようだが、見た事のない場所だ。
とりあえず起きないと。
「んぎぎぎぎっ!」
無理やり上体を起こして座った。冗談じゃない程に身体がボロ雑巾のようだ。
さっきからオレを突いていた数匹のハゲタカみたいな鳥が、汚い鳴き声を上げて飛んで行った。
「どこが小鳥の囀りだよ、ったく。危うく鳥のフンになるとこだったじゃねーか」
しかしここはどこだ? 周囲を見回すと田代峠でない事は直ぐに分った。
舗装はされていないが道路っぽい幅広の砂利道と、辺りには背の高い木が生い茂っており、遠くにはとても高い山も見える。
そもそも田代峠で無いどころか、日本でも、まして地球ですらない。
だって、空には太陽の他に、白、黒、青、赤、緑、茶、その他沢山の星が浮かんでる。
「どこだよココ」
自分の恰好を見ると、変身した黒装束は解除され普通の服に戻っている。
PACSで創造されたリングもCTLも全て消えて無くなっていた。
晶のベールどころか皆にテレパシーを飛ばしても反応が無い。
「あー……ってことは……」
今までいた世界とは隔絶された世界。異世界とか別次元の世界とか、そういったとこに飛ばされたのか? いや、そもそもそんな事ありえんのか? オレの能力が消えたのかも?
「マジかぁー……」
色々と考えられることが頭を過り、思わずため息が出る。
ここが異世界や別世界だと仮定するとして、まず、日本語は通じるのか?
英語だって中学レベルのカタコトしか喋れないんだぞ?
それに、この世界の生物は地球人と見た目が違うかもしれない。
昔のタコみたいな宇宙人だったり、リトルグレイみたいなのだったり。
もしかしたらファンタジーな世界で、獣人とか亜人しかいない世界なのかもしれない。
いや寧ろ、獣人や亜人は嬉しいな。
もしそうだったら是非仲良くなっておきたいと思う。
オレの能力が消えうせたのかも?
いや、それはない。だって、こうしてる今も超回復が身体を修復していってる。
「ほっ……。能力があるならまずは一安心か」
何かに突然襲われても能力さえあれば何とかなるだろう。
さて、どうしたものか……。上空から街でも探すか?
まて! その前に金持ってないし! この服装だってここでは奇妙かもしれない。
てか、どうやったら元の場所に帰れるんだ?
身体だってまだまともに動けそうにない。
何処か雨風凌げる安全そうな場所を見つけて、しばらくゆっくり休まないとダメだな。
しかし、スッゲー腹減ってんだけど。
もしかして、オレ何日か意識失ったままぶっ倒れてたのか?
その間、誰もここを通ってないって事だったら、相当な山奥だし。
あれ? そういえば……あの黒いのに吸い込まれる直前にアルの顔を見た気がする。
褐色の肌に銀色の髪、顔も少し違ったけど、纏ってる雰囲気は間違いなくアルだった。
しかも、最後に奴らを完全に屠ってたし……って事は、また助けられたか?
「ふっ。お前はいつも美味しいとこ持ってくよなー、サンキュー、アル」
それともう一つ覚えている事がある。
オレの意識が完全に途切れる寸前、誰かが手を差し伸べオレの名を呼んだ気がする。
そうだ。あの後どうなったんだ? みんなは無事なのだろうか。
考えればキリがない。まずは現状把握をしない事には、なんの答えも出せないな。
などと独り言を呟いていたら、道の端の草むらからガサゴソと音がした。
見ていると、なんと兎が跳ね出して来た。
「マジか! ウサギだっ! ウサギ……だよな?」
と言うのも、見た目はウサギそのものなのだが、額の所に長い角が生えている。
「いや、ドラ〇エのア〇ミラージじゃねーか!」
動物なのか、ゲームで言う所の魔物なのか知らないけど、オレは今猛烈に腹が減っている。
オレを見つけたアル〇ラージは、目つきを変えて一直線に駆けてきて飛び掛かってきた。
なんと飯が向こうからやって来た! これは捕まえるだろ!
オレはすかさず捕縛し、首の骨を折り、草むらの上で腹を裂き、内臓を取り出し、血抜きして皮を剥いだ。
「悪いな、勘弁しろ」
肉塊になったウサギ肉を能力で焼き、丸焼きが出来上がった所で手元まで引き寄せた。
まだ手の方も完治までは程遠く、あまり動かしたくないの。
能力で上手く肉を口元で回しながら食べた。
喉もカラカラだから肉を飲み込むのがえらい大変だ。
ゆっくり喰ってたら、また草むらがガサゴソいいだした。
見ると灰銀色した中くらいのワンコが顔を出し、オレを見ている。
いや、オレじゃないな。コイツ、オレの肉を見てやがる。
「なんだお前、腹減ってんのか? 半分やるからこっち来な?」
言葉が通じたような素振りで、いいのかー! みたいな顔してやがる。
「嘘なんか言わねぇよ、こっち来て食いな、なかなか美味いぞ?」
少し警戒しながらもオレの隣まで寄って来た。
空中に浮いてる肉を不思議そうに見ながら、肉とオレを交互に見る。
「んんーっ! お前可愛いなっ! 毛並みもめちゃめちゃ綺麗だ! ほら食えっ! こうやって食べんだぞ?」
オレは肉をガブっと齧ってムシって食べた。
能力で半分にしたウザギ肉を前に出すと、オレの真似をして食べ始めた。
「よっぽど腹減ってたのか?」
見て愛でるのも悪くないが、撫でたいっ! 手を動かすとまだまだ凄く痛いが、それよりも撫でたいっ!
結局我慢出来ずに、すんごい痛いのを我慢して頭から背中にかけてと、耳裏と首回りをめっちゃ頬でモフった!
めちゃめちゃ癒される! 精神的に! うん、ありがとう!
なんてやってたらあっという間に食べ終わったらしく、オレをじっと見つめてくる。
コレはアレだ、もっとないのか? もっとくれ? って目だ。
そんなクッソ可愛い顔でねだられたらダメとか言えるわけがない。
「ウサギ捕まえてこれるならもっと焼いて作ってやるぞ? って言っても伝わらねーか、はははっ!」
言葉を理解したかのようにオレから離れると「アォン!」とひと鳴きしてダッシュで駆けて行った。
ってか、走るスピードかなり早くねーか?
灰銀色したワンコはあっという間に見えなくなった。
少しだけど、腹に入れたら、次は眠気がきた。
食って寝てを強制してくる感じは、身体の回復に力を回しているからだろう。
素直に従うことにして、地面に大の字になって目を閉じる、日差しと風が気持ちいい。
ハゲ鳥に食べられませんようにと祈りながら、道の真ん中で寝てしまった。
眠りから覚め、意識が戻ってくると、何やら頬がくすぐったい。
なんだ? と思い目を開けると、さっきのワンコがオレの顔を舐めている。
「あれ? お前戻って来たのか?」
なんとか上体を起こしたら、目の前にしゃがみ込んでオレを見ている人がいた!
「うぉっ! がっ! 痛ってぇぇーっ!」
思わず仰け反ったら身体が痛すぎて声が出た。
「ん、生きていたか。運のいい奴だ。自分で立てるか?」
濃紺のローブを着た色白の透き通るような肌に銀髪、銀目のとっても美人なお姉さんが声を掛けてきた。
オレはまた驚いて、また身体の痛みに声を上げてしまった。
というのも、彼女の言葉が日本語だったからだ。
「えっ! 日本語!? って事は、ここは日本なのか?」
「ん? いや、ここはルナミリアという国だよ」
ルナ……なんだって? 聞いたこともない、知らない土地だった。
「お前……さっき『ニホン』と言ったな? お前はニホンから来たのか?」
「え、あ、ああ、そうだけど。なんで日本語が通じるんだ? なんで日本語を話せるんだ?」
「ん? 何を言ってるんだ? さっきから私たちはアストルミナ公用語で会話しているぞ?」
どういうことだ? オレは日本語を話してるが、お姉さんには別の言語に聞こえているみたいだ。
「あー……うん、了解、分かった。深く考えないことにする」
要するに、何でかは分からないけど、自動翻訳されてると理解するしかないな。
「それで、ニホンから来たって事は、お前は地球人って事で合っているか?」
「なっ! 地球を知ってるのか!? どうすれば帰れる!? 何か知ってたら教えてくれっ! 頼むっ!」
そうなると色々と気持ちが焦ってくる。オレはどうやったら元の世界に帰れるんだ!
ワンコが前足を乗せてオレの手をペロペロ舐めてきた。
まるで、焦っても仕方がない、まず落ち着け、とでも諭されたように。
ワンコの頭と耳の後ろを撫でまわしたら少し落ち着いてきた。
「……うん。いや、悪かった。ちょっと焦り過ぎたみたいだ」
オレはここに至るまでの経緯を説明した。
「なるほど、大体理解した。ということは、お前、行く当ても何もないんだろう?」
お姉さんは立ち上がりながらそう聞く。
「行く当てどころか、右も左も、ここがどこなのかさえ全く」
お手上げだと答えると、お姉さんは悪い笑みを浮かべた。
「なら、提案なんだが、私の家に来ないか? 対価は家事全般をこなす事とお前の知識を私に話して聞かせる事。それと地球に帰る方法が見つかった時は私も連れて行く事。それだけで衣・食・住の問題は解決するぞ? どうだ」
「えっ! はっ? マジで!? 冗談じゃなくて?」
「嘘を言ってどうする、奴隷商に売るとでも? 私はそんなに悪人に見えるか?」
「アォン!」
ワンコが服の袖を引っ張ってついてこいと言っている。
「いや、このワンコの言う通り、世話になる事にするよ。よろしく頼む!」
「うん、いい返事がもらえて私も嬉しいよ。聞きたい事は山ほどあるし、それにまずその怪我を治さないとな。立てるか?」
オレの超回復力でかなり治癒したとはいえ、自力で歩くのはまだちょっとキツイ。
「立てなくはないが、距離を歩くとなると厳しいな。家はこっからどのくらいの距離だ?」
「あっちの方角に向かって10kmってところだ」
「なら、ちょっと特殊な方法で移動しても問題ないか?」
「ん? ああ。この辺に人は殆どいないから何をしても大丈夫だが……」
「よし、じゃそれで! それと、ワンコ、お前も来るか?」
「アォアォン!」
いいぞ、連れてけと言っている様に聞こえるんだが、もしかして言葉を理解してんのか?
「連れて行ってもいいのか? このワンコ。ってかワンコって呼ぶのもなんだなぁ。お前、綺麗なシルバーアッシュの毛色だから……灰銀……灰色……よし、ハイイロをもじって『イロハ』って名前でどうだ!?」
「アォォーーーーン!! アォォーーーーン!!」
とっても喜んでいるようでめっちゃ跳ね回っている。
「あはははっ! 気に入ったのか? よかった、よろしくなイロハ!」
と思ったら、お姉さんがめちゃくちゃ驚いた顔で固まっている。
「あ、あれ? なんかマズかったか? もしかして、名前つけたりするのは問題アリとか?」
「いや……驚いた、本当に驚いた! こいつは私の家族みたいなもんなんだ。昔、私の友人……いや、違うな、私の『大事な人』がこれに名前を付けたんだが、その時も今のお前と同じ様に『ハイイロをもじってイロハでどうだ』って言って『イロハ』って名前を付けたんだ」
「は? え? そんな偶然ってあんのかっ?」
「正直、私も混乱してる。 ま、まず、とりあえず一旦家に行こうか。話はそれからだ」
「あ、ああ分かった、あっちの方角だな、よし、んじゃ行くぞ?」
座ったままで何を言っているのだとオレを見るが、次の瞬間二人と一匹が空を飛ぶ。
「んなっ! はぁぁっ!? お前っ! フライが使えるのかっ!」
「え? フライ? ああ、揚げ物は得意だぞ!」
「そうじゃないっ! どうやって飛行してるんだこれは!」
「あ、これ? これは超能力使って念動力で飛んでるな」
「と、とにかく家に着いたら、まずその超能力ってものについて話して聞かせてくれ」
「りょーかいした! あ、それと下に走ってるあのウサギ、何匹か捕まえていってもいいか? さっき焼いて喰ったら結構美味かったし、イロハにももっと食べさせるって約束したしな!」
「アォン!!」
見ると空中でも走っている様に足を動かしながら、尻尾をブンブン振っている。
うん、クソ可愛い!
「あ、ああ、もう好きにしろ、もう何を見ても驚かんよ」
オレのやる事が非常識なのか、何故か呆れられている感じがした。
「なら、ホイっと!」
下に見えたウサギ六匹を念動力で捕まえて、一気に内臓処理、血抜き、皮剥ぎをした。
「はぁぁぁーっ!? な、なななっ! お前っ、非常識にも程があるだろう!」
「いや、もう何を見ても驚かないって、今さっき言ったよね?」
綺麗なお姉さんは盛大に溜息をつきながら、前方に見えた一軒の家を指差した。
「あそこだ」
「りょーかい!」
こうしてオレは、この見知らぬ世界でしばらく生きる事になる。
オレは必ず帰るから、それまで待っててくれ、アゲハ、みんな。……アル。
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