悪党が見る夢
§ WORMS パラポネラ視点 §
禍々しくも力強いオーラを纏ったアタシ。
「こ、ゴロスぅあぁぁァァァーッ!」
まずはアタシの仮面に傷をつけたこの女だっ! この女を串刺しに!
何度も何度も串刺しにして穴だらけにしてやるっ!
何より、綺麗な長い髪、整った顔、メリハリのあるプロポーションが、アタシの一番嫌いな女を思い出させて不愉快だ。無性にイライラする! ズタズタにして二度と見られない醜い顔にしてやるっ!
「ゔおぉぉぁあ゙ぁぁーっ!」
両手を突き出し、纏った紫緑色のオーラを腕に集め形状を変化。鋭利な針の様に尖らせる。
毒々しい二本の針を構えて体を縮め、そして一気に解き放つ。
大地を蹴り跳躍し、超高速で弾き出された身体は音を一瞬置き去りにして、一直線に髪の長い女に向かって襲い掛かる。
§ 作戦本部チーム キラ視点 §
ジュンタくんは、私との間を抜けていく敵の姿に蹴りを放ったが、既に残像で空振った。
セオドラちゃんも、迫りくる針と自身の間にスナイパーライフルを盾にし構えている。
だが、私は敵が地面を蹴った瞬間にアクセラレータ状態に切り替えていた。
思考速度は通常時の約一万倍に膨れ上がり、その針が致死性の毒針である事を看破する。
晶ちゃんのベールがある限り貫かれる事は無いだろうと安易に考えたが、ツェツェはその握力だけで葵育の足を砕き、ベールまでも拉げさせた。
この敵達は想定を超えて来る。
真っ向からこの勢いで針を受ければ、最悪、ベールが割られるかもしれない。
駄目だ、危険だ!
私の横を抜け、セオドラちゃんまで到達させるわけにはいかない。
目の前に見えているこの腕を、今ここで切り落とさなくてはいけない。
だが、アクセラレータ状態は身体反応速度まで1万倍になるわけではない。
意思の力でせいぜい反応、反射が良くなるという程度でしかない。
だが今、ここでやらなければ! 今、私がやらなければ危ない!
動け私の身体っ! 動けっ! 早くっ! もっと、もっと早くっ! 動けぇぇぇーッ!
手を振り被って手刀を降ろす。ただそれだけの動作、1メートルにも満たない手の移動。
通常の人間が頭上から手を思い切り振り降ろす際の速度は、凡そ秒速25m。時速にして90kmである。
私はその壁を己の意思でブチ破る。
その速度、秒速1020m。
秒速340mでマッハ1である。秒速1020mはマッハ3。
時速にして3672km。
なんと、身体反応速度は250倍のアクセラレートを叩き出した。
セオドラちゃんに向かって超高速で飛ぶ敵の腕に、刹那の手刀が振り下ろされた。
衝撃力たるや約550万ニュートン。
0.004秒の間に約560トンの斧が腕を振り抜いた計算だ。
§ WORMS パラポネラ視点 §
「ゔあ゙ぁぁぁーっ!」
これ以上ない程の力で敵の間を超高速で抜けたアタシは、その整った顔に大きな穴が開くのを確信し口端を上げる。
だが、ここから先、一体何が起きたのかが分からない。
突如、アタシのお腹に何かが突き刺さり、激痛が走った。
痛みに耐え切れず、バランスを崩し激しく転倒した。
アーマーや仮面を破損しながらこのクソむかつく女の横を転がった。
「んなっ……何がっ、おこッ! グッ、グボァッ! ゲハァッ!」
仮面は左上部だけを残し素顔を露わにする。
吐血しながら自分の腹に刺さったモノを確認し、咄嗟にソレを引き抜こうと手をやるがその手が無い。
「……は?」
状況が呑み込めない。何故アタシの手がアタシの腹に突き刺さっているんだ。
いつ攻撃されたんだ!? 何も分からない。
「ぎっ! ぎぃやあぁぁぁぁぁあぁあぁーっ! ウッ、ゴポォッ! ゲハァッ!」
叫びながらも激しく吐血する。
紫緑色の毒針は容赦なく自身にもその凶暴性を発揮し、黒のボディースーツが破れた箇所から、肌が毒々しい紫緑色に染まって行くのが見える。
「クッ、クッ! クソがぁぁぁああっ!」
額を地面に着け上体を起こし、その状態から立ち上がる。
「フーッ! フゥーッ! ゲボッ! ッペ! フゥーッ! フゥーッ!」
既に死に体、何故立っていられるのか分からない程に血の気が失せていく。
待て、駄目だ、駄目だ! 立てっ! 立てぇぇっ!
「アダッ、アダシわぁ~、おバえらをぜんめつじでぇ~、はやグ、ディノざばのもどにぃ~、ゲッハァッ! ゴフッ! フゥーッ! フゥーッ! がえるんだ……」
ああ、ディノ様がアタシの帰りを待っている。立て! 帰るんだ!
大丈夫、アタシはまだやれる! ディノ様! ディノ様!
「グハァッ!! グッ! ギッ! ギィッッ!!」
失った両腕の骨を剥き出しにしてまで這いずって進む。
何故か敵は追撃をしてこない。
「フーッ フーッ フーッ…… フーッ…… 」
呼吸が段々浅くなるにつれ這いずる距離も数センチ幅に短くなっていく。
クソ、まだだ、まだだ……。
「フーッ…… フーッ…… カヒューッ…… カヒュー…… ヒュー……」
まだだ……、まだ……。
……アタシは夢を見ているのだろうか。
争いも、殺しも、騙しも、盗みも、飢えも無い世界で。
最愛のディノと結ばれ、購入した念願の一軒家。
昼下がりの柔らかい日の光を浴びながら、ソファに座る自分。
膝の上には昼寝をしているディノの頭、それと反対側からディノに頭をくっ付けて昼寝をする子供の姿。
ああ、アタシが欲しかったものは今ここにあるんだ。
ディノと子供の髪を撫でながら二人に愛の言葉を囁く。
そして、アタシは柔らかな笑顔でゆっくり目を閉じ、一緒に眠るんだ。
§ 作戦本部チーム キラ視点 §
地面に横たわったまま動きを止めた敵。
輝きを増す銀月が、その屍を照らす。
最後の力を振り絞ったかのように、一筋の涙が頬を伝い地面を濡らした。
皆が動向を見守る中、私は側に歩み寄り、膝をつく。
「……おやすみなさい」
私の砕けた右手があなたという強敵がいた証拠よ。
そして私はその瞳をそっと閉じ、零れ落ちた頬の涙を拭い、弔った。
§ ベータチーム さちこ視点 §
霧が濃く立ち込め視界を阻害されたあたしたち。
「お互いの背中を守るようにしたほうがいい」
ミサキ先輩の言う通りに背中合わせになり、周囲を警戒する。
「……なるほど、理に適った定石通りの反応ですね」
姿が見えないまま木々に声が木霊して、方向と感覚を狂わせる。
「ですが、それでは面白みに欠けますね。そうだ、こういうのは如何でしょうか」
睨みつける霧の中から朧げにレッドアイが姿を現した。
「「来たっ!」」
全員同時に知らせを上げる。
「「はぁっ!?」」
そして全員同時にそんなバカなとまた声を上げた。
レッドアイは五人の前に同時に現れ、そして別々の事を話し始める。
「もちろんこのくらいの事は想定して頂きませんと」
「こういった楽しいイベントにはエンターテイメントというのは欠かせない要素ですので」
「もしかして、四つがIllusionで、一つがWahrheitだとお思いなのでしょうか」
「んん~っ、その驚き方、実に良い反応です」
「さぁ、どう楽しませてくれるのか、楽しみですね」
五体とも、ゆっくりと両の掌を何度も合わせ、楽しんでいる、を表現する。
「……その手の動き、これからあたし達をどう料理するか、考えている仕草に見えるわね」
その動きから受け取ったレッドアイの思考を言葉にする。
「ああっ、実に良いですね。相手を観察し、思考を想像し、気持ちを理解し、行動を予測する。 んん~っ、ですが、それを知ると次に来る感情は『恐怖』ですよ?」
「そうね、背中にちょっと悪寒が走ったわ。だけどそれは『恐怖』じゃないわ、『気持ち悪い』って意味よ」
「……私が『気持ち悪い』? ですと?」
「プッ!」
アゲハの何かにツボったのか、吹き出す音が聞こえた。
敵の反応に明らかに動揺が見えたが、この手の人間はそれすらも嘘の情報として使ってくる。
「そうですね、あなたは私から見ても『気持ち悪い』です『気味が悪い』です。そして『嫌な臭い』がします」
晶ちゃんもそれに乗り、あたし以上に踏み込んでくる。
「嫌な臭いですか……。それは暗に臭いと申しているのでしょうか? うーん、私、お気に入りの香水『LOEWE ソロオードトワレ』を使っているのですが」
「嘘なんてつく必要ないです。あなたからは『血生臭い』臭いしかしません。 それに吐く息が獣臭いんですよ。ああ、いえ、これは人間のアンモニア臭でしょうか、そういう趣味なんですか? そこが一番美味しいんですか? 変態ですね、気持ち悪いです、臭いです。総じて生ごみか下水と同格ですね。食べた相手の骨でもコレクションしてそうですし、それを見て楽しむんですか? 興奮するんですか? 本当に変態ですね! キモチわるっ!」
晶ちゃんがこれでもかと煽りまくった。
「なん……だと……。この私が、気持ち悪い? 臭い? あまつさえ、汚い……だと?」
多分みんなが同じことを思ったと思う。この人、煽り耐性無いんだ……。
「なんですか? 怒ったんですか? 本当の事を言われて顔真っ赤ですか? 告げ口してもいいんですよ? ママーって泣きついてもいいんですよ? 今何歳なんですか? いつまで経ってもお子ちゃまなんですね? 僕のいう事は絶対だー! ママはいつも僕が正しいって言うもーん! あなたは何も悪くないって言うもーん! プッ、最高に笑えますね! まあ全部気持ち悪いんですけどっ!」
「プッ! ちょっ! ムリっ! にゃははははははっ! アーちゃん最高すぎるしー!」
お腹を抱えて笑うアゲハとは対照的に、言いたい放題言われたレッドアイは、ワナワナと手を震わせる。
「……もうこの辺でお遊びは終わりにしましょう。いい加減、お子様のお遊びに付き合うのも飽きてきました。レッドアイの名前通り、泣きわめいて目を赤く腫らしてください」
五体のレッドアイが声を重ね、その殺意を露わにしていく。
「ウオォオォォーーーーッ!」
ミサキ先輩が突然雄叫びを上げ、周囲に衝撃波を飛ばし、霧のスクリーンを霧散させて幻影を吹き飛ばした。あたしの前に一体だけ残ったおそらく本物のレッドアイが、まだ手をワナワナさせながら立っている。
アゲハが後ろを取り怒涛の連打を繰り出す。
レッドアイは咄嗟に振り返り、カマキリを連想させる動きで攻撃を往なす。
背中側になったあたしは、力を込めた渾身の正拳突きをレッドアイの背中に向けて穿つ。
「はああぁッ! セイッ!」
背骨に直撃した攻撃がレッドアイの体勢を崩す。
それを合図にミサキ先輩の連打、横に入った晶ちゃんからのボディと下からの強烈なボディーアッパーを諸に受け宙に浮かされる。
「俺の出番だっ!」
叫んだロックさんの両手に、さっきも活躍した「M134ミニガン」が出現する。
打ち上がった滞空時間約3秒の間に600発もの弾丸を撃ち込んだ。
ボディースツも破れ、アーマーは破壊され、仮面は半分に割れ落ちた。
中から見えたのは、白髪で網膜はゴールドイエロー、痩せた頬に目のクマが濃い青年。
「おうおう、いかにも人間喰ってそうな顔が出てきたなぁ!」
ロックさんがそう叫ぶとレッドアイも雄叫びを上げる。
「あ゙あ゙あぁぁーーゔがががあ゙あぁぁぁーッ!」
痩せた顔にビキビキと血管が走り、ゴールドイエローだった目がルビーに染まる。
硬質的な骨の鳴る音を体中から発し、それとともに細かった手足がみるみる筋肉質で太いものに変質していく。
「えっ! ちょっ! ナニコレっ!? もうハル〇じゃん! 冗談キツイし!」
アゲハの言う通り、異常なまでの肉体変化。既に化け物だ。
レッドアイは雄叫びを上げる。
「ウボォォアアァァァーッ!」
キッと晶ちゃんに顔を向け、凄まじいスピードで跳躍し蹴りを放つ。
「ちょっ! マズっ!」
晶ちゃんが後ろに飛び退き、身体を小さくしてガードを取る。
「晶っ!」
ミサキ先輩がその蹴り以上のスピードで間に割って入った。
晶ちゃんを庇い、レッドアイの強烈な蹴りを脇腹に喰らってしまう。
晶ちゃんを抱えたまま吹き飛ばされたミサキ先輩。
激しく振り抜かれたレッドアイの蹴りは、ベールを砕き、肋骨を折り内臓を損傷させた。
「お兄ちゃんっ! いやぁぁーっ!」
血を吐き出すミサキ先輩を抱え、レッドアイが届かない上空まで飛び上がる。
損傷したであろう内臓の部位をベールで覆い出血を止め、折れた骨も二枚目のベールで覆い、更に身体全体を三枚目のベールで覆い、緊急の治療と再生を始めた。
「すまないっ! 晶、お前は大丈夫か!」
「わ、私は大丈夫だよぉーっ! お、お兄ちゃん、無茶し過ぎだよ! バカぁ!」
視界が歪む程目に一杯の涙を溜め、治療を続ける晶ちゃん。
「ハハハッ、グッ! 痛ってぇ!! お前が無事なら、それでいいんだ」
痛みを必死に耐えながら晶ちゃんに笑いかけ、強がる。
「バカバカバカぁッ! 絶対に治すからっ! 一ミリの傷も残さないで治すからっ!」
「よ、よろしく、頼むっ」
残されたあたしたちは、肉体が変貌したレッドアイの攻撃力を最大限警戒し、直撃を必死に避けながら反撃の機会を伺う。
「くそっ! こんなっ、筋肉ダルマ! どうやって、倒せばいいんだ!」
「ウボォォアアァァァーッ!」
変貌前までの知能はどこへやら。レッドアイは人を殺すという意識のみを残して暴れまくっている。
「このっ気持ち悪い筋肉を! 上回る力でっ、ぶっ飛ばすしかっ! 無いんじゃないっ!?」
「全く、実にサッチらしい作戦だし!? 切断系の技使えるのはあーしだけー!?」
器用に攻撃を避けながら方法を模索する。
あたしを狙っている間は二人が攻撃を仕掛けてくれる。
だが、それほど効いているようにも見えない。
もちろん相当な威力の攻撃だから、ダメージとしては蓄積はしてるはず!
だが、レッドアイの動きに変化が未だ見られず攻めあぐねている。
≪膝関節を集中的に攻めるのがいいかもだし!≫
≪了解! ならっ! 両サイドから同時にっ!≫
≪分かった! 嬢ちゃんたちに合わせるぜー!≫
アゲハがうまく囮になり、レッドアイの軸足を死角にした。
それを見逃さず、あたしとロックさんが左足の膝関節に向けて同時に蹴りを放つ。
「「うおぉりゃぁぁあっ!」」
見事に左右同時のヒット! 表面皮膚が潰れて骨が若干見えた。
だが、それまでだった。
「うそでしょっ!?」
「冗談じゃねえ! 硬すぎるにも程があんだろ!」
「まだまだぁっ! おりゃぁっーっ!」
アゲハが三発目となる超高速の蹴りを放つ。
ロックさんもそれに合わせ、背後から左わき腹にボディブローを数発叩き込んだ。
数歩前によろめいた感じになったレッドアイは振り返り、更に瞳を真っ赤にし再度咆哮を上げる。
「ヴゥグゥアアァァァーッ!」
腰を落とし両手を横に広げ2人に顔を向けて突進の構えを取るレッドアイ。
流石にこのパワーと耐久力、マズイかもと思った時。ドラムビートが聞こえてきた。
「お待たせしたっすーっ!」
「アゲハ! ロック! テン! いっくにゃぁぁーっ!」
「新曲ですわぁーっ!」
重厚なドラムビートとベースに乗せ、軽快なギターとキーボード、そしてアクセントにシンセが重なる。ネオンは空中に『 限界までOver Drive! 』を表示した。
強化バフが何色ものライトエフェクトとなって体を包み込む。
「皆っ! ありがとうーっ!」
「わぉっ! これ以上ないタイミングだし! これで勝つ!」
「サンキュウッ! よしっ! 行くぞっ!」
「「「うおぉぉぉーっ!」」」
ド派手な照明と音楽に、何が起こっているのか把握できないレッドアイ。
ただ力任せに突進していくのみだった。
ご覧いただき、ありがとうございます。
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