戦う理由
§ リン視点 §
上空200メートルから落下した黒いボディースーツを着た1体は、落下地点に大きな窪みとかなりの音を伴って着地した。
オレはそれを追いかけるが、用心して上空で距離を取り様子を見る。
首を鳴らす動作をした後、一瞬しゃがんだかと思ったら一気に地面を蹴ってオレの高度まで跳躍してきた。
かなりのスピードで目の前に現れたそれは一言オレに言い放つ。
「ツェツェをやったのはお前かぁ?」
そして重力に逆らえず落下していった。
接近して分かるその異様な感じ、纏っている「氣」の気持ち悪さ。
オレは地表に降り、そいつと対面する。
「オレは天狗 䮼だ。……お前は、誰だ」
「それを聞いてどうするんだぁ?」
「いや、なに、確認だよ。一応な」
「なんの確認だぁ?」
話のテンポが悪い上に、会話のキャッチボールが出来ないのか?
初対面でここまでイラつかせる奴も珍しい。
「……いや、やっぱりいい。聞くのが面倒臭くなった」
「オレは、Dinoponeraって呼ばれてるなぁー」
「……」
調子が崩される感じが異様にイライラする。
「それでぇー? ツェツェをやったのはお前かぁ?」
「名前は聞いたことがある、が、違う。オレが殺ったのはシーボルディって奴だ」
蟻を連想させる仮面を被っているので、表情が分かる訳ではないが、ディノポネラはほんの少しだけ悲し気な表情をしているのだと、オレには感じられた。
「シーは死んだのかぁ?」
「シー? ああ、シーボルディの事か? なら、塵も残さず、な」
見た目にも肩を落とし、ガックリしたような動きを見せる。
「そうかぁ、アイツは頭は悪いが仲間思いのいい奴でなぁ、そうかぁー」
「殺したらマズかったか?」
オレは挑発と嫌味を混ぜてそう言いながらも、その後味の悪さに嫌な感じを覚える。
ディノポネラは軽く頭を振る。
「いやそれは仕方がない事だぁー、こんな仕事だからなぁー、そういう事もあるさぁー。だがなぁー、ケジメはケジメだぁー。シーとツェツェがやられた分はしっかりと返させてもらうからなぁー」
そう言うと、さっきまでの覇気の無さに反転して、凄まじいまでのエネルギー、能力の凝縮を感じ、オレらの戦闘は開始した。
§ ベータチーム ショウゴ視点 §
「よしっ! ベータチーム、行くぞっ!」
ロックさんが号令をかけると同時に、拠点に入って来た時のトンネルから出る。
離れた場所で、リンと一体が地表に降りて行くのが見えた。
「もう一体、あそこっ!」
天南がすぐ近くに降下する敵を見つけて指を差す。
それに向かってダッシュすると同時に激しい衝突音が聞こえ、5人でそれを取り囲んだ。
全身黒のボディースーツ。各部位にアーマー装備。カマキリを連想させる仮面。
そいつは周囲を見回し、左手を右手の肘に添え、右手を顎の下に置く。
「……ふむ、歓迎ムード……という感じではないようですね」
歓迎だと? 何をふざけた事を。
「当然だろう。招待した覚えのない招かれざる客というのは、いつでも迷惑なものだ」
「事前連絡無しでいきなり訪問してくるのは、レディに対して礼儀がなっていないと思いませんか」
俺と晶は開口一番、礼儀を弁えない敵に対し不満をぶつける。
「それは異なことを仰る。事前にツェツェとシーボルディという者がご挨拶に伺ったと思いますが? こちらの手違いでしたら大変失礼いたしました。お詫び申し上げます」
どこぞの貴族のように左手を後ろに回し、右手を左胸に添えながら深々と礼をする。
「事前の下見にしては随分と乱暴な挨拶で驚いたよ。まあ、あんたは礼儀というものを少しは知っているようだがな」
ロックさんが少し腰を落とし、両肩を脱力していつでも動けるように体制を整えた。
「クックックッ。これはこれはお褒めに預り光栄です。では名乗っておくとしましょうか。私は、WORMS Starkste Truppen、Zweit mieten Rotäugiger Teufel と申します。どうぞ、レッドアイとお呼び下さい。以後お見知りおきを」
「出来れば今日限りの出会いにしてもらえると、私としては有難い感じですね」
「あたしも激しく同意するわ」
「それで? その最強部隊第二席のレッドアイは日本に何をしに来たんだし?」
女性陣がジリジリと間合いを詰めながら会話をする。
「ふむ……私が名乗ったのですから、まずそちらも名乗られては? 礼儀を知らない者と会話を続けるつもりはありませんよ?」
「ああ、確かにそうだな、俺はショウゴ。シーボルディと戦った者だ」
「俺も同じくシーボルディと戦った。ロックっていう」
「そちらのお嬢様方のお名前を頂戴しても?」
美味しそうな食材でも見るかのように、下から上に舐めるような視線を感じる。
「あーしは名乗れるほどの名前なんて持ってないし」
「……あたしは遠慮させてもらうわ。正直、言いたくないってのが本音だけど」」
「私も同じく、あなたに教えるような名前は、持ち合わせていないですね」
特殊な癖を持っている様な、危険な変質者と向き合っている様な。そんな異常にヒリつく場の空気感に嫌な汗が流れる。
緊張感漂う空気の中、レッドアイが鼻で溜息をひとつ零す。
「フン まあいいでしょう。 それで、シーボルディを殺ったのはそちらの男性お二人ということは、ツェツェをあの状態にまで追い込んだのはお嬢様方、ということでよろしかったでしょうか」
ゆっくり拍手でもするかのように両の掌を何度も合わせながら問う。
「ええ、最後まで止めを刺せなかったのは残念だったけど、そういうことになるわね」
「中々見事なもんだったし? 最後の逃げ様なんて特にね!」
「今更ながら、深追いしてでもトドメを刺しておくべきだったと、後悔しています」
一瞬でも注意を逸らすと殺られる。そういうヤバイ「氣」を受けながら会話を続けるのはかなりしんどい。
正直、殴り合いを始めた方が精神的に楽かもしれない。さぁ、どう出る。
「素晴らしいっ! なんと素晴らしいっ! いえ、寧ろ感謝さえしていますよっ!」
レッドアイは突然大きく諸手を上げ、大きな声で叫んだ。
「あの自分が世界で一番美しいと思っている、自分が望むものはなんでも手に入ると思っている、自分が全てを操っていると思っている勘違い女っ! 高慢な態度で人を見下す売女っ! あなた方のおかげであのような惨めな姿になったのですねっ! 手も足も使い物にならなくなり、ただ食事をして排泄するだけの芋虫になったあの姿っ! 最高でした! 震えました! 感動しましたっ! その踏み潰す感覚のなんと甘美な事でしょう! 私にこのような感動を与えて下さったお嬢様方に最大の感謝と敬意をっ!」
諸手を上げたまましばらく余韻に浸っているレッドアイ。
「……ッチ! 気色悪い! お前がどう思っているかなんて聞いてねぇし!」
「この上なく不快な人ですね」
「そんな感謝とか敬意とか、ぶっちゃけ迷惑なんだけど!」
女性陣の言葉を聞いて、上げていた両手を残念そうに下ろす。
「それは非常に悲しいですね。私としては最大の賛辞を申し上げたつもりでしたが、お気に召しませんでしたか?」
それを聞いたロックさんが身震いする。
「ううっ、寒気がする! お気に召す訳がないだろう!?」
「俺も遠慮させてもらう」
否定され、更に残念そうになるレッドアイだが。
「おお! それではこうしましょう!」
いい考えが浮かんだとばかりに掌を打つ。
「私の最大限の感謝。いえ、愛情表現としてあなた方を、最後の血の一滴まで残さず食べて差し上げましょう!」
ここまでの茶番が一気に吹っ飛ぶ程の殺気を放ち、功夫で言う所の蟷螂拳に似た構えを取り、冷徹な人殺しの「氣」を放つ。
捕食者が獲物を狙うその様に森が呼応したのか、それとも実際に周囲の気温が急激に下がったのか、霧が出始めた。
それに紛れ、気配は希薄になっていき、木々に反射するレッドアイの声。
「では、イタダキマス!」
なら俺は、誰も喰われないように、カマキリご自慢の鎌と、その首をねじ切ってやる。
§ WORMS パラポネラ視点 §
跳躍し森の中に着地したパラポネラは酷くイラ立っていた。
「ディノ様との濃密な時間をっ! 貴重な会話の途中で邪魔しやがってぇぇーっ!」
木々をなぎ倒しながら目標に向かって爆走する。
アタシの頭の中は、邪魔なゴミ共を手早く片付けてディノの下に一秒でも早く戻る事で一杯だった。
故に、初手で喰らった超遠距離からの狙撃の存在が頭から抜け落ちていた。
標的に向かい真っすぐ突き進んでいるアタシの身体を、見えない弾丸が掠めて行く。
「ッチ! ウザったいっ!」
なぎ倒した木を二本上空に投げ飛ばし、同時に跳躍して上空から狙撃地点を目視する。
「あそこかっ!」
二本を、その地点目掛けてブン投げる。
さながらロケット弾のような音を纏い、大木が地上めがけてブッ飛んでいく。
§ 作戦本部チーム キラ視点 §
マルチアイモードで暗視が効いている作戦本部チームは、そんな非日常の風景に敵の本気を感じ取る。
「ジュンタくんっ!」
私は飛来する木に向かって飛び上がると同時に声を上げた。
意図を理解したジュンタくんも飛び上がり、飛来する大木を轟音と共に弾き飛ばした。
そして二人の間を割って、セオドラちゃんの追撃が入る。
跳躍から自由落下していく黒い敵を仕留めようと放たれた弾丸。
だが、見えないはずの弾丸を、敵は器用に避けた。
「ボス! 申し訳ありません! 遠距離ではどうしても避けられてしまうようですっ!」
「分かったわ! なら接近戦で片を付けるわよっ!」
「「ラジャー!」」
落下した地点から、また木々をなぎ倒しながらこちらに一直線に向かってくる敵。
「来ますっ!」
森から飛び出て来た敵は、片腕を真っすぐに突き出してセオドラちゃんに襲い掛かる。
声を発したジュンタくんが一瞬早く飛び出した。
敵の突きを左の掌底で逸らし、踏み込んだ右足で大地をしっかり掴み、腰の回転と共に相手の勢いも利用して、鳩尾に強烈な右掌底を叩き込んだ。
「ガハァッ!」
カウンターが決まったかのような音がしたが、敵は身を回転させその威力を逃した。
地面を転がる身体をバク転に変えて跳ね起きる。
「ダメージは入っているはずです! 手応えはありました!」
体勢を整え、殺気が跳ね上がった黒い敵と向き合う。
§ WORMS パラポネラ視点 §
「時間を掛けさせるなっ! 邪魔なんだよお前らぁぁあーっ!」
大股に開いた脚、片膝と片腕を地面に着き、非常に低い姿勢のクラウチングスタートのような恰好を取る。
地面を蹴る音と共にロケットスタートし、凄まじい速度で邪魔な奴らに走り寄る。
「てぇーっ!」
聞こえて来た号令と同時に弾幕が張られ、アタシに襲い掛かってきた。
発砲音もマズルフラッシュも無い、見えない銃弾の嵐は容赦なく着弾し、足を止められた。
アーマーから発せられる、銃弾が弾かれる硬質な音。
「っくっ! 遠距離からチクチクとっ! 悉くウザったいっ!」
バク転で距離を取ったアタシは、両手を前に突き出し拳を握る。
「アタシのぉ、邪魔をするなぁぁーっ!」
絶叫と共に握っていた拳を勢いよく開くと、見えない指弾が飛ぶ。
「んな下らねぇ技ぁ! アタシが出来ないとでも思ったかぁ! 穴だらけになっちまえよ!」
§ 作戦本部チーム キラ視点 §
ベールとタングステンシールドに、見えない弾が当たって弾かれる音が止まない。
敵は何度も握っては開き、握っては開きを繰り返し、こちらと同じ様に弾幕を張る。
「怯むな! 撃ちまくれぇーっ!」
和田さんの号令でこちらの弾幕も負けてはいない。
見えない弾同志がぶつかり合い、激しく音を鳴らしながら空中で弾ける。
大量の細かい空気が水中で泡となるように、両者の間の視界が歪む。
「今よっ!」
私は叫ぶと右へ、ジュンタくんが左、セオドラちゃんが上空へ瞬時に移動。
三方向からの同時攻撃を展開した。
敵はそれに気が付いたのか、弾幕を止め、後ろに下がる。
おそらく1対3の構図を作ろうと、一直線上に誘導するような移動を繰り返す。
私もジュンタくんもその意図に直ぐ気が付き、闇雲に追う事はせず、左右から波状で攻撃を仕掛けた。
セオドラちゃんはその間も狙撃で敵の注意を引きつける。
§ WORMS パラポネラ視点 §
この攻めあぐねる状況がアタシを余計苛立たせる。
ディノ様に「グチャグチャにして来い」と言われ、アタシ自ら「すぐ戻る」と明言したにも関わらず、このザマだ。
自分の力の無さに加え、ディノ様との約束が守れない、逸る心と思考。
早く殲滅して戻らないと!
約束は絶対守らないと!
それが出来ないのはコイツらのせい!
それが出来ない自分のせい!
悪いのはコイツらのせい!!
弱い自分のせい!!
「イ゙キャア゙ア゙アアァァァァァーッ!」
強烈な怒りと焦りが込み上げる。
その内包する力を放出するかのように、アタシの身体から毒々しい紫色とも緑色とも言えない陽炎の様なものが立ち昇る。アタシはそれをオーラの様に纏った。
「アタッ! アタシわぁ~っ! 愛するディノ様のぉ~ッ! オンナぁ~ァッ!! はやッ! 早くぅ~ッ! オマエらぁ~ッ! ミナゴッ、ミナゴロしてモドッ、戻るのぉ~ぉぉあぁぁあぁァァァーッ!」
あたしは更なる強さの高みへと昇る。
ディノ様の隣りに立つ女としてふさわしい強さで。
こいつらをグッチャクチャに壊すの!
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