狂気狂乱の宴
§ BUGS視点 §
私を先頭に秘書と、幹部である蜘蛛の八眼と蜈蚣の百足、そしてその配下20名が33階にある特殊開発ルームに入る。
「久しぶりにここ来ましたけど、研究対象になってるアレは誰なんです? ボス」
「おそらく今この拠点を攻めて来てるのはアマツだ。アレを取り返しに来たんだろう」
顎をクイとベッドで横になり微動だにしない本栖を指す。
「アレは、アマツが絹路を救出する際に一緒に行動していた友人らしい。もっともそれからずっと意識不明の植物人間だがな」
「あー、思い出しました! 蜘蛛が攫ってきた奴ですね」
「ええ、我々が後始末諸々、証拠も迅速に消し去ってきましたよ」
「ならば、どうやってアマツはこの拠点を探し出し、アレがここに居ることを知ったのだ」
「ぐ、ぐヌゥ……それは、申し訳ありません、わかり兼ねます」
「まあ今となってはもうどうでもいい! 最終的にアマツが手に入ればいいのだっ! お前達、アレを交渉材料にしてアマツを我々に引き込め! そして洗脳し駒にしろっ!」
「ボス、ここで暴れてもいいんですかい? 俺ら蜈蚣が本気で暴れたら、このフロアはめちゃめちゃになりますぜ」
「フンッ! 構わんっ! その代り、必ずアマツを入手しろっ!」
「了解した!」
「承りました」
いいぞいいぞ! 私の考えたシナリオ通りになってきた!
機械の後ろに隠れて盗み聞きしていた私は、装備している銃器が機械に当たって音を出さない様に気を付けながら、思い描いた通りの展開になっている事にほくそ笑む。
もう暫くもすれば、アマツはこのフロアに辿り着く事だろう。
そのタイミングを見計らって支部長を殺そう! その前に邪魔な雑魚と幹部らを殺そう!
全員が本栖の方を向いている今が最大のチャンスだ。
機械の後ろから少し顔を出し様子を確認。サイレンの音に乗じて手榴弾のピンを抜く。
一番厄介な蜘蛛と蜈蚣の間を狙って放り投げ、機械の後ろに隠れて目を閉じ、口を開け、耳を塞ぎ、身体を丸める。
――コンッ、コンコンッ、コロコロコロッ……
「「ん? 何だ?」」
足元に何かが転がって来たことに声を発した百足と八眼。
何度も目にしたことがあるその鉄の塊を認識すると、躊躇なく部下を盾にして横に飛び、支部長を突き飛ばして自身らも床に伏せた。
閉ざされた室内で暴威をふるう爆音と爆風。
身体ごと壁に飛ばされる者。下半身や上半身が吹き飛ばされ即死する者。鼓膜、三半規管をやられ立てない者。その場にいた半数が即死し、機器が飛び散った。
本栖が捕えられている部屋の強化ガラスも吹き飛び、一面砕けたガラス塗れになった。
その中で咄嗟に身を守った百足と八眼は、重症まで行かない程度で済んだものの、ダメージは大きそうだ。いいぞ、予定通りだ!
爆発寸前に突き飛ばされた支部長は、そのおかげで爆風の威力を軽減したのか、耳から血を流し、身体を床に打ちつける程度のダメージで済んだようだ。
さあ、三文ショーの開園といこうじゃないか!
「ハーッハッハッハッ! お前らはここで全員お終いだ! 全員死ぬっ! 私が殺すっ! BUGSは私のモノになるぁぁーっ!」
両脇にサブマシンガンを抱え掃射する。
子気味良い連射の音に合わせ、手下どもの身体がよく踊る。
見る間に穴だらけになり血を噴き上げ倒れていく手下たち。ショーで言えば脇役だ。
破損した機器を盾に、低い体勢で凌ぐ百足と八眼は、弾切れのタイミングを狙って反撃にでるが、ダメージが三半規管と足に影響し、思ったように体が動かないようだ。
私の手前でよろけて転倒する。
その隙にマガジンの交換を終わらせ再度トリガーを引くが、床を転がり、器用に銃弾を避けられてしまう。
「くっ! このっ! 諦めてさっさと死ねぇぇーっ!」
焦る気持ちが照準をブレさせ弾が当たらない。
百足は三半規管がいう事をきかないならばと、その場から私に飛び掛かり、体当たりをしてきた。身体を捩って躱そうとしたが服の裾を掴まれた。
「裏切ったのか! このクソ野郎がっ!」
眉間に頭突きが決まり、派手に噴き出した鼻血は百足の剃り上げた頭と顔を真っ赤に染め、馬乗りになった状態で頭をタコ殴りにされた。
ああ、意識が遠ざかっていく。これでは私の計画が……チクショウ。
一体何が起こった!? もうアマツがここまで来たというのか! 幹部統括は何故こんな奇行に走っているのだ! クソ! クソ! 不味いぞ、非常に不味い!
「支部長! 下がっててくだせぇ! ここは俺がなんとかしやすんでっ!」
床に転がったサブマシンガンを拾い上げる百足。
幹部統括の頭を吹き飛ばそうと銃口を向ける。
――ジャリッ! ジャリッ! ジャリッ!
吹き飛んだガラス片を踏んで近づくただならぬ気配に思わず身構える。
吹き飛んだドアがあった入口から、黒狐面を被った忍者と白狐面を被った巫女が現れた。
「な、なんだ、オマエら!? 気味の悪ぃ恰好しやがって! てめぇらが侵入者か!」
「なんと奇妙な……! あなた達が侵入者ですか!」
「き、貴様がアマツかっ! ……フッ、フハハハハッ! そうか、貴様が!」
壁に掴まり立ち上がり、私は私の戦いをアマツに仕掛ける。
「アマツ。後ろのアレを返して欲しくば、我らに従えっ! そして配下になれっ! 欲しいものは何でもくれてやるっ! 見た事も無い程の大金も思いのままに出来るぞ!」
§ アルファチーム アゲハ視点 §
相変わらず自分と組織の利益しか頭にない人だ。
他人の心が分からない可哀そうな人間。
だから今こうなっている事すら、分かることはこの先一生無いだろう。
何がどう転がってもリンがお前たちに傾くことはない。
あるのは「死」それだけだ。
ただそれが、今日だったというだけ。
「……オレはアルを助けに来た。諸々の理由でこの組織は潰す、お前らも殺す。それ以上でも以下でもない。覚悟はいいな」
一歩踏み出すリンを見て支部長は叫ぶ。
「な、何でもだぞ! 欲しいものは何でも手に入るんだぞっ! そ、そうだ! なんならこの私の体でもいいのだっ!」
そう言うと衣服を脱ぎ捨て全裸になる支部長。
「んなっ! ボス! 女だったんですかいっ!」
ああ、やっぱりか。何となく予想はついていた。
発する声の周波数。丸みを帯びた骨格。思考向き。反吐が出そうな匂い。
その腐りきった子宮をこの手で引き摺り出して、自らの口に突っ込んでやりたい。
私の隣りでアーちゃんが歯を食いしばり、拳を握って怒っているのが分かる。
リンも私とアーちゃんの殺気に気が付いたのか、右手を上げそれを制した。
「さあ! 好きにしていい! お前の欲望を私にぶつけてくれ! お前の子ならいくらでも孕んでみせよう! お前の望みは私が全て叶えてあげる!」
両手を広げ一歩リンに近づこうと踏み出してくる。
「……答えるのはオレじゃない」
少しだけ顔を動かし、リンは、私にこの先の答えを委ねた。
清算の機会を与えてくれてありがとう。私は、この怒りを昇華させる。
私は、支部長、百足、八眼、三人の前に立つ。
「今までの人生面白かったかしら? 何でも自分の思い通り、他人の都合はお構いなし。全ては自分と組織の為の駒ですものねぇー」
私は、今だけ黒蝶に戻ろう。
こんな不快な言葉は、みんなの仲間であるアゲハの口から言わせたくなどない。
私は、目の前にいるのが黒蝶なのだと。復讐に来たのだと気付かせたい。
激昂に染まる醜い顔が見たい。
もう後がないのだと、最後なのだと、絶望に染まる顔が見たい。
「な、なんの事だ。私は私に与えられた権限を行使したまで。全ては組織の為」
「話の通じない人ねぇ? 今までの人生、それで面白かったのかと聞いてるの」
「何を意味の分からない事を、当たり前だ」
「……そう? 私にとってアナタの人生なんてそこら辺のゴミクズと一緒よ?」
「なん……だと! 愚弄するか貴様っ!」
「あら、本当の事を言われて怒るなんて、誰かの上に立つ器じゃなくてよ? 怒るなら自分の為じゃなく、誰かの為に怒りなさいな。ほんと、安っぽい、なんの価値もない人間ね」
顔を紅潮させ、今にも掴み掛かって来そうな沸騰具合。
「そうそう、そういう顔が見たかったのよ」
もっと虐めたかったが、八眼が途中で言葉を挟んだ。
「んなっ! 何故だっ! 何故お前っ! 黒っ!! ゴボバァッ!!」
「……余計なお喋りは早死にするわよ?」
余計な事を話される前に、八眼の心臓と顎下から脳天にかけて、高速の手刀で穴を開けた。
私の突きが見えなかったのだろう。何が起こったのか理解できていない支部長。
さっきまでの怒りの表情はどこへやら、今度は少し青くなっている様に見える。
「まだ下らないお喋りを続けたいなら、アナタもこうなるわよ?」
百足に頭を傾け、一切容赦しない事を告げる。
彼は今の手刀捌きを見て、私が誰なのか気が付いたのだろう。無言で何度も頷いた。
「そうそう、沈黙は金って言うじゃない?」
だけど、折角忠告をしてあげたというのに、やっぱりこの人は何も見えていない。
「よ、よし、ならばこうしよう。アマツと一緒にお前もスカウトしてやる。条件は同じで、金ならいくらでもくれてやる。どうだ欲しいものは何でも手に入れられるぞ! どうだ!」
空気が読めない上に、自身で寿命を縮める行動をとるとは。それも命乞い……。
「……お生憎様ね。もう全部持ってるのよ私。欲しいものは自分で手に入れないと気が済まないタチなの。そもそも、他人から与えられたモノに、何の価値があるというの? 自らの手で掴み取ったモノだけがお宝になり得るの。ねえ、知ってた?」
やっと私が誰なのか気が付いたのか、目を大きくし、余計な事を口走る。
「なにっ! 黒っ……! うぐっ!」
頬と顎下に指を突き刺し、それ以上口を開けなくする。頬骨に穴を開けられたというのにまだ気を保っていられたのは褒めてあげる。
でも、さっき私言ったわよね? 余計なお喋りは早死にするって。
「私は、私の未来というお宝を掴み取るために、あなたとBUGS。そしてWORMSを徹底的に潰すわ。塵も残さず消し去ってあげる。生ゴミとなって臭わないだけ感謝しなさい」
顎を掴んだ手に力を籠めていく。徐々に軋む音を立ながら折れだす顎の骨。
流石に耐え切れる痛みじゃない。喉の奥からひねり出すうめき声が甲高くなる。
「さっきも言ったわよね? 余計なお喋りは早死にするって。凄く耳障りで嫌な声。そろそろお喋りはこれでお終いにするわ。じゃあね、さようなら」
掴んでいた下顎を、皮ごとお腹まで引き裂いた。
絶叫と共に流れ落ちる鮮血が、白い肌を深紅に染め上げる。
動かなくなった後は、余計なお喋りをする心配もないようだ。
振り返り、リンの元に戻る。また一つ、肩の荷が軽くなった。
アーちゃんの見てる前で申し訳ないけど。私はリンの胸を借り、しばし目を閉じた。
鼓動が私を落ち着かせ、黒蝶からアゲハへと戻してくれる。
「リン……大丈夫、落ち着いた。それと、ありがとう。大好き」
少し背伸びをして、リンの唇にキスをした。
アーちゃんは驚いた表情で、恥ずかしそうに何故か袖で顔を隠してた。
「さっ、アル君を助けましょ!」
「ああ! そうだな!」
リンは呆然と突っ立ったままの百足を一瞬で潰し肉塊にした。
「ひぃっ!」
部屋の端、壁際に隠れていたスーツにメガネの女が小さく悲鳴を上げた。
支部長の後をいつもついて歩いてた秘書だ。
「まだネズミが居たか」
リンが言うよりも早く、アーちゃんがその女を掴み、壁に叩きつけ拘束する。
壁に衝突痕が残る程に叩きつけられた秘書は激しく血を吐き出し、そのまま泡を吹いて気絶してしまった。
「チッ!」
軽く舌打ちして地面に放り投げるアーちゃん。
収まり切れない激情を思いっきりぶつけるように、壁を殴りつけた。
――ズッガァーン!
相当分厚いだろう壁がクレーター状に数メートル凹む。
「さ、リン先輩! お兄ちゃん! アゲハちゃん! そんなゴミは捨てて、早くアルさんを連れて外に出ましょう!」
「お、おう。そうだな!」
あれ? なんかアーちゃん怒ってる? というよりキレ気味?
「アーちゃん? なんかものすごく怒ってたりするし?」
「……何の事でしょうか? 大丈夫です、私は怒ってたりしませんよ」
口元は笑っているがお面の下の目が笑ってない……よね?
あちゃー! やっちゃったかなー?
アーちゃん、リンの事好きだったのかー! てっきりタっくんだとばかり。
ごめんねアーちゃん! こういうのは早いもん勝ちだしーっ!
「さ、さぁ、アル君助けて、こんな陰気臭いとこさっさと潰しちゃおー!」
「それさっき私が言いました」
「「おっ、おーっ!」」
やっぱ怒ってんじゃん!
奥のベッドに眠るアル君を、ショウゴ先輩が抱きかかえる。
「遅くなってすまなかった。……さぁ、帰ろう! アル!」
リンの号令で気持ちが切り替わる。まだここは戦場だ。
≪こちらアルファ。無事アルを確保! これより地上に戻る!≫
§ BUGS 幹部統括視点 §
頭を殴られたまでは覚えている。どうやらしばらく意識を失っていたようだ。
気が付き腫れた目を薄っすらと開けたら、蜘蛛は既に死んでおり、支部長が巫女服の女に掴まれ、拷問を受けているのが見えた。
蜈蚣の奴は突っ立ったままピクリとも動こうとしない。いや、動けないようだ。
私は息を潜め死んでいるフリをした。今は生きている事を気取られたらまずい。
支部長は無残に殺され、蜈蚣に至っては一瞬で肉団子だ。
もう一人、誰か隠れていたようだが見つかってやられてようだ。
しばらくするとアマツらは本栖を抱え部屋を出て行った。
私はまだ五体満足で生きている、なんて運がいいのだ!
しかも支部長が女だったとは、今まで全く気が付かなかった。
顔と頭は非常に痛いが四肢に問題はない、ちゃんと動くし大した痛みもない。
さて、これから私はどうしたらよいか。床に転がったまま少し考える。
「そうだな……まずは」
本栖が寝ていたベッドのガラス破片を払い、床に転がっている支部長をベッドに運ぶ。
上半身がとんでもない状態になっているが、どうせ死んでいるのだ、痛みなど分かりはしないだろう。
転がっていた秘書を同じくベッドまで運び、ワイシャツをボタンごとひん剥く。
スカートをたくし上げ、下着を露わにした。
私もまだ30代半ば。そっちの力も有り余っているし欲もある。
「支部長への恨みを晴らすのが先か、それとも若い秘書を堪能するのが先か」
そんなことを一人呟きながら服と下着を脱ぎ、秘書の足を持ち上げ下着をずり下ろす。
どうやら失禁していたようで、まだ温かい湯気がホンワカと立ちのぼり、少し甘めのアンモニア臭が漂ってくる。
それに興奮した私は、いきり立ったモノを秘書に押し当て無理やりねじ込んだ。
「んっ、あぁぁ……っ」
本能のままに動くと全身に満ちて来るこの征服感、支配感に思わず声が漏れた。
「次は支部長、お前だよ……フヒッ! フヒヒヒヒッ!」
もうここには誰も来ないだろう。時間もたっぷりある。私のモノをねじ込む場所は上も下もある。少しはゆっくり楽しもうじゃないか。
「アマツをどうにかするのは、その後だ……フヒヒヒッ!」
未だ鳴り響くサイレンと、肌と肌がぶつかり合う音、粘着質な液体と空気が混じり合う音。
地下33階。血だまりの中に転がる多数の死体が、行われている狂気狂乱の宴を、人形のようにただ見つめていた。
ご覧いただき、ありがとうございます。
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