激突
≪こちら作戦本部。アルファチームがアル君を発見。これから33階まで一気に降りるわ。ベータチームはそのまま各階の制圧をお願い≫
≪ベータ了解した!≫
「アルファチームが救助対象を発見しました。これから33階まで降ります。ベータチームはこのまま制圧を継続しつつ下層に降ります。最終的に彼らが地上に戻ってきたらP‐SACOの皆さんの出番になりますので、その際はよろしくお願いします!」
「ええ! もちろんです!」
§ ベータチーム視点 §
現在時刻は22時半。拠点内部は想定していた以上に広く、そして深い。
「この研究室みたいな階はリンたちが終わらした後みたいだな」
「そうね! 次は11階だっけ?」
「そうにゃっ!」
「エレベータは壊れて使いモンになりませんわ! 階段で行きますわよっ!」
「敵に遠慮は一切なしっすよ!」
「よし、一気に雪崩れ込んでアルファチームに追い付くぞ!」
「任せろだぞっ!」
「完全なる殲滅なの!」
§ BUGS視点 §
地下15階、セキュリティ監視室。
「おい、そういえば今日研究員の奴らが帰ってるの、誰も見てなくないか?」
「んー? あ、確かに駐車場にまだ車あるな、なんか特別案件でも入ってんじゃねーか?」
「そんな通達は来てませんけどねぇ、先輩達も何も聞いてないんですか」
「自分も聞いてないねぇ」
「俺も何も聞いてねーけど、何事もなく給料貰えりゃそれが一番かなぁー」
「まぁそうだけど、何か引っかかるんだよな、研究Cルームに誰かいるはずだから、お前連絡して聞いておいて」
「あ、じゃあ僕が電話して聞いておきます」
ここ、セキュリティ監視室では常に5名の警備係が常駐し、拠点の周囲および建物内部の監視を行っている。
10階にある研究フロアのCルームに内線をかける。
――プルルップルルッ! プルルップルルッ! プルルップルルッ!
「あれ? 出ませんね、誰もいないんですかね」
「んな訳ねーだろ? どれカメラは……っと 数人いるぞ?」
「もっかい掛けてみますね」
――プルルップルルッ! プルルップルルッ! プルルップルルッ!
「コールしてるんですけど、やっぱり誰も出ませんよ?」
「はぁ? 何言ってんだ、人いるぞ?」
「ん、この電話、ランプついてねーな。故障か?」
「あー、んじゃ僕行って直してきますよ」
「ういー、よろしく頼んだー」
10階へ行こうとエレベーターに向かうと、階段から何かが猛烈な速度でこっちに向かって走ってくる。
「誰だっ! 止まれっ!」
この拠点に侵入者だと!? 有り得ないだろ! 絶対に普通じゃない何かが起こってる!
悩む事無く腰の銃を引き抜き発砲した。
フロア中に響く銃声で耳が使い物にならなくなる。
しかし、それでも怯む様子なく真っすぐこっちに向かって走ってくる。
迎え撃つが、如何せんその速度が尋常じゃない。
なぜ銃弾が避けられる。なぜ弾かれる! 何だこの生き物は! 人間じゃないのか!?
「うあぁぁっ! 来るな来るな来るなぁっ!」
銃声を聞いた警備の先輩たちが叫びながら廊下に出て来た。
「何だ! 何が起きたっ!」
「侵入者! 警報を鳴らっ……うぎゃーっ!」
訳が分からないまま黒い奴に吹き飛ばされ、廊下を転げた。
黒い奴の後ろを走ってきた白い奴らが僕を飛び越え、監視室に飛び込んで行く。
それと同時に館内警報が鳴り響いた。
僕も起き上がって応戦を! と思ったが起き上がることが出来ない。
何でだ? 足元を見ると僕の足は膝から下が無い。
それを最後に、視界は端から真っ暗になっていき、僕の意識は刈り取られた。
「侵入者! 警報を!」
銃声と後輩の声に反応し、俺は迷いなく非常警報ボタンを押して警報を鳴らした。
ここはBUGSの地下15階だぞ!? 侵入者だと? 有り得ないだろ!
腰の銃に手をかけ振り向きざまに発砲! ……と思ったが、目の前には白い狐の面を被った巫女の恰好をした女が俺の両手を掴み捻り上げていた。
「うがぁぁっ!」
「殺されないだけましだと思ってね?」
小枝でも折るかの如く、両手首を簡単にへし折られた。地面に膝を着いたところで顎を蹴り上げられ砕かれた。激しい痛みと共に全身に痺れが回る。
館内にはけたたましいサイレン。照明の輝度が落ち、暗くなった廊下と室内に赤色灯の光が非常事態を告げていた。俺の記憶はそこまでだ。
§ ベータチーム視点 §
≪こちらベータ! 15階、警備室っぽい所を制圧! 中継器つけるわね!≫
≪了解よ! さっちゃん、多分もっと下の階にコンピュータのサーバールームがあると思うの! そこを見つけたら一気に中継器をバラ撒いて!≫
≪OK分かったー!≫
§ BUGS視点 §
地下20階にあるトレーニングルームで合同の戦闘訓練を行っていた蜘蛛と蜈蚣の部隊総勢400名は、突如照明が暗くなりサイレンと共に回る赤色灯に動きが止まる。
「なんだぁ? おいっ! 何が起こった!」
「知らねっスよ! オレっちも今一緒に居たでしょうが!」
「ムカデの! これはただ事ではない緊急事態だ! 間違いありません!」
「チッ、マジかよっ! オイお前! 100人連れて上に行け! 侵入者なら片してこい!」
「我々クモも出ますよ! そこのアナタ、同じく100人連れて上に向かって下さい」
「オレに10人付いてこい! ボスを守りに行くぞ!」
「クモも同じく10人来なさい、残りはこのフロアを死守しなさい!」
「「よし、行けっ!」」
地下30階、支部長室。
照明が輝度を落とし薄暗くなり、館内にサイレンが鳴り響く。
「何事だっ! 誰かいるか!」
「はいっ! ここにっ!」
丁度、支部長室付きの秘書が戻ってきた所だった。
「急ぎ現状を把握し報告するように! それと幹部統括を見つけたら私の所まで来るように伝えてくれ」
「了解しました!」
秘書は自分のデスクからセキュリティ監視室へ電話をする。
「え? あれっ? 支部長! 監視室に繋がりません、回線が切断されているようです!」
「何っ! 15階がダメだって事は何者かが……まさか、アマツか! 何故ここがバレた!」
「わ、分かりませんが支部長! もっと下に降りましょう! 一時避難を」
「仕方がない。よし40階格納庫に行って武装の用意だ!」
「はいっ!」
地下40階。幹部統括。
先日、私が誘導した通りWORMS最強部隊が動き、アマツと事を起こした。
所詮、狂人の集まり。何故そうなったのか考える頭など持ち合わせていないだろう。
アマツには、このままBUGSにある程度の被害を与えてもらい、支部長を引きずり降ろす三文芝居に付き合ってもらうとしよう。そして、幹部統括の私が次代のトップ。いや、時代のトップとなる為の駒になってもらおうじゃないか。
「ふふっ、ふはははははっ!」
数多くの戦車から戦闘機、それに開発中のプロトタイプ人型強化アーマードまで、この格納庫には現代の武力が揃っている。
「もう少しの辛抱で、これらは全部私のモノだっ!」
両手を大きく広げ声高らかに叫び、支配者然とした気分に浸る。
「最高だ、最高の気分だ」
自分の声が格納庫内で木霊するのを目を閉じながら聞いていると、突然サイレンが鳴る。
「なんだ、何が起きた」
こんな事は過去一度だって起きたことがない。
このサイレンは侵入者警報だ。だがこの基地はそう簡単に発見出来るものではない。
もし偶然に発見されたとしても、おいそれと侵入出来るはずもない。
だとしたら何だ、何が入り込んだ? 何が起きた?
「……そうだ、アマツだ。 奴が本栖を取り戻しに来た。それしか考えられん!」
こうなったらアマツを捕え、強制的に洗脳を施すしかない。
蜈蚣を使って確保し、蝙蝠と蜘蛛で洗脳! 今すぐ命令を出して動かねば!
そうだ、もしも私自身がアマツに遭遇してしまった場合の保険が必要だ。
急いで武器庫へ走り装備を漁る。
サブマシンガン2丁と予備マガジン。手榴弾2つとスタングレネード1つ。
よし、このぐらい装備すれば、いくらアマツといえど、ひとたまりも無いだろう。
エレベータで27階の自室に行こうとしたが動く気配がない。
「チッ、非常時にエレベーターを止めるんじゃない! 馬鹿なのか!」
誰も居ないここで文句を言っても仕方ない。階段を上る事にした。
銃とマガジンが非常に重い。明日はきっと筋肉痛だな。
§ ベータチーム ロック視点 §
≪こちらアルファ。現在25階! 10階以降そのまま階段で33階に直行している! ベータチーム、申し訳ないがそのまま各階を制圧しながら最下層まで頼む≫
≪こちらベータ、了解した! 次17階、このまま進む!≫
リンたちアルファチームは本栖君の確保に向かった。確保後は一旦地上に戻るだろう。
俺たちはただひたすらにこの拠点を潰していくだけだから、考える事が少なくて助かる。
「ロック!! 下から大勢上がってくる音が聞こえてくるんだっちゃ!」
「よし! 次の階に誘導して大掃除するぞ!」
女性陣は17階に飛び込み、ロックは下から上がって来る大勢を釣る囮になる為、階段の踊り場で待ち受けた。
相当な人数が上がって来ている事が、ここまで響く足音で分かる。
さあ、そろそろ視界に入る頃合いだ。気合を入れろよーっ俺!
ちょっと、警察時代には出来なかった事をしてみたくなった。煽りってやつだ。
「ほらほらっ! ここだここっ! 捕まえられるもんなら捕まえてみろ! 人生失敗の落伍者共が! ここまでクセェのが漂ってんだよ! ああクセェクセェ!」
「いたぞっ! あそこだぁ! 捕まえてブチ殺したらぁ!」
「テメェ今なんつったーっ! 見た目大して変わんねぇだろうが!」
蟲の如く我先にと向かってくる姿に笑いを堪えながら、クイクイッと手で「来いよ」と挑発してみた。
「かぁーっ! 気持ちいいなコレーっ! 最高の気分だ!」
よしよし、上手く誘い込まれてくれよー?
散々煽り文句を言い放ったのが効いたのか、一気に怒号と罵声がヒートアップし、無策に雪崩れ込んできた敵。
17階は18階との吹き抜けフロアになっており、人工の滝から流れる川がうねってフロアを流れている。
周囲の壁は植物に覆われ、あちこちに椅子やテーブルが置かれている。
「何これっ!? 植物園っ!?」
「休憩フロアっぽいんだぞ?」
「こんな事言ったらいけませんけど、意外とオシャレですわね……。ホワイト企業?」
「資金の出所はブラックなの」
「悪事を働いて稼いだお金って事っすね」
「こんな所で休憩したら呪われそうだっちゃにゃー」
「流れる川も血の川に見えてきたの」
階段から「ウオーッ!」と叫びながら中に雪崩込んできた敵の集団。
18階と17階の入り口から敵が溢れ出して来る。
「なんだアイツらっ! 狐の面被ってんぞ!」
「構わねぇっ! 撃てっ! やっちまえ!」
どんどん沸いて来る蟲共が、なりふり構わず銃を取り出し撃ち始める。
かなり広い空間であるにも関わらず、無秩序に飛び交う銃声と銃弾が、大量の爆竹でも鳴らしたかのように反響し合う。緑ある空間で沢山の人間が蠢く様はまさに蟲だ。
「き、気持ち悪いんだけどーっ!?」
「うひゃぁーっ! 蟲嫌いにゃぁああーっ!」
飛んでくる銃弾はベールに弾かれ一切のダメージも怖さもない。
寧ろ、これだけの弾幕を浴びて何故死なない? と首を傾げている奴や、これはヤバイと悟ったのかジリジリと後退し始めている奴も見える。
「よーし、俺の出番だな! 逃がすワケねぇーだろう蟲共がっ! 面白くなってきたぁ!」
俺が数歩前に出ると蟲共は数歩後ずさりした。両手を突き出し銃器を顕現する。
M134ミニガン。7.62ミリ口径のガトリングガンだ。
6本の銃身から毎分6000発。弾丸の雨を浴びせることが可能だ。
ただ普通と違うのは、これは能力で顕現させた銃だって事。
弾は無限。ヒートアップなし。発砲音なし。マズルフラッシュなしと言うチートである。
何が起きたのか理解する間もなく掃射され、ハチの巣どころじゃない始末。
「まぁー、そうなるっすよねー」
「これは……流石に同情してしまいますわね」
「知ってるにゃ? 人間て機銃掃射されると破裂するんだっちゃ」
「ホントに血の川になったの」
発砲音があればまだマシだったかもしれないが「パシュンッ!」とか「ボヒュンッ!」とか、人間の破裂していく音が連続する。そして「ビチャッ!」とか「バシャッ!」とか、色々な内容物がぶちまけられる音と野太い悲鳴しか聞こえてこない。
「……想像を絶するわね。あたしもしばらくトマトスープとカレーは絶対無理っ!」
「やっぱりそうなるっちゃにゃー……」
正味10秒もかからずに200人相当を一掃した。
「ふぅっ、完了ーっ!」
最高だな! と口走るのは止めておいた。流石に危ない人扱いされてしまう。
「マスターよりロックのがヤバかったなの」
「まぁな! もう迷わないって、リンや嬢ちゃんたちを守るって決めたからな!」
≪こちらベータチーム、17、18階クリア! 19階へ進む!≫
§ 作戦本部チーム P‐SACO和田視点 §
「こ、これはっ! なんという……!」
赤倉スキー場頂上にてジュンタの創造で作り出したモニターで戦況を確認する和田。
「いくら相手が犯罪組織だからといって……人間である事に変わりはない。それをこんな風に殺す事が許されると言うのか……?」
普通に生きていれば知りえないだろう戦場の壮絶さと惨さ、無慈悲さにショックが隠せず言葉が漏れる。
「そこまでやらなければ、ああなるのは私たちの方です」
煌社長は堂々とした態度でモニターを見つめながら、私にそう返した。
「だがっ! ……くっ!」
反論しようとしたが言葉に詰まり、その先が出てこない。
モニターを見つめたまま煌社長は問う。
「例えば、今の奴らがこの先の未来で、和田さんの家族をめちゃくちゃにして殺したとしても?」
「例えば、あなた自身があの場所で、今と同じ状況に立たされていたのだとしたら?」
「例えば、彼がやらなければ、まだ若い彼女たちが必要に迫られ、同じ様に奴らを皆殺さなければいけなくなったら?」
「例えば、何もしなければ殺される。そんな状況でも、悪に正論を述べて聞き入れられるまで説得を続ける?」
「例えば、問答無用で攻撃され、無数の銃弾があなたを襲ってきたら?」
煌社長は私の方に向き直り、表情を変えずに告げる。
「あなたはそれでも、同じことが言えますか?」
言葉に詰まりながらも、なんとか返事を探す。
「それが……許されるので、あれば……」
鼻で溜息をつき、内包している怒りを少し表面に現したように腕を組む煌社長。
「許す・許されない。出来る・出来ない。ではないんです! やるんです! どんなに汚かろうが! どんなに非難されようが! どんなに悲惨で残酷で無慈悲であろうがやるんです! 何故なら、それがヒーローだから! それが誰かを守るという事なんですよ!」
雷に打たれたような気がした。その言葉に衝撃を受けた。
「なに子供みたいな事を言っているんですか! 甘っちょろい幻想と気持ちでここに居るなら今すぐその装備を脱いで家に帰りなさいっ!」
そしてまたモニターに向き直る。
「見なさい。今、戦場の真っ只中に居る彼女らの方があなたよりよっぽど覚悟が出来ているわ。 ベータチームの女の子たちは全員高校生。リンくんの後ろを走っている彼女なんてまだ14歳、中学生よ!」
19階に降りたベータチームが敵を無力化し、制圧していく様がスクリーンに映る。
「じゅ、14!? わ、私は……、まだ、覚悟が足りなかったようだ。死ぬ覚悟はいつでも出来ていた。だが、人の命を奪う覚悟が足りていなかった!」
「そうですね。ですが、それがダメとは言いません。その感覚が普通なんです。人の命を奪う事の怖さと意味、超えてはいけない一線があるという倫理と常識。判りますよ、怖いですよね? 震えますよね?」
P‐SACOのメンバーはもちろん、みんな煌社長の言葉に聞き入る。
「でもね、私達の強さと言うのは、そこを超えた所にあるんです。大事な事、本質はとてもシンプルです。助けたい、守りたい。ただ、その想いがそこにあるだけなんです。結果、運が良ければ生きてるし、運が悪ければ命を落とす。ただそれだけの事なんです」
また私に向き直り、そして問いかける。
「あなたは、どうしたいですか?」
何十年も生きてきて、自分はこんなシンプルな事すら分からなくなっていたのかと、悔しさがこみ上げる。
「私は……いや、私達は! 強くありたい! 守りたいものを守れる強さが欲しい!」
年甲斐もなく心の中にある自分の本心を大声で叫んだ。気が付くと涙が流れていた。
「なら、想いを強く持ちなさい! 心を熱く燃やしなさい! 自身の限界を超えなさい!」
煌所長が語気を更に強めてそう説き、最後にもう一言呟いた。
「そして……、生き残りなさい」
そしてまたモニターに向き直る。
「私からは以上よ」
私の頬を伝い地面に滴り落ちる涙。
「ありがとう……ありがとう、ございます……!」
気付かせてくれたという感謝なのか、自身の決意の表れなのかは分からないが、私の心に一つ、火が灯った。
ご覧いただき、ありがとうございます。
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