出陣前
次の日は朝早くにチェックアウトし、オレは家に、アゲハは学校へ向かった。
自宅の周囲に人が集まっていないことを確認してから帰宅。
ここ最近、本当に目まぐるしい。正直、精神的にかなりしんどい。
頭を空っぽにして風呂に入っていると、また家の周りが騒がしくなってきた。
学校組のみんなには、かなり無茶な要求をしている事は分っている。
作戦が成功して落ち着きが戻ったら、ちゃんとお礼をしようと思う。
そんなことを考えながら、今夜に向けて仮眠を取った。
目が覚めると13時。外はまだ騒がしさが続いているが、構っている暇はない。
昨日、コネを繋いだ和田さんに連絡を取り、もし可能ならばと少しお願いをしておいた事がある。ただ、了承する代わりに逆にお願いをされた事もあり、その件で15時に新庄駅である人と落ち合う事になっていた。
出待ちに見つからないように、死角の窓から外へ出て、高速移動で家から離れる。
オレだという事がバレると面倒なので、帽子にマスクをして普通に歩いて駅に向かった。
駅構内には「花と緑の交流広場」という、テーブルと椅子が沢山置いてあるホールがある。
テーブルに飲み物を二つ置き、一人で座っている人を見つけ、オレはその対面に座った。
「……今日の晩飯は」
「……とりもつラーメン大盛で」
和田さんにお願いをした際に頼まれた件で、適任者を一人、早急に行かせるので会って欲しいと言われた。その際の合言葉が今のやりとってわけだ。
「初めまして、天狗です。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします『甘楽 琢磨』です。現在、和田の方も大急ぎで準備をしているところですよ」
「急なお願いに応えて頂いて、本当に助かります。それで、そちらのお願いの件なんですが」
「はい、モノはこれになります」
甘楽さんは、指輪を入れるような小さな箱を取り出し、オレの前におもむろに差し出すとパカっと開けた。
中に入っていたのは、耳掛け式イヤホンならぬ「耳掛け式超小型カメラ」だ。
指で摘まむと本当に指輪サイズだ。
周囲のおばちゃんたちが、猛烈に変な視線で凝視してくる。酷い勘違いである。
「これ、かなり凄いですね! ワイヤレスで繋がるんですか?」
「衛星通信を介して、映像と音声データを我々のサーバで受ける感じです」
「なるほど。んで、今夜これを装着して拠点を潰しに入りますけど、耳に装着してるだけで大丈夫ですか? あと、オレ以外のメンバーは身元がバレない様に配慮して下さい。顔と身体はモザイク、声はチェンジャーで」
「もちろんです。和田からも最重要部分と言われていますし。何より、今後の活動に支障をきたしては意味がありませんから」
オレは、和田さんに今夜拠点を掃討する際に起こるであろう何かしらの周囲のトラブル対応と、掃討後の始末をする為、絶対に組織の手先ではないと、和田さんが判断した精鋭を30名送って欲しい事。それと犯罪者共の確保・留置をお願いした。
逆にオレにはボディカムを装着して、今回の掃討を撮影させてくれとお願いされる。
撮影した映像の使用用途は今後考えるとして、まずは貴重な資料として入手したい考えだ。
一応キラさんのOKは貰っている。
「では、作戦開始は22時です」
「把握しています、絶対に成功させましょう!」
硬く握手を交わして別れた。
◇◇◇
夜20時を回り、各自準備を行いながら連絡を行う。
≪まずは、捜索範囲を一斉にドローンで調べます。その後突入する事になりますが、流石に暗くて見えない上に、どこにカメラやセンサーがあるか分かりません。ですので皆のCTLにアップデートを行いました。暗視可能なナイトアイモード、熱エネルギーを可視化するサーマルアイモード、赤外線を感知するインフラレッドアイモード、全部重ねて表示できるマルチアイモード。この4種類を意識で切替できるようにしてあります。ただ、照明やフラッシュなどで視界を妨げられる場合も考えられるため、その場合は瞬時に通常視界に戻りND、減光フィルターで視界の保護を行うので心配ありません≫
≪タっくん、更に人間離れしてきたしー。ってか天才過ぎんか!≫
≪もう何が来ても負けないなの!≫
≪基本的にマルチアイモードで大丈夫と思いますが、適宜上手く切り替えて使って下さい≫
≪ああ、そうだ。もし、カメラ等発見したら破壊せずにそのままにしておいてくれ。なるべく悟られたくないからな≫
≪≪了解!≫≫
≪それと、中に入ったら戦闘は避ける事が出来ない。なのでジュンタには、もう一つお願いして作ってもらった機能がある≫
≪はい。先日のシーボルディとツェツェからヒントを得て、戦闘用スーツを作りました≫
≪なっ! 戦闘用スーツだと! オッサンの俺が着ても大丈夫なのか?≫
≪体形関係なくジャストフィットするようになってるんで、心配しなくても大丈夫ですよ≫
≪はいっ! ジュンタさん質問です!≫
≪はい、晶さんどうぞ!≫
≪ジャストフィットと言いましたが、そのスーツを着ると、私とアゲハちゃん、さちこ先輩、香さん、セオドラさんとのボディラインに、差は出るのでしょうか!≫
≪なっ! 晶それは! 流石にちょっと……答え……辛いんじゃないか≫
≪お兄ちゃんは黙ってて!≫
≪ま、まぁ、晶ちゃん。それはほら、成長すれば、ねっ!≫
≪晶、大丈夫! ボクもいるの!≫
≪ここあもいるんだぞ! 寧ろ、それがいいという層も一定数いる!≫
≪アーちゃんはそのままが一番カワイイのにー! ね、リン!≫
≪んおっ!? お、おおうっ! オレもそう思うぞ! な、ショウゴ!≫
≪も、もちろんだ! ウチの妹は最高にカワイイ! だろ、ジュンタ!≫
≪はい! 僕も、晶さんはそのままで充分魅力的だと思います≫
≪んむーっ! 何の慰めにもなってないじゃないですかっ! やり直しを要求しますっ!≫
≪晶は充分カワイイにゃっ!≫
≪わ、わかりましたー! わ・か・り・ま・し・たっ! 今日の所は勘弁してあげます!≫
≪はいっ、では、えーっと、スーツへの換装方法ですが、基本的にはアルテミスの衣装換装と同じロジックを使っていますので、変身ポーズと掛け声が必要になります≫
≪んなっ! 何気に羞恥プレイじゃないか? 少しはオッサンの身になってだな……≫
≪私、岩上さんの変身シーン見てみたいです!≫
≪だそうよ? セオドラちゃんのお願いなら観念するしかないんじゃない?≫
≪うぐっ、仕方ない。無心でやらせていただきます≫
≪変身ポーズは集合した際に教えますね≫
≪ちなみにそのスーツのデザインは誰っす?≫
≪私がデザインしたんだけど、気に入らなかったら言ってね。考え直すから≫
≪え! アルテミスの衣装もキラ社長でしたよね! あれ、メッチャ自分らぽくって気に入ってるんで期待大っすよ!≫
≪変身するのが楽しみになってきましたわ!≫
≪ちなみに動きやすさのみ追求したので、スーツ素材のネオプレーン同等以上の防御力は殆どありません。基本的に晶さんのベールが付与されていれば大丈夫なんで≫
≪≪確かに!≫≫
これから激しい戦闘を行うと言うのに、何ともホンワカした会議になってしまった。
だが、これがきっとウチの強さってことなんだろう。
≪よし、じゃあみんな! 21時半、赤倉スキー場の頂上に集合。ブリーフィングを行った後、捜索範囲にドローンを飛ばす。皆よろしく頼む!≫
≪≪了解!≫≫
準備は整った。
さあ、始めようか。
今度はオレらが「奪う側」だ!
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