同時強襲
§ ショウゴ視点 §
「岩上さん、今日はお疲れさまでした。身体強化もかなりいい線まで行けましたね」
「おっ、そうか! そう言われると嬉しいねぇ。俺も30手前だけどまだまだこれからってとこ見せて、若い奴の手本にならんといかんからな。それと、そろそろロックって呼んでくれてもいいんだぞ」
「了解です。じゃあ、ロックさん。天南の未来視は今まで外れた事がないんです。なので、近い内に必ず何かしらの出来事が起こるはずです。十分注意してください」
「ああ、勿論だ。こう見えて、伊達に警察官を何年もやって……っ!!」
――ズダーンッ!!
突然目の前に人が現れ、避ける暇もなく撥ねてしまった。
激しい衝突音と衝撃に、車は宙を舞い回転し、地面に叩きつけられ派手に転がる。
周囲からは悲鳴や事故だと叫ぶ声が聞こえる。
人を跳ねた? なら、何故こっちが弾き飛ばされた!?
電柱か? 違う! 俺はずっと前を見ていた!
それは突然現れた、夕陽をバックにした黒い影。
どこから!? 上かっ!
「ロックさん! 敵だっ!!」
逆さまになった車のドアを蹴破り、こちらに向かって悠々と歩いてくる黒い影に対峙する。
ロックさんも大破した車から脱出し、俺の隣に並ぶ。
ランニングで通りかかった人が、懐中電灯でその黒い影の人物を照らし出した。
全身を真っ黒のボディースーツで包み、その上にアーマーらしきものを装着し、頭には蜻蛉を連想させるフルヘルメットを被っていた。
「ショウゴ! 俺はあの見た目に妙に見覚えがあるんだが!」
「偶然ですね! 俺もです!」
集まった野次馬が騒ぎ出す。
「なんかの撮影か? コスプレ?」
「うっわ! リアル仮面〇イダーだ!」
あろう事か、スマホを取り出し動画を撮り始めている。
「危険だ! みんな逃げろ! 今すぐっ!」
俺は必死に声を上げた。
「うっわ、演技必死かよ!」
「これ、すげぇいい動画撮れてる!」
駄目だ。危機感の薄い日本じゃ、いくら叫んだ所で届かない。
なら俺とロックさんの二人で、コイツを何とかするしかない!
「お前は誰だ! なんで俺達を狙った!」
「……ウワサで、ツヨイいやつ、いる、キいた。だからサキに、キタ。オマエ、ツヨいダろ。チカラ、かんじる。オマエ、アマツ、か? それとも、アマツの、ナカマ、か?」
「……違うと言ったら?」
対峙する敵の強さを感じ取り、心臓が早打ち、額に冷や汗が筋を作る。
隣のロックさんが、ジリジリと間合いを取るのが分かる。
「チガッテも、オマエラ、かなりツヨイ、ダロ? オレト、タタカエ」
「ひとつ聞く。お前は誰だ? 俺は、お前が何者か知らない。故に、知っておく必要があるとは思わないか?」
俺達は戦って勝てなくとも、リンに、皆に、情報を繋げなければいけない。
「タシカニ。ならば、キョウシャ、のオレから、ナノり、を、アゲヨウ」
「意外と、武人じゃないか」
相手の反応を見る為、少しでも情報を引き出す為に名乗りを促す。
「オレハ、WORMS Starkste Truppen Viert『Starker Kiefer Sieboldii』ダ」
「……悪い、もう一回言ってもらってもいいか? ヒアリングは苦手なんだ」
「……Sieboldiiダ。イマから、オマエたちをコロス、もののナマエダ」
「……そうか。俺は御先 小吾。ショウゴでいいぞ」
「岩上 拳だ。ロックって呼んでくれてもいいんだぜ?」
「オボエられそうに、ナイ。ひつようも、ナイ。イキルかシぬか、さあ、タタカオウ」
シーボルディは腰を落とし、左手を前に、右手を腰脇に前傾姿勢を取る。
「ロックさん、来ます! 慎重に!」
「了解だ!」
地面を強く踏み込んだ敵は、一気に距離を詰め襲い掛かってきた。
斜め後ろにロックさん、少し離れてはいるが野次馬が背後にいる。避ける事はしない。
シーボルディは両手を後ろに引き、さも大顎で獲物を咬み捕らえるように、一気に横薙ぎで両手を前に突き出す。
俺は、激しい衝撃を伴った攻撃を受け止め、カウンターで敵の右腕肘関節、アーマーとアーマーの隙を目掛け、思いっ切り拳を突き上げた。
とても硬質な骨でも外れたかのような、甲高い音がした。
「グッ! ガアァーッ!」
シーボルディの肘関節が逆に折れ曲がり、悲鳴を上げる。
だが、即座に引き抜いた腕をそのまま地面に叩きつけ、関節を元の位置に戻された。
「チッ! 見たまんまの化け物じゃねぇかよ!」
挑発しながらロックさんが斜め後ろから飛び出し、低い位置から強烈な右ボディを入れる。
頭が振れたシーボルディの顎に、そのまま左アッパーをお見舞いするも、若干カスリ気味で躱されてしまう。
敵はバク転で距離を取り、蜻蛉を連想させる仮面の頭を振りながら態勢を整えた。
一瞬のアクションだったが、野次馬の声がそれに歓声を上げる。
「ウルサイッ!」
仮面の口の部分がパカっと外れ、野次馬らに向かって「キィーッ!」という高周波のような声を発した。
モロに受けた野次馬らは地面に倒れ、悲鳴を上げて逃げ惑う人でごった返した。
「エキストラの演出も凝ってんなー」
まだ現実と捉えていない者も少数ながらいる。
「オマエラ、いい! タノシめル! さあ、ツヅキを!」
また腰を落とし、今度は両手を下にダランと下げ、前傾姿勢を取る敵。
「突進に合わせて弾幕を張る」
「了解です!」
距離を取るロックさんと、間合いを保つ俺。お互い動くタイミングを見計らう。
突然、入ってくる一斉テレパシー。
≪ヤバイっ! 来たし! 敵襲!≫
「なにっ!? アゲハちゃんの方もか! クソッタレ!」
≪こっちも同じ状況になった! 真っ黒いスーツを着た『シーボルディ』って敵だ!≫
「ロックさん! 夜乃の方に援護を要請してください!」
「了解した! こっちにも頼んでおくぞ!」
「そうしてもらえると、非常に助かりますっ!」
≪あーしたちの方は『ツェツェ』って敵! 地下組織、WORMSの最強部隊!≫
≪リン! 嬢ちゃんたちの方に援軍を頼むっ!≫
◇◇◇
§ リン視点 §
一気に入ってくる緊急のテレパシー。
は? 来た? 来たって何が!? 地下組織!?
≪了解! 今すぐ向かう! アゲハ! 無茶だけはするな!≫
≪ムリ! 全力でやらなきゃこっちが全滅する! 任せて!! 絶対に潰してやる!!≫
≪なら絶対に勝て!! 晶っ! アゲハたちの方に救援行けるか!≫
クソっ! 二ヶ所同時だと!? 急襲する位ならアルを攫う必要なんてあったのか!?
武力を見せつけてから、交換条件にでもするつもりだったってか! 外道が!
≪リン先輩! 急行します!≫
≪頼んだっ! オレは岩上さんの方に向かう!≫
≪リン様! 私も出れます!≫
≪僕も行けます!≫
≪ダメだ! ジュンタとセオドラさんは、キラさんの方に! キラさんは待機!≫
≪分かったわ! 私は二人と合流するまで待機してる!≫
≪皆! 絶対に死ぬんじゃねーぞっ!!≫
≪≪了解!!≫≫
◇◇◇
§ アゲハ視点 §
葵育の足を掴んだまま、ツェツェはその本性を徐々に現していく。
「アタクシと遊びましょ? そして……血を吸わせなさいぃィィーっ!」
急激な感情の高ぶり。衝動を抑えきれなくなったのか手に掴む足を握り潰した。
表情を顰めるが、一切声には漏らさず耐える葵育。
ツェツェは、握り潰した足から流れ出る血を舐めようとしたが、ベールがそれを許さない。
だが、ツェツェの握力はベールをも拉げさせ、足は変な方向に折れ曲がった。
「ゔあ゙ぁぁーっ!」
「葵育ーっ! くっそなのぉぉーっ!」
桜煌がツェツェに向かい、超速ダッシュで上段フェイクの下段蹴りで回転する。
「フッ、見えていますよ。何ともお粗末な戦闘技術ですこと」
蹴りを脛で受け止めたツェツェは、掴んでいた葵育を桜煌に叩きつける。
桜煌はそれを見越していたのか、葵育をキャッチして離脱した。
「……ふーん、取り返す為だったのね。意味のない事を……」
「意味があるかどうかは、自分らが決めるっす! 皆! いくっすよっ!」
「「おおーっ!」」
「あたしの大事な仲間を傷つけるあなたを! 絶対にあたしたちは許さない!」
「お前ら地下組織はあーしが! あーしらが! 絶対にブッ潰す! 逃げられると思うな!」
ツェツェと正面に向き合うあーしらの後ろで、アルテミスがポーズを決める。
飛行で体勢を保つ葵育。
「「ライブ! 始まるよーっ!」」
空が宵闇に変わる中、森の広場に突如として出現した眩いまでの照明、ライブステージ。
「はぁ? な、なんですのこれは」
ネオンは空中に『 Burn My Soul With You 』を描き、激しいビートが流れ出す。
力強いハーモニーと共に赤、青、緑、黄、紫。五色の光があーしらの体表を走る。
「全開フルバフなの!」
さっきとは比較にならない程の超超スピードでツェツェの横に一瞬で移動し、振り向きざまに回転を加えた重いボディブローを放つ。
苦しそうな声を漏らし、横に折れ曲がりながら吹っ飛ぶツェツェ。
間髪入れずに跳躍し、浮いたボディへ回転踵落としを喰らわせ地面に叩きつけた。
地響きがする程の衝撃が広場に走り、地面が凹む。
「うおぉぉーっ!」
滑るような低空飛行でツェツェに突進するサッチ。地面に撥ね返されたボディ目掛けて垂直蹴りを放つ。
だが、ツェツェはそれを目視しており、蹴り放つサッチを恍惚とした目で待ち受ける。
両手を伸ばし、まるで足がそこにやって来るのを待ち構えているかのような悪寒が走る。
サッチもそれを感じ取ったのだろう。即座に軌道を変えアルテミスの前に着地した。
「……フン、残念ですこと。折角美味しそうな血が頂けると思ったのに」
立ち上がったツェツェは、右手を頬に添え、唇の部分を指で艶めかしくなぞる。
「チッ! あんた、言動も思考も終わってんだよ! あたしらのように可愛く生まれてくれば良かったのにねっ!」
「あーしらの前じゃ、お前はただのオバサンって事だし! ぷっ! カワイそすー!」
挑発して、少しでも調子を乱してやろうと思ったが、これが案外図太い。
「フフッ。残念な事に、アタクシの素顔はプラチナブロンドの北欧美人よぉ。あなた達には到底追いつけないくらいのね。見せられないのが本当に残念」
なかなかどうして、煽りを知っている。あーしの方が乗せられそうだ。
「なら、二度と見れない顔に矯正してやんよっ! 言っとくけどあーし、強いんだよねぇ!」
一気に距離を縮め、バチバチの高速インファイトを展開する。
「あたしも我慢ならない! あんたみたいな性格ブスに、あたしたちは負けたりしない!」
二対一。サッチが正面切って戦う正統派なら、あーしは変則、トリッキーに長けている。
繰り広げられる変調の攻防に、ツェツェが押され始め、様子が変わってくる。
「アタクシは自分を世界一の美女と思っていますから、何も響きませんわよ。所詮ブタの遠吠えなど、人間に理解できな……」
――ガッキィィーン!
激しい攻防の隙を突いた三つ目の拳が、打撃音と共に火花を散らした。
衝撃で吹き飛ばされるツェツェ。
「遅くなりました! 加勢しますっ!」
ツェツェの死角から現れた、両の掌を突き出した格好の晶が到着を告げる。
「晶ちゃん! ありがとう! これであたしたちの負けは絶対にない!」
「アーちゃん! 葵育が足をやられた、手当を!」
「了解!」
みるみる折れ曲がった足は形状を取り戻し、正常な状態へと回復する。
「晶ちゃん! ありがとだっちゃにゃ!」
思わず晶をハグし、頬ににキスをする葵育。
「大丈夫そうですね! がんばって! お姉ちゃん達!」
「「任せなさい!」」
曲調と演出が勢いを増し、ステージ後方の真ん中に設置された新アイテムのメーターがMAXに到達する。
ちなみにこのメーター。ジュンタがアルテミスのPACS改良時に付け加えたものであり、歌唱時間に比例してゲージが蓄積される仕組み。ゲージがMAXに到達すると、バフの支援効果が30秒間、5倍に膨れ上がるというスーパーなギミックだ。
「ハイパーモード、行けますわよっ!」
「待ってたしー!」
「全力以上の力!」
「お願いします!」
あーしら三人は、戦闘の構えを取ったツェツェに向かって超高速でダッシュする。
「「いっけぇーっ! ムーン! ショット!」」
アルテミスのコールと共に、ゲージMAXになったメーターから白銀の光が放出された。
集積し一本の矢を象った光は、一瞬で引き放たれ、あーしらに突き刺さる。
身体から銀月を思わせる白銀の光が激しく噴き上がり、高速から光速へと超パワーアップしたあーしらは、三方向からツェツェに渾身のラッシュをお見舞いした。
「「うおおぉぉぉーーっ!!」」
あまりのスピードとパワーに屈したツェツェは、身体を小さく丸め、防御に徹する事しか出来なかった。
30秒間の超ラッシュ。装備していたアーマーもろとも両腕両足を破壊されたツェツェ。
命からがら撤退するしか選択肢がなくなり、上空へと緊急避難する。
蠅を連想させる仮面は殆どが崩れ落ち、プラチナブロンドの長髪と切れ長で灰色の目を露わにした。
「グッ、ゲハァッ! ……今日はアタクシの負け。なので、この辺でお暇するわ。次は必ずアタクシが勝ってみせますから、ウッ、エ゙ッゴハッ! ……それまで待っていなさい」
追い打ちをかけようと、飛び上がろうとするサッチ。アーちゃんに止められ、その時点で30秒が経過。白銀の光は月に帰るように霧散し消えていった。
ツェツェは、破壊された両腕両足をぶら下げながら宵闇へと消えて行った。
「……行った? かな?」
「引きましたね……」
「サッチもアーちゃんも、マジお疲れー、ヤバかったしー」
そのまま地面に大の字になって倒れ込む。
「「……しんどーっ!」」
WORMS最強部隊、第三席「吸血のツェツェ」とのファーストコンタクト。
あーしらの勝利だ!
≪こっち、なんとか撃退っ!≫
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