ファーストコンタクト
アルが消息を絶ってから三日が経過し、今はオレの家でジュンタと晶の三人で悩んでいる。
ちなみに他のみんなは森の広場で戦闘訓練を行っている。
「ジュンタ、晶の案、小型ドローンはどんな感じだ? うまくいきそうか」
「任せてください。さちこ先輩の未来視では森の中って言ってたんで、それらしい森を片っ端から大量のドローンで捜索していけば、何かしら情報は取れると思うんです」
「人海戦術って感じになってきたな。でも、晶の案が最終的に一番効率がいいんだろうな」
「じゃあ、カラスに擬態したドローンを使って近場から探ってみます。勘ですけど、他県とかそんなに遠い場所じゃないような気がするんですよね。ああそうだ。晶さんの言ってたAIを使った自動判定機能も組み込んでみました。引っかかった時は録画もされます」
「いつ見てもジュンタさんの能力は面白いですよねー。私のがダメって訳じゃないですけど、ちょっとうらやましいです」
「そうか? 晶の能力だって十分魅力的だけどな。ってか、晶もジュンタも、ああ、キラさんもだな。オレたちにとっては必要不可欠な最重要メンバーだからなぁー」
「わぁ! ありがとうございますリン先輩! 元気補充しました!」
「お二人ともー、カラス隊行きますよー!」
――ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポムッ!
「ちょっ! ジュンタさん!? 流石に気持ち悪いですーっ! いやぁーっ!」
いくら創造物とはいえ、目の前に大量のカラス。更に一斉に飛び立つとなると……ムリっ!
「え、結構カワイくないですか? 円らな瞳とか愛嬌ありますよ」
こりゃジュンタに彼女とか出来るのは当分先の話だろうな。
専用モニターにカラスからの情報が映し出される。
カラス映像に晶が若干えづいている。視点がモニターを直視してないもんな。
「しばらくは探索プログラムにお任せですね。時速40km位ですので東も西も山を越えるまでは2時間程度かかる感じですかね」
「ならそれまでは少し休憩か?」
「はぁー。何か凄く疲れましたー。このままごろ寝でお昼寝してもいいですかリン先輩」
「あ、じゃあ枕に座布団。ほら、ジュンタも」
「助かります、少し昼寝して頭を休めときます」
◇◇◇
§ BUGS視点 §
「それで、攫ってきたアマツの友人、本栖の意識は戻せそうか?」
「様々な刺激で反応を見ていますが、未だどれも効果は上げておりません」
「ふん、やれる事は全て試せ、意識を取り戻したのなら、それを手土産にアマツをこちらに引き込む手段になる。まあ、もしダメでも命と引き換えにするだけだがな」
「はっ、了解しました! 幹部統括殿!」
支部長は、アマツを確保するために手段は問わないと言う。
それを実行に移した私の策。私が命令し拉致してきたアマツの友人、本栖。
意識不明から回復の兆しを見せない人間を使い、アマツを誘い出すというその先に、我々の益はあるのか? アマツとはそこまで我々に利する存在になり得るのだろうか。
たとえ我々の存在意義や成そうとしている事が、世界を支配下に置き、争いを無くす為だとしても、そこに大衆の理解を得られることはないだろう。故に裏の組織なのだ。
支部長は、頭の中に描いた理想、想像に囚われ過ぎるきらいがある。
そんな絵にかいた餅では、腹が満たされるわけがない。
理想は理想、所詮絵空事なのだ。こうなったらいいな、では、ただの子供の戯言だ。
私は、力なき支配に実行力はない事を知っている。理解している。
だから世の中は、暴力は暴力で上書きされ、新たな力で支配されるのだ。
所詮、その環の中にいる限り終わりはない。
だからこその力だ。圧倒的なまでの力が必要だ。だから、まずは権力が欲しい。
欲は身を滅ぼすと言うが、支部長はアマツを我々BUGSに引き入れ、WORMSのトップにでも立とうと考えているのか。
「……ふん、たかがガキ一人に何が出来る」
甘いんだよ。支部長のやり方では駄目だ。このままではその下につく我々が割を食う。
支部長には、早々に席を空けてもらう必要がある。
「伝令役、蟻に伝えろ。対象アマツの周辺警戒を強め、なんでもいい、情報を集めろと。それと支部周辺の警戒も怠るな、少しでも異変を感じたら直ぐに私に報告するように」
「はっ! それと幹部統括殿。一応本部に能力者の派遣を要請しておいた方がよろしいのでしょうか?」
「この案件にそんな過剰戦力が必要あると思うのか? それとも支部長がその可能性があるとでも言ったか?」
「いえ、そんな事はありません」
「余計な事を考える暇があれば……いや……待て」
支部長はアマツを能力者と確信している節がある。
事実、誘拐事件での顛末には不可思議な現象が起こり、末端のものが全滅したとあった。
下部組織の壊滅においても人間とは思えない仕業と情報が入っていた。
あるのか? そんな強力な力をもった人間が存在しうるというのか?
いや、万が一にもないだろう。
我がWORMS最強の異能戦士「ディノポネラ」に勝てるやつなどいるはずがない。
そうだ、要請という形をとってしまえば支部の名折れ。
支部長の名で要請を行い、かつ上位ナンバーの異能戦士共にそれとなく噂を流せば、勝手に行動しアマツとやり始めてくれはしまいか? きっとアマツの弱さに文句も出よう。
さすれば要請を行った支部長の責任問題だよな?
上位ナンバー共は性格も人格も破綻した奴らの集まりだ。上手く行けば鬱憤の行き先は支部長になり、そのまま殺してくれはしないだろうか? 誰も制御など出来ようはずがないのではないか?
支部長が死ねば、次は私が支部長のイスに座る事になるのは当然の事じゃないのか?
フフフッ、アマツとディノポネラには支部長を失脚させる道具になってもらおう。
「おい、思い出した。支部長名で本部へ情報を共有。上位異能戦士の派遣を要請しろ。支部長命令だが、この作戦における全ての報告は私にするように。なお、この内容は極秘とし、一切の口外を禁ずる。いいな」
「了解しました! 幹部統括殿!」
面白くなってきた。とうとう私の時代がやって来る。
そして時を置かずして、WORMS最強戦士「ディノポネラ」の耳に、アマツの話が届くのであった。
◇◇◇
§ さちこ視点 §
ジュンタ君と晶ちゃんはリンの家でアル君の捜索に頭を悩ませている。
役に立てそうにないあたし達は、近いうちに確実にやって来る敵に備えて戦闘訓練だ。
「明輝そうじゃない! もっとイメージは鮮明に強く! 気持ちは『必ず防ぐ』じゃなく『絶対に防げる』って確定した気持ちで! でないと攻撃を通しちゃう!」
「了解っす! もう一回お願いしますっす、テン!」
「岩上さん、身体強化は息吸って筋肉を強張らせるのとは違います。俺の感覚で言うと、見えない強化スーツでも纏っている感じに近いです。セオドラさんはその点上手いですね」
「結構難しいな、一瞬は出来るが持続となると中々。ショウゴは見た目と違って意外と繊細だよな」
「私の場合は、そうですね、それこそ変身するイメージでやっていますけど」
「変身って、どういうイメージなんだ?」
「あの、えっと……仮面ライ〇ーです」
セオドラさんの言葉に、一瞬皆の動きが止まった。
「なるほどですわ! そういうイメージの仕方がありましたのね!」
「それならここあもやれそうだぞ!」
「瀬尾さんありがとう! なるほど、よし、俺も真似させてもらうとする!」
「俺はハル〇のイメージだった」
「あー、変身って感覚わかるー! あーしなんてモロそれだし! ほらっ!」
背中に銀色の模様が入った黒い蝶の羽が現れ、空を舞うアゲハ。
「「うわー! アゲハ蝶だ! 綺麗ーっ!」」
女性陣の声がハモる。少し照れ臭そうにするアゲハの顔が印象的だった。
「で、この状態ならアーちゃんのベールなしでもかなり頑丈なんだー、多分、ショウゴ先輩のパンチでも耐えられるよー! ベール解除したから試しにやってみてー! パンチ」
「なっ! いいのか? 手加減はできんぞ? せめてベールは……」
「大丈夫だしー! ほら早く! 全力でパンチ打って来て!」
「全力!? ……なら、思いっきり行くぞ! んっ! セェイッ!」
大気が震えるような振動と衝撃波、重い音が砂埃を上げるが、アゲハは涼しい顔でピクリとも動いていない。
「にゃはははっ! ちょっと焦ったけどー、あーしのこの防御よりアーちゃんのベールのが何倍も性能は上だし! みんなもキチンとベール使いこなせればかなりヤバイっしょー!」
アゲハのおかげもあり、そこから皆の身体強化レベルとベールの維持が格段に飛躍した。
岩上さんと、セオドラさんの銃による攻撃の訓練と、それを弾く、受け流す、避ける訓練。
更に、それを飛行状態で行う訓練。組手での多対一の格闘訓練などを目一杯やった。
「ふわーっ! いくら晶ちゃんのベールと回復効果が効いているとはいえ、やっぱり疲れるものは疲れるわねー」
キラさんが草の上で大の字になっている。
「精神的疲労が半端ないよねー! あたしも疲れたぁー!」
「レッスン並みにキツいの!」
「腹減ったにゃぁーっ!」
「みんな飲み込み早すぎんかー!? あーしもちょっと焦らんとヤバイかもーっ!」
「そろそろ陽も落ちて来た、今日はこの辺で終わりにしよう。リンには俺が連絡しておく」
「みんな一生懸命お疲れ様ー! 帰ったらゆっくり休んでねー!」
「テンもアゲハも一生懸命指導お疲れなのー!」
「ロックさん、セオドラさん、これからもよろしくお願いね! 一応これも業務扱いなので、ちゃんとお給料に特別手当載せますから!」
「私! 頑張りますっ!」
「警察辞めて正解だった! あっはっはっは!!」
「私は飛んで帰らないといけないから、もう少し暗くなるまでここにいるわね」
「社長、俺の車で送っていきましょうか?」
「大丈夫よ、帰ってゆっくり休んで。お疲れ様でした」
岩上さんとセオドラさんはそれぞれ車で、ミサキ先輩も岩上さんの車に乗って一緒に帰って行った。
森の広場にキラさん一人残していくわけにもいかず、キラさんが帰るまで皆で女子トークをして楽しんだ。
「遅くまで一緒に居てくれてありがとう、お喋り楽しかったわ。私も気を付けて帰るけど、皆も十分気を付けて帰ってね、じゃ!」
そう言って、キラさんは一瞬で夕焼雲の上まで飛んで見えなくなった。
「んじゃあたしらも帰りますかー!」
「お疲れ様っす!」
「帰ってお風呂入るなの!」
「眠いにゃ!」
「そうですわね!」
「みんなお疲れ様だぞ!」
「お腹空いたしー! ってか、みんなびっくりするほど強くなったし!」
◇◇◇
§ リン視点 §
「リン君、カラス達が大方予定した偵察を終えたみたいだよ」
「おっ! AI判定にヒットした動画って結構あるのか?」
「300以上だね。多分取るに足らない誤判定が殆どじゃないかな」
「私も判別作業頑張りますので、家で作業出来るように、データを私のPCに送ってもらえますか」
「了解。でも数が多いので、無理をしないようにしてくださいね、晶さん」
「大丈夫! 任せてください!」
うん、晶は絶対に無理するタイプ。オレは知ってるぞ。
「晶、無理しない様にな。ちゃんと寝ろよ?」
「はい! 任せてください! ということで早速作業するので私は家に戻ります!」
うん、全く聞こえてないみたい。
「ジュンタもな。ほんと色々大きな負担かけてるからさ、オレも気が引けるんだよ」
「まあー、流石に動画300本を隅々まで精査するのは大変だと思うから、僕も一旦帰って作業することにするよ。いい報告、期待して待っててよ」
「ああ、もちろん! なんか悪いな、オレも手伝えればいいんだけど」
「適材適所だよ、リン君。それじゃまたね!」
「頼らせてもらうよ、ありがとな!」
捜索ってホント地道な作業なんだなって思い、岩上さんが「警察は薄給で」なんて言ってたのを思い出した。日本の真面目な警察の方々には感謝だよね。
≪リン、今日の所は訓練を終わりにしてさっき解散したところだ。女性陣の成長振りが目覚ましくて、驚かされてばっかりだ。見たらきっとビックリするぞ≫
戦闘訓練組のショウゴから連絡がきた。
≪お疲れさん! あまり根を詰めない様に……とも言えないよな。いつ不測の事態が起こるか分かったもんじゃないもんな≫
≪そういう事だ。準備はいくらやっても足りるって事はないからな。それに楽しいから飽きる事もない。しかしテレパシーってやつは便利だな!≫
≪岩上さんもお疲れ様! 帰って風呂上がりのビールでも楽しんでください≫
≪リン、まさかお前、未成年の分際で酒飲んでたりしないだろうな≫
≪老化早まんのが嫌だから、そもそも飲む気なんてねーよ!≫
≪ばっ、お前。成人したらみんなで飲みいこうぜー? ショウゴもな!≫
≪うっす!≫
≪って事で、ショウゴを車で送ってるところだ。俺も今日は素直に帰る事にする≫
≪了解! んじゃお疲れー! 気を付けてー≫
さて、動画精査の方は晶とジュンタに任せるしかないし、時間も掛かる。
みんなは精力的に戦闘訓練してるし、オレは何をしようか。
ぶっちゃけ、戦闘以外役に立つ場面なくね?
あ、そうだ。アゲハに今日のメニュー聞いておこう。
≪アゲハ、訓練お疲れ様! 今日何食べたい? 風呂沸かしとくか?≫
≪にゃははっ! リン、奥さんみたーい! カワイーっ! すぐ帰るから一緒に考えよー!≫
うん、なんつーか奥さんぽかったな。でも、アゲハも楽しかったみたいで何よりだ。
しかし敵の動きを待つっていうのも、中々しんどいな。でも動いてきた時って、敵の準備は既に整いましたって事じゃないのか? あれ? 先制攻撃した方が強い?
あ、敵にしてみれば状況は同じか。なら、準備を整えた上で相手を待つのが強いのか?
難しいが出来れば後手は避けたい。何か、オレにもっとやれることはないのか?
◇◇◇
§ アゲハ視点 §
あーしたちは自転車でみんな一緒にここに来た。だから、帰りも一緒にって話しながら広場を出口へと歩き出す。
突然、誰も居なくなった中央から風が吹いたので、何かと皆振り返った。
見ると広場に誰かが立っており、夕焼けをバックにしているため真っ黒に見える。
「キラお姉様? 何かお忘れ物でもしましたで……」
「ダメっ! 香! 下がれし!」
――ガキンッ!
あーしの声が間に合わず、硬質な衝突音と同時に、香は吹き飛ばされ地面を転がった。
「何だっちゃオマエぇーっ!」
即、反応した葵育が地面を滑るように猛スピードで飛行し、その影に下から突き上げるように蹴りを放つ……が、その足はその影の腕に簡単に捕まれてしまった。
地面に転がった香が起き上がり、わき腹を押さえながらも戦闘態勢に入る。
ベールを纏った上からダメージを喰らわせるなんて、一体どんな攻撃力してんだし。
「フーン……お前達が噂の能力者? で、合っているかしら? だとしたら少し期待外れね。でも、そうね、間違ってる訳でもなさそうだけど」
葵育の足を掴んだまま空中に浮く影。
葵育は逆さまになりながら、態勢を整えようと藻掻き激しく抵抗する。
だが、掴んだ足を器用に動かし、影はその行動を相殺する。
「あなたは誰っ! 何の目的であたし達に近づいた!」
見た事も無い程に怒りを浮かべながら叫ぶサッチ。
いいね。感情剥き出しのサッチは素敵だ。流石あーしのダチだけある。
「フフフッ、誰と問われて答える必要なんてあるのかしら? 目的なんて言わなくても分かっているんじゃなくて?」
「あたし達とお友達になりたくて来た……なんて事はないわよね?」
「あら、面白い事言うのねアナタ。でもね、ほぼ正解よ。遊びに来たの。折角なのでお名前を伺ってもよろしいかしら?」
「あたしは『天南 さちこ』、親しい友人は皆『テン』って呼ぶわ」
「そう、覚えておくわ。こちらもお返しに名乗っておかないと、失礼に当たるわよね。アタクシは『Tsetse』」
一歩こちらに近づき、そう名乗る。
一瞬揺らいだ夕焼けの明かりが、影の姿を照らし出した。
全身を真っ黒のボディースーツが包み、急所に防具らしきものを装着。
顔には蠅を連想させるフルヘルメット、仮面を被っていた。
「「かっ、仮面ラ〇ダーっ!?」」
「WORMS最強部隊第三席『Blutsaugen Tsetse』。日本語なら『吸血のツェツェ』かしら? カメンライダーが何かは知らないけど」
「なっ!? WORMS……だと!?」
思わず声が漏れてしまった。あーしは知らなかった。BUGSのレベルしか知らなかった。
本部が、WORMSが、こんな化け物じみた能力者を飼っているなんて知らなかった。
「あら、そちらのお嬢さんはご存じだったのかしら?」
下手に言葉を返すのはヤバイ。ここは沈黙が正解。だけど応援は呼ばせてもらう!
≪ヤバイっ! 来たし! 敵襲!≫
状況説明をすっ飛ばして、皆に一斉テレパシーを飛ばした。
「ワームズ? 聞いた事ないっすね!」
「さあ、アタクシもよく知りませんの。世界を裏から支配する組織、って事くらいしか。遊び相手に事欠かないのであれば、別になんでもいいんですけどね」
「組織……地下組織っすか!」
「地下組織? 地下組織!? あなたたちが攫ったアル君! 本栖有は何処っ!」
「アル? それは何ですの? アタクシには関係のない事かと思いますわね。テン」
「その名前で呼ばないでくれる? どうやらあなたとはお友達にはなれそうもないわね!」
「あら……少し残念ね。でもまぁ、とりあえず遊んでくれるかしら?」
≪サッチ! コイツはヤバイ!! 一緒に!! アルテミスは支援を!≫
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