全員集合
「そうだ! 確かにあれは人の血の臭いだった! でも何故?」
「間違っても引越しや夜逃げじゃない! リン、これは事件だ! しかも、プロが関わってる可能性が高い」
「なら、病院からアルを退院させたのは誰なんだ!? 月曜の朝には店は閉まっていた。でも病院からアルが連れ出されたのは火曜日だ。辻褄が合わない」
「確かに変です。仮に、火曜日にご友人を引取に出向いたのが本栖様のご両親だとしたら、もぬけの殻となったご自宅と血の臭いが矛盾します。やはり変です」
「悪い、頭の中を整理したい。……例えば、アルの両親が誰かに恨まれていたとしたら?」
オレは思い浮かぶ疑問点を上げていく。
「怨恨なら、殺害だけ実行して逃げればそれで事は済むだろうな。俺ならそうする」
「金品目的だったら、殺した後に盗んで逃げればいいだけだしー。あーしならそうする」
そういう事だよな。消去法で余計なものを頭から除外する。
「なら、引越しや夜逃げに見せかけて、ここまで証拠を隠滅する意味は?」
「公にしたくないか、それとも事件と悟られない為か、だろうな」
「手が込んでいる事や手際の良さから、プロの仕業と仮定すると、計画されたものだからでしょうか?」
みんな優秀で助かる。ザワついたオレの頭だけじゃ正解に近づけない。
「なら、アルの身柄を確保する意味は? アルを攫って何をする? どうしたいんだ? 意識不明の人間に何が出来る?」
「攫うって事は、何かしら利用価値があるからって事だよねー? 意識不明で動けない人の利用価値っていったら……人質? くらいしか思いつかない」
「アゲハ! それだっ! 現状でアルに一番固執している奴……クソっ! だとしたら本当の狙いはオレじゃねぇか!」
「何でだ! なんでそうなる! 俺にも解るように説明しろ! リン!」
「リン様。もしかして、例の地下組織……でしょうか」
「んなっ! なんで瀬尾さんがそれを知ってるんだ!?」
オレは、岩上さんに話せる所を掻い摘んで、その経緯について説明した。
「そうか、そんな事があったんだな。リン、瀬尾さんを助けてくれてありがとう!」
なんでか頭を下げられ感謝された。
「だとしたら、本栖君を取り戻すのも難航するだろう。まず、尻尾を掴まない事には……」
ゴメン岩上さん、組織の情報は既にオレとアゲハの手中だ。
≪アゲハ、アルは十中八九、組織に連れ去られたと考えていいと思うか?≫
≪うん。あーしがこんな事言うのもアレなんだけど、ここまで周到にやられちゃうと、そうだとしか言いようがないよ。病院の普通じゃない対応も、間違いなく洗脳だと思うし≫
≪やっぱそうだよな。なら、どうやってアル取り戻すのかって事と、まずその前にどうやってみんなに地下組織の情報を教えるかってことだな。オレとしては自然に誘導して、皆で発見した感じに持っていきたい≫
≪ゴメンねリン。あーしの為……だよね≫
≪いーや、オレの為に決まってんだろ? アゲハは何も悪くなんかない≫
アゲハの頭をクシャッと撫でると、コクっと頷きが返って来る。
≪よし、ならやるべき事は至ってシンプル。アルを取り戻すだけだ!≫
≪うんっ! リン……好きっ! 大好きっ! だーい好きっ!≫
後は、オレとアゲハの二人でやるか、それとも全員で行くかの違いだな。
オレの表情に力が籠ったのを見抜かれたのか、はたまた、オレの能力に関連付けてそう思ったのか、セオドラさんに釘をさされる。
「あの、リン様、もしかしてお一人でご友人を探そうとしていませんか?」
「えっ! あ、いやー、まさかそんなー、ねぇ……」
誤魔化し下手過ぎんだろオレ!
「リン、焦ってもどうしようもない時もある。あの事件を経験したお前なら分かるだろう。本栖君の家の方は、俺がエボ爺に連絡して対応してもらうから、どこかに綻びがないか頭を冷やして考えよう」
岩上さんは、烏帽子さんに電話を掛けて連絡を取る。
「不確定な事を言うようで申し訳ないのですが、おそらくリン様は待っているだけで良いのかと思います」
「セオドラさん、それはどういう?」
「はい、ご友人を人質にしてリン様をおびき出すのであれば、待っていれば向こうから何かしらのアクションがあるものと思われますが、どうでしょう」
「ドーラちゃん、頭いいーっ! カッコいいねーっ!」
「確かに、むやみやたらに動いて精神を消耗するよりは、待ちに徹する時間にこっちの態勢も整えられる……か」
アゲハに褒められ、若干顔を赤くしたセオドラさん。
「はい、リン様ならきっとご友人を救うことが出来るはずです!」
「……うん。だな、悪くない案だ。ありがとうセオドラさん!」
向こうから接触を図ってくれれば、組織の情報もみんなに共有出来るだろう。
アルを早く助け出したいのは山々だけど、目的がオレなら害される心配もない、か。
「二人とも、エボ爺と他で現場の調査に来るようだ。俺はしばらくそっちの対応に回る。家には自力で戻れる距離だよな? すまんが後は頼む!」
「オレの方こそ、アルの家の捜査、烏帽子さんにもよろしく言っておいてくれ!」
「ああ、任せろ」
岩上さんは、その体躯に似合わない車に乗って現場に戻って行った。
姿の見えない敵が本当に地下組織で、アルを攫った目的がオレなのだと仮定する。
そこから考えられるのは、あの事件の事から現在の交友関係、みんなの素性、そして能力者だということも少なからず把握されていると考えておいた方がいいだろう。
なら、今後オレに関わる他の皆にも、そういった危険が起こるかもしれないという事か。
能力を持った仲間達なら例え二十人の敵に襲い掛かられようが、銃で撃たれようが対処も充分可能だ。だが、セオドラさんと岩上さんはどうだ?
無理だ、下手をしたら命を失ってしまう危険性がある。それはオレが嫌だ。
なら、対応出来る力を持ってもらうしかない。
≪アゲハ、オレは岩上さんとセオドラさんを覚醒させようと思うけど、どう思う?≫
≪ロっくんも、ドーラちゃんも、もう大切な仲間だよ。あーしは賛成。この二人は、今後絶対に必要な戦力になると思うし!≫
≪ああ、オレもそう思う。アゲハはいつもオレの背中を押してくれる。ありがとう!≫
「セオドラさん、今日の22時半頃ってオレの家に来れたりしますか?」
「ドーラちゃん、あーしも他のみんなも一緒だから大丈夫だよー!」
「リン様のご自宅にですか!? 行きますっ!」
「ただ、セオドラさんの人生において、大きな選択を迫る事になるかもしれませんが」
「絶対に行きますっ! 22時半ですね、分かりました。それでは諸々準備もありますので、私はこれで!」
凄い勢いで去って行ったんだが、大丈夫だろうか。
同じように、岩上さんにも電話で夜十時半頃オレの家に来るよう連絡した。
≪みんな、ちょっと聞いてほしい! アルが病院から攫われた! それについて――≫
今日の事を皆にテレパシーで連絡し、情報を共有する。
みんなには22時前に集まりたい旨を伝えた。
23時過ぎ位なら行けるというメンバーもいたが、今夜、初めて全員がオレの家に集合する事になった。
天南さんや晶、アルテミスのメンバーは夜は外出が難しいので、就寝時間後に窓から飛んで来る予定だ。
先んじて到着したのはショウゴとジュンタ、キラさん。そして明輝と恋焦。
「明輝と恋焦は大丈夫だったのか? 夜間外出して親に何か言われたりしないか?」
「自分ちは結構放任主義で、悪い事とか警察沙汰にならなければ基本問題ないっす!」
「ここあはベッドにダミー作って来たから大丈夫だし!」
「お、おう……そうか。来てくれてありがとうな」
「マスターの命令は絶対なんだぞ?」
「そういう事っす!」
「他の皆は少し遅れて来るけど、今日集まってもらった趣旨を一応説明しておきたい」
オレは現在起っている事、今後何を行うのか考えている事を話した。
「――という訳で、自衛手段はおそらく必須になってくる」
「で、セオドラちゃんとロックさんを覚醒させてPACSで装備を固めたいわけね」
キラさんがいつの間にか岩上さんの呼び方がロックさんになってる。流石だ。
「二人がどういった方向性の能力に覚醒するのか見極めてから、アイテムを創造した方がいいかもですね」
「PACS装備で共有される俺の身体強化は使いやすい上に便利なはずだ。晶のベールも共有されるから防御面は安心になるな」
「ショウゴさんの身体強化はホント凄いっす! 万能っす!」
「ここあも前はよく怪我してたけど、おかげで今は全く怪我しないんだぞ」
「あーし、まだ能力登録してないからなー、なんか役に立ってなくてゴメンマジでー!」
「アゲハちゃん、気にする事ないわよ。私だってみんなの能力の恩恵に預かってるだけだし。それに新しい何かに目覚めたら、その時は是非お願いするわ」
「まずは二人に色々と打ち明けてから、どうするかは本人の意思次第だな。もっともセオドラさんは既にオレが能力持ちって事は知ってるが……」
――ピンポーン!
玄関を開けると岩上さんだった。
「遅くなったか? すまんな。今日の事件の事で色々エボ爺に聞かれてな」
「いや、十分早いよ。こっちこそわざわざ来てくれて悪い。まあ上がって」
リビングに通すと皆が居ることに驚いてた。
「あ、あれ? 社長までどうしたんですか? こんなに皆集まって。ってか、玄関に靴なんて無かったが」
「ふふっ、私たちはそっちの庭から入ってきたのよ。理由はすぐに分るわ」
「庭……ですか?」
「とりあえず空いてるとこどこでもいいから座ったら? お茶とコーヒーどっちがいい?」
家主のオレよりも家主っぽいキラさんである。
「んじゃ、すみませんコーヒーをもらってもいいでしょうか」
「リンくん、コーヒーで」
「あ、はい」
「あっ、いいよ、あーしやるから。リンはみんなの方に」
「ありがと、助かる」
アゲハが岩上さんの前にコーヒーを置いた時に、丁度、庭からザッという音が聞こえる。
「こんばんはですわ、皆様。ちょっと遅くなってすみませんでした」
香が庭の戸を開けてやってきた。
「え! なんで皆庭から来るん……」
香が靴を脱いで家に上がろうとする、その後ろから葵育と桜煌が空から降りてきた。
「遅くなってごめんなのー! これでも結構がんばって急いだの!」
「キラお姉様、マスター、みんなこんばんわだっちゃ!」
「ああ、緊急で来てもらって悪いな。ありがとうな」
「おいおいおい! 今、空から降りて来なかったか!? 俺の目がおかしくなったのか!?」
「にゃ? 普通に飛んで来たっちゃよ?」
「いや、普通じゃないだろう!?」
驚きすぎて気が動転しているが、まあ、これが普通の反応ってやつだよな。
さて、説明して一旦落ち着かせるか。
――ピンポーン!
「あ、セオドラさんかな?」
玄関を開けると、お洒落してバッチリ決めたセオドラさんが立っていた。
「り、リン様、今晩は。や、やってきました!」
「こんな時間に来てくれてありがとうございます。まあ上がってください」
「お、お邪魔します」
緊張しながら靴を脱ぎオレの背中を追ってついてくるが、リビングの騒がしさに一旦落ち着いたみたいだ。
「おお、瀬尾さんも呼ばれたのか、良かった! ちょっと俺一人じゃ理解が追い付かなくて」
「セオドラちゃん、遅くにごめんね。来てくれてありがとう」
「みなさんこんばんは、遅くなりました。それで、これは一体……」
「あとは天南さんと晶だけど……うん、始めようか」
オレは、アルが攫われたと思われる今日の出来事を切り出しに、みんなに趣旨を説明する。
今後危険な目に合う可能性が高まった事。自衛する必要がある事。地下組織と事を構え、徹底的に潰しにかかるつもりだ、と話した。
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