結成
物件内覧から数日して、柳不動産から連絡があったそうだ。
キラさんとセオドラさんの思惑通り、2億5千万円で合意に至り、購入する事が決まった。
正式に物件の引き渡しが終わったら、改築や修繕、電気工事が入る予定だ。
何がどう変わるのかは、出来てからのお楽しみって事だが、どれだけお金が掛かっているのか聞くのも怖い。まあ、しばらくは楽しみに待っておくことにしよう。
それよりもジュンタが言っていた「アルテミスのステージ回りは僕に任せろ」な件だが、とうとう完成したと、オレに一番最初に連絡が来た。
≪マジか! とうとう出来たのか! 何を作ったのかは知らんけどヤバイやつだな!?≫
≪出来たよ! しかもブッチ切りでヤバイのが!≫
≪なら、夜にでも時間作って皆にお披露目しなきゃだよな!≫
今日は金曜だから、夜にでも集まれるといいんだけど。
アルテミスの皆はどう移動してもらおうか? 飛行の習得はまだって話だったが。
≪アルテミスのお姉ちゃん達なら、自力飛行可能なまでになりましたよ! 特訓しました!≫
≪戦闘の方もかなりのレベルまで引き上げたしー! アーちゃんと同レベルと言っても遜色ないくらいかなーって感じ! あーしとサッチの特訓が効いたよねーっ!≫
≪ああ、俺から見てもかなり強いぞ。天南ともいいとこまでやれるようになってきてる≫
≪残念ながら皆あたしより運動神経いいのーっ! 嬉しい事ではあるんだけどねー!≫
≪いやー! 自分らなんてまだまだテンの足元にも及ばないっす!≫
≪ギャルで可愛くてオッパイ大きくて強いなんて、アゲハもテンも神様は不公平なのっ!≫
≪アゲハもテンも、一生懸命教えてくれたんだっちゃにゃ!≫
≪おかげで私達も急激にレベルアップ出来ましたわ!≫
≪ということで、マスターは皆に焼肉を奢るべきなんだぞ!≫
≪待て恋焦! 何でそうなる! ……っていうか約束したな。料理するって≫
≪しました! しました! 覚えてる私がいます! リン先輩の焼肉が食べたいです!≫
≪オレは焼肉にはならんし、食べられたくもないんだが?≫
≪あ、そうだ! ならリンが仕込んだ肉で皆でBBQしよーよ!≫
≪それいいねー! リンが仕込んだ肉なら間違いなく絶対に美味いしーっ!≫
≪≪マスター! ゴチんなります!≫≫
≪俺はサガリとハラミがいいな≫
皆に押し切られ、今度BBQをする事になった。この大人数、何処でやるかが問題だな。
≪んで、ジュンタの新しいヤバイやつ。どこでお披露目するんだ?≫
≪はい! 今日の夜にでもどうでしょうか。新しいPACSアイテムのお披露目になりますけど、光ったりするので、宇宙だとちょっとマズイ。なので海でお願いします。それとアルテミスのみんなは、説明と仕込みをしたいので早目に来てもらえると助かります。時間は――≫
学生が多い為、夜に外出してもバレない様に深夜1時からお披露目を行う事になった。
アルテミスの皆は事前の説明もあるので、現地に23時集合だ。
そうそう、先日、ジュンタがまた便利なアイテムを作って皆に渡してくれた。
殆ど装着感のないコンタクトレンズ型で、これを装着すると視界の右端上に仲間の現在位置が表示される。基本的にPACSアイテムを追跡し位置検出しているとかで……
・全てのPACSアイテム装備者を表示
・特定の装備者を表示
・パーティメンバーを表示
・視界のターゲットを追跡
この四つのモードが意識一つで切替可能の超優れもの。
仲間の現在位置は、ネットを介した最新の地図データが透明度八十五%でオーバーレイ表示されているので非常に見やすい。もちろん設定変更も可能だ。
さらに視界左端上に、現在位置表示の対象となっている者の体力および状態が表示される。
名称は「Condition Tracking Lens」で略してCTLだそうだ。
まあ略称もそのままコンタクトレンズと読めなくもない。分かりやすい。
これもPACSアイテムと連携し、装備者の状態を常時モニターしてデータをレポートするように改良を図った為、可能となった副産物的な優秀アイテムだ。
おかげで、目印のない海中でも宇宙でも、居場所は一目瞭然、絶対迷子にならない。
以前ショウゴが言っていた「視覚情報の共有」も近いのではないかと思う。
ちなみに視力自動調整機能もついているのでメガネは必要なくなる。
オレ的にメガネは萌えポイントなんだが。伊達メガネ、アゲハにお願いしてみようかな。
にしても集合は深夜一時か。まだ6時間以上も余裕があるな。
≪リンー! 集合までまだ時間あるからご飯食べに行ってもいいー? ついでにお風呂も一緒に入ろー? 最近あんまりくっ付けてないから、充電不足だよーっ!≫
≪何言ってんだよ、いつでもいいに決まってる! 久しぶりに二人でゆっくりしよ≫
≪やったーっ! 今すぐ行くねー!≫
≪あ! ちょっと待ったーっ! CTLで位置バレするじゃん! リングとCTL外して待ってな、今迎えに行くから≫
≪確かに! はっ! タっくん凄いな! これ浮気防止システムじゃん!? 天才かっ!?≫
≪確かに天才だと思うけど、驚くとこソコかよ! んじゃ10秒後いくから、外しとけー≫
久しぶりにアゲハと一緒にご飯を食べながら、さっきのBBQ話で盛り上がる。
オレが仕込んだ肉も食べたいけど、その前にオレの肉の棒が食べたい。などとアゲハ節全快で笑顔が漏れた。やっぱりオレにとってアゲハと過ごす時間は特別で、絶対に失いたくないものの一つだ。近々、オレたちは地下組織を潰すだろう。そしたら必然的に一緒に居られる時間も増え、アゲハの今までの人生も報われたものになるだろうか。幸せになれるだろうか。
オレはそれが楽しみで仕方がない。アゲハの笑顔が好きだ。守りたいんだ。
そんな事を思いながら、食器を洗っていた。
そしたら、洗い物をするオレのズボンは下げられ、現れた肉の棒はアゲハに食べられた。
「ひゃひにぃふゅほいーへほ、こっひほほいひーほ! グポッ、グポッ、グポッ、ぷぁっ! 洗い物終わったらお風呂でしよー?」
「はい! 喜んで!」
思いのほか抜けないバイトの返事。結構気に入ってる。
「あ、そうだアゲハ。伊達メガネって、かけてみる気ない?」
「ふぇ!?」
オレとアゲハは時間に合わせ、集合場所に向かった。
途中で天南さん、晶と合流して四人で海に入った。今回も結構深い所にいるようだ。
ショウゴとキラさんは既に着いており、オレ達が到着して全員揃った事になる。
「マスター、ジュンタの頭の中ってどうなってるんだっちゃ?」
「そうですわ! こんな凄いものを想像で創造する能力って、マスターとはまた違う意味で規格外ですわよ」
「それを一手に処理するキラお姉様も規格外なんだぞ!」
「あのなぁ、オレにそれを聞いて分ると思うか?」
「お、思わない……なの」
「桜煌! お前なぁーっ!」
「うぎゃー! ま、マスターがイジメてくるのーっ!」
「じ、自業自得っす」
なんとなく皆のテンションが高いような気がするんだが?
「んじゃ、皆揃った事だし、説明をしたのち、お披露目したいと思います!」
「「よろしくお願いしまーす!」」
アルテミスの皆が声をアイドルモードに切り替え挨拶をすると、それだけでもちょっと「おおーっ!」てなる。
「それじゃ、皆さん! 準備はいいすっかー! いくっすよー! せーのっ!」
「「ライブ! 始まるよーっ!」」
掛け声を合図に、ステージ、音響、照明mバックバンドまで、ポポポンッ! と出現した。
特定の行動やセリフに創造アイテム呼び出しアクションを紐付けすることで、登録していたアイテムが呼び出される仕組み。リアルタイムに変更可能なパラメータと、歌い手の心情パラメータにより曲調、演奏、照明が千変万化する万能ステージである。
更に、定番アクションからの個別の掛け声「華は香り」の後にハンドサインのアクションが追加された。
さっきまで私服だった香がライトエフェクトを伴って専用衣装にチェンジ。さながら魔法少女の変身シーンであり、アニメでよくある、見えそうで見えないアレである。
このハンドサインは現在5パターンあり、ハンドサインを用いて特定のアクションを行うと、それを特定キーとして対象の衣装が転送され換装する仕組みらしい。
アルテミスの全員が魔法少女変身シーンを経て、お揃いの衣装に変わった。
「ちなみに衣装は完全に私の好みです! ラフ画をキラ姉に見せたら、即、ジュンタさんが呼ばれてこうなりました!」
「なるほど、晶の癖が出た衣装なわけだ! それが五種類もあると! これは楽しみだな!」
「癖って言われると何だか恥ずかしいですけど、任意のタイミングで衣装変更出来るとか、女の子の夢が詰まってますよね! これからも頑張ります!」
「我ら、Goddess of Purity 、 Undulation Resonance! Artemis !」
何もない空間に半透明のネオン調で文字が浮かび上がった。
「は!? ジュンタ! これどうやってんだ!?」
「タっくん、またトンデモない事仕出かしてるしー!? でも、カッコイイけど!」
「ホログラムで表現したんですよ! カッコいいでしょう!」
「マジか! すげぇカッコイイなっ!! ホントお前は凄い奴だな!」
聞いたことのない楽曲が流れ、ホログラムは『 Hello! New World 』を表示する。
「え、この曲って? 前に聞いたライブには無かったよな?」
「うふふっ、私が作った曲よ。初のお披露目だから恥ずかしいんだけど」
「えっ! キラさんあんなに忙しかったのに曲まで作ってたのか!?」
「そうね、かなり忙しかったけど、好きな事をしてるとリフレッシュできるのよ。それに加速させたら私の時間の流れは皆の1万倍も余裕あるしね」
任せなさいと言わんばかりのテレ笑顔でサムズアップするキラさん。
「これからどんどん新曲作って『ARTISTS JAM』で彼女らを売り込んで行くわよー!」
ステージ上で素晴らしいパフォーマンスを魅せるアルテミス。
照明が赤を基調にしたカラーに変わり一気にアップテンポな別の曲になった。
みんなの衣装も橙色ベースの気合が入ったものに換装する。
ホログラムは『 Burn My Soul With You 』を表示し、ステージ後方も非常に近未来的な演出に変わり、それだけで引き込まれそうになる。
ネオンにフラッシュ、レーザーにホログラム。演出はド派手だ!
これは、流石に夜中に宇宙でやったら翌朝のニュースが大変な事になるだろう。
それと、歌い手が変わるごとに自分の感情状態が変化している事に気が付く。
「あ、流石に分かりました? 彼女らの能力をブーストして、バフ効果を上げる仕組みも組み込んだんですよ! バフを受ける対象は、彼女らがCTLを介して指定しているので、問題ありません」
「ちなみにこの曲を作ったのは、私じゃなくて晶ちゃんよ。何やらせてもそつがなくて器用。センスはもちろん、色々な技術に対する理解度も高い。凄い子ね、本当に」
「戦闘しか出来ないオレから言わせてもらえば、キラさんもジュンタも皆バケモンかよってぐらい凄いんだけどな」
「あ、分かるーっ! あーしも戦闘しか出来ないからー! みんなが凄く眩しいんだー!」
「そう言ってもらえると、頑張ったかいがあったって感じしますね」
「ホントにね、私も嬉しいわ。ありがとね、アゲハちゃん」
照明が暗くなると激しかったアップテンポが一転。ピアノが鳴り、照明は赤から青へと変わり、夜空を思わせた。衣装も白を基調としたものに換装。
ホログラムは『 想月 ~In Love with the Moon~ 』を表示する。
誰かを想う、そんな切ない感じの気持ちになる。
これは、オレが月に馳せる想いに似ている。手を伸ばしてもまだ遠い場所を想う歌。
「どう? リン、驚いた?」
「えっ!? この曲ってまさか天南さんが作ったのか!」
「そうだよー、あたし高校までピアノ習ってたから結構弾けるの。で、キラさんと晶ちゃんに乗せられて1曲ずつ作ろうって事になって作ったんだー!」
「みんなで宇宙に行った時の約束覚えてたんだな」
「もちろんだよー! みんな期待して待ってるんだからね?」
「ああ、いつか必ず行こう! 月まで!」
「あーしも! あーしも絶対一緒に行くからーっ!」
「うん! みんなで一緒に行こっ!」
ステージでは全3曲のミニライブが終わり、創造されたステージやらバンドマンが紙吹雪を散らして音と共に消えた。
アルテミスの衣装も私服に戻っており、深海も静けさを取り戻す。
「どーでしたっすか!」
「ヤバさMAXなの!」
「お姉ちゃん達! もうサイッコーでした! ほんとサイッコーでしたよ!」
「晶ありがとうだっちゃ! みんなのおかげだにゃー!」
「ステージも衣装も曲も! 全部最高でしたわ! 感謝いたします!」
「まだまだここはスタート地点、こっからばく進だし!」
「みなさんお疲れ様でした! 気になった点があれば、後で僕かキラさんまでお願いします。まあ、少しずつ改善していきましょう」
ジュンタが上手く皆のまとめ役になってくれているようだ。頼りになる奴だ。
「あのね、実はそれだけじゃないの。恋焦の言う通り、ここがスタート地点よ。アルテミスのみんな、よく聞いて。私は、あなた達を本物のアイドル、スターにしたい!」
「半分は僕の意見ですよ! 目標と言っても過言ではありません!」
キラさんとジュンタがまたもの凄い事を言っている。暴走? いや、本気……だな。
「えっと……キラお姉様どういうことですの?」
「先日立ち上げた会社『ARTISTS JAM』に所属する気はない? っていうスカウトよ。私達みんなで、あなた達がスターダムにのし上がるのをバックアップするわ! もちろんマネージャーもボディーガードも付く。ただし、所属した後の肩書は『プロ』よ! どう?」
「ウ、ウチらの夢が叶うのかにゃ!?」
「こ、腰が抜けそうだけど、使えるもんは何でも使うっす!」
「ふふっ、いい返事ね! でも、ビックリするのはまだ早いわよ。事務所となる社屋の物件購入も終わり、今は改修工事に入ってる。約一か月後には完成予定だけど、そこにレッスン室とレコーディング室も出来るわよ!」
「んなっ! や、ヤバさMAXなの!」
「まっ、マジかにゃぁーっ!?」
「夢の様ですわっ! 夢……じゃありませんわよね?」
「とうとう世界に恋焦を知って貰う、その時が来たんだし!」
「はいっ、今はここまでにして、残りは社屋が完成してからのお楽しみね! で、所属する?」
「「よろしくお願いしますっ!!」」
全員一致の力強い返事で、アルテミスも『ARTISTS JAM』の一員となる事が決まった。
「新生アルテミスの結成ねっ! おめでとうー!」
天南さんのお祝いの言葉と同時に、宇宙のような深海に皆の盛大な拍手が鳴り響く。
そんな、お祭りのような夜から数日後。病院からアルが消えた。
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