策
ここは、世界最大の地下組織、WORMSの日本支部、BUGS内にある私の執務室。
現在、支部長から下った「アマツ確保」の命令について、ここ、幹部統括室に各部隊長が集まり、会議が行われていた。
「では、次の議題に移る。アマツ確保に向けての進捗についてだが、各部隊どこまで進んでいるのか、報告と情報の共有を図りたい。あまり進んでいないようなら、私がもっと手っ取り早い手段を考えるが。……いや、まずは情報だな。報告を頼む」
小柄痩身で陰気さを纏うが、眼光の鋭い男。諜報担当、蟻の長「顎砕」。
「はい。我々蟻は対象アマツの行動を監視しておりました。対象の居宅に出入りする人間は固定されており、その人物らの情報は調べてあります。資料にあります通り、同じ学校の同級生と先輩。その妹。別の学校の後輩。この五人です。詳細は後で資料に目を通していただければと思います。対象アマツは学校に行かなくなったのち、ホストクラブでアルバイトをしております。蝶の部隊員がその際にアマツと接触を図り、面識獲得に成功しました。その後、仲間内で海へ旅行。その際、旅先で女性一人と親交を深めたもよう。地元、新庄市の祭りにも仲間と共に参加し楽しんでいる姿が見られました。九月に入り学校へ出向いたかと思いきや、退学届けを提出。後輩と二人で地元のアマチュアライブにも行ってましたね。ですが、支部長が仰った様な、超能力を使う様な場面は、残念ながら現在まで確認出来ておりません。ですが、旅行に出向いた際の交通手段が特定出来ませんでした。どこかで見落としが発生したものかと思われます、大変申し訳ございません。それと、旅行の際親しくなった女性が会社を設立したようで、アマツをその取締役に置いております。業種はコンサルタントとなっていますが、現在はまだ未活動ですね。監視を継続した結果から申しますと、もしかしたら我々が張り付いている事に気が付いている可能性もあるのかと。引き続き監視を行い、また新しい情報、目ぼしい情報について共有する様にいたします。報告は以上となります」
「あ、ああ……。ご苦労だった」
私は一体なんの報告を受けたのだ……。
この作戦は、アマツを我々の仲間として引き込む為に行っているはずだ。アマツの癖や思考向き、弱点などを押さえ、そこにつけ入る為の情報だろう? 諜報部隊とはそうあるべきだ。
頭が痛くなってきた。なんなのだこの「アマツ観察日記」のような幼稚な報告は。
お前達は単なる追っかけか? 半歩譲ってもストーカーの方がもっとマシな情報を取って来れるぞ。クソ程の役にも立たない低能共が!
「はぁ……っ。次の報告を」
今日の会議において一番重要な議題の出だしがこれでは、他部隊も……無理だろうな。
中肉中背、何処にでもいそうな普通の中年男。情報操作担当、蝙蝠の長「耳介」。
「SNS班と街頭班に分けた。いわば人海戦術。SNSでは負のイメージを広めた。テレビでも追い込む特番を繰り返しやらせている。街中では、わざと周囲に聞こえる様、同種の噂話を広めている。後は勝手に世間がアマツを追い込んでくれるだろう。情報操作は、最初の根さえ張れれば成功だ。現に、アマツは学校にいられなくなり退学した。成果は出ている」
情報操作で対象を追い込む。うむ、確かに間違ってはいないのだが……報告された進捗、成果が何とも乏しいというか、努力が実っていないというか。
「もっと、強めに行動を起こしていい。早く、世間からアマツをつま弾くように手を尽くせ」
「分かった。このまま継続し、圧力をかけていく」
もっと使える人材はいないのか? 世界を裏から支配するWORMS、その日本支部だぞ?
企業に言い換えれば業界最大手だ。業務内容と集まる人材が多少特殊ではあるが。それ故にセンスの有無が大きく左右する。この不景気、人手、人材不足はどこも一緒なのか?
不機嫌と落胆が重なり疲れが出る。話すのも億劫になり、顎をしゃくり次の報告を促した。
容姿端麗だが、キツそうな性格を漂わせた女性。接触・篭絡担当、蝶の長「翅脈」。
「蝶よ。私達の部隊は、アマツと接触出来る機会を増やす為、チームを組んで街中に散っているわ。メンバーのうち誰か一人でもアマツと濃厚な関係になれば、私達の勝ちよね? でも、事を急くやり方はスマートじゃない。彼、あんなにイケメンだもの、男が欲しくてガッツくような女にはきっと興味ないわ。まあ、先代の黒蝶だったらやり方はもっと違うでしょうけど、今の長は私よ。幸運な事に、素敵な魅力をもった部隊員ばかり揃っていますもの。切っ掛けさえあれば、アマツが落ちるのも時間の問題と思うの。だから、活動経費の方はしっかり精算お願いね、統括。これでも多少なりは彼と面識を持つ事に成功したのよ? 最終的にBUGSに引き込むなら、騙すようなやり方より、しっかりした絆を作る事に重きを置いた方が正解なんじゃないかしら。それが彼にとって魅力的で、都合がよくて、身体も好き勝手に出来るとなれば、なお強いものになるわ。私たちのやるべき事はちゃんと理解してるわよ? 焦らないの」
どの口からその言葉が出て来るのだ? 仲間内でも信頼を得られない売女共が! だからアマツもお前らに引っ掛かる事なく、未だ確保に至っていないのだろうが! アマツがもっと馬鹿なら事は簡単だったのだが……。
本当に使えないクズ共だよ。私が支部長のイスに座った際は、売女共は他国の支部にでも飛ばして、現地で慰み者となって働いてもらうくらいが関の山か。
なにせ私の好みにピクリとも掛からない女共だ、せいぜい駒となって組織の利に供せ。
「ふーむ……。やれやれ、皆さんは報告という物をご存じないのですかね。これで同じ部隊長クラスかと思うと、正直なところ眩暈が起きそうですよ」
長身痩身で忙しなく眼球を動かす男。計略・洗脳・後方支援担当、蜘蛛の長「八眼」。
見た目は生理的に受け付けない部類であるが、悪知恵の働く、まあ使える部類の人材だ。
「みなさん、早くアマツを確保する様、お願いしますよ。でないと我々の見せ場がありませんからね。仕事はスムーズかつ効率的に行わなくては意味がありません。今回の仕事、アマツが我々に賛同し組するのが最良ではありますが、そもそもの話、事の始まりの事件がアレですから、スムーズに作戦が運ぶワケがないのですよ。私が言いたいのはですね、手段を問わず、早いとこ拉致し、洗脳するのが手っ取り早い。そう言っているのです。ですよね? 統括」
ああ、こういう場面では役に立つ男だ。説明が少なくて捗る。
悪知恵が働くという事は、相手の考えに聡いという能力あってこそだからな。
「そういう事だ。今、八眼が言った通り、いつまでものらりくらりと油を売っていられる商売じゃない。事は迅速に、かつ的確に遂行せねば、お前たちの首が飛ぶと思っていた方がいい。成果の出せない人材はリストラが当たり前の世の中だ。それは我々BUGSとて同じ事。経過はもちろん大事だが、最終的には結果が全てというのが世の常なのだからな」
世の中には「急がば回れ」という大変便利な言葉がある。
だが私は、物事が遅々として進まない時の言い訳でしか聞いた事がない。
さっきも皆に言ったように、物事は結果が全てだ。急ぐ時は急ぐなりの行動をしなければ急げない。だから私は、この無能な人材共でも遂行可能な簡単な命令を下すことにした。
「今までのやり方では、時間も金も掛かりすぎる。なので作戦を変更する。これからお前達には、アマツ確保のために私が出す策で動いてもらう事になる。内容は――」
私は、現在意識不明となったまま現在も入院している「本栖 有」の拉致を命じた。
これまでのアマツの行動を考えると、まず間違いなく、本栖を助けるために行動を起こす。
捕らえるのが難しければ、向こうから捕まりに来てもらえばいいだけの事。
急がば回れとは、まさにこういう事を言うのだろう。
「なるほど、向こうからやって来た所を洗脳してしまえばいいと、そういう事ですね」
「そうだ。だがもちろん、事件性を勘ぐられる事の無いように。後処理もキッチリ行え。その後アマツに誘い出しをかけ、自らの意思で出向いて貰おうじゃないか」
「御意。我々、蜘蛛の得意分野ゆえ、その作戦の指揮を執らせてもらっても?」
「構わん! 作戦を立て、即座に行動を起こすように。さあ、本栖確保に動くのだ!」
そう締め括り、この会議を終わらせようと腰を上げる。
筋骨隆々で禿頭。落ち着かない様子から、何やら物申したそうに見える男。戦闘担当、蜈蚣の長「百足」が最後に口を挟んだ。
「統括……。支部長のイスを淡々と狙うってのは理解出来る。まあ、オレにもそういう所が無い訳じゃねぇからな。向上心あっての物種だ、分かるさ。でもあんた、今の自分しか見えてないよな? そんなんじゃ、いくらいい作戦を立てても、足をすくわれかねねぇ。今回は支部長の元々の方針に逆らってるわけでもねぇから、その案に乗ってやる。だが、あからさまに保身の為だったり、元々の方針に反するようなら……分かるよなぁ?」
私の目には見えないが、百足の纏う気のようなものが膨れ上がったのを感じる。
身体強化系の能力は、発動すると周囲に圧迫感を与えるので分かりやすい。
だが、少なくとも立場は私の方が上。生意気な態度が癪に障る。やり込める方法は……。
「百足、お前は何を言っているんだ? 支部長の命令を確実に遂行する為の我々だろうが。頭を捻って方策を出すのは当然のことだろう? それとも何か? お前にはこの作戦を邪魔しなければいけない何かしらの理由でもあると言うのか? もしそうだとすれば、それは明確な背信行為と言える。それを踏まえてもう一度言う。即座に行動を起こせ、本栖確保に動くのだ」
意趣返しされ、上手く言葉の出ない百足はグッと言葉を飲み込み、拳を握った。
「……チッ! 了解した」
八眼の蜘蛛部隊を中心として、まずは本栖の確保の作戦が練られるのであった。
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