本領発揮
二人には何か思う所があったらしく、キラさんが曲を、ジュンタがステージ周りを担当するとえらく張り切っていた。どちらにしろ時間はかかりそうだ。
ジュンタはオレ達のPACSアイテムと同じ機能を持った「弓型バングル」のアイテムを作り、アルテミスの皆に渡した。なかなかお洒落に見える。
「今、僕の頭の中にあるアイディアを形にして、使用可能になるまでの間、皆さんにこれを渡します。これは略称PACSといって僕が創造したアイテムです。これを装備すると皆さんは他の皆の能力を使うことが可能になります。リン君やショウゴ先輩、皆さんに力の使い方や戦闘訓練を受けてください、詳しい説明は後で晶さんから聞いてください」
「あたしもリンとミサキ先輩、アゲハに鍛えてもらったから、戦闘訓練いつでも言ってね」
「あーしもこう見えて結構強いんだー! 打撃、投げ、関節、絞め。なんなら長物までいけるからさぁー、覚えたいのあったら遠慮なしで言ってねー! 負けらんない戦いだから」
「悔しいが、冗談抜きで俺より夜乃の方が強いかもしれん!」
「「えっ! マっ!?」」
≪えっと晶です。まず、お姉ちゃん達には今からテレパシーの使い方を教えますね≫
「「ふぇっ!?」」
アルテミスの皆が晶のレクチャーを受けている間、キラさんは他の皆に相談を持ち掛けた。
「みんな、ちょっといいかしら? もし、知り合いとかいれば紹介してほしい人材がいるんだけど、話しを聞いてもらってもいい?」
「もちろん! あたしにそんな伝手があるかどうかは別として!」
「俺にも協力できることであれば手伝わせてくれ」
「え゙ーっ! あーしムリーっ! この仲間以外知り合いなんていないしー!」
「ちなみに欲しい人材って? 何か始めるのか?」
「ええ、ちょっと考えている事があって。私一人じゃ物理的に手が足りなくてね。それで欲しい人材は事務仕事が出来る人と、ボディーガードというかSP的な仕事をこなせる人よ」
「事務仕事ってどんな感じの内容? あたしのお姉ちゃんに聞けば何か出てくるかも!」
「知り合いに話すにしてもお金絡みの話はどうしたらいいんだ? 大体の目安とか」
「事務内容は、デスクワークから応対、スケジュール管理までかなり手広くやってもらいたいかな。なので多才で気配りの出来る有能な人がいいんだけど。お金絡みの方は……そうね、単純に現在の年収の倍額プラスαを約束するって言ってもらえばいいかな」
「年収? キラさん、会社でも作るのか?」
ショウゴの発言で、確かに人材とか年収って単語が出れば「なぜ?」ってなる。
「そうね、ここまで言っちゃったら内緒にもできないか。そう、会社を作るつもりよ」
「えっ!! あたし入るっ!」
「まだ仕事の内容とか何にも話してないけど、いいの? って言うか、初めからみんなを誘う予定だったわ。当然でしょ? だって私たちの為の会社を作るつもりだから」
悪戯っ子のような笑みを浮かべ、少し照れ臭そうにそう語ったキラさん。
「その時はよろしくね、さっちゃん、アゲハちゃん、晶ちゃん。ついでに男性陣も」
「マジで? やったぁー! これで就活しなくて済むーっ!」
「「そこかよっ!」」
オレとショウゴのダブルでツッコミが入るのであった。
「いや突っ込むのそこじゃなくて、男性陣はついでの所かとー」
「あーし、丁度働き口探してたとこっ! キラちゃん大好き、めっちゃ嬉しいーっ!」
「あ、もちろん高校卒業するまで待つし、将来やりたい事や就きたい職業があればもちろんそっちを優先してもらって構わないから」
「えっ! あ! ってことはこの間言ってたのってこれの事だったのか?」
「そう、こう言う事よ。優秀な人材は先に声を掛けておくものでしょ? ふふふっ。形になるまで楽しみに待っててね。みんな、よろしく!」
◇◇◇
「ねーお姉ちゃん、ちょっと相談事してもいい?」
「改まってどうしたの? まさか変な男に引っかかったって言うんじゃないわよね?」
仕事が終わり帰宅した「天南 あな」は、妹のさちこに相談を持ち掛けられる。
冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出し、景気のいい音と共に美味そうに喉を鳴らす。
「あのねー、あたしの知り合いの女の人なんだけど、今度会社を立ち上げるから事務仕事とか応対も出来る人材を探しててー」
「へえー、そんな知り合いがいるのね。職種と年収は?」
一気に半分は飲んだように、ふぅっと一息つきながら聞く。
「えーっと、どんな仕事かは聞くの忘れちゃった! でも年収は今の倍払うって言ってた!」
「ぶっ! はぁぁ!? それってヤバイ仕事なんじゃない!? このご時世、金融機関の年収の倍ってあり得るの?」
ビールを吹いて濡れた床を拭きながら答える。
「んー、そういうのはよく分からないけど、信頼出来る人だよ?」
「一応、転職したいって言ってる人は多いから聞いてみるけど、期待はしないでね」
「うん、ありがとうお姉ちゃん!」
◇◇◇
俺『岩上 拳』は今、振り込み詐欺案件で信用金庫にお邪魔している。
今日はスーツなので、一応窓口カウンターの女性職員に挨拶をし、振り込みをしてしまったご老人と、居合わせた職員の待つ応接室に案内してもらう所で携帯が鳴った。
「もしもし、天狗です、今電話しても大丈夫ですか?」
「おお! リンか! 大丈夫だ! ……と言いたい所だが、ちょっと今出先で対応中なんだ。 落ち着いたらこっちから折り返すが、それでいいか?」
「もちろんです。じゃ、また後で」
学校を退学した時以来だな。リンから電話をくれるのは珍しい。何の用だったのだろうと気になりながら、被害者と思われるご老人と居合わせた職員に挨拶をし、名刺を出した。
職員の方は『瀬尾 ドーラ』さんという総務部秘書室の女性だ。
非常に美しい方で、髪は金髪。彫りが深く鼻も高い。外国の方なのだろうか?
だが日本語はとても流暢だ。流石に「外国の方ですか?」と聞くわけにもいかない。
「まずは、状況から説明していただいてもよろしいでしょうか」
内容を聞くと典型的な還付金詐欺で、ATMに誘導され、言われるがままに振り込みを完了してしまったのだそうだ。
そこに瀬尾さんがたまたま私用でATMコーナーに来た所、スマホ片手にATMを操作をしていた高齢者を発見した為、これはと思い声を掛けたのだそうだ。
役席者にその旨を伝え、役席者が警察署に連絡。そして俺が現場に来たという訳だ。
振り込んでしまった後ということで、被害届を出してもらい、その後は被害者救済法に則って処理される。
「ということで申し訳ありませんが、一旦署の方にお越し頂いて、被害届の提出をお願いできますか?」
ご老人は娘夫婦に知られたくないと駄々をこねたが、瀬尾さんがそれを説得してくれた上、ご老人の手を引き「入り口まで一緒にいきましょう」とスムーズな誘導まで行ってくれた。
なんと気の利く女性なのだろう。感心しながら、俺はその前を歩き玄関に向かう。
午後3時を回ろうかという所、金融機関はシャッターを下ろす時間だ。
閉店時間ギリギリに駆け込む客は多いが、黒いパーカーを深く被り、手をポケットに突っ込んだまま店内に入って来た男三人と出入り口手前ですれ違った。
パーカーの中に見えたのは目と口だけ。
目出し帽? 強盗だ! と思った時にはワンテンポ遅かった。
「動くんじゃねぇっ! 声も出すなっ! 今すぐシャッターを閉めろ!」
「そこの女とそこの男以外、全員こっちに来て伏せろ!」
「残った二人! このリュック全部に万札詰めて今すぐ持ってこい!」
一瞬悲鳴が上がったが、男共が懐から取り出した拳銃を見せびらかした為、皆大人しく従うしかなかった。
俺は屈みながらご老人と瀬尾さんの前に位置して盾になり、二人に伏せるよう指示した。
二人が床に伏せるのを確認しながら、俺も伏せつつ周囲を確認する。
周りにあるのは、重そうなソファ、観葉植物、雑誌。
強盗の一人がカウンターに上り周囲の警戒。一人は銃を持ちながら入り口と裏口を警戒しながらウロウロ。一人は職員二人を連れて金庫室へ。
犯人たちの手際があまりにもスムーズ過ぎる事に違和感を覚える。
事前に下見も済ませ、しっかり計画された犯行なのか?
金庫室から声が聞こえる。
「早くしろっ! ぶっ殺すぞ!」
怒鳴り声が聞こえ、それに怯えた初老の男性が、裏口に向かって走ってしまった。
――ダーンッ!
カウンターの上にいた犯人の銃声が響き、同時に初老の男性が床に転がった。
「ゔあぁぁーっ!」
おそらく足を撃ち抜かれたのだろうが、さらに裏口に逃げようと立ち上がる。
ウロウロしていた男がダッシュで駆け寄り、飛び蹴りを喰らわせた。
「テメェ! このクソジジイっ! 頭ブチ抜くぞっ!」
カウンターの上にいた男が一瞬気を取られ、顔を横に向けた。俺は今、死角にいる。
スーツのポケットからスマホを取り出し、窓口カウンターを挟んで、俺たちが居る反対側に向かって放り投げた。
――ガンッ!
結構いい音がしてカウンター上にいた男の注意がそちらに向き、俺に背を向けた。
伏せの姿勢から一気に前にダッシュすると同時にソファを掴み、犯人の側頭部にソファの木部で思いっきり振り抜く。
横にぶっ飛び、頭から血を流した犯人。気絶していると判断し犯人の手から銃を奪う。
初老の男性の傍にいた犯人に向かってソファを投げ、その隙に犯人の両手を撃ち抜いた。
それを見ていた若い男性が犯人に飛び掛かり、羽交い絞めにし動けなくしてくれた。
「すまない、助かる!」
俺は拾い上げた2つ目の拳銃を手にし声を上げる。
「瀬尾さんっ! 皆を外に! そして警察に通報を!」
この場で名前の分かる人は彼女だけだった。なので指名し行動を起こすよう叫んだ。
「はいっ!」
大きく、かつ迷いのない力のこもった返事が返ってきた事に驚いた。
「よし! いい子だっ! 頼んだぞっ!」
いい子だ、は余計だったかもしれない。
金庫室にはまだ犯人一人と職員二人がいる。
今の騒ぎを聞いて金庫室の中から犯人が飛び出してきた。
逃げる人達に怪我をさせるわけにいかない。近くにある事務椅子を、犯人に向けて手当たり次第投げつけた。
犯人はたまらずデスクの影に隠れるが、行動を阻害出来れば一旦それでいい。
ロビーの方では次々と避難が進んでおり、我先にとパニックになっている感じではない。
瀬尾さんが上手くやってくれているらしい。
俺が隠れた目の前のデスクにカラーボールと木刀が見えた。
金融機関には、非常時の為に、追跡用カラーボールと撃退用の木刀が常備されている。
目くらましに、穴あけパンチやら色々な事務用品を、手あたり次第に投げ、その間にカラーボールをポケットに、木刀を右手に持ち左手に銃、もう一つの銃を後ろの腰に差した。
「人質は全員避難した! もう手詰まりだろう! 観念して投降しないか!」
「うるせぇっ! オレらにはもう後がねぇんだ! 金をなんとかしねぇと! こっちが消されんだよおぉ!」
「どういう意味だ! 俺にもわかるように教えてくれないか!」
瀬尾さんが警察を呼んでくれるまで、少しでも時間稼ぎをするつもりだ。
「うるせぇ! うるせぇっ! 組織には逆らえねぇんだ!」
組織? この場面でその単語が出てくるとは驚きだ。
押し問答をしながら時間稼ぎをしていたら、裏口から瀬尾さんがこっそりと戻ってきた。
「んなっ!?」
なんで戻ってきたんだ! 頼むから避難してくれ! と必死にジェスチャーする。
犯人の一人を羽交い絞めしていた若い男性が、瀬尾さんと入れ違いになるように逃げた。
瀬尾さんもそれに続いて逃げようとした所、犯人に足を掴まれ床に這いつくばる恰好に。
彼女を助ける為に駆け寄ろうとしたが、後方で隠れていた犯人が動く音が聞こえた。
撃たれる! 瞬時に判断し体を捻り、デスクの上を滑って身体を小さくした。
俺の体すれすれを弾丸が通り抜けていき、壁に弾痕が出来る。
瀬尾さんの足を掴んでいた犯人の手は、彼女の首元まで達しようかという所だった。
俺は彼女とその犯人の間に手を滑りこませ、引き金を引く。
――ダンッ! ダンッ! ダンッ!
銃の反動で左手首が逝ってしまうかと思ったが、銃の反動はとても柔らかいもので吸収されたようで、何故か無事だった。
叫び声とともに犯人がのけぞり、瀬尾さんから離れた。
瀬尾さんの胸に血が滲んでいるのが見える。
「大丈夫か!? 怪我は!」
「大丈夫です! 返り血です! それより手がっ!」
自分の手を見ると返り血というか付いており、それが彼女の胸に流れたようだ。
「ああ、大丈……」
言葉の途中だったが、瀬尾さんが俺の左手を胸に抱き寄せ
「無茶をなさらないで下さい! どうか命を大事に!」
俺は、今が非常時という事も忘れ、目をパチクリさせてしまった。
「これは私がっ!」
俺の手から銃を取り、両手で構え、残りの犯人の方に顔を向ける。
「私、たまにアメリカの父の実家に帰った時に撃ってましたの」
普通なら、今のこの状態で出ないであろう笑みを浮かべた彼女は、一言、勇気をくれた。
「勝ちましょう!」
そう言うと、俺よりも先にデスクの影に隠れ、犯人を見据えるのだった。
その日の夕方、新庄市で起きた銀行強盗事件とそれに立ち向かった警官と女性職員のニュースが全国に流れた。
世間は「勇敢に立ち向かった」「市民を危険に追いやった」という意見に割れた。
一般市民である瀬尾さんが銃を手に取り、犯人と銃撃戦を繰り広げた事は、必ず面倒な事になるからと機転を利かせた岩上さんは、全部自分がやった事にした。
一般市民が犯人の銃を奪い交戦することは、正当防衛に当たるとしても、司法判断が必要になるからだ。
現場にいた被害者達のインタビューでは。
「彼がいなければ自分らはどうなったか分からない、助けてくれて感謝している」
というものばかりだった。
日本では銃の発砲は非常に大きな意味を持ち、たとえ銃を所持している警官でさえ、撃つことに対し相当の覚悟を必要とする。
結果、岩上さんは「判断を誤り市民を危険に晒した」と判断され、減俸および降格処分。
「――って事でな! スマホは壊れたし、護る事とか正義を貫く事が出来ない職場なんて、こっちから願い下げだって辞めてやった! あっはっはっは!」
本当にこの人は人がいいというか、気持ちのいい人だなと感じる。
「そっか、お疲れ様。それとオレにとっては好都合、かな?」
「好都合? そりゃまたどういう事だ?」
岩上さんは警察も辞めて今はただの無職。敬語はナシで親し気にフランクに話してくれって言うのでそうした。オレ自身その方が楽だしな。
「事件の前に電話しただろ? まさにその件なんだよ」
オレは、岩上さんをキラさんが作る新しい会社にスカウトした。
◇◇◇
「ただいまー、流石に今日は疲れたー」
「お姉ちゃん! お帰り! 今日大変だったね! どこも怪我してない!?」
あなは、強盗事件の現場に居合わせ、警官の岩上さんという人が皆を救ってくれた事をさちこに話した。
「岩上さん!? あたし知ってる! さすが警察官の見本みたいな人だね! ってか、前に焼肉ごちそうしてもらった事あるよ!」
「ちょ! さっちゃん!? 一体どういう交友関係してるの!?」
「大丈夫! すごくイイ人だし、同級生のお兄ちゃんみたいな感じの人だよ。その同級生も岩上さんの事すごく信頼してるし」
「そ、そうなの? まあ、いいわ。それでね、お客さんを避難させた後に中に戻っちゃった先輩が、今日付けで仕事辞めちゃったわ」
「え、なんかまずい事でもあったの?」
「理由は分からないけど、皆に迷惑かけちゃうからって言ってたわ。あ、祭りの時に私と一緒に歩いてた人よ、金髪の」
「えっ! セオドラさん!?」
「何で知ってるの!? さっちゃんの交友関係ってほんと一体どうなってるの!?」
「お姉ちゃん! セオドラさんに前に言ってた人材探してるって話してみて! お願いっ!」
天南あなから連絡をもらった瀬尾ドーラは、退職したその日のうちに、新しい職を見つけるのであった。
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