その時が近づいている
夏祭りが終わると、一気に秋の気配を感じる程に季節の変わり目がやって来る。
夏休みも終わり、みんなは学校が始まる。
進学の為に勉強する者、就職の為に活動する者、多少なりとも世間は忙しくなる。
「そろそろケジメをつけないといけないよな」
高校ぐらいは卒業したほうがいいのは充分理解しているつもり。
現状、何のために通うのか? に答えが出せない。
きっと、それが今の答えなんだと漠然と理解することにした。
要は「今出来ることを好きにやればいい」という極論の完成である。
とりあえず、現状一番気持ち悪く感じているものを整理しようと思い立ち、学校に電話を入れ自主退学したい旨を伝えた。
ルールとして退学届を提出する必要があるらしく、今から向かいますと伝えた。
約五か月ぶりに目にする校舎は、粉々に破壊して跡形もない程に消し去りたいという忌避感しか残っておらず、心臓がグっと苦しくなる。
だが、アゲハや天南さん、ショウゴが現在通っているし、アルが今後目覚めたら復学するかもしれないと考えると、なんとか我慢も出来た。
そういう想いを持っている事を自分で理解しているので、なるべく平静にいるよう努めながら、職員通用口から校舎に入り職員室へと向かった。
ドアを開け中に入ると、丁度授業がなかったのか、担任がいたので頭を下げる。
「おお、天狗か、久しぶりだな。どうだ、元気にやっとるのか?」
「ええ、まあそれなりに平穏な生活を送っていますよ」
「お前も大変な目に遭ったなぁ、あの事件さえなければ……あ、いや悪い、失言だった」
「いえ、大丈夫ですよ」
「んで、学校辞めてこれからどうするんだ? どっか働き口でも見つけたのか?」
「それは今後ゆっくり考える事にします、とりあえずは親が残した貯えがあるので」
「そうかー、先生も長い事安月給のサラリーマンやってるが、案外そう悪くもないもんだぞ、まあ良くもないがな? はっはっは!」
温厚に話を進めるこのおじいちゃん先生の事は案外好きだ。
「そういえば先生、本栖って今学校でどういう扱いになっているんですか」
「ああ、入院して二か月程経った頃だったかなぁ、親御さんからいつ意識が戻るか分からないからってことで退学を申し出てきてな、お前より先に学校辞めちゃったなぁ。明るくて周りをよく見て気を配れる凄い奴だったのになぁ」
先生がアルをちゃんと見ていてくれた事、オレは嬉しく感じた。
「そう、だったんですね。たまに病院に見舞いに行ってたりしてたんで」
「できるならこれからも顔見せてやってくれると、あいつも喜ぶんじゃないか?」
「ですね、そうします」
「それで退学届けなんだが、記入欄に保護者名と保護者の印を押すとこがあってなぁ、だれか親戚とかおらんか?」
「親戚ですか……、両親を亡くしてからは、親戚付き合いしていた絹路の家に、色々と世話になりましたが、事件以降まだ顔を出せてなくて、まして血縁ではないので」
「うん、まあ必ずしも血縁でなくてもいいんだ、お前の後見人的立場になってくれる人に当てとかないか?」
「それは成人していて、かつ保護者的立場に了解を貰える相手ということですか?」
「そうだな、必ずしも成人している必要はないとは思うが、まあ、その方が好ましいだろうな」
当てはまるのは……キラさん?
いや、歳も近いし住所も遠い。そもそもどんな関係なんだって面倒臭い事になりそうだ。
なら……セオドラさん?
いやいや、もっとダメな気しかしない! 更に面倒臭い事になりかねない。
あとは……って本当に知り合いが少ないなオレ! スマホで連絡先一覧を見ると一人だけ頼れそうな人を見つけた。
「先生、ここで電話しても?」
「ああ、構わんよ」
早速電話を掛けるが、仕事中だろうし、まして忙しいだろうなと期待せずコールする。
「リンかっ! そっちから電話くれるのは珍しいな! どうした、彼女でも出来た報告か?」
「いや、ちげーよ! というか、ちょっと頼みごとがあって……」
相談したら快くOKしてくれた。しかも、近くに居るからすぐ来てくれるそうだ。
数分もすると職員室にデカイ男が現れた。
「あのー、こんにちはー、新庄警察署の者ですがー」
青色の制服を着た警官が入って来たので、職員室にいた女性の先生が勘違いをしてしまう。
「えっ! どこのなんて名前の生徒ですか! 何をやらかしたんでしょうか!」
「ああ、岩上さん、こっちこっち!」
「おお、リン! 悪いっ、待たせてしまったか?」
「いや全く、寧ろホントすぐ来てくれて、感謝しかないですよ」
「いや、驚かせてしまい申し訳ない。新庄警察署生活安全課の岩上と言います」
職業柄なのか分からないけど、印鑑は常に携帯しているらしく、俺が記入した退学届けの保護者欄に快く記名捺印してくれた。
先生と少し会話を交わし、職員室を後にする。
「先生。こいつは、私の弟みたいなもんなんです。なのでご心配には及びません! 安心してください。それでは失礼致します」
ピッと敬礼すると玄関に向かう。
「これから家に帰るのか? 折角だから送って行くぞ」
親指で車に乗ってけってジェスチャーする。
「って、パトカーじゃん! 誰が見ても連行されてるようにしか見えないんだが」
「まあ俺も一応警官だからな、それにパトカーなんて普通そうそう乗れねぇぞ?」
その誘惑と好奇心に勝てずにパトカーに乗って家の前まで送ってもらった。
「助かりました。 成人しないと何にも出来ませんね日本って国は」
「まあ、そん時はいつでも俺を頼ってくれ! くだらねぇ事でもなんでもいいからさ」
「そん時は遠慮なく」
ニッと笑て車を出そうとしたが、何かを思い出したらしくパトカーから降りてきた。
「そうだ、これを伝えなくちゃイカンな」
そう言ってボリュームを落とし、小声で話始める。
「例の事件、実行犯グループの後ろに反社集団、さらにその後ろに地下組織が絡んでるかもしれないっていう情報が入った。前に壊滅した暴力団があっただろう、あいつらから出て来た情報とエボ爺が抱えてる情報屋の内容がほぼ一致したって話だ。その地下組織ってやつの実態も情報もまだ掴めてない。おそらく前にリンから調書を取った時に聞いた組織って奴らと同じだろう。もっと時間かけて追っていけば更に情報は集まってくる、そん時にまた伝える」
そして声のボリュームを戻した。
「って事だ。いいか、くれぐれも無茶な事はするなよ! んじゃまたな! リン!」
「岩上さんの方こそ無茶しないように! 助かった、ありがとう!」
家の前からパトカーが走り去る様を見て、ご近所さんは訝し気に視線を送ってくる。
あの事件について、巷では未だに話題にされる事もあるだろうし、事件の奇妙さを気味悪がったり気持ち悪く思う人も多いだろう。
しかし、今の情報にあった「地下組織」と、あの夜に奴らが言っていた「組織」は、アゲハが話してくれたBUGSだ。情報も揃ってきた。殲滅する為の力もついてきた。仲間もできた。
オレ自身の悔しかった気持ち、復讐心を満たすだけの自己満足かもしれない。きっとアレコレそれらしい理由を付けるかもしれない。もしかしたらそれは皆の信頼を裏切る事なのかもしれない。けど、その時は近い。ただの殺人者になろうとも、オレはやり遂げる。
全ては復讐の為。麗の仇、オレ自身の為。そして、アゲハの心を救う為。
その為には作戦が必要だ。アゲハの言う通り、相当デカイ組織なのだから、気取られたらそこでゲームオーバー。さあ、どうやろうか。
学校が終わってから真っすぐ(裏庭から)ウチに来たアゲハには直接話したが、天南さんとショウゴにはその日の夕方、テレパシーで退学した事を報告した。
するとその話は既に広まっていたらしく、学校にパトカーが来てオレが連行されて行っただの、街で暴れただの、ホストクラブで働いてるだのと、噂になっていたのだと聞いた。
言ってしまえば全部事実なのだが、あちこちで噂が立った。そのせいもあり、数日後には事件のほじくり返しで視聴率を稼ぎたいのか「あの事件の人はいま」などという内容で、テレビ特番が流れたり、あることない事捏造して言いたい放題されている。おかげで家の周りを怪しい人間がウロチョロしているのが分かる。
情報屋とかメディア関係だろうか? 地下組織って事も考えられる。
何ていうか、こう、包囲網を敷かれて逃げ場がなくなってきている感じだな。
そんな状態の中でも、仲間の皆はオレの側に居てくれる。
オレは皆にその時が近づいている事を話した。
≪反社や暴力団のバックに地下組織、よくある話ではあるわね。海外のテロ組織なら定番のパターンだわ。復讐だろうがなんだろうが、もちろん私も協力するわよ≫
≪僕もあれからキラさんに色々教わって出来ることが増えました! 僕たちの力、目にもの見せてやりましょう!≫
≪いいのか? オレのこの個人的な復讐心は、最終的に人を殺す事になるんだぞ?≫
≪テレビやネットでリン先輩の事を好き放題、好き勝手言ってる人達なんて、全員滅ぶべきです! むしろ私が葬ってあげます!≫
≪あたしだって怒ってるんだから! はらわたが煮えくり返るってこういう事なのね!≫
≪事態が落ち着くまで、能力の使用は厳禁だな。間違っても飛んだりするなよリン≫
≪ああ、もちろん気を付ける。それと、皆もオレと接触をしない様に気を付けてくれ。飛び火は避けたい。特に天南さんと晶な!≫
≪えーっ! みんなで家に遊びに行く位いいじゃーん! ってかアゲハは?≫
≪あーしはリンが困る事はしませーん! ってか、ホント大人しくしてた方がいいと思う≫
≪……ちょっと、邪魔な人類を滅ぼしてきますね≫
≪ちょっと、リン君の為を思うならそういうのは止めておきなさい。アゲハちゃんの言う通り大人しくしている事が今は一番の協力になるのよ? それに、自由が利く私たちは、その時が来た時の為に能力の使い方や戦闘を前提とした強化訓練をしておくべきよ≫
≪あ、そういう事ならあーし役に立てるかもーっ! 実は結構武闘派だしー≫
≪あたしも空手黒帯だったからそれなりにやれるわよ! 戦闘訓練しよ!≫
≪皆、悪い、恩に着る。オレはなるべく普通にして……いや、みんなの自由が利くように、世間の目をオレに注目させておくかな≫
≪リン君、あまり無茶はしない様に。それと、定期連絡は皆こまめに取っていきましょう≫
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