強化合宿最終日 飛躍
次の日、早めに起きて朝食をとった後、8時にはチェックアウトし、宿を後にした。
送られてきた場所は鶴岡市の中央商店街通り。目立たない所に着地してしばらく歩くと前方で手を振るキラさんが見えた。
「おはよう! 朝早くから申し訳ないわね、わがままに付き合わせてしまって」
「そんな事ないですよ。言ってしまえば、私たちの住んでる所から秒で着きますから!」
晶がキラさんの手を取り、ブンブン振りながら話す。
「そ、そうだったわね……。新庄市から鶴岡市までは60キロ……あ、直線距離だから40キロくらいかしら? 昨日の宇宙に到達した時間を考えればホント秒ね。つくづく私の常識が崩れていくわ」
「これからはいつでも会えるんだよーキラちゃん!」
「きっ、キラちゃん!?」
アゲハの人たらしスキルはいつもながら凄いと思う。あっという間に距離感を縮めた。
「で、これからどこに向かう予定なんだ?」
ショウゴが先を促す。
「そうね、私の家に来てもらっていいかしら。すぐそこだから」
商店街裏に入ると一般住宅が並んでおり、本当に一分も歩かないで着いてしまった。
「中古物件を買ったの。中はリフォームしたり、色々弄ったからそれなりよ?」
キラさんはドア横に付いてるインターホンを押し「ただいま」と声をかけた。
「キラさん一人暮らして昨日聞いたけど、誰かと暮らしてるの? お邪魔して大丈夫?」
天南さんが心配になり聞く。
「いいえ一人暮らしよ。大丈夫、問題ないわ」
その言動の不一致に違和感を覚えるが、その意味がこの後分かった。
ガチャっとドアのロックが内側から外れた音がしたので、キラさんはドアを開ける。
「あまり広い家ではないですけど、どうぞ」
玄関をくぐるオレたち。中に入ると聞こえて来る想定外なお出迎えの声。
「オカエリナサイマセ キラサマ イラッシャイマセ オキャクサマガタ」
「「はぁぁーっ!?」」
「部屋を案内するわね。セキュリティの解除をお願い」
「カシコマリマシタ システムルームモ カイジョシマスカ?」
「ええ、お願い」
「「な、なっ……なんですかこれはーっ!?」」
晶とジュンタが珍しくハモった。確かにこれはそうも言いたくなる。
「さっき色々弄ったって言ったじゃない? 玄関のロックも声帯認証と指紋認証、ドアに隠しカメラで顔認証。この三つがマッチしないと開かない仕組みにしたわ」
「失敗して開かない時はどうするんですか?」
「その時は、パスコード入力用のキーボードがドアに照射されるから、それを入力して後は物理的に鍵で開けるわ」
「あたしも工業高校だからだけど、この異常さはむしろ萌えねっ!」
「わかりますか天南先輩! 萌えですよね! 凄すぎですよキラさん!」
天南さんとジュンタは盛り上がり、晶に至ってはその域を越えてしまったらしい。
「……カワイイ」
と言いながら目をキラキラさせている。
「ってことは、さっき言ってたシステムルームで制御してんのか?」
「そうよ、正解、今から案内するわね」
「いいんですか!? キラさんの生命線じゃないんですかソレって」
ジュンタがちょっと及び腰になって聞く。
「何言ってるのよ、あなた達の存在自体がもっとヤバイわよ!」
「キラさん……それ既にブーメランなんじゃないか?」
「……確かにそうね。昨日、話したい事が出来たっていったじゃない?」
「あ、うん、言ってたな」
「まずは、これを見てくれない? 開けて」
「システムルーム オープン」
機械音声がそう言うと横スライドでドアが開いた。
よく映画やアニメで見るような感じと言えばいいのか。沢山のモニターとLEDが光りながらブレード型サーバーが何台も稼働している。
複数のモニターには市況やチャート、板が忙しく動いており、よく見ると売買も自動で行われているように見える……
「……は? 今、一株8万円を千株単位で買ったように見えたが? え? えっ!?」
オレの計算能力がバグってしまったようで単純な掛け算ができない。
「リン君……8千万円……ですね」
ジュンタが代わりに計算してくれた。……って、何だって?
「はっせ!? 8千ま、えっ!? ……今、8万3千円で売らなかったか……?」
「売ったわね」
「3千円×千株で3百万円の儲け……ですね。ものの30秒で……」
「キラちゃん、ヤバすぎて逆にウケるんだけどーっ!」
「ホント、お金稼ぐのなんて笑えるぐらい簡単よね。こんな感じでお金なんて勝手に増えていくから、有り余ってるの。税金は痛いけど」
皆言葉が出なくなっているが、キラさんはお構いなしに話を進める
「でね、話したい事っていうのは、私の能力についてなの」
指差されたモニターに目を移すと、パソコンがものすごいスピードで操作されていき、様々なアプリケーションが起動され操作され終了し、最終的にモニターに映ったのは……
『これが私の能力みたい』
という文字。
「これが、話したかった事なんだけど、何か聞きたい事あるかな?」
その後は質問の嵐になったのでリビングに移動し、キラさんが入れてくれたコーヒーと、さがえ屋の煎餅を食べながら落ち着いて話した。
「つまり、キラさんの意識がコンピュータやネットに直接介入するような感じですか?」
ジュンタがグイグイと質問攻めにし、キラさんは面白がってそれに答える。
「大体そんな感じ。でも、普通に操作しても、そのスピードなんてたかが知れてるわよね?」
ジュンタは一瞬考え込み、ハッと何かに気付く。
「もしかして! 思考加速ですかっ!」
「ふふっ、正解よジュンタ君、頭いいわね」
顔を赤くするジュンタだったが、一言「マジか……だとしたら」と考え込んでしまった。
「晶ちゃん、思考加速ってなに?」
「はいっ! 私がさちこ先輩にわかりやすく説明しましょう!」
立ち上がって思考加速が如何なるものなのかを力弁し教えてくれた。
「なるほどね、大体分かった! ぶっちゃけ、脳がCPUに置き換わったってことね!」
大雑把な理解を披露してしまったところで、突然ジュンタが立ち上がる。
「キラさん、ちょっと二人で話したいんですが」
「え? ええ、いいわよ。じゃあみんなは寛いでて。シアターモード」
何やら命令文っぽいのを言うと、カーテンと暗幕がシャーっと走り、天井からスクリーンとプロジェクターが降りてきた。
「サクヒンノタイトル マタハ ジャンルヲ シテイシテクダサイ」
女性陣のテンションが爆上がりした。
ちなみにスクリーンが大画面だったので、映画はヒーローアクションものになった。
映画一本が終わると、ほぼ同時にキラさんとジュンタが戻ってきた。
「僕とキラさんの能力の合わせ技で、かなりヤバイもの作っちゃいました!」
「作っちゃったわ。ジュンタ君の能力って相当異常ね。チート的な意味で」
「大抵の事ではもう私は驚きませんよ?」
「アーちゃんと同じく、あーしも大分慣れた!」
かなり興奮した様子のジュンタ。相当ヤバイもの作ったんだな?
「それは! これです!」
出てきたものは「ファッションリング」と「音響ミキサー」それと「ノートPC」か?
「ジュンタ、これは?」
「まず、これらは僕の能力で作ったアイテムです。このリングには、装備した人の能力を一つ登録、というかパスを通す事が出来ます。そして登録された能力は、リングからこのミキサーに送信されます」
「「う、うん?」」
「例えば、五人がリングを装備して能力登録すると、このミキサーにはリン先輩、ショウゴ先輩、アゲハ先輩、天南先輩、晶さん、五人の能力が集まってきます。集まった能力をミキサーはリングに送信し、リングはそれを受信します。そうすると何が起こりますか?」
「……みんなの能力が使えるようになる……って事で合っていますか?」
「晶さん正解! まあ、他の人の能力を借りるっていうのが本当の所ですね」
「「マジ?」」
「ヤバいを通り越しちゃったわね……」
「個々のアイテムは、僕が制作時に機能の方向付けをしてあるので、あとはI/O制御をこの能力で作った管理用PCを使って、キラさんが作ったプログラムを思考加速と同期して、自動処理で実行するので、自分以外の能力を借りて使う時も実質ラグ無しで使用可能です」
「……ジュンタ、俺にもう少しわかりやすく説明してもらってもいいか? こう、具体的な例でその仕組みを理解しておきたい」
「I/O制御なら私が説明するわ」
「すまん、よろしく頼む」
「そうね、全体的なイメージに例えるとしたら、バンドの演奏が一番近いと思うわ。例えばミサキ君がギターを演奏して、その音をヘッドホンで聞いていたら、他のベース、ボーカル、キーボードやドラムの音って聞こえないわよね」
「ああ、確かにそうなる」
「全ての楽器の音をミキサーで集めて、そのヘッドホンに返したら全部聞こえるわよね?」
「なるほど! 凄く分かりやすい!」
「あーしも理解した! キラちゃん分かりやすい!」
「で、ポイントはリングに登録できる能力は一つだけって事と、おそらくジュンタの創造とキラさんの思考加速はオレたちには適用されないって事。リングを通して使えるようになる能力は装着者の意思を反映して制御できる。ってところじゃないか? 多分だけど」
「リン先輩!? それはアレですか! 新しい能力に目覚めたとか!」
「いや! 真面目に答えたらディスられるってどうなんだよ?」
「正直驚いたわ、後で説明しようと思ってた重要な点よ、それ。」
「流石リン君ですね、その点に関しては僕から」
「リングに登録出来る能力は一つなので、似たような能力がダブってしまった場合はリソースの無駄になるので、良く話し合って無駄のないように登録してください。共有された能力は、装着者の意思を反映して使う事が出来ます。例えば、リン君が共有された晶さんの防御障壁を使うといった場合『どこに(座標指定)』『どのくらい(数指定)』『どのくらいの大きさで(サイズ指定)』『いつ(開始指定)』『何をするのか(アクション指定)』といった様々な細かい指定をすることが可能です。細かい処理の流れですが、先ほどのその様々な意思というか、指定情報をリングが読み取ってミキサーにそれを送信します。ミキサーは受け取った情報をPCへ受け渡して処理を依頼。PCは受け取った情報に見合う能力リソースを、該当するリングの装着者から引き出すようミキサーに依頼を返します。ミキサーはそれをリングに送信し、リングは依頼された量の能力リソースを装着者から引き出し、ミキサーを経由してPCへと返します。PCは指定情報を能力リソースとミックスし、所謂コンパイル的な処理をして、最初の依頼者に実行可能な状態で返還します。そして共有された能力が発動される、という仕組みです」
「それを瞬時に、タイムロス無く処理して発動させる訳ですか……。ジュンタさんもキラさんも、もはや化け物レベルですね」
「キラさんの思考加速って、実際どのくらい早くなってる感じなの?」
天南さんが何やら期待を込めた目で聞く。
「そうね、普通の人が感じる一秒と比較したら……ざっくり一万倍くらい? かな」
「え? 一万倍?」
「はい、タっくん計算!」
「はい! 普通の人の一秒が、大体二時間半くらいになる感じですね」
「「はぁぁーっ!?」」
そんな感じで説明が進み、各々登録する能力を何にするか相談しようとしたのだが。
「はいっ、質問! 学校に指輪は無理あるから、形変えたりって出来ない?」
「そう言われればそうですね、私まだ中学生なんで、指輪とか無理です」
「確かに! 希望のアクセサリーはありますか? あ、腕時計とかでもいけますよ」
ということで、天南さんと晶はネックレス、ショウゴとジュンタは腕時計、オレとアゲハとキラさんはリングにした。
「え! 時計ってG-SHOCKぽい形じゃん! あたしも時計がよかったかなー」
ちなみにオレのリングは、以前に買ったガブリエルの羽の対称形にしてもらって右手中指に装着した。
アゲハはもちろんオレとお揃いだ。
何故かそれを見た天南さんと晶もフェザー型のネックレストップに変更した。
登録する能力はこうなった。
オレは、皆が各々自由に飛べるように念動力を登録。
晶は、オレの連弾とか散弾が可能になるといって防御障壁を選び、ショウゴは身体強化。
そして天南さんとアゲハは選べずにいた。
「あたしの能力って未来視だけじゃん? だから後で登録しても大丈夫? かな?」
「いつでもいいと思いますよ、さちこ先輩の能力って、何かもっと面白いことになりそうな気がするので、待ちましょう!」
「あーしの場合は、能力が飛行と身体強化だからダダ被りじゃんねー? だから、新しい能力に目覚めた時の為にとっておこうかなーって」
「そうですね。今無理に登録しなくても皆の能力共有はされますから大丈夫です! あ、それと装備したアイテムの送受信はテレパシーの一部を使っているので、まだテレパシーが使えてなかった僕、ショウゴ先輩、キラさんも副次的に使えるようになってますよ。」
「本当ですか! ならこれでいつでもみんなとおしゃべり出来ますね!」
「僕もキラさんに色々教えてもらわなきゃ!」
「お、お手柔らかに頼むわね?」
「そうだジュンタ! 出来ればなんだけど、テレパシーに映像とか画像も送れるようにならないか? 例えば今見ている視覚を共有したりとかさ」
「ショウゴ先輩が言ってたやつですね! なんか出来そうな感じもするので、また別の機会にでも考えてみます!」
「「それは楽しみ!」」
「では! リングの準備も終わったので、システムの起動をしたいと思います! が! その前に、このシステムの名称を発表します「 Psychic Abilities Connecting System 」略して、PACSです!」
「「おおーっ!」」
皆から拍手が上がる。
「それでは! 起動します!!」
ジュンタがミキサーを、キラさんがPCを起動すると、何やら不思議な感覚に包まれた。
「なんだか、不思議な感覚ね? 皆のオーラに包まれているというか」
「共有された能力が流れてきたことで、私自身がベリファイ、最適化されたような?」
「これであたしも頭良くなって、テストも楽勝?」
「なっ! サッチ天才か!?」
「いや、そんな機能はないです!」
「「えーっ! 頭の良くなるアイテム作ってー!」」
「か、考えておきます。 えっと、期待しないで待っててください?」
≪これでテレパシーも皆に伝わってるのかしら?≫
≪わぁ! キラさん! バッチリ聞こえるよー!≫
≪共有能力の方はどうでしょうか?≫
≪それなら大丈夫です、私を見てください≫
リビングの中で、晶が宙に浮いている。
「よっし! 大丈夫そうですね。ならPACSは常時稼働しておきますので、皆さん練習というか訓練しておいてください。調整が必要なら僕かキラさんに連絡をお願いします」
ミキサーに向かってジュンタがアイテムの腕時計を向けると、ミキサーは吸い込まれるように消え、同じようにキラさんもリングにPCを吸い込んだ。
「え、今のは何ですか? そのアイテムに収納されたように見えましたが」
「その通りよ。私とジュンタ君はアイテムに能力を登録しないかわりに、その空きリソースを使ってアイテムを収納できるようにしたの。なにか変更とか調整が必要になったときに、毎回ここに戻って来るわけにもいかないでしょうし、持ち運び出来たほうが便利でしょ?」
「凄いとしか言葉がでないな。不出来な俺からだが、本当にありがとうを伝えたい」
「私もです、リン先輩との連携が飛躍的にレベルアップしたので感謝です!」
「僕もキラさんがいなかったら実現不可能でした」
「それは私も同じよ、皆ありがとう、感謝しているわ」
きっと、誰一人欠けても今この瞬間に辿り着くことは出来なかったのだろう。
未来は振り子の様なもの。オレがあの時に掴んだ未来があったからこそ、今があるって事なのか。麗の犠牲ありきだなんて、人生は意地悪だ。
「そうだジュンタ! テレパシーで意識不明の人を起こす事は出来ないか!?」
「どうでしょうか。何が起こるのか想像がつきませんね。考えておきます」
「頼む。目覚めさせたい奴がいるんだ」
なんかちょっと妙な空気にさせてしまった。
「あ! そうそう! さっきの連弾とか散弾ってなにかしら?」
キラさんが話題を変え、晶が超新星爆発や紫電轟雷について説明をした。
「なるほど。だと、先日の地震って、ソレが原因だったのね」
頭を抱えたと思ったら大笑いするキラさんだった。
今後はテレパシーなり、集まるなりする事にして、オレ達は二泊三日の合宿を終えた。
「じゃあ、またすぐに会いましょ」
誰が言い始めたって事でもなく、皆で拳を合わせ「また」と円陣を組んだ。
得た事の多い、とてつもなく濃い三日間となった。
風呂に入ろうと思ったが、精神的な疲れが襲ってきてオレはそのままベッドに倒れ込んだ。
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Side Story があります! 目次「 Side Story 」の章に掲載。
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