強化合宿一日目 いざ、湯野浜へ
地下組織BUGSでは、各部隊からの活動報告が幹部統括に上がってきており、取り纏めた内容が支部長に簡潔に報告された。
「報告致します。蟻による情報収集は現在も遂行中。例の事件で入院が続いていた対象アマツについては現在退院済み。モトスは未だ意識不明のまま入院が続いています。アマツはその後学校へ復帰するも、その日を最後に学校には行っていない模様。その際、教室および建物の一部を破壊。能力を使用したものと思われる証言多数。メディアによるネガティブハロー効果も相まって、周囲の印象が徐々に悪化しています。一方、熱狂的な信者も現れ、Rと呼ばれる集団をなしてきているのが現状です。人間関係は狭く、現在、これと言って目立った行動は見られておりません。次に、蝙蝠による情報操作ですが、対象のアマツに不利益となるよう、各種メディアを使い流布を促しております。先ほどの報告と重複しますので、詳細は割愛します。一旦、世間の関心が落ち着いてきた頃を目処に、再度メディアにて特番等を組ませ、情報による包囲網を敷く予定。我々に傾くよう動いてはおりますが、成果が発揮するまではしばらく時間が必要との事。次に蜘蛛です。現在、効率的かつスピーディーに対象を確保出来る策について、検討を重ねている段階です。蜈蚣ついては現在静観の構えです。ただ、蝶に至っては対象との接触に成功したと報告が入っております」
支部長の聞くに堪えないといった表情が、一気に険しいものに変わり、声を上げる。
「なに! それを先に報告せんか! 貴様の話は長くて堪らん!」
「はっ、申し訳ありません。対象が夜間、街を歩いている事が確認された為、蝶の数名が偶然を装い声を掛けた所、ホストクラブ呼び込みのバイトを始めたとの事で、急遽増員し数十名で店に潜入。アマツと面識を持つことに成功したとの内容です。」
「なるほど、何とも蝶らしい接触の仕方だな。 手段は問わん! 要は結果が全てだ! 回数を重ね必ず篭絡しろ! 使えるものは何でも使え! 我々側に引き込むことに全力を注げ!」
「はっ! 仰せのままに。最後に別件でご報告が」
「何だ、手短に話せ」
アマツの件以外に興味はない、とでも言うかの様に、不機嫌な返事が返ってくる。
「件の正体不明な襲撃者による攻勢が止みました。蜈蚣配下の隊員が襲われた際、襲撃者に大怪我を負わせ、これを撃退したと報告が上がっております。赤を基調としたボディスーツに頭部に鬼の角。刀使いの凄腕という情報です」
「刀だと? 該当する能力者や殺し屋がいないか調べておけ! アマツと合わせ、その件も引き続き報告をするように」
「畏まりました。全力を尽くし、必ずや良いご報告を」
◇◇◇
「ということで! 今日から強化合宿です! 皆さん、軍資金は大丈夫ですかー!」
晶の仕切りで挨拶が始まったが、今日は泊りと合宿訓練の準備をした皆がオレの家に集まっている。
「はい! 質問よろしいでしょうか!」
「はい、ジュンタさんどうぞ!」
「今回のこの合宿、まだ何処に向かうかは聞いておりません! ですので、強化合宿リーダーの方から発表して頂ければと思います!」
「わかりました! では今回の目的地を発表します!」
この二人、絶対打ち合わせして仕込んだろ? そしてお前はそれを知ってたよな? という皆の目線がショウゴに向かうが、ショウゴは器用に視線をずらして誤魔化す。
「はい! 今回の目的地はコチラ! じゃーん! 湯野浜温泉『龍の湯』でーす!」
「「結構近場!」」
もっと遠くに行くのかと思ったらお隣の市でした。
反応したのはオレとアゲハ、天南さんとショウゴだけで、ジュンタはウンウンと頷いていたので、やはり晶と組んでいたというのがバレバレだった。
「はーい! 質問!」
「はい、さちこ先輩どうぞ!」
「どうして近場の湯野浜温泉なの? 能力使っての訓練だと、山の方かなーと思ったけど」
「ふっふっふー! それはですね、海も近く山も近く、海は私のベールとリン先輩の飛行でどこまででも深く潜って訓練可能! 山は出羽三山ですので深く人に見つかり難い! 基礎体力は羽黒神社二千四百段の階段を走り放題! そして夜は海の幸と山の幸を味わい、朝は和洋バイキング! 温泉も納得の設備! それになんとなんと! 部屋も和室の六人部屋で合宿感MAXです! どうですか!」
「って、どんなテレビショッピングだよ!」
オレのツッコミなど聞こえてないかのように満足気な晶。
「「六人部屋!?」」
「え、男女一緒の部屋!? それって色んな意味で大丈夫なの!?」
「さちこ先輩! リン先輩がいれば大抵の事は大丈夫なんですよ!」
「あああ、あたしはいいわよ! もちろん! いい仕事するじゃない晶ちゃん!」
晶は腕を組んでウンウンと頷いてるし、ジュンタは近い年の女性と同じ部屋ということで既に固まっているし、ショウゴは視線を逸らしている。
「……ショウゴ、お前知ってたな?」
「んっ!? おっ、俺は何も知らんぞ! うん、何も知らん」
さては晶に硬く口止めされたパターンか。逆に可哀そうに思えてきた。
「はいっ! あーしの布団リンの隣りに敷くー!」
「ちょ、アゲハ!? あ、じゃ、じゃあ、あたしもリンの隣りで!」
「ぬおっ!」
出遅れた晶から変な声が漏れた。
「まあまあ、それはまた後から考えようぜ。せっかく晶が練ってくれたプランだ。皆で楽しく強化合宿! 行きますかー!」
「「おおーーっ!」」
「あ、ちなみにお一人さま二泊三日で約四万円になりまーす。後で私までお願いしますね」
「「……おー!」」
「あ、そうだ。オレ一日しかバイトしてないけど、結構稼いだからさ、現地での飲み食いとかは全部オレ持ちで大丈夫だ。皆遠慮しないでいいぞ」
「「マジですか!?」」
もちろんアゲハにはバイトの事ちゃんと話した。真面目に働くなら職種に優劣なんてないから頑張って! だって。いい子過ぎる。正直、怒られるかなーと思ってたから。
「一日でそんなに稼いだの!? なんかヤバイ裏バイトでもやったんじゃないでしょうね」
「いや。なんかチームRのやつに誘われて、成り行きで飲み屋の呼び込みやったんだ」
「あ、そういえばありましたね、チームR。あれ? お兄ちゃんも入ってなかった?」
ショウゴと天南さんは額に手を当て、痛い過去を思い出したような顔になっている。
「え! チームRって、あのチーム『R』ですか!?」
そういえば、ジュンタにはそこら辺話してなかった。
「……ということで、チームRはリンの『R』で、そのトップがリンだ」
「んで、ナンバー2がショウゴだ」
ショウゴが説明してくれたので、オレが補足しておいた。
「そうだったんですね、驚きました。以前、僕が街で不良に絡まれてた時に、不良を追い払ってくれた人が『俺はチームRのメンバーッスから、当然の事をしたまでッスよ』って言ってたので、遠巻きにリン君とショウゴ先輩に助けてもらったんですね。ありがとうございます」
モノマネの再現がどっかで聞いたことのあるような言い回しだな。
「まあそれはそれとして、一日でいくら位稼げるもんなの? ちなみにあたしは時給千円で一日三時間、二週間頑張って四万円ちょっとよ!」
どうよ! と、腰に手を当て胸を張って主張する天南さん。
オレの脇腹をチョンと小突いたアゲハが、小声でオレにアドバイスする。
「褒めてあげてね。サッチ、凄い頑張ってたんだから」
そうなんだ。それだけ楽しみにしてたって事か。
「そっ、それはすごい! 流石天南さん! 頑張ったね!」
褒めベタかよっ! って感じの表情止めて貰えます!? アゲハさん。
とまあ、盛大に褒めて誤魔化し、一日で20万円超というのは有耶無耶にしておいた。
「それでは早速出発したいと思いますので、荷物を持って裏庭にいきましょー!」
「え! 行くのって、電車とかバスじゃなく、裏庭から飛んでいくのか!?」
「もちろんです! 旅費の節約にもなりますので、よろしくお願いします、リン先輩!」
ご近所の目が気になる所ではあるんだが、晶には勝てる気がしない。
「んじゃー、静かに裏に回ってくれよ? 離陸も静かに気付かれない様にするから」
「「りょーかい!」」
「では、二泊三日の強化合宿へ! レッツゴーッ!」
いや、晶! 声デカっ!
なるべく静かに、かつスピーディーに雲上空まで上昇し、目的地の湯野浜に向かって飛ぶオレたちだった。
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