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Rising Force - Genesis -  作者: J@
成長編

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31/124

一言

 アルに「また来る」と残し。病室を出たオレたち。会計ロビーを横切って入口へ向かう。

 不意に立ち止まった天南さんが、一点を見つめ動かなくなった。

 どうしたのだろうと皆立ち止まり、様子を伺う。


「……アゲハ?」


 何故今、天南さんからその名前が出るんだ? 視線の先にその答えがあった。

 会計待ちをしているのか、黒のパーカーを頭から被り、ソファに腰かけうなだれている。

 ただ、その手足は包帯だらけだ。そもそも、その後ろ姿でアゲハだとなぜ判別できる?

 天南さんは何も言わずに、その女性の隣りに座り、二言三言、会話を交わした。

 黒パーカーの女性は、天南さんの肩に頭を乗せ。何か会話をしていた様に見える。


「リン先輩、あの黒い方は、さちこ先輩の知り合いですか? やけに親し気ですけど」

「あの後ろ姿じゃ誰なのか分からないけど、さっき、アゲハって零してたから。多分、オレと同じ学校の同級生。天南さんの親友だと思う」

「もしかして、二年インテリアの夜乃(よるの)か?」

「ショウゴって何気によく人の事覚えてるよな?」

「いや、覚えてると言うよりもだな、容姿も目立つから三年の中では、天南と同じく人気のある一人だな。だから覚えさせられたという感じだ」


 二人がどんな会話をしているのか気になったけど、二人の後方でそんな話をしていたら、不意に黒パーカーの女性が振り返った。

 アゲハが居なくなってから数週間。その間に一体どれ程の事があったのだろう。

 ふくふくとしていた頬は痩せ、ツヤのあった綺麗な金髪はガサガサに荒れ、全身包帯だらけのうえ、顔もあちこちガーゼを貼っている。以前の様相は消え、弱弱しくオレの方に向かって歩き出す。

 目の前まで来て、オレの胸に頭突くように頭でもたれ掛かったアゲハ。

 オレにしか聞こえない声で、一言だけつぶやく。オレはただ「分かった」とだけ返した。

 周囲の目が気になるので、アゲハの会計を待ち、みんなで病院を出る。

 病院を出ると、すぐ近くに公園があるので皆で向かった。

 ベンチに座り込むアゲハに、抱きつき泣きじゃくる天南さん。


「えーっと、初めましての人もいるねぇー。アゲハっすー。ワケあってちょっと姿くらましてましたー。サッチとリンと同じ学校の同級生でーす。よろしくねー」


 力があまり入っていない様に見える手で、ピースを作る。オレにはかなり無理してそうしているのがバレバレだけど、今はまだ聞かない。


「ですが、その怪我、普通じゃないですよね。天南先輩もそんななってるし、何があったんですか? 僕たちに手伝える事なら言って下さい。あ、僕、絢太(じゅんた)って言います」


 おいジュンタよ。もう少し空気って言うものをだな……。


「いやー、こんな話恥ずかしくってそうそう言えるもんじゃないっていうかー? あーしの親が自殺する前にこさえてた借金が、知らない間に増えちゃってたっていうかー。それから逃げてたっていうかー。捕まってボコボコにされたっていうかー。マワされたり売り飛ばされる前に何とか逃げて来たっていう、ねっ! にゃはははっ! ほらハズいっ!」

「全部言っちゃってますよね、それ。というかよく逃げてこれましたね。そして何か僕たちで役に立てる事があれば、天南先輩に言ってくださいね」

「えっ、あたし!? そこは言い出しっぺのジュンタ君じゃないの!? ってか、ホントよく無事に……ではないみたいだけど、逃げてこれてよかったよーっ! 心配したんだからっ!」

「ごめん、ごめんて、サッチのあーしは無事ここにいますよー」

「同じ学校の三年、御先 小吾だ。それで、今後また追われる可能性はあるって事か?」

「あ、ショウゴ先輩ですよねー。有名なんで知ってましたー。借金取りがもう追ってくる事は無いんで大丈夫っすー。どうやったかは秘密ってことでお願いしまーす!」


 酷い目にあったけど、もう大丈夫という理由でこの場を強引にやり過ごしたアゲハ。

 まあそうじゃないだろう事は何となく分かる。オレに今できる事っていえば……。


「大分痩せた様に見えるから、しっかり食べて怪我治せよ? んで、今日は何食べるんだ?」


 アゲハにしか分からない様に会話する。


「ん、ご飯!? えーっと、めっちゃ旨い肉、お腹いっぱい食べたいかな! でも、あーしの事だからマック食べて終わりかもー、にゃははは」


 了解。楽しみに待ってろ、腹いっぱい喰わせてやるから。


「そっか。まあそれも悪くないけどな。その前に、その怪我相当キツイだろ? ()()何も聞かない、誰にも言わない。はい、リピートアフタミー」

「ふぇ? り、りーぴーとあふたみー?」

「よし、約束な、()()何も聞かない、誰にも言わない。晶、頼んでもいいか」

「リン先輩がそういうなら、分かりました、任せてください!」


 オレが何をしようとしているのか見当がついた天南さんが、いいの? と、ありがとう、が混在した表情でオレを見る。オレはただ頷くだけだ。

 フワっと緑色の光を感じたと思ったら、アゲハから気の抜けた声が漏れた。


「へっ? うそ! マジ!? ちょ、コレって……」


 聞きたそうになってるアゲハに、オレは人差し指を口に立て、その先を遮った。

 晶にお礼をいうアゲハ。そのままみんなと公園で解散し、オレはその足で買い出しに行く、


「えっと、めっちゃ旨い肉だったな。なら、季節は違うけど今日はアレにしよう」


 帰宅してから、仕舞っておいたアゲハ用のお泊りセット、歯ブラシや枕を出す。

 安心して居られるように、以前のとおり、綺麗にしておく。

 夕方17時頃からアゲハが来るだろう時間を見越し、料理の下準備を始めた。

 久しぶりにアゲハの声を聞いたから舞い上がっているのか、それとも一気に痩せた表情を見て心配になっているのか。もしくは両方か。オレは若干焦っていた。

 なにしろ、病院でオレに伝えた言葉は「助けて」の一言だったからだ。

 それはきっと、アゲハが取り組んでいる清算というのと、何かしら関係があるはず。

 ならオレは期待に応えればいい。否はない。何がどうなろうと今度は絶対に助ける!

 下準備を始めてさほど時間が経っていないが、玄関のチャイムが鳴る。

 ドアを開け「お帰り」と言おうとしたが、その前に思いっ切り抱きつかれた。


「リン、リン、リン……。会いたかった、凄く我慢してた。ワガママ言ってごめんね!」


 少し落ち着くまで、玄関で好きなだけ胸を貸して甘やかした。

 あれこれ詮索してオレから聞くのはよそう。まずは安心してもらう事が先決だ。


「今、そろそろ来るかなって思って、晩飯の用意してたとこ。腹減ってるだろ?」


 オレの胸にグリグリと頭を擦りつけながら、オレの匂いを嗅いで深呼吸するアゲハ。


「うん。色んな意味でめっちゃ減った!」


 ああ……アゲハだ。スカスカしていた胸の感覚が塞がり、満ちていく。


「リン、作るとこ見ていい?」

「ああ、もちろん」


 作ってる最中、ずっと背中に抱き着かれてた。まあ、安心するならいいか。


「お待たせ! じゃーん! 今日は、アゲハご注文のめっちゃ旨い肉を使ったすき焼きだ!」

「うわーっ、流石リンだね! こういうのが食べたかったんだーっ! いただきまーす!」

「追いダレと玉子もここにあるから、ゆっくりでいいからしっかり喰えよー」

「めちゃウマーいっ!」


 晶に怪我を治してもらったとはいえ、どう考えてもかなり無茶をしてきたように見える。

 食べながら、晶はオレと同じで覚醒者? とか。怪我を治したアレは治癒能力? とか。いつの間にあんなに友達増えたの? とか。天南さんと浮気でもした? とか聞かれた。


「一切そんな事してねえっつーの!」


 と、身の潔白を叫んだ所で、アゲハがニマニマ笑顔でオレを見る。


「うん。匂いで分かってた! にゃはははっ!」


 なるほど。アゲハがオレに言った「助けて」の一言。中々に切り出し辛い内容のようだ。


「ふわーっ! お腹いっぱいになったーっ! こんなにしっかり食べたの、最後にリンの手料理食べて以来だよー! 美味しかった! ごちそうさまでした! ありがとう、リン」


 最後に呼んだオレの名が、何だか少し寂し気に、悲し気に聞こえたのは、気のせいか?

 洗い物も終わり、何となく相当疲れている様に見えるから、早目に風呂を沸かす。


「疲れてそうだから、先に風呂入ってからゆっくり休むといいぞ。泊まっていくだろ?」

「あー、うーん。泊まりたいのは山々なんだけどー、どーかなー。えーっとね……」


 病院でオレに伝えた「助けて」という一言について、ちゃんと説明しない事にはオレに顔向けが出来ないから。という理由らしい。どういう事だ? 説明?


「んじゃ、今日は一人で入るか?」


 オレに対して何か心のつっかえがあるなら、一人の方がいいのかも。布団も別に敷くか?


「絶対ヤダ、一緒に入るっ!」

「あはははっ! やっぱりアゲハはアゲハだな。何も心配する事なんてねーよ! どんな事が起きようともオレが必ず助けるから。病院で言ったろ? 分かったって」

「うん……言った」


 またちょっと不安になってしまったのか、オレにベッタリくっついて離れなくなった。

 ちょうどお風呂が沸いたアラームが鳴り、脱衣所までお姫様抱っこで連れて行く羽目に。


「リン。久しぶりに脱がしてー」


 今日は特に甘えん坊だが、またそれも可愛い一面なので、オレに拒否権など存在しない。

 服を脱がすと、やはり結構痩せたなと分かる。晶が怪我を治してくれたから、何処にも傷跡などは無いのだが。この数週間、相当過酷な事をしていたんだろうと、勘ぐってしまう。


「全身しっかり洗って欲しいのー。しばらくお風呂もまともに入れなかったんだー。あ、公園で言った借金取りがーって話はね、ゴメン、あれは嘘でー」

「だろうなー、皆は信じてたけど、オレには一発でバレてたぞ」

「えっ、マジで!? あーし嘘つくの下手だねー」


 だろうな。だからこそ、中々切り出せないでいるってのが、よく分かるんだ。

 話せなくて苦しいんだよな。なら、オレが話のきっかけを作るよ。頑張れアゲハ。


「もっとよく洗って欲しい所はないか? 痒い所とか。もしくは……中々手が届かなくて苦労している所とか、手強い所とか、自分の力じゃどうにもならない所とか。自分一人で無理な時は、頼っていいんだからな。オレは、こう見えても結構ちゃんと洗える奴だぞ?」


 抱えてるモノ吐き出して、楽になれって意味だったけど、ちょっと分かり難かったかな?


「やっぱり、リンは凄いね。話したくても話せないでいるのバレちゃった。……ちょっとどころじゃなく、正直に話すの怖いけど。このまま黙っていたくないの。それに、リンは私の懺悔を聞かなきゃいけない。話すのが怖い……。でも話さなきゃいけないの! リンお願い、このままギュッとしてて。頑張って話すから」


 オレはそのまま床に座り、胡坐の上にアゲハを向かい合わせで座らせた。

 怖くないよ、大丈夫だからね、とでも言う様に、しっかりと背中と頭を抱きかかえながら。

 そしてアゲハは、自分の懺悔、贖罪を告白する。

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