アルの行方
晶のヒーリングでアルの意識を取り戻す為、ショウゴと晶、三人で病院へ。
と思ったら、何故か天南さんとジュンタも合流し、結局全員集合してしまった。
天南さんはそもそもアルと同じクラスなので言うまでもなく。ショウゴと晶には先日オレの家に来た時にアルの話はしてある。ジュンタには何も情報を伝えてないので、オレの友人のお見舞い程度にしか思ってないかもしれない。
オレが今後何を成そうとしているのか。この復讐譚についてきちんと話してやらないといけない。そもそも、何も背景を聞かずに仲間になりたいと言ってきたのはジュンタの方だから、そんなつもりで仲間になったんじゃない、と言われても自業自得だ。オレとしてもジュンタが仲間に加わってくれたのは心強いと感謝もしているわけで。
「ジュンタも来てくれてありがとうな。お前にはもっと話しておかなきゃいけない事、沢山あるんだが、また後でじっくりと、な」
「その事だったら天南先輩から詳しく聞いたよ。だから僕は僕の意志で今ここに居るって事。それにリン君と一緒にいると面白いし、何より退屈しない。友達の意識、戻るといいね」
「お、そうなんだ。話が早くて助かる。ってか天南さん? ちょーっといいかな?」
「えっ! いやー、あたしは事情知ってた方がいいよねーって、思って……さ? あたしがお喋りなんじゃなくて、みんなリンの力になりたいって思った結果というか? あはははっ」
額に手を当て、軽く仕方がないなと溜息をつく。良かれと思って話したわけだしな。
「まあそれよりも。晶、受けてくれてありがとう。感謝するよ。じゃあさっそく行こう」
オレたち五人はアルの病室へ向かった。
「あら、アマツ君、今日も本栖君のお見舞い? って、結構大所帯ね!」
何度も見舞いに通ったおかげでフロアの看護師さんたちには顔を覚えられてしまった。
「はい、少しでも刺激があった方が、あいつの意識も……もしかしたらって思って」
「ふふっ。そうね、きっと本栖君も喜ぶんじゃないかしら。でも、大声で騒ぐのはナシね」
「ええ、もちろんです。じゃ」
「リン先輩、結構お見舞いに来てるんですね。これは私も気合入れて頑張らないと!」
晶が「頑張るぞ」というポーズで気合を入れると、アルも何とかなるんじゃないかと、不思議と期待値が上がってしまう。
アルが寝ている個室のドアを開け、中に入る。相変わらず、ただ寝ているだけに見える。
「アル、今日はお前の目を覚ましに来たぞ。オレと同じ能力覚醒者の晶だ。長い間待たせて悪かった。今、起こしてやるから。……晶、頼む」
責任の重さを感じてしまったのか、ただ静かに頷く晶。
「初めましてアルさん。御先 晶と言います。意識を取り戻せるよう精一杯頑張ります。なのでアルさんも頑張ってください。リン先輩の為にも、どうか目を覚ましてください」
両手をアルの頭とお腹に触れ、目を閉じ集中する晶。
「行きます!」
瞬間、キーンという超高周波の音と共に蛹状に展開されたベール。俺たちが知っている淡い緑色が徐々にその色を濃くし、放つ光も徐々に強くなって行く。
廊下に光が漏れ出るのを防ぐため、ショウゴが気を利かせてカーテンを閉めてくれた。
まだ一分も経過していないだろう。だが、晶の額からは大粒の汗が流れ落ちた。
相当無理な集中をしているのが理解できるから。本気でアルを助けようとしてくれているのが分かるから。オレは途中で止めるなんて事はしない。皆も同じ気持ちなのか、手を伸ばそうとするが我慢しているのが見える。
「くっ……!」
晶自身にも常時ベールとヒーリングが付与されているはずなのに、それでも流れ落ちる大粒の汗。漏れ出た声とほぼ同時に鼻血が流れ出し、半ば意識を失うように後ろに倒れ込んだ。
「晶ちゃん!」
予想してたのか、天南さんが後ろから晶を抱きかかえ、椅子に座らせた。
ジュンタが窓を開けて空気を入れ替える。
アルに変わった様子は見えないが、まずは晶が落ち着くまで待つことにした。
鼻血も止まり、呼吸を整えると、晶が話し始める。
「結果から言います。リン先輩、ごめんなさい。私ではアルさんの意識を取り戻す事は出来ませんでした。それと言い訳をさせて下さい」
晶は淡々と自分の能力について説明する。
「つまり、私がヒーリングを行う時は、対象の状態を把握していると思ってください。アルさんの意識を取り戻せなかったのは、取り戻す意識がここになかったからなんです。でも生命活動は全く問題なく健康と言えるので……ごめんなさい。お役に立てませんでした」
うなだれ、肩を落とし、そう告げた晶。隣で胸を貸し、頭を撫で慰める天南さん。
余計な事は語らないショウゴ。ただ、ジュンタだけは今の出来事から何か得たのか、考えを巡らせているようにも思えた。
「いや、晶。そんなになるまで頑張らせてしまったオレが悪かった。精一杯、力を貸してくれてありがとう。お前が無理だったというなら無理なんだろう。なに、大丈夫だ。きっといつか方法が見つかるはずだ。それでなくとも、勝手に起きてくるかもしれないフザけた奴だ。晶が言う通り、身体は健康なんだし、死んでしまった訳でもない。なんの根拠もないけど、きっといつか、コイツは目を覚ます。そんな気がするんだ。ありがとな、晶」
オレは、自分にそう言い聞かせるように、淡い期待を吐いた。
「そうですよ! それです! 違和感です。ちょっと説明させてもらってもいいですか! ただ僕の言い方が気に食わないところがあると思います。なので怒らないで聞いてもらえると助かるんですけど」
ずっと何か考えていたジュンタが、急に堰を切ったように語り始めた。
「――って事はアレか? あの夜、アルが意識を刈り取られた時に、意識だけ別の世界に転移したんじゃないかって。そういうトンデモ理論を言ってるのか? ならそうだとしたら、どうやってアルをこっちに呼び戻せばいいんだ! 冗談でも言っていい事とダメな事があるだろ!」
「ちょ、リン君! だから怒らないでって最初に言ったじゃないですか! 僕だって役に立ちたいから必死になってるわけで。冗談でも、揶揄ってるわけでもなくて、本気でその可能性を話してるんです!」
「二人とも少し落ち着け。本栖の状態が悪くなったわけじゃないんだ。もっと大人になって話をしろ。リンは本栖の為を思って、晶とジュンタは、リン、お前の為を思ってこうやって必死になっているんだろう。頭を冷やせ」
珍しく熱くなったオレとジュンタが言い争うのを見て、驚いた天南さんが、ショウゴの意見にコクコクと頷く。流石に男の言い争いを目の前で見せられるのは怖いよな。
「……スマン、少し熱くなった。ジュンタ、悪かった。で、さっきの考えの続きを聞かせてくれるか?」
「僕もすみませんでした。言い方を変えますね。まず、何らかの原因でアルさんの意識だけが別の世界、異世界に飛んだとします。分かりやすく言えば幽体離脱が近いですかね。そして、本体の身体はこうして問題なくここにあるって事は。意識的にもまだ元気な証拠だと思うんです」
「あ、それ分かります! 幽体離脱した場合、その霊魂が弱って消滅したりすると、本体の肉体も弱ってしまいやがて死に至るって、色んな霊能者さんが言ってました」
気を取り直した晶がジュンタの仮説に同意する。
「そうです! 晶さんの言う通り! なのでその世界とこっちの世界を繋ぐ何かをもう一度開けば、本体に帰ってくることが出来るんじゃないかって。仮説ではありますけど」
「でも、本体から離脱した意識がまだ健在だって事は、その別の世界で、何か別の器、もしくは新しい器に入っているって可能性もありそうですね」
「なるほど。うーん、そう考えることもできますね。何にしろ今できる事は、色々調べて方法を模索するってことですね。あとは時間が解決してくれる場合もありますし」
いつの間にか、ジュンタと晶のディスカッションになっていた。
「と言うことで、リン君。まだ諦めるには早すぎるって話です」
「そういう事ですよ、リン先輩! まだまだこれからです」
息の合った二人に説得され、熱くなったオレの頭も冷えた様だ。
「了解した。二人の言う通り、焦っちゃダメだな。って事でこれからもよろしくジュンタ。頼りにしてる。もちろん晶もな」
「「はいっ!」」
胸を撫でおろすショウゴと天南さん。いや、取り乱して悪かった。
「そっか、アルは今、異世界か。せめて、楽しい夢であってくれると嬉しいな」
「リン君、流石に仮の話ですよ!? 実際に異世界あるなら僕も行ってみたいです!」
「あっ、私も行ってみたいです!」
「いや、それさっき自分らで仮の話って言ったよな? それに、もし行けるんだとしたら、そん時は、もちろんみんなで行くだろ?」
何だか病室に騒ぎに来ただけの様になってしまった。けど、諦めるのはまだ早いって分かっただけでもよしとするか。もうしばらく待っててくれ、アル。
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