晶の目覚め
ジュンタの発想とアドバイスにより、能力強化訓練が飛躍的に進んだ。
自分自身を物体と認識し浮かせる所までは簡単だったが、飛行となると、超高速移動と同じく空気抵抗の壁にぶつかった。というか、ぶっちゃけ息が吸えないのである。
ゆっくり目の時速60km位でかなり上まで上昇してみたが、今度は酸素が薄くなり、これまた息が吸えない。
生身では速度も高度も出せない。その上、着地が意外に難しく、失敗を繰り返しているうちに大怪我こそしてないものの、あちこち服も破れ天南さんと晶にめっちゃ怒られた。
逆に発火能力の方は簡単だった。
枯れ木を手に持って、物体を構成している原子だか電子だかを高速で回転し振動するイメージをしたら「ボッ!」って突然燃え上がった。
次に、触れずにやってみたがこれは思ったより難しく、何度か手に持ってイメージを確立させてからチャレンジしたら成功した。簡単なだけに、強力すぎる能力。
どう使うか、オレの心の制御が一番手強いのかもしれない。
オレはキレたら迷いなくこの能力を人間に向かって使うだろうから。
そして低空飛行の訓練を繰り返し行っていたが、調子に乗って速度を出し過ぎてしまい、木に思いっ切り激突した。
「かはっ! ぐっ、痛ってえーっ!」
「ちょっ! リン!」
「やだっ! リン先輩!」
「リン君!」
ショウゴが素早く駆け寄りオレを寝かせ、天南さんが救急セットを取り出す。
「リン、少し無茶し過ぎだ。頭から血が出てる」
天南さんが傷口を消毒し、テープでガーゼを貼ってくれた。
一息ついて気が付くと、晶がオレのお腹に頭を乗せて泣いている。
オレは心配かけたなと思い晶の頭に手を置いて謝った。
「悪りぃ。心配かけるつもりじゃなかったんだ。下手こいた」
晶の肩がプルプル震えている。が……これはアレだ、怒ってるやつだ。だって、ショウゴが若干腰引け気味に後ずさったから。え、なに、ヤバイの?
「あ、あの……晶……さん?」
オレは、恐る恐る再度頭に手を置いて声を掛ける。
「……リン先輩の……リン先輩のっ! バカぁぁぁーっ!!」
大声をスイッチに、瞬間的に周囲の全てのエネルギーが晶に集中し高密度になる感覚。
晶を中心に、森の木々のような微かに緑色を帯びた透明な光が、硬質な高周波音と衝撃波を伴い周囲に広がった。
皆その高周波音に耳を塞ぎ、頭を振って気を元に戻し、ふらつきながら目を開ける、
すると、オレたちは淡い緑色を帯びた透明な光に包まれていた。
見た目はアレだ、でっかい風船の中に人が入った感じ。
「え……なんですか、コレ?」
晶は不思議そうにその光に触ろうとするが触れない。
ショウゴ、天南さん、ジュンタにおいては起こった出来事に軽く呆けている始末。
でも、オレはこれを知っている。さっきの爆発にも似た感じ……コレは。
「晶は、やっぱり普通じゃなかったな。流石にオレも驚いたぞ」
「え、な、何がですか? え? おめでとうって? え?」
「混乱するよな。ま、当然っちゃ当然だ」
オレはさっき天南さんに貼ってもらったガーゼを剥がし、既に傷が塞がり、跡すら残っていないのを見せてこう言った。
「晶、お前は……オレと同じ様に、能力に目覚めた」
「……へっ?」
力の抜けた返事が漏れたと思ったら、鼻血を出して倒れてしまった。
晶が目覚めた能力について、オレとジュンタで軽く考察と検証を行った。
「この、微かに緑色を帯びた光のドーム。中にいると異常な回復力を得られるみたいですね。リン君の怪我があっと言う間に治ったように、おそらく細胞が超活性化されるか何か、その結果だと推測されます。それと、外部からの衝撃を防ぐ、いや、弾くようです。例えば……」
ジュンタは拳の半分くらいある石を拾いあげる。
「リン君に向かってこの石、投げますから避けないでくださいねー!」
「え! ちょ! 当たったら絶対痛いって! ってか大き過ぎじゃない!?」
天南さんが焦ってそう言っているが、ジュンタは笑顔を崩さない。
「怪我しても、そのドームの中にいればすぐ治りますから大丈夫です! 多分!」
多分というなんの保証も容赦もないジュンタの返事。
「んじゃ行きますよー!」
大きく振りかぶって、投げつける! ……はずが、石はあらぬ方向に飛んで行った。
「「……」」
「あ……ごめんなさい。僕、運動オンチでした」
「「ズコーっ!」」
お笑いかよって位ズッコケた。
「なら、ここは俺しかいないな」
野球ボール大の石を拾いあげるショウゴ。
「え! いやいや、流石にオレも怖いんだけど!」
「大丈夫、なるようになる。怪我してもすぐ治るってジュンタも言ってるしな。多分」
「あたしにはものすごーく殺しにかかってるようにしか見えないんだけど……。ホントに大丈夫なの? ジュンタ君」
「はい! 大丈夫です! ……と、思います。……多分」
「多分って。さっきの自信は一体どこに!? あたし見てられないかも!」
「物は試しだ! 行くぞリン!」
「ちょ、まっ!」
オレが返事する前に思いっきり投げてんじゃねーよ! ショウゴぉぉー!
ゴウッ! という風切り音と共に、猛スピードでオレに向かってくる石。
超硬質の何かに当たったような音と共に、投げた石はオレの目の前で砕け落ちた。
「おおぉぉっーー!」
「すごいっ! これで超回復力に次いで、超防御壁が確定しましたね!」
「え! ちょっと待って! ってことは、超速飛行とか超高高度飛行とか、可能になるってことじゃね!?」
さっきまでの難題解決だ! って、一気にテンションが爆上がりした。
「あ、それはまだ分からないです。ので、まだ先走って無茶したら駄目です」
「でも、今の見ると、空飛んでも平気なんじゃないの?」
「いや、天南先輩。もっと検証してからの方がいいと思います。っていうのも、リン君。今そのドームの中に居て風って感じますか?」
「え? ああ、普通に風吹いてるな」
「ですよね。という事はですよ、その状態で飛んでも空気抵抗を受けるかもしれないし、呼吸もし辛い可能性があるって事だと思うんです」
「「確かに!」」
「何をどこまで許容し、そして弾くのか。それを検証する必要があると思います。さっきの石で衝撃を弾くのは判ったので、高速移動時の空気を衝撃とみなしてくれればって所ですか」
なかなか衝撃的な能力って事が判別したところで晶が目を覚ました。
「……ん? あれ? 私どうなって?」
「お、晶。気分は悪くないか? 頭痛とか」
「晶ちゃん、無理しないでもう少し座ってなよ、ね?」
「大丈夫ですか、晶さん」
「えっと……、そういえばさっき、おめでとうとか、能力がなんとかって……」
晶が寝ている間に、オレとジュンタで検証した事を、簡潔に説明した。
「本当ですか!? 確かに、光のような、なんだか優しい森の深緑みたいな感覚に包まれたのは覚えています。……そうですか、私が……。……ちょっと、時間もらっていいですか?」
晶は黙りこんで考え事をし始めた。
晶が起きたら光のドームは消えてしまったので、時間はズレたが、お昼休憩にした。
持って来た飲み物と軽食、携帯食料、それと天南さんのお菓子、ジュンタが持って来てたサンドイッチを青空の下、ピクニック気分で食べ、食休みにシートの上に寝転がった。
「街の中と違って、山の空気って気持ちいいねー!」
寝転がり背伸びをする天南さん、このまま寝そうである。
「確かに、これなら昼寝の為に、俺、山に通ってもいいな」
「僕はここまで来るのが結構キツかったので、部屋でクーラー付けて昼寝したいです」
「オレは飛んでくればいいから楽だな」
「「それだっ!」」
ということで、皆を連れて飛べるよう、早く飛行をマスターしろと言われた。
「とりあえずこのくらいは出来るぞ?」
寝たままの体制で空中に浮かび、作った森の広場を回転したりしながら一周し、また最初の位置に寝たまま着地した。
「おお! やるじゃないかリン! よし、なら俺を飛ばしてみてくれ!」
「多分行けると思うけど、どのくらいのスピードで、どのくらいまで高度上げるんだ?」
「そうだな、ならリンが一番問題ないと思うスピードで。高度は任せる」
「了解、なら時速60kmでいくぞ」
天南さんとジュンタが心配そうに見ているが、最初はショウゴに体験してもらって、実効性を証明できれば大丈夫だという事が分かってもらえるだろうと思う。
ショウゴがワクワクしながら今か今かとオレを見ている。
「よし、じゃあ行くぞ」
重力を無視し、ゆっくりと空中に浮かび上がるショウゴ。
「お、おお……っ! おおぉぉーっ!」
徐々にスピードを上げならが高く昇っていき、ゆっくり旋回、軽くスピン、大きく縦回転など、さながら空中のジェットコースターのように飛んでもらい、着地もキレイに決まった。
一貫してスーパーマンが空を飛ぶ時のような片手を突き出したポーズで満面の笑み。
着地後も、しばらく余韻を残すようにそのままのポーズでいたから三人で爆笑した。
「リン! 次はあたしをお願い! あたしも飛んでみたいっ!」
目を輝かせながら、さあこい! とばかりに両手を横に広げる。
「了解! んじゃ、いくぞー!」
フワっと地面から離れ、両手を広げて空に舞い上がりクルクルと駆ける様は、さながらピーターパンを思い出させた。
着地もフワっと妖精か天使が舞い降りた時のような雰囲気があり、絵になる感じ。
「天南さんはホント絵になるよなー、ピーターパンみたいで凄くよかった」
「あ、バレた? ちょっとそのイメージで飛んでみたんだけど、めちゃくちゃ気持ちよかったよ! でもやっぱり、息は少しし辛かったかな」
「となると次は僕ですね。ちょっと緊張しますけど、お願いします!」
「よし! 行くぞ!」
ゆっくり上昇して旋回。軽くスピンなどショウゴと同じような感じで飛んではいるが……。
「これは……アレだな……。腰にタケ〇プターつけた、の〇太くん……だな」
天南さんとショウゴの肩がプルプル震え、必死に笑いを堪えているのが分かる。
無事着地し、何故か額に汗をかいて非常に満足そうに「ふうっ」と息を吐きながら汗を拭うメガネのジュンタは、の〇太くんそのもので、我慢出来ずに吹き出してしまった。
「空を飛んだ感想はどうだった?」
「最高だった!」
だよな、テンション上がらないわけがない。
しかし、もの凄く内容の濃い一日だ。
ああ……、アゲハに話して聞かせたい出来事が増えて来た。
友達が増え、こうやって騒がしくしてるけど、なんだろうこの寂しさというか、心の中がスカスカする感覚は。
今、無性にアゲハの声が聴きたい。
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