21 解氷
夕焼けの公園で思った「過去を受け入れ、未来の為に消化し、前に進む」為に、避けて通れない絶対に必要な事がある。
オレはアルの病室に来ていた。
事件以降から自分が何を考えどう想い何をやってきたかを話していた。
「正直、麗とアルの復讐を、と思う気持ちに今も変わりはない。 でも、ショウゴやショウゴの妹の晶、それと天南さんに支えられて気が付いちまったんだ、オレの自己満足なんだなって。 よくドラマや小説とかで復讐は悲しみを繰り替えすだけとか聞くけど、今ならその意味が分かるような気がするよ。 その先にあるのは虚しさや孤独なんだって。 だからオレは少しだけ前を向いて歩いてみようと思ってる」
前を向いて歩いてもいいかな?
と聞かなかったのはその必要はないなと思ったからだ。
「そんなの自分で決めることじゃん?」
って、鼻で笑われるに決まってるから。
「それに、まだこの力と今後どう付き合っていったらいいのか、今後の身の振り方とかまだまだ迷っている事だらけでさ。 学校はもう行かなくてもいいやってのだけはハッキリしてるけど。 とりあえず今やりたい事をやろうかなって、まあ能力を伸ばす事だけどな。 オレが能力を得た事はきっと何か意味がある。 今はまだ分からないが、その時が来るまでキッチリ鍛えておかないとだよな」
椅子から腰を上げ窓を開け、星空の海に漂うボールのような銀月に広げた手を伸ばしグッと握る。
「そして必ずお前を目覚めさせてやる」
そう言い、オレはまた窓から夜空に向かってジャンプした。
次に向かうべきは麗のお墓だ。
今までは、行こうと思ってもその度に過呼吸や激しい動悸、吐き気といった発作が邪魔をした。
だが不思議と今は発作は出ていない。
お墓の場所は当時のニュースでどこのお寺なのかだけは把握していたので、行けば分るかと思いお寺に来てみたがお墓が無い。
「あ、これ、お墓は別の場所にあるパターンか」
聞こうにも既に深夜なので無理であり、明日の朝早くにもう一度来て聞くことにした。
それによく考えたら深夜にお墓に行くのは無理な事に気が付いた、流石に怖いです。
◇
翌朝、久しぶりに早起きをし部屋のカーテンを開ける。
窓からは変わらない姿を見せる杢蔵山、その山頂から朝日が昇り始める。
オレは朝日を浴びて新鮮な空気を力一杯吸い込み
「今日、行くから」
一言、澄んだ青空に向かって語りかけた。
まだ早いかなと思いながらも06:30頃にお寺に伺ったら既に住職は起きており、お墓の場所を教えてもらった。
「こんな朝早くからご苦労様です、きっとあなたにとって良い一日になりますよ」
と声を掛けて頂いた。
数キロばかり離れた小山の高台にあると聞いたので、折角だから徒歩でゆっくり歩いて行くことにした。
朝の時間帯的に仕事に出勤していく大人たち、行き交う車、列をなして学校に向かう小学生、横断歩道に立つ緑のおじさんおばさんたち、様々な人たちが一生懸命生きているんだなと感じた。
辛い事や悲しい事を沢山経験して、けどそれらを全部背負った上でこうして年を重ねていくんだな、凄いなと単純に感動する。
途中、早くに店を開けている花屋を見つけたので、お墓に行くのに手ぶらもないだろうと思い立ち寄った。
「おはようございますー! どんな花をお探しですかー?」
「あ、おはようございます、早くからすいません。 えっと、これからお墓参り行くんですけど、安らかに眠れ的な花言葉のってありますか?」
何も考えずに店に入ってしまい、どんな花がいいのか聞かれ、反射的に答えたのが「安らかに眠れ」だった、きっとオレの心の奥底に眠ってた感情だったんだと思う。
「えーっと、そのままの意味の花っていうのは無いんですけどもー、似た言葉を持つ花はありますよ! アイスランドポピーって言いまして、ケシ科の多年草になります。 今は白ですが、次第に赤になり、次に赤から黄色に変わります。 お墓に活けるのには適していないかとは思うんですが、近場に植えるってのはアリだと思います。 花言葉は、安らぎ・慰め・眠りで、合わせて『安らかに眠れ』になると思いますよ」
ものすごく丁寧に判り易く教えてくれたので有難かった。
「そうなんですね、じゃあそれを7本ください。 それと、もしかしたら近場に植えるかもなので根はそのままでお願いします」
そういうと花束の様に軽くラッピングしてくれた。
朝から花束を手に道を歩く男に向けて沢山の人が奇異の目を向けてくる、小学生に至っては立ち止まって指まで差してくる。
「フッ、こういうもの慣れたもんだな」
と軽く笑えてしまう。
大通りから曲がって小山の高台に向かい歩くと、適度に林に囲まれた街の騒がしさが遠くに感じる静かな風通りのいい場所だった。
麗のお墓はすぐに分かった、というのも他のお墓に比べてかなり豪華だった。
「麗はあまりこういうのは好きじゃないんだけどなぁ」
そう言いながらお墓の前に立ち
「遅くなってごめん、来たよ」
花束を置き手を合わせる。
あれから何があったのか、ゆっくりゆっくり、語って聴かせた。
不思議と涙は出なかった。
お墓のすぐ側に丁度花を植えても大丈夫そうな場所があったので、そこを掘って花を植えた。
自分でもなんで7本にしたのかは分からなかったけど、こうやって植え終わるとまだ真っ白な花ではあるが麗を彩っているようで気分が良かった。
最後にまた手を合わせ「また来るよ」と言い残しお墓を後にした。
◇
しばらくして、麗のお墓に向かう老人の姿があった。
「麗、今日はいい天気じゃのぉ! 今、掃除して気持ちよくしてやるからな」
そう言って老人は箒と雑巾と水の入ったバケツを持って墓の前に立つ。
気が付くと先日までは無かった花が7本、隣に植えられている。
「ほう、アイスランドポピーか、確か花言葉は『陽気で優しい』だったか、ハッハッハ! お前にピッタリじゃのう!麗よ」
そう言いながら老人はお墓の掃除を始めた。
「そういえばもう一つあったのぉ? 確か……『七色の恋』じゃったか? ……なるほど、お前らしいのぉー䮼よ、アッハッハッハ!!」
老人は気分良さげに豪快に笑いながら花に水を与える。
◇
土曜日の朝、ショウゴから連絡が来た。
「もし時間があったら少し合わないか」
特にこれと言って用事も断る理由もないのでOKした。
「オレは全然大丈夫だ、なんならウチ来るか? なんの変哲もない普通の家だけど」
「なっ! い、いいのか? お邪魔しても」
「ああ、場所は――」
ということで10時頃にショウゴがウチに遊びに来ることになった。
オレの家に誰か来るなんて麗以来だし、男友達が来るなんて小学生以来だって事に気が付き、自分の交流の狭さにビックリした。
「とりあえず掃除と片付け、換気ぐらいはしておくか!」
常になるべく綺麗にしていたとはいえ、誰かが来るとなると別の話。
ちょっとズル(能力を使って)をして超速で家中を掃除した、もちろんトイレまで。
まだ2時間以上も時間があるので今のうちにと思い、久しぶりにスーパーで食材とお菓子、飲み物を買ってきた。
とりあえずリビングのカーテンは全開で明るくして風が通るようにし、テーブルにお菓子をセットしてポットでお湯を沸かし、インスタントだが紅茶とコーヒーも準備しておく。
「ま、大体こんなもんだろ」
とは言うものの結構気合い入れて掃除と準備をしてしまった、というか家に誰か来るのって緊張する。
ピンポーン!
予定よりちょっと早いが着いたようだ、はーいと玄関を開けると
「エヘッ! 来ちゃった!」
めっちゃ笑顔の天南さん、その斜め後ろにちょっとテレ顔の晶、そして最後尾で視線を逸らしているショウゴ。
「ショウゴ、おまっ……」
「い、いやこれには訳があってだな!!」
慌てて弁明するショウゴの言い訳は、最初は1人で来るつもりがちょっとうっかり晶に話してしまったら、晶から天南さんに連絡が行き強制的に3人になってしまったということらしい。
「まーまー、こんな可愛い女の子が2人も来たんだから文句ないでしょ? ね?」
ねっ、ってカワイイポーズ付きで言われたら
「あ、はい」
って言うしかないじゃないか、ま、その通りだから反論の余地はない。
なんかそんな気もしてたから、大目に食材買ってきておいて正解だった。
とにかく3人をリビングに案内し座ってもらった。
「あ、リン先輩これケーキ買って来たんで皆で食べましょう!」
晶からケーキ箱を受け取り開けると8個もケーキが入っていた。
「うわ! すっご! めちゃ豪華じゃん!」
「はい! さちこ先輩と2人で決めました」
「フッフーん! 女子力の見せ所よ? どうよ、おいしそうでしょ?」
「ああ、めっちゃ美味そうだ! じゃ、なんか飲み物入れるわ、コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「俺はコーヒーで」
「あたしは紅茶で」
「私も紅茶がいいです」
食器棚からカップを取り出すと
「カワイイ~!!」
ティーカップセットを褒められた、母の趣味で揃えたものなので決してオレの好みではない。
ケーキを大皿に乗せ換え見栄え良くし、それぞれ好きなものを小皿に取って口に運ぶ。
天南さんと晶はキョロキョロしてテンション高く話している。
「で、ショウゴ、なんかあったのか?」
「いや、これと言った用事があるわけでもないんだ、何か俺たちに出来る事はないか聞こうと思ってな。 要は、皆リンの力になりたいって事だ」
「そういう事!」
「そういう事です!」
人の優しさってやつは、なんでこうも……
「ったく、お前らってやつは、ホントに……」
ちょっと涙が出そうになり、ウルウルしてしまったが何とか堪えた。
「……なら、覚悟しろよ? これからクッソ重いトンデモ話打ち明けて、ガッツリ巻き込んでやる。 ……ってかいいのか? ホントに? 後戻り出来ないかもしれないぞ?」
「えっ、ま、マジ? そんな重い感じ? よ、よし! あたしはOKよ!」
「私は初めから全て受け入れてます! 大丈夫です!」
「俺は初めからそのつもりでリンと連んでたから、今更だな」
「よーし、初めっから話してやる、長くなるぞ」
◇
オレと麗が幼馴染な所以、誘拐に気が付いた経緯、追跡方法とアルとの出会い、発見しオレも捕まった事
「ちょ、ちょっと待ってー! 内容濃すぎ!! 一旦休憩させてもらってもいい?」
「わ、私もトイレに」
「というかもう昼時だな、昼飯はどうする?」
ここからが一番のトンデモ話になるのだが、少し休憩を入れた方がいいかもなと思い
「なら、休憩も兼ねて簡単なものでいいなら俺作るけど、どう......」
「是非!!」
「あ、はい」
女性陣の反応が早く、前のめりに食い気味でグイグイ来る。
「リンは料理もイケるのか? 凄いな、作ってるとこ見ててもいいか?」
「見たい! 見たい!」
「えーっと、ま、簡単にというか、中華だけど苦手なものとかあったりする?」
「ないです!!」
「特に好き嫌いはないな」
「了解、んじゃ料理するからキッチンに行こう」
いやほんと掃除してて良かった、男一人暮らしのキッチンなんて汚いと相場は決まっているのでピカピカにしておいた。
「うっはー! すっごい綺麗にしてる!! ウチと全然違う」
「わー、ピカピカですねー! これは期待しちゃいます!」
よっし、んじゃ久しぶりの料理、気合い入れて作ってみるか!
「はい、んじゃ今日作るのは、炒飯とエビチリになります!」
「料理番組の解説だ!」
「まずはエビチリから。 水で洗い流したら足は取って捨て、エビの頭と背殻は取ったらボウルに別々に取っておきます! 尻尾は取ったら捨てます。 エビの背殻は結構汚れているのでしっかり水で洗っておきます」
「はい!」
「エビの身は背開きし、ワタ抜きをしながらしっかり水で洗い流したら、水気を取って片栗粉をまぶしておきます。 今日はニンニクは使わないので、代わりに生姜をみじん切りにし、玉ねぎも少量みじん切りにしておきます」
「あ、あたし生姜好き!」
「私も好きです!」
「はい、フライパンに軽く油を引いて、片栗粉をまぶしたエビをあまり硬くならない程度にプリっとした感じまで焼き、出来たら一旦フライパンから取りだして、ボウルにでも入れておきます!」
「はい!」
「次に、フライパンに油を少し多めに入れ、エビの背殻を入れて炒めます! こうすると何故か油がエビチリの赤色になり、風味も乗ります」
「へーーっ!!」
「んで、この油に、みじん切りにしておいた生姜1/2と玉ねぎを入れて少し炒めている間に、さっき焼いたエビに溶き卵を入れて軽く混ぜ、それをフライパンに戻し、エビと衣代わりの卵を油が濁らない様軽く火を通し、少量のケチャップと黒コショウで味を整え、隠し味で醤油を少々、火を止めたら少量の水溶き片栗粉で緩く固めて……はい! エビチリの完成です!」
「や、やばい! 動画撮っておけばよかった……」
「リン先輩、すごい……手際いい、そしてエビが大きい!」
「既に匂いだけで美味いんだが!?」
「次に炒飯を作ります。 の前に、汁物の為にこっちでお湯を沸かしておいて、と。 4人前なので卵を2個でいいかな? ボウルに溶いておきます」
「ふんふん」
「ネギは適量を輪切り、キャベツは葉1枚分くらいでいいかな? を手で適当な大きさに千切っておきます。 そして固形の上湯もしくは味覇を少量の水に大さじすりきり1杯くらいを溶いておきます」
「はい!」
「フライパンは一旦洗って綺麗にして、サラダ油少量、ごま油少量、マヨネーズを大さじ1杯くらいを混ぜ合わせて火を通し、キャベツを投入して少し透明感が出るまで炒めます! っと、お湯が沸いたので煮立たないように火力を調整してー、エビの頭を入れます。 そして炒飯の方は強火にしてご飯を投入! 素早く全体に軽く油を行き渡らせたら溶き卵を入れご飯の一粒一粒をコーティングするように混ぜ、フライパンを豪快に振ります!」
「おお!!」
「溶いた上湯と醤油を少々、切っておいたネギの3/4と残りの生姜1/2を入れ更にフライパンを振って全体に行き渡ったら炒飯の完成でーす!」
「ほわあああ!!」
「最後にエビを入れた汁に出し入り味噌を溶いて残りのネギを入れたら汁物も完成!」
「すすすす、凄すぎるよリン!! もうお店じゃん!!」
「ははは、早く食べましょう!!!」
「キレイに盛ってからな!」
オレの大好きな北京飯店の味には遠く及ばないものの、上手に出来た方だと思う。
「最後に、盛った炒飯の上に軽く黒コショウを振って、簡単シンプル炒飯の完成だ!」
「やったぁ!!」
天南さんと晶は食べる前から超が付く笑顔を見せ、ショウゴは目を瞑って拍手していた。
「それじゃー」
「いただきます!!」
皆まずは炒飯から手を付ける
「!!!!!!!!」
何かに覚醒したかのように目をカッと見開き、口に運ぶ。
「な、ナニコレ、あたしの知ってる炒飯じゃない……? 今まで食べて来た物はいったい何だったの?」
「す、すごいです!! 一粒一粒が立っていてふっくらしてるのに噛むとジュワっと旨味が出てきてなのにパラパラで余計な具が入っていないから生姜の風味がアクセントになっていて……な、なんですかコレは」
ショウゴに至ってはなんでか泣きそうになっているし。
「ま、エビチリも冷めないうちにね、大きいから食べ応えあると思うよ」
3人とも恐る恐るエビを口に運ぶ。
「うはああぁぁぁ……!!」
また違った反応で見ていて面白く、作った側としては本望である。
「こ、これはハマるな!!」
「ぷ、プリプリにも程があるわよ! こんなの反則よ! いくらでも食べれるじゃない!!」
「美味しいです! 美味しすぎますリンせんぱぁ~ぃ! 美味しすぎて泣きそうです、表面に卵がコーティングされていて身はしっかりしているのに中はプリップリでソースも殻の風味ですかそれと生姜が最高に合ってます、美味しいですぅ……」
「えっと、誉め慣れてないから、めっちゃ嬉しい、ありがと? かな」
「ホントに美味いよ、リンは器用だな」
「まぁ半分趣味みたいなもんだしな」
そしてエビの味噌汁に口を付ける。
「……ホッとするー」
「エビ味噌のお味噌汁なんて初めて食べたかもー、美味しい、これ好き!」
「とっても優しい味でホッとしますね~」
「ああ、どこか懐かしくもあるな、コレも美味い!」
「普通、中華料理屋だと中華スープが出て来るんだけど、炒飯にも使ってる主張の強い上湯スープがほとんどなんだ、けど、このエビの味噌汁は寿司屋で出してくれるのと同じ感じに作ってあるから、日本人なら落ち着くよな」
そんなこんなでお腹も満足し、片付けも皆に手伝ってもらいあっという間に終わった。
「よし、ちょっと食休みしたらトンデモ話の後半、聞くか?」
「あたしにとっては料理が既に一番のトンデモ話よ、でもまだこれ以上があるってことなのね」
「私はいつでも大丈夫です! 準備もお腹も満タンです!」
「それを言うなら準備万端……、いや、俺も話してくれて大丈夫だ」
「そっか、こっから更に重くて、そして誰にも話せない内容になるから、心してくれ。 けど、その重い内容を話す前に打ち明ける事がある」
ゴクっ……と3人がオレを見据え、さあ来いと気合を入れる。
「あの事件に関わった結果、……俺にこういう能力が芽生えた」
そう言うとオレは手のひらを上にし、テーブルの上に置いてあったお菓子カゴの中のお菓子を【《《手のひらの上に引き寄せ》》】、天井~壁際~食器棚の前~と部屋中をグルグル飛ばし、そしてまた【《《手のひらの上に呼び戻し》》】た。
「ま、これを前提に話す内容になるんだが」
3人の目が点になり硬直し、はっと我に返ると
「はあぁぁぁーー!!??」
ショウゴと天南さんが今日一のビックリ声を上げたが、何故か晶はウンウンと頷いていた。
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