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Rising Force - Genesis -  作者: J@
喪失編

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アゲハ蝶

 結局、アゲハはウチに遊びに来て晩御飯を一緒に食べる事になった。

 何が食べたいか聞くと、オレが作った手料理が食べてみたいって言うので、久しぶりに自炊する事に。家に帰る途中、二人でスーパーへ食材を調達に行った。

 ショッピングセンター「アオン」で聞いた「お似合いの美男美女」のワードが入ったコソコソ話。何とこんな普通のスーパーでもされてしまい、それを聞き取ったアゲハは、その度に腕にしがみつき、上機嫌で終始笑顔が絶えなかった。


「はい。ここがオレの家。何の変哲も面白味もないけど、どうぞ」


 特に何かある訳じゃないけど、麗以外の女性を家に上げたのは初めてなので変に緊張する。


「わぁーっ! テンション上がるねー! おっ邪魔しまーす!」

「んじゃ、ご飯作るから適当に寛いでて。あ、トイレはそっちのドアね」

「りょっ! ってか料理してるとこ見ててもいいー? それとも出来上がるまで内緒にしておきたい感じー?」


 どうやらソワソワして落ち着かないのはオレだけじゃ無い様だ。


「大したものは作れないから、見てても全然大丈夫だよ。アゲハこそ、いつも晩飯とかどうしてんだ? やっぱり自分で作ってんのか?」


 買い物袋から食材を取り出しながら聞くと、返事が返ってこない。

 ん? と思って顔を見るとサッと顔を逸らされた。


「アゲハ? 晩飯っていつも……」


 再度途中まで聞き直したら、また反対方向にサッと顔を逸らされた。


「……ははーん、分かった。さては、面倒臭くて買って終わらせる派だな!」


 弄るとその反応が結構面白くて、ちょっと意地悪言ってみた。


「ひ、一人暮らしだから必ず料理が出来るって限んないじゃーん! それに、刃物は苦手っていうか……怖いっていうか……。ちょっと……話し辛い内容なんだけど、聞いてくれる?」


 買い物していた時のアゲハとはまた少し感じが変わった気がして、弱々しく見え、オレが聞いてあげなきゃって思った。両親を早くに亡くしているという共通点もそうだが、オレだって事件のトラウマが多少なりともあるし、アゲハだって何かしら抱えてるんだろうなって。


「実はあーしさ、子供ん時から実母と義父から、長い間虐待受けてたんだー」


 アゲハは、幼少から現在まで、本当に話し辛い内容だろうと思う事まで話してくれた。

 それは、オレが両親を事故で亡くした話なんかより遥かに重く、今まで本当によく頑張って生きて来たんだなと感じ、気が付けば、オレは涙を流して聞いていた。


「えーっ、なんでリンが泣いてんのー! そこはほらーっ、バッカじゃーんて軽く笑い飛ばしてくれていいのにー、全くもぉー、そんな反応されたらあーしだって泣くじゃん、バカっ!」


 無理して笑顔を作るアゲハの目尻から、次々に頬を伝い零れ落ちて行く涙。

 オレは手を止めて、アゲハを抱き寄せ、落ち着くまで頭をポンポンと自然と撫でてた。

 嗚咽するアゲハが落ち着くまで、キッチンで立ちっぱなしというのもアレなので、リビングのソファに移動する。ソファに座らせたつもりだったけど、気が付けばオレの膝の上に横座りになって、身体を小さくし胸に顔を埋めてた。


 アゲハが話してくれた内容は衝撃的なものだった。

 物心ついた幼少の頃から、暴力を振るう事でアゲハを支配し、いいように性的な玩具(おもちゃ)にした義父と、それを知りつつ見て見ぬふりをする日々暴言と暴力が絶えなかった実の母親。満足な食事やフカフカの布団を知らない地獄の様な生活と、自己主張が許されなかった家庭環境。

 そのせいで、子供を産めない身体になってしまった事。挙句の果てには、アゲハにしてきたことを償わずに、自分たちの未来を悲観して自殺。


 オレは、そんなトラウマを抱えたアゲハを「大丈夫だよ」とでも言うかの様に、包み込むように抱擁した。

 だけどその反面、オレの中に巣食う煮えくり返る程の復讐心と破壊衝動が、アゲハの人生がこれ以上奪われない様に、傷つけられない様に、壊されない様にと、共鳴を起こす。

 オレは、(れい)の復讐と共に、アゲハを害する奴を排除すると心に誓った。

 しばらくして、やっと落ち着きを取り戻したアゲハ。


「リン。何かごめんねー。あんな話聞かされたらあーしの事、気持ち悪く思っちゃうよね」


 アゲハが受けた心の傷は未だに癒えてなんかいない。そして、今の会話から伺えるのは、自分を知って欲しい、知った上で嫌わないでいて欲しい、傍にいて欲しいという深層心理だ。


「なあ、オレがそんな薄情な奴に見えるか? 少なくとも、今日買い物に付き合ってもらったお返しで料理位は出来る人間だと思うぞ? それに、全然気持ち悪くなんかないって言うか、寧ろ今までよく頑張って来たなって思う。ほんとに。寧ろ、今までアゲハを害してきた奴らをブチ殺してやりたい衝動でおかしくなりそうだ」


 オレの内側で、沸々と沸き上がる激しい感情の一端が漏れる。

 それを聞いたアゲハは身体を起こしてオレの膝の上に跨り、首の後ろに腕を回してギュッと抱きついた。触れ合う頬から温もりが、当たる柔らかい胸からアゲハの鼓動が伝わって来る。

 一瞬、身体を離したアゲハは、潤んだ瞳でオレを見つめる。そしてまた顔を近付け、唇を重ねる。首の後ろに腕を回し、体重をオレに任せてくる。逸るお互いの鼓動が強く感じられた。


「リン……あーし、こんなんだからさ、今まで誰もまともに向き合ってくれなかった。だからちゃんと真面目に話聞いてくれて、あーしを人間として扱ってくれて、怒ってくれて、もの凄く嬉しい。ありがとう、優しい」


 アゲハの心が冷えない様に、寂しくない様に。オレは抱きつくアゲハの背中と頭に回す腕に力を込め、もっと強く抱きしめた。


「大丈夫、オレがいる」


 キュッとアゲハの腕にも力が入り、何かを確かめ合うように、しばらくの間、お互いの温もりを感じながら、二人ともそのままでいた。

 そしてまた、短くキュッと強く抱きついたアゲハは身体を離す。


「にゃはっ! お腹空いたねー! リンの作ったご飯が食べてみたーい!」


 そう言ったアゲハの表情は、少し安心したかのように、柔らかいものに感じた。


「よぉーっし、オレも久々の料理だからあまり期待はすんなよー?」


 二人でキッチンに戻り、リズミカルに包丁を扱うオレを、目を丸くして見ていた。

 ひき肉と玉ねぎをしっかり炒め、味噌、ソース、ケチャップで味付けしたものを、別に炒めたドライカレーに乗せる。カラフルに彩った葉物野菜とトマトに、目玉焼きを添えたオリジナルのガパオライス。それと、シンプルにコンソメベースのふわふわタマゴスープだ。


「よし、出来上がりだな。見た目は悪いけど、美味しいぞ! 多分」

「うわぁーっ! 凄い! リン、マジ凄い! めっちゃキレーっ! 絶対美味しいやつー!」


 いつもは、テレビ番組が淡々と流れる中で一人静かな晩飯だけど、たった1人増えるだけで、こんなにも明るくなるんだな。……いや、違うな。

 感情表現豊かなアゲハだからこそ、こんなにも楽しいし、嬉しいって感じるんだろう。

 随分と長い事、忘れていた気がする感情だ。


「ねっ! 早く食べようーっ! これ見たらめっちゃお腹空いてきたーっ!」


 2人で手を合わせて「イタダキマス」と言うのが早いか、アゲハの第一声が上がる。


「うっ、まぁーい! なにこれ美味すぎーっ! こんなに美味しいの人生初かもーっ!」

「いやいや、流石にそれは褒めすぎだろ! 確かにウマいけど!」


 久しぶりの料理にしては上手く出来て良かった。満足してもらったようで何よりだ。


「はぁーっ、めっちゃお腹が幸せになったーっ! ごちそーさまでした! 料理上手!」

「全然この位ならいつでもどうぞ! 買い物に付き合ってくれたお礼にしたら安いもんだ」

「あっ! アレ開けようよー! 買って来たリング!」


 そうだ、お互いにプレゼントとして買って来たリング。今開けない手はない。

 ラッピングしてもらった箱を手に「今日はありがとう」と、プレゼントとして交換する。


「正直、こういう事ってした経験がないから、少し恥ずかしい感じするな」

「にゃははっ、あーしだって初めてだし! 誰も見てないから大いにテレろテレろーっ!」


 包みを綺麗に剥がし、箱を開けようとしたら、アゲハに手を押さえられた。


「待ってー! 一緒に、いっせーので開けよー! いい? 行くよ? いっせーの、せっ!」


 ショッピングセンターでしっかり見て買ってきたのに、なんで、今二人で一緒に箱を開けて見ると。こうも違うんだろう。照れ臭さが半端ない。

 オレが選んだ蝶が螺鈿されてある黒檀の指輪。フタを開け、中から取り出してない状態で、オレに差し出すアゲハ。


「ん? どした?」


 ほんのり頬を赤く染め、箱と一緒に差し出した左手。強調される薬指。


「……して?」


 ファッションとはいえリング。結婚指輪にも稀に使われる黒檀。そして差し出された左手。

 オレにそれをつけて欲しいと言う言葉の意味。流石にそのくらい知ってる。知ってるけど。


「なっ! えっ!? はめて……いいのか? オレ……でいいのか?」

「うん……リンがいい」


 二人して真っ赤な顔で、そんなやりとりをする。そして、オレはその左手を取り……。


「うひゃーっ! タンマタンマーっ! 待って! ムリ! 超ハズいっ! 溶けるーっ!」


 突然テンパったアゲハが、両手で顔をパタパタと仰ぎだし、何度か深呼吸をして整える。


「ふぅーっ……よしっ! やっぱり今はこっちで我慢しておくー! 今はねっ!」


 そう言って再度左手を差し出すが、今度は小指を強調してきた。


「小指? 小指につけるって、どんな意味が込められてるんだ?」

「えっとねー、あーしが知ってるのはー、左手の小指につけると、幸せが逃げないって言われてるのとー、願いが叶うって事ー! にゃはははっ! ってか、言っててめっちゃハズっ!」


 未だ頬を赤く染め、表情が緩みきってるアゲハの左手を取り、今度は「待った」を掛けられる前に、しっかりとはめた。


「あっ! ちょっ!」


 仕返しだとばかりに「はめてやったぜ」と、悪戯な笑顔で返したオレ。

 やられた、という顔で驚くアゲハは、オレの膝に座り、お返しとばかりにキスをした。

 こんなにも可愛くて、明るくて、優しくて、積極的で、よく笑う女の子。

 正直、惹かれない理由がない。


 オレも男だし、気持ちや感情が高ぶれば色々と反応だってする。これ以上はマズイかも。

 硬く隆起し主張するモノの上に、アゲハのお尻が乗り、その感触が先端から脳に伝わる。

 バレたかも、という恥ずかしさ。頭のてっぺんまで駆け上る刺激に顔が紅潮する。


「して……あげよっか?」


 その言葉の破壊力に、心臓がバクンッと跳ね上がった。更に早打つオレの鼓動。

 待て待てっ! オレは一体何をしてもらうんだ!?

ご覧いただき、ありがとうございます。


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