イメチェン
事件を境に、良くも悪くも自分の中の色々なものが変わった。
精神的には壊れかけ? むしろ壊れたとも言うのかもしれないが、これも、能力を得た事による影響なのかもしれない。
「あ、そうだ。これを機にイメチェンしてみようかな」
もう誰にも何も言われないのだ。オレはオレがしたい事をしたいようにすればいい。
前に着ていたお気に入りの服も穴が空いたり、血まみれになったり、ボロボロになったりでどうせもう着れない。
「まずは服買いに行かないと、だな」
とりあえず外に出れそうなデニムを履いて、Tシャツに薄手のシャツを羽織る。
髪もかなり伸びて今は肩くらいまである。結ぼうと思ったが輪ゴムしかなかった。
「あー、面倒くさっ! いっか、そのままで」
財布と家の鍵を持って外に出ようとしたが、今度は履けそうな靴がサンダルしかない。
天気も良いので、自転車で行くのも何となく勿体なく思い、歩いて行くことにした。
見た目は近所のお兄ちゃんがヒマ過ぎて散歩している感じ。ちょっと笑える。
ぶっちゃけ、服選びはセンスがアレなので苦手なんだよなーと、どうしようか考えてたら大型のショッピングセンター「アオン」に着いた。
「あれ? アマツじゃん! なんか雰囲気変わりすぎてるし。今日はどしたの? 買い物? ってか久しぶりー!」
丈の短い黒のキャミソールに、透けた長袖のカーディガン。グレーの超ミニなデニムスカートに、黒のブーツ。ちょっとパンクな黒のバッグにウェーブがかった金髪のツインテール。さらに天南さんをも凌駕するのではと思えるバストを持った女性が声を掛けてきた。
「えっ! 夜乃さん!? どうしてここに!? ってか平日だよね! 学校なんじゃ!? そもそもなんでオレってバレた!? 前の面影なんて無くなったと思ったのに!」
驚きすぎて全部声に出た。
「にゃはははっ! アマツのキョドってるとこ初めて見た! ウケるー! ってか、学校サボって買い物くらい来るってー。この間お見舞いに行った時は制服だったけど、どーよ、あーしの私服姿カワイイっしょ!」
その場でクルっとターンして、カワイイポーズを取り、笑顔を見せた。
自分でも知らなかったけど、明け透けな性格や160センチに満たない小柄な背丈。見た目もその可愛さもドストライク過ぎたし、短すぎるスカートもエッチ過ぎて直視できない程だ。
どこをどう見ていいのか分からず、顔を赤くし明後日の方向に視線を泳がせた。
「かっ、カワイイ……。めちゃくちゃ」
「ちょっ! アマツ!? え、マジ照れじゃん!? そーかそーか! 今日のあーしはそんなにカワイイかー! なんかすっごい嬉しいんだけどー! にゃはははっ! なんかあーしまで顔熱くなってきっちゃたしー! あ、そーだ! アマツも買い物来たんだよねー! なら今日は一日、あーしが彼女になってあげるから、一緒に買い物行こーっ!」
めちゃくちゃいい笑顔で何か突然凄い事言い始めたんだけど!?
「はっ? えっ、ちょっ!?」
「はい決定ーっ! んじゃ買い物に出発ーっ!」
そう言ってオレの左腕にピッタリと抱き着いて、満面の笑みを浮かべた。
これはもう逃げられないヤツだ。オレは半分仕方ないと思いながらも、こうして接してくれる夜乃さんに心の中で感謝をした。
似た境遇を体験しているからなのかは分からないけど、こうして彼女と共有する時間は、負った傷を癒して貰っているようで、とても温く、とても心地良く……。
「あの、夜乃さん……えーっと、当たってますよ……」
「違うよー? 当たってるんじゃなくて、押し付けてんのーっ! にゃははっ! んで、そろそろ苗字じゃなく名前で呼んで欲しいなー! 『アゲハ』でよろしく! あーしもアマツじゃなくて『リン』って呼ぶから! ねっ! はい決定ーっ! んで、リンは何買いに来たの?」
夜乃さ……アゲハの押しの強さに、オレも笑顔が零れるしかなかった。
結局、全部アゲハに選んでもらった。
帽子のついた白パーカーと黒パーカー、ワインレッドとカーキーのカーゴパンツ、細めの黒デニムパンツ、それとTシャツ類。靴はミドルのレザーブーツと黄色の軽そうなスニーカーとワインレッドのスニーカーを買った。オレ好み系の服ばっかりだったので驚いた。
アゲハが珍しいハーフのカチューシャを見つけてきて、絶対似合うからと言われてそれも買った。ワインレッドのメンズでもいけそうなシンプルなやつ。
「これ、かなり雰囲気変わるんじゃない!? 元々素材は良いもの持ってるし、基本イケメンなんだからさ、折角だからトイレで着替えてきちゃいなよー! ねっ!」
アゲハに押し切られて、トイレでゴソゴソと着替えるオレ。
「どう? 雰囲気変わった? 自分じゃよく分かんないけど」
両手を口に当て、目を大きくして驚くアゲハ。
「めっちゃいいじゃん! ヤバっ! 一気にカッコよくなっちゃったんだけどーっ!」
大きく開いた瞳をキラキラと輝かせながら褒めまくって来る。
「アレも付けようよ! ハーフのカチューシャ! 絶対似合うから付けてみてー!」
左サイドとトップの髪を止めて耳を出し右側の髪はそのまま垂らす、少し瞼上の傷跡が目立つがそれはそれで味があって悪くないと思った。
両腕を組み、仁王立ちでニマニマしながらオレを眺めるアゲハ。
「足、長い! 背、高い! 身体も鍛えて筋肉質! 整った顔立ち! そしてオシャレ!」
ウンウンと満足したように頷きながら、オレを褒めるアゲハの後ろを通り過ぎて行く多くのカップルや女性たち。
「ねぇ! あの人カッコよくない!?」
「わ、足なっが!」
「わぁ、美男美女カップルだ!」
オレたち二人を見てコソコソ話すのが耳に入ってくるが、悪い気はしない。それよりもそれを聞いたアゲハのニマニマが止まらない感じで、また腕に抱きついて言う。
「ねっ、今の聞こえた? お似合いの美男美女カップルだって! にゃはははっ! 最高に気分イイーっ! ねっ! 嬉しいねーっ! そだっ! あーしからリンにプレゼントしちゃおうかな、あそこのお店行こっ!」
有無を言わさず連れて行かれた先は、今までオレには似合わないと避けていたファッションリングなどのアクセサリー類を扱うお店。絶対に入る事はないだろうと思っていたが、まさかこんな感じで訪れる事になるとは。
店内の壁は真っ黒なのに照明はやけにキラキラしてて、BGMにはEDMが流れている。
あ、これ完全に場違いな店に入ってしまったなと思った。けど、オレの腕を掴んで離さないアゲハが、オレにプレゼントするために目をキラキラさせて商品を見ている。
こういうのも、ある意味オレにとってはプレゼントだよな。と考えたら悪くない。
「いらっしゃいませー! オススメしたいのあるんですけどどうですー?」
「え、是非オススメお願いしますー!」
アゲハの食いつきっぷりが凄い。女の人ってやっぱりこういうの好きなんだろうな。
「ありがとうございまーす! 絶対似合うと思うんですー! はい、コチラになりまーす」
シルバーとブラックのリングをショーケースから取り出した。
シルバーの方は幅広で天使の翼がモチーフの、羽根が一枚一枚細かく彫り込まれた物。
ブラックの方は二つあり、オレにはやや幅広で中央にトライバルで炎が螺鈿されている物。
アゲハには同じブラックの造りで、中央に蝶が螺鈿された物を見せてくれた。
両方とも細工の細かいもので、二人してマジマジと見てしまった。
「ほら! もう目が虜になってますよー?」
商品と店員を行ったり来たり、チラチラ視線が移動するオレとアゲハを営業スマイルで見ながらそう言う店員。
「シルバーの方はチタンの混ざったプラチナで、人気あるブランドものでーす。天使の翼はガブリエルの翼ってコンセプトになってますねー。んで、黒い方は黒檀を使ってましてー、螺鈿の方は夜光貝であしらった物になりまーす。夜光貝には精神力を高める、元気を与える、癒し、可能性を拡げるって効果や意味があるそうでーす。如何でしょうかー!」
もの凄いグイグイくる、けど、確かにオススメするだけあって魅かれるものがある。
「買います! 店員さんグッジョブです!」
アゲハが値段も見ずに即決した。
「あ、すいません! こっちの蝶の方はオレから彼女へのプレゼントって事で、包んで貰っていいですか」
マジで!? っていう驚いた顔したアゲハの視線。
「アゲハに似合うと思ったんだ。それにオレだけプレゼントを貰うってのも、何だか申し訳ない感じがするし」
「うわぁー! あーし、誰かにプレゼント貰うって人生初かもっ! ヤバい、嬉しすぎんか! めっちゃ大事にするっ! ありがとーっリン!」
腕をグッと引っ張られたと思ったら、頬にキスされた。
あまりに突然の出来事だったから反応に困ったけど、アゲハが満足そうにオレの腕に頭を預けているのを見て、まあいいかと思ってしまった。フワッとした知らない感情と鼓動が早まる感覚に、アゲハをギュッとしたい衝動に駆られてしまうが、ここがショッピングモールである事を思い出して我に返った。
「はい、お包み終わりましたー! お買い上げありがとうございまーす! またお越しくださいませーっ!」
偶然合ったアゲハのおかげで、今日はいい買い物が出来た。リングも結局は一目惚れみたいな感じで気に入ってしまったし、アゲハにはまた別にお礼しないとだな。
「今日はオレなんかの為に付き合ってくれてありがとう。正直めちゃくちゃ助かったし、それ以上に楽しい時間が過ごせた。今度、今日のお礼させてほしいんだけど、何がいいかな」
「えっ、マジで!? じゃあ、じゃあねー、今日リンの家に遊びに行ってもいい? んで一緒にご飯食べようよ! あーし一人暮らしだからさぁー、いっつも一人でご飯食べるの何気に寂しいんだよねー! ダメかなー?」
「はあっ!? あ、いや、ダメじゃない! 全然ダメじゃないけど! でも今からだと晩飯の時間だから、そんな時間に男が一人暮らししてる家に来るのって問題あるだろ!?」
「全然問題ないよー? だって怒る親もいないんだしー」
オレの心臓が若干うるさく鼓動を早めた。待て待て! オレは一体何を期待しているんだ?
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