お見舞い客
人生初の入院は思ったよりも大変だった。
穴を開けられた腹部裂傷の手術だったり、折れた手足にボルトやプレートを入れたり。
その間に何度も警察が来て、聞き取りという名の取り調べを受けたりと、忙しい日々が過ぎた。
両親が既に他界しているオレの事を気遣って、岩上さんは仕事とは別に何度か見舞いに来ては下らない話をしてくれた。あんな凄惨な事件の後だから尚更気になるのだろうか。
だけど、その下らない話に正直オレも気が紛れているので感謝してる。
岩上さんは自分の事を「ロックって呼んでくれていいんだぞ」と、まるで兄貴と呼んでもいいんだぞ、みたいな勢いで言って来るけど、流石にそれはちょと抵抗がある。もっと仲がよくなってからという事にしておいた。
入院して三週間程が経過した頃、同じクラスの天南さんとその友達が、入院といえば定番のフルーツ盛り合わせを土産にして、学校帰りにお見舞いに来た。
オレには麗以外、友達と呼べる人や、ましてや親戚などいない天涯孤独の身だとばかり思っていたから、同級生女子二人の訪問は、かなりの衝撃を受けた。
「あたし、ニュースで事件のこと知ってから一刻も早くお見舞いに来たかったんだけど、あんまり直ぐに来ても逆に迷惑になるかなって思って。それに、すごく悲しい事件だったし。きっとアマツ、もの凄く落ち込んでるだろうし。なんか自分の事責めてそうだなって思ってさ。だからお見舞い来るの遅くなってゴメン! あ、これフルーツの盛り合わせ買ってきたの!」
一気に話しまくる天南さんを見ていたら、不思議と少し元気を分けて貰えた感じがして思わず笑ってしまった。
「あははっ! 天南さんのテンションに当てられたら元気出たよ。それにオレ、友達って呼べる人いないからさ、知ってる顔を見れた事も素直に嬉しい。わざわざお見舞いに来てくれてありがとう。それと、インテリア科の夜乃さんだっけ。話すのは初めてだけど、ありがとう」
天南さんのテンションの上がりっぷりを見て、ニマニマしていた夜乃さんに話を振る。
「あー、あーしに気なんて遣う必要ないよー。そもそも、サッチが一人で行くのは恥ずかしいから一緒に来てくれーってしつこくてさぁー」
「ちょっ! アゲハ!? そそそ、そんな事ないんだからね! あたしは素直にアマツのお見舞いに来たかっただけなんだから! ちょっと、そう! ちょっとだけ気になっただけなんだからね!」
「うんうん、そだねー。ちょーっと気になっただけって事でー。ってか、あーしも昔入院した事あるから大変さは良く知ってるっていうかー、身体的にも精神的にもキツイよねー」
二人の仲の良いやり取りを見ていると、事件の事なんてまるで嘘のような、テレビドラマでも見てたんじゃないかって錯覚を起こす。他人の幸せを羨む訳じゃないが、今のオレには少しばかり毒になる。
「そうだ、天南さん。買って来てくれたその盛り合わせにリンゴってあるかな? 贅沢言って悪いんだけど、出来れば剥いたのが食べたいな」
まだ精神的にも安定してなくて、少し一人にしてほしくて、苦し紛れにそんな事を言った。
「えっホント! んじゃあたし看護師さんに場所聞いて切って来るね! その間アゲハが話し相手してて! 行って来るーっ!」
え? あ、そうじゃなくて二人で行って来て……、とは言えないよな。
「ふーん、少し放っておいて欲しかった。って顔してるねぇー。分かるよー、あーしもそういう時よくあるし。ってかアマツの付き添いって誰もいないの? 親は?」
夜乃さんと会話するのは今日が初めてだけど、何だろうこの話しやすいスムーズな感じ。
「あははっ、よく分かったね。そんなに分かりやすい顔してるかな?」
「実はあーし超能力者! 考えてる事なんて簡単に分かっちゃうんだから」
「はぁっ!? えっマジで!? マジで超能力者!? オレ……っ!」
危ねぇっ! 思わず「俺と一緒じゃん!」なんて言いそうになってしまった。
「あ、いや、ごめんビックリし過ぎた。マジでそんな能力あったら凄いね。あ、えーっと、そうそう、親の話だったね。オレ、中二の時に両親とも事故で亡くしてさ。親戚もいないし、それからは自由気ままな天涯孤独ってやつだよ。最近は、事件で知り合った兄貴みたいな警察の人が、何か心配してちょこちょこ顔出してくれるんだけどね」
オレは、あまりこの話をする事はないのに、何故か話してもいいかなって思った。入院が長くなって、少し気が弱ってきてんのかな。自分でもビックリしてる。
「えっ、マジ!? あーしと一緒じゃん! あーしも中二ん時に母と義父が生活苦で飛び降り自殺しちゃってさぁー。んでアマツと同じで親戚もいないし、残ってたお金遣り繰りして、後はバイトして何とかーってやつ! マジかーっ! まさか同じ境遇の人間がこんな近くにいるって思わなかったしー! 何か近しい雰囲気持ってんなーって感じる訳じゃん? いいじゃんいいじゃん! 退院したらアマツんとこ遊びに行ってもいいー? 仲良くしよーよ」
流石は天南さんの友達だな、めっちゃ喋るし!
「……って、えっ!? オレん家来るの!? いや、流石に男が一人暮らししてるとこに女の子一人で遊びに来るってのはどうかと思う訳で、えーっと」
しどろもどろになりながら答えると、ニマニマした笑顔でオレを見てる夜乃さん。
「ふーん、あーし一人で行くと思ったんだー? もちろんサッチと二人で行くっていう意味だったんだけどなー? もちろん一人でって言うならそれでもあーしはいいんだけどー。でも、そん時はサッチには内緒にしないとだねー。サッチ、アマツに気があるみたいだしー?」
「んなっ!? ちょ、ちょっと待って! 入院患者にそういう冗談は心臓に悪いって!」
何か、夜乃さんにはオレの調子というものを崩されっぱなしだ。揶揄われてんのかな?
もうちょっとそこら辺の話を詳しく聞かせてもらおうか! と思った所で、天南さんが紙皿に綺麗に剥いたリンゴを持って帰って来た。
「おーっ、サッチにしては上手に剥けてるしー。しかも早くなーい?」
さっきまでの会話は内緒だよ、とでも言うようにオレにウインクを飛ばしてきた。
そういう事をされた経験がないから、ものすごく気恥ずかしい。
「でしょでしょ! めっちゃ頑張ってきた! さ、食べて食べて! って、あっ、手使える? かなり痛そうだよね? んじゃはいコレ! あーん!」
「ブフォッ!」
天南さんの慌てぶりと天然っぷりに、夜乃さんが盛大に吹き出し、それで自分の行動に気が付いた天南さんが顔を真っ赤にしながら、オレに無理やりリンゴを食べさせるという事態に。
シャクシャクとした食感も然る事ながら、少し酸味の効いた甘さが口の中と記憶に残った。
「こんな事お願いしていいものか分からないんだけど、アルが今どんな状態なのか凄く気になっててさ。入院してる先と部屋は分かるんだけど、オレまだ外出許可出なくて」
最後までお願いを言う前に、夜乃さんがその先の答えを言った。
「いいよー。どこの病院? 様子見に行ってきてあげるから、アマツは自分の身体早く治すことに専念しなよー」
「え? 何なに、どういう事? あたしにも分かるようにお願い」
まだリンゴショックが抜けきっていないのか、話が入ってこなかったらしい天南さんに、アルの方にもお見舞行って様子を見て来て欲しい事を伝える。
しかし夜乃さん、派手な見た目と違って頭の回転が速い。
「なるほど! うん、分かった! 近いうちにお見舞い行って様子見て来るね! そしたら結果報告にまた来るけど、その時入用のモノって何かある?」
「あ、じゃあ思い付いたら連絡すようにするけど、そんな事までお願いしてもいいものなのかちょっと悩むけど。えっと、これオレの連絡先」
「わーっ! ありがとう! えーっと、090のー……」
天南さんがオレの番号を登録している最中に、知らない番号から電話が掛かってきた。
「え? 誰だろう、知らない番号だ」
もしかしたら警察関係者からかもしれない。そう思い電話に出た。
「もしもーし! あーしでしたー! ビックリした? こういうの割と得意なんだよね!」
「え! アゲハ早っ! ちょっ、あたしも登録するからもう一回番号表示してーっ!」
慌ててスマホを弄る天南さんの背中越しに、夜乃さんからまたウインクが飛んできた。
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