ニュース
重い瞼を開けると、視界がハッキリせず周囲がぼんやりと見える。
記憶の最後は星空だったはずだ……ここは、白くて明るい……部屋?
起き上がろうとしたら身体中に激痛が走った。
頭を横に向けると点滴のようなものが見えたので、ここが病室だと分かった。
そうか、アルが警察を呼んでくれたからオレたちは助かったんだろう。
そう思うと、少しホッと息をつくことができ、ベッドの柔らかさに安心を覚えた。
身体の状態を確認すると、まず右手の自由が利かない。
肩と腕に力を入れて持ち上げると、かなり痛いがとりあえず動きはする。
真っ白な包帯で見事にグルグル巻きにされているのを見たら何故かフッと笑いが漏れた。
これは……ギプスか? そういえば、右手の指を何本かと右肘を折られたか?
手首も逝ってる感じがする。かろうじて左手は動く。
うん、大丈夫じゃないけど大丈夫だ。
足は……右足はなんとか動くが左足は固定されててダメだ。
スネと大腿骨か? これも折れてるな……かなりひどい痛みがある。
今こうして耐えられてるのは、きっと痛み止めのおかげだろう。
これ……ちゃんと治るのか?
そうだ! 麗もかなり酷い怪我をしていたはずだ! 大丈夫なのか!?
アルはどうなった! 無事か!?
あのクソ野郎どもはどうなったんだ? 全員捕まったのだろうか。
オレが今こうして生きてるんだから、何とかなったって事でいいんだよな?
左手で脇腹を探ると、腹も包帯でぐるぐる巻きにされていた。
ノドが乾いた、トイレどうしよう、動けそうにない、風呂入りたい、頭が痒い。
とりあえず左手で頭は搔けたものの、頭にも包帯が巻かれ、顔にもガーゼが貼られている事に気が付く。ついでに酸素マスクも。
ああ、そうか……こういうの重体って言うんだ。
「フッ」
自分の状態が可笑しくて、鼻で笑ってしまった。
しかし目が覚めてからずっと酷い頭痛がしている、痛み止めは効いているはずなのに。
ふと窓に視線を向けると、昨夜の雨は一体なんだったのかと思う程の快晴だ。
そんな事を考えながらぼーっと外を眺めていたら、看護師さんが入ってきた。
「あ、おはようございます」
とりあえず挨拶をして目が覚めた事を伝える。
「ひゃっ! あ、ごめんなさい! 気持ちが悪いとか、吐き気とかありませんか!?」
オレの返事を待つまでもなく慌ててナースコールを押す。
「503号室の患者さんが目を覚ましましたっ!」
いやそんなにビックリしなくてもと思ったが
「あー、えーっと、大丈夫……ではないですね。あちこちかなり痛いです。頭痛も酷いですけど吐き気は……今のところはなんとか」
「そうですか、後でMRIも必要か先生と相談してみますね!」
「分かりました。身体中痛くて動けそうにないですけどね」
「では、ちょっとでも気分が悪くなったら直ぐ呼んで下さいね。ナースコール、ここ置いておきます。これからしばらく大変だと思いますけど、きちんと治すまで頑張りましょう!」
「はい。……あ、えっと、ずっと寝てるのもアレなんで、テレビのリモコン取って貰ってもいいですか?」
「はい、ここ置いておきますね。あとお水もこっちに置いておきます、トイレの時は呼んでください」
「ありがとうございます」
「じゃ、また後で伺いますね!」
元気な人だ。そもそも、病院で働く人たちって皆あんな感じなのかな?
看護師さんが出て行ってから、それほど間を置かずドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
「大変なところ申し訳ありませんが、ご協力をお願いしますよ」
草臥れた感じのスーツを着た三人の大人が入ってきた。
「身体の方は大丈夫ですか? 少しだけ話を聞かせて貰ってもいいですかな?」
名刺を出してくるが、まあ動けない。
「すいません、まだ身体の方が上手く動かないので」
「ああ、こりゃすまん」
名前と所属が見えるようにしてくれた。
刑事部捜査第一課の『烏帽子』さんと『熊谷』さん、それと生活安全課の『岩上』さんという人だった。
「勝手な行動をしてご迷惑おかけしました。自分が分かる事は全部お話ししますので、どうぞ座って下さい」
「申し訳ない。んじゃ失礼して」
三人は折りたたみイスを開いて座る。
「すまんね。じゃあ、まずこちらから質問するより、天狗さんの方から順を追って話してもらってもいいですかね」
「分かりました」
「ああ、もちろん疲れるだろうから、休み休み、ゆっくりで大丈夫なのでね」
オレは酸素マスクを外し、最初から、麗と土曜日の約束をした場面から話をした。
犯罪に巻き込まれたのかもしれないと思った経緯、足取りを辿った方法。その過程で『本栖 有』ことアルと一緒に推測の真偽を確かめに行った事。もしアタリだったら警察に通報し任せるという決めだった事。そして自分が捕まった際に確認した犯人たちの人数や容貌についての情報など、話せる事は全部余さず話した。学校から備品を拝借したことは伏せておいた。
「すみません、これで全部です。 後は気が付いたらこのベッドの上でした」
「そうでしたか。 大変なところ、細部まで話してくれて非常に助かりました、ご協力感謝します。ああ、それと、あまり口に出来ない内容なんですが、見識から、現場に散らばっている犯人らのものと思われる遺体、まぁ遺体と言っても頭部や肉片なんですがね。凄まじい衝撃を受けて飛び散ったか、もしくは物凄い力で引き裂かれたとしか思えない状態だったんですよ。五体満足だったのが天狗さんと絹路さん、それと本栖さんだけだったんですが、何か、お判りになる事や心当たりはありませんですかねぇ?」
「すみません、先ほどお話ししたことで全部なんです、お役に立てなくてすみません。あの、麗のケガの具合はどうなんでしょうか? 入院先とか、何か知っていたら教えて頂けると助かります。それとアル……本栖は無事ですか?」
烏帽子さんと熊谷さんは、困ったとでも言う様に一瞬顔を見合わせ首を傾げる。
オレ何か変な事言っただろうか?
「いや、知っていると言えば知っているが……君には少し……」
「エボさん、そこからは私が」
「ロック……いいのか?」
「はい、ここからは私の仕事なんで」
ロック? ああ、岩上さんの愛称か。
「天狗君、無茶ではあったが、君と本栖君の勇気ある行動に私は敬意を表する。……だが、君には酷な事を伝えなければいけない」
学校から備品を拝借した事や、相手は犯罪者といえ鈍器で殴り倒した事、色々やらかした事がバレているとしたら逮捕されて少年院行きか? 後悔はしていないからそれくらい何でもない。
「……君は、目が覚めてからテレビでニュースは?」
「いえ、刑事さん方がいらっしゃる少し前に起きたばっかりだったんで、まだ」
「そうか……、なら、私から話す前に、まずはニュースを見てもらったほうがいいのかもしれない」
「……? あ、はい」
看護師さんが置いて行ってくれたリモコンを手に取りテレビをつける。
画面にはヘリコプターからの現場上空映像が映る。
音声がよく聞こえなかったので音量を上げた。
『先週、金曜日の深夜に、凄惨で不可解な事件が起きました』
ニュースキャスターは続けて語る。
『誘拐された絹路 麗さん17歳を救おうと、同じ学校に通う男子生徒2名が、拉致されている場所を突き止め、警察に通報しました』
画面上に麗の顔写真と名前、年齢が表示されている。
『警察が到着するほんの数分程前に、現場と思わしき場所から、巨大なオレンジ色の火柱と見られるものが立ち昇り、全てが吹き飛ばされたもようです』
ヘリコプターの映像が建物があっただろう跡をズームアップする。
『警察が到着した時には、現場には犯人らのものと見られるバラバラになった遺体と、血と肉があちらこちらに散乱していたと言います』
……は?
『被害者の絹路さんと、男子生徒2名は緊急搬送され、1人は身体中に大怪我を負っているうえ意識不明の重体。もう1人は命に別状はありませんが、頭を強く打ったらしく意識不明。被害者の絹路さんに至っては死亡が確認されています』
……は!?
『なお、殺害された絹路さんの葬儀が月曜日の今日、執り行われており。親族、学校関係者らが参列しています』
映像が葬儀の中継に切り替わる。
「うっ! ウゲェーッ!! オウェッ! オ゙エ゙ェーッ!」
認めたくない現実、突如フラッシュバックする深い紅、紅、紅。
オレは麗を助ける事が出来なかった。
事情聴取とニュースによる追体験で、オレの頭と身体は猛烈に拒絶反応を示し、嘔吐し呼吸困難に陥った。
誰かがナースコールを押したのか、すぐさま看護師が飛んできて処置してくれ、注射を打たれた後は意識を失った。
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