Side Story 強化合宿最終日 飛躍 ~新庄祭り2~
オレたちはお互いあまり離れない様にしながら駅前通りまで何とか辿り着いた。
何とかって表現は大袈裟かと思うが、実際混雑してる満員電車の中を無理やり歩くような状態なのだ。なんせこの小さな商店街全体に露店が並び、審査巡行で待機している祭りの山車とお囃子が、最後尾なんて見えないレベルでズラッと並んでいるんだから。
そこに見物客が数十万人レベルでごった返しているのである。だからなるべく離れないように上手に歩きながら、かつ露店に顔を突っ込みつつ山車の出発を待つ。
オレは小学生の頃、祭りバカと言われる程に祭りは夜中まで遊んでいて、家に23時に帰って母親に毎回怒られる、という事を繰り返してきた。なので山車を見るポイント、祭りの歩き方、おすすめの屋台などかなりのレベルで把握している。
祭り山車には表と裏がある、勿論、表から見なければそれが何のテーマの山車なのか判別する事は不可能だ。
「祭り山車を見る前に、見ながら食べるものを屋台で買っておこっか」
「あたしはかき氷とお好み焼きとたこ焼きとイカ焼き!」
「イカ焼き!? 私はイカ焼きとイカ焼きとイカ焼きとポテト!」
「アーちゃん、出店系は必ずイカ焼きマストなのおもしろーっ! あーしもイカ焼きでー!」
「じゃあ、私は……ってどんなのがあるのか分からないわ、晶ちゃん、私の選んでもらっていい?」
「了解です、キラ姉は何が好き? どんなのが食べたい?」
「じゃ、僕たちもちょっと買いに行きましょうか」
宵祭り本番が始まる前に食べ物と飲み物を買い込んだオレ達は、ある程度人混みが空いてて、かつ、山車の全景が見える場所に移動した。
そして雑踏の中、先頭の山車のお囃子の笛の音が鳴る。
――ピィ~~ィ! ♪♩♫♪♬♪~
それに合わせて一斉に太鼓、笛、鐘の音が混ざり合う。
――ドドンッ! ドドン! タタン! タッタッタタタンタ! ドンッ! ドンッ!
夜の街に、空に。そして日本人の心に染みていくような音色を刻みながら山車が動き出す。揺られる電飾がカラフルな作り物をライトアップし、この世の風景ではないような場を醸し出す。
「わぁーっ! これは、凄いわね!」
「でしょ!? 皆とこうして一緒にお祭りを楽しめるなんて、今年は最高ね!」
「そうですね、去年なんて私風邪引いて寝てましたから!」
「あーしも。ずっと独りだたっから、こうしてしっかりお祭りを見るのって、初めてなんだー。だから今は本当に魔法みたいな毎日だし」
そんな話をしながら、めちゃくちゃ写真を撮る女性陣。
「俺もこうやって誰かと祭りを見るなんて、しかも浴衣着てなんて、初めてだ」
「僕だって同じですよ、基本、友達なんていなかったですから」
「オレはソロで遊びまくってたな……主に出店巡りで」
山車はゆっくりゆっくり、違う音色のお囃子を連れてオレ達の前を何台も通り過ぎて行く。
気が付くと買ってきた食べ物もいつの間にか食べ尽くしており、これはちょっと祭りに慣れてきてそろそろ飽きが来る頃かなと思ったので……。
「今年の山車は20台だったか?」
「そうです、今年は20台で、今14~5台目くらいでしょうか」
「よし、なら皆ちょっと移動しようか」
見物客を掻き分けて山車が運行する道路に出た。
「見物するのもいいが、本来の祭りの楽しみ方は参加するってのが一番なんだ!」
俺はアゲハとキラさんの手を取り、山車を引っ張る綱、引手の行列に参加した。晶と天南さんもショウゴとジュンタの手を引いて追ってきた。みんなで山車と一体になって祭りに溶け込む。
「「チェレンコヤーッサーっ!」」
お祭り独特の掛け声と共に、引き手の子供たち若者たちと一緒に綱を引き、大声で叫びながら大観衆の中を拍手とカメラと歓声を浴びながら練り歩く。
「あたし、お祭りで山車引っ張ったの初めて! こっちからの眺めって最高ね!」
「そうね! めちゃくちゃ気分いいわね! すごく楽しいわ!」
「私も子供の頃以来ですよ、引っ張ったの!」
「僕も実は初めてですよ! 熱気が凄いです!」
「俺だけデカすぎて浮いてないか?」
「誰も気にしねーよ、んなもん!」
「人目に晒されるのなんかめっちゃハズかしー! けど気持ちいーしー!」
みんなで笑いながら、いちばん人がひしめき合う山車審査会場の駅前ロータリーに入る。
一層の歓声とライト、カメラを浴びせられるので、皆気分が上がり手を振ったりしている。
観客側からこっちに向かって一生懸命手を振っている集団が見えたので、誰だ? と見たらバイト関連のおーちゃん集団だった。
オレも祭りの騒ぎにあてられ気分が上がっていたのか、大きく手を振りかえす。
「「うぉーっ!! リーン! リーン! リーン!」」
と余計な声が祭り囃子に混じってしまったので「ヤメロ! ヤメロ!」とブンブンと手を振ってやめさせたら周囲から爆笑されてしまった、恥ずかしいったらありゃしない。
「リン、今の名前連呼してた人たちって?」
「ああ、合宿行く前にバイトした先の知り合いだよ、全く恥ずかしいったら」
「そうなんだ! あはははっ、よかったね! 賑やかな知り合い沢山出来たみたいであたしも嬉しい!」
と思ったら、さっきのおーちゃんらの名前連呼でオレに気が付いた多分チームRの奴らがぞろぞろと俺のとこに挨拶に来るっていう珍事が起こり、ショウゴもこう見えてナンバー2の位置になっていたらしく、挨拶されていてさらに爆笑をかっさらってしまった。
「にゃははは! おーい、おーちゃーん! ウェーィ!」
「あ! アゲハのねーさん! ご無沙汰っス!」
「「こんちゃーっす!」」
厳つい男どもがアゲハに頭を下げて行く様も、観客のツボだったらしくまた笑いが起きた。
他の女性陣が「どうなってんの!?」と驚いてたけど。
また少しロータリーを先に進むと手を振る女性が見えた。
「あ! お姉ちゃんだ! おーいっ!」
天南さんが手を振る先を見ると、お姉さんと一緒に浴衣を着た金髪美人も手を振っていた。
「セオドラさん!?」
「リン様ーっ!」
浴衣 + 金髪ハーフ + ナイスバディ + 美人 = 目立つ!
「様」でオレの名前を呼び全力で手を振る図に、周囲の羨望と殺意を感じる。
さっき挨拶にきたチームRの奴らまでオレに羨望と殺意を向けているんだけど!?
後ろでは、オレのケツをアゲハがツネっている。
「天南さん、セオドラさんとお姉さんって知り合いなの!?」
「みたいだね? 今度聞いてみる! おーっ!」
勢い任せに晶とキラさんもめっちゃ手振ってんだけど、振り返してる人数多くない!?
絶対「俺に向かって振っている」って勘違いしたんだろうなと思う、控えめに言ってもウチの女性陣は、ギャルカワイイ、少女カワイイ、キレイお姉さんだからな。こりゃ羨望と殺意を向けられても仕方ないかも?
駅前ロータリーを一周し、人混みが途絶えた所で山車から離れ一呼吸つく。
「見る側と参加する側でこんなに違うのね! とってもいい体験ができたわ! それと外国の人も多くてビックリね」
「めちゃくちゃ楽しかったぁ~! 来年もまた皆で宵祭り参加しよー!」
「観客全員、私の可愛さに気が付いたことでしょう!」
「アーちゃんはいつでもカワイさMAXだしーっ! んーっカワイイカワイイ!」
「んむぐっ……! ……っぷはぁ!」
「そうだな!」
「ああ!」
「僕からもお願いします」
祭り1日目がこうして終わり、宿に帰る前に「夜食を~」と言って屋台でフランクフルト、リングポテト、唐揚げなど追加して買った。
「おっちゃん! 6本ちょうだい!」
オレは懐かしいリンゴ飴を買いみんなに渡す。
「はいコレ! 今日はお疲れ様、楽しかったな!」
皆に「なつかしー!!」って喜ばれた。よかったよかった。
宿に戻り時計を見ると21時を回っており
「あっ! 時間的にお風呂にいくなら今ギリかもーっ!」
「寝湯いくべしー! 寝湯ーっ!」
「行きましょう! 行きましょう!」
「待ってー、私も行くわ!」
結局全員で今度は夜の寝湯を楽しむのだった。
山間部なので夏と言えども夜は冷えてくる。寝湯に浸かりながら月と叢雲ならぬ、月と湯気と蛍を堪能した。
◇◇◇
新庄まつり2日目は、朝9時から神輿渡御行列、簡単に言えば大名行列が市内各所を練り歩く。馬が神輿を引き「下ぁ~にぃ~、下に」という感じで「下におろーう、下におろーう」と映画や大河ドラマで見るアレを実際に見ることが出来る。傘回しという役が、ずっと中腰で腕を上にあげ、グルグルと傘を回したり、挾箱を持つ足軽役が見事な足さばきを見せたり。普段では見る事の出来ない昔ながらの場面を体験することが出来る。
「……というのがありまして、折角なので見にいきましょう!」
晶の提案で宿で美味しい朝食を頂いた後チェックアウトし、オレの家に戻って来た。
朝8時も過ぎれば祭りの山車とお囃子は既に運行を開始しており、今日は朝から晩までどこに行っても祭り囃子が聞こえるという本祭りの日だ。
今日も皆浴衣で出掛けるが、昨日と違い日中の日差しに晒されるので、ベールがあれといえど気分的に団扇や扇子を手に持ったり、帯に挿したりして涼を演出した。
神輿渡御行列は最上公園という戸沢城跡からスタートするので、皆でそこに向かう。
出店屋台はもう開いており、昨日の宵祭りの夜程ではないが、既にかなりの人出がある。
「そう言えばオレも大名行列なんて見るの初めてだな」
「その前に、馬を見るのも初めてなんだけど私」
「あたしは前森高原で馬に乗った事あるよー、馬ってすっごいカワイくて賢いのー」
「そうなんですか!? 私が近づいたら頭かじられそうな気しかしませんけど!」
「アーちゃんは齧られそうー! あーしは追いかけられそーだし!」
「僕は子供の頃、頭かじられて大泣きした記憶がありますよ……」
「俺は、近づくと馬が暴れて逃げそうな気しかしないんだか」
「「それは非常にわかる!」」
最上公園前に着くと、沿道は見物人でごった返していた。
「あ、いますね馬! わっ結構大きいです!」
確かにかなり大きく立派な馬に見える。
「うわー、確かに立派な馬だしー、ってかあーしより凄く賢そー!」
「ほんと、大人しくて優しそうな馬ね、っていうか大きいわね!」
「すごくおっきいねー! かっこいいー!」
オレたちが馬をじっと見てたら、ふと馬の目がこっちを向き、頭をちょこんと下げたように見えて、オレたちの方がキョトンとしてしまい「馬はカワイイ」ということで和んだ。
しばらくすると、晶が蘊蓄を語ってくれたとおりに神輿渡御行列が始まり、多分200名以上の行列が通りすぎるまで数十分もかかったと思う。
女性陣は例のごとく写真を撮りまくっていた、特に馬を。
「中々貴重な体験をさせてもらったわ、昨日と今日、誘ってくれてありがとうね」
「何言ってるんですかキラ姉、来年も一緒ですよ? 当然」
「そうよ? むしろ一緒じゃなきゃもう違和感しかないんだからね?」
「と、いうことだから観念した方がいいな」
「そうですね、僕も来年が既に楽しみです」
「俺はあちこちの祭りを見に行ってみたいかな、青森のねぶたなんかは特にな」
「あ、ならあーしはリオのカーニバル見てみたいなー!」
「その前に英語、英会話をマスターしないといけないんじゃないでしょうか?」
「そこはタっくんのアイテムを頼りにさせてもらうしー? にゃははは!」
先は長そうだが、来年の夏も皆でこうやって一緒に祭りを楽しめるといいなと素直に思った。
「あ、そうだ! 折角だからさ、戸沢神社で来年もこうやって皆でいられますようにってお参りしていかない!?」
「さちこ先輩ナイスアイディア! ということは例のアレもやるしかありませんね!」
「例のアレって何かしら? 私にも出来ること?」
「みんなでおみくじを引いて、一番下のを引いた人が何かオゴるってやつだしー」
「それで前回は天南先輩とアゲハさんが『大吉』でトップ、リン君が『大凶』を引いてビリでした」
「あ、ああ、それで玉こんと甘酒をオゴることになったな……」
「ふふっ、面白そうね、私もやるわ! こう見えてもクジ運はいいのよ?」
「ふっふーん! 偶然だねキラさん! あたしもクジ運がいいんだよー! フンスっ!」
「あーしもね!」
結局おみくじを引く羽目になり、自信のある人から開いて行くことになった。
「んじゃ、トップはあたしからいくね! 見よ! あたしの運の強さをーっ! ジャーン!」
と効果音付きでおみくじを広げる天南さん。
「「えっ? マジで!?」」
何とまたもや「大吉」を神引きするという結果に。
「こ、これは私も負けていられないわね、っていうかおみくじで勝ち負けとかちょっと理不尽過ぎる……ケドっ!」
キラさんが気合を入れて引き、開いて皆に見せる。
「えっ!? ちょっ!」
「マジですか……やっぱりキラ姉も只者ではないですね」
「え、何? その反応、私何を引いたの? え? キャーっ! やった! 大吉!!」
両足でジャンプする珍しいキラさんを見ることが出来ました。
「となると、次は私ですか、では......」
「ちょっと待った! 今回はオレが先に開けさせてもらおう!」
「リン先輩必死ですか!? 仕方ないですねー、ではお先にどうぞ」
「ありがとう晶! 今日のオレはきっと「凶」ではないはずだ!」
「あ……、なんかちょっと韻踏みましたね『今日のオレは凶』って……」
「これはまたダメなやつだな」
「ダメなやつですね」
「ご愁傷さま」
「リン、元気だしてー」
「いやそんなお通夜みたいな雰囲気出さなくてもよくね!? なんならまだ開いてないんだけど!?」
「「どうぞ!」」
「くっ……ちくしょ、いくぞーっ!」
「「……」」
「さすがリンね」
「持ってるわね」
「持ってますね」
「にゃははははっ!」
「あー、えーっと」
「僕はりんご飴で」
「ちょ! え、まだチャンスはあるはず!」
「ない……かな」
「ないわ」
「ないですね」
「あー」
「僕はりんご飴で」
「……大凶……だと!?」
「はいじゃあ次は私がいきます! えいっ!」
「オレの大凶、凄い勢いでスルーされたんだけど!?」
「はいっ! 安定の『中吉』です! ごちそうさまです!」
「おおー!」
「んじゃ次は僕行っていいですか」
「あ、俺も一緒に開いていいか?」
「なら一緒に開きましょう!」
「「せーのっ!」」
「あ、僕、中吉でした!!」
「俺はまた小吉だ」
「んじゃー最後はあーしで! ほいっ! やっぱり大吉だしー!」
「「マジでーっ!?」」
「ってことで、リン。ゴチそうさま!」
「くっ! 好きなだけ頼みやがれーっ!」
結局、皆にお腹一杯になってもらって、今年のお祭りはお開きとなるのであった。
もちらん、また来年もみんな一緒に祭りに来ようと思う。
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