Side Story 強化合宿最終日 飛躍 ~新庄祭り1~
2泊3日の合宿を終え帰宅したオレ達は、個々で訓練をしたり、山の広場に行ってそれぞれの能力の使い方をお互いにレクチャーし合ったり、天南さんとのランニングを再開したりと、ゆっくり目の数日間を過ごした。
皆の夏休みも今日で最後、大事な最終日だと思うのだが……。
「なのに何故、皆してオレの家で普通に寛いでんだぁーっ!?」
「えー、だって外は暑いしー、一人で部屋でゴロゴロしてるより、皆で一緒にゴロゴロしたほうがクーラーの電気代とかも節約出来て一石二鳥だしー! 何よりリンの家が一番落ち着くんだしー」
「アゲハちゃん、それは無理がありますよ。私のベールが付与されている限り熱くも寒くもなく常時快適なはず!」
「あ、あれー? そう言えばそうだったかなー? にゃはははっ!」
「にしても本当に飛行って便利ね。皆が私の家から帰ってから試しにもう一回宇宙に行ってみたら、ものの十秒も掛からなかったわ。あそこは静かだし、綺麗だし、いっそ住んじゃおうかなって思った位よ」
「それは流石に無理が……でもないのかもしれませんよ? 僕の創造で宇宙空間でも居住可能な拠点を作ってしまえば……これは一考する価値が……」
「俺は完全にリンの昼飯目当てだがな」
「実はあたしもっ!」
「え、なに? リンくんの料理ってそんなに美味しいの? なら私も是非!」
「お前らー、今日は買い物とかしてなかったから、あるもので作るから文句無しって事なら、まあ」
「「やったぁー!」」
「楽しみにしてるぞ」
アゲハと晶に至っては、見えない様にグータッチしている。見えてるけど。
「あ、そうでした! 今日集まったのは今週末のお祭りを皆で楽しみませんか? って事を話そうとしたんでした」
「お祭りって『新庄まつり』よね? 私一度も見たことがないの。ボッチには人混みは毒だったもの」
「キラちゃん! あーしらみんなで手繋いで一緒に歩こーっ! そしたら絶対迷子になったりしないしー! ね?」
「私もお姉ちゃんたちと一緒な感じで、お祭り歩いてみたいです!」
「「ぐはっ! おっ、お姉ちゃん!」」
晶の一言にやられた女性3名が、心臓を押さえて何かに耐えているように見える。
「なら、俺達はリンとジュンタと一緒に手を繋......」
「「だが断るっ!!」」
「......いで……」
オレのツッコミに合わせて来るとは、ジュンタ、やりよる。
「手は繋ぎませんが、まあ一緒に回りましょうか、皆一緒に」
「それならオレもやぶさかではない」
「なら決定ね! 今年は土日に被ってるから目一杯遊べるわよ!」
「イェーイ! やったしー!」
「そんなキラさんに、私が蘊蓄を語りましょう!」
『新庄まつりとは』
山形県新庄市で毎年8月の24、25、26日に開催されるお祭りで、宝暦6年(1756年)に当時の藩主「戸沢 正諶」が前年の大凶作(宝五の飢饉)で非常に多くの餓死者を出した事への弔いと、打ちひしがれている領民に活気と希望、そして豊作祈願の意味を込めて祭りを行ったのが起源とされている。
神輿渡御行列を始め、山車と囃子が一体となった20台の豪華絢爛な行列が見られるお祭りで、期間中は毎年50万人前後の人出で賑わう。
ちなみに出店屋台の数は昔と比べると半減したが、それでも東北一の出店数を誇る。
「や、やけに詳しいな晶」
「ふっ! こんな事もあろうかとっ!」
めっちゃサムズアップでアピールしてくる晶だが。
「晶ちゃん、すごいっ!」
抗えない天南さんの弾力の暴力に「むぎゅっ!」っと抱きしめられ押し潰されるのであった。
キラさんは何故か自分の胸に手をあてて、スンとした表情になっているが、落ち込む事は無いとオレは思う。うん、絶対声には出さないけど。
「……っ、ぷはぁ! ……ということで、今週末の朝9時にまたここに集合で祭りに出掛けるって事でOKでしょうか」
「「OK―!」」
「オレに裁量権は……って、土日? えっと、ウチニトマルノデショウカ?」
「あーしはもちろんOKだしー!」
「あああ、あたしも大丈夫よっ!」
「無論私もそのつもりです!」
「あ、えっと、なら私も?」
「なら俺も」
「僕もですね」
「ぐっ……あ、そうだ! 折角だから銀山温泉に泊まりに行こうか!」
「マジ!? あーし行きたい!」
「私も行きたいです!」
「今から予約出来ますかね? お祭り時期はいつも激混みですよ」
「あ、それなら私に任せて。えっと、24日(金)にチェックインで25日(土)にチェックアウト、女性4人で1部屋、男性3人で1部屋、でいいかしら? 食事はどうする?」
「24日はメインの宵祭りがあるので宿に戻るのは夜10時くらいになると思います。ので、食事なしで、それ以外は概ねそれでOKかと」
「そうなのね。了解したわ! はい、予約完了!」
「えっ! キラさん凄すぎ!? 秒殺!?」
「キラちゃんも大概どうかしてるからねー、にゃはははっ!」
「ちょっと待て、宿泊代、お金の方には一切触れていないんだけど、大丈夫なのか?」
「あなたねぇ、私を誰だと思ってるの? 働きたくなくて引きこもりで年間に余裕で二桁で憶稼ぐ女よ?」
「凄いと言っていいのか、別の意味でスゲェと言っていいのか微妙に困る感じでドヤったな。けど、助かる、素直にゴチになります!」
「「ゴチになりまーす!」」
「こんなの何でもないわよ、気にしないで」
と言いながら横向いた顔が赤くなって照れてるのがバレてますからね?
「あれ? ってかよくこの時期に部屋空いてましたね?」
ジュンタが疑問を投げる。
「え? ま、まあ、タイミング良かったみたいね。宿の宿泊システムを調べたら、丁度隣同士の2部屋がキャンセル入ったから即押さえたの」
「マジで!? あたし達って運いい~!」
「ラッキーですね! 私の日頃の行いのおかげですね!」
「サッチもアーちゃんも素直でカワイイーっ! でも、キラちゃんありがとね!」
「もしも無理な時は、僕の創造で銀山温泉に旅館作るとこでしたよ」
「いや、流石にそれは無理があるだろっ」
「では改めて、今週末の朝9時にまたここに集合で。一旦宿にチェックインしてから夕方にここに戻って来て祭りに出掛けるって事でOKでしょうか」
「「賛成ーっ!」」
そんなこんなで皆で祭りを楽しむ事が決定した。
女性らは何やら話があると言ってコソコソ話し始めたので、ショウゴとジュンタにはゲームでもしてもらって、その間に俺はみんなの昼飯を作る事になった。
ちなみにショウゴとジュンタはオレのメインPCとサブPCでAPEX’sというFPSもののバトルロワイヤルで遊んでもらっている。
◇◇◇
今日は外も日差しが強くまだまだ夏なので、見た目も涼しいそうめんにしようと思う、なにしろ乾麺のストックなら沢山あるのだ。
ホントに簡単に作るとして、まずお湯を沸かしてる間に出し巻き玉子を作ろうと思う。綺麗に作るコツは白身をいかにきちんと切るか、中火で面倒がらずに薄く何度も巻く事がポイントだ。6人分なのでデカイのを3つ作り、半分に切ったものを3等分し皿に盛る。
そうめんを茹でている間にネギを切り、氷水に漬けておく。
タレは昆布だしの汁を使って氷でキンキンに冷やし、隠し素材として鯖の水煮を半欠けずつタレの中に忍ばせた。
冷蔵庫に「いぶりがっこ」が残っていたのでそれも切って出し巻き玉子の隣に少量添えた。薬味は一味唐辛子、わさび、生姜を用意して、茹で上がったそうめんをしっかり水で余熱を取り氷で冷やす。
見た目も涼しい器に適量盛って完成だ。
「出来たぞー!」
お盆に乗せてリビングに運ぶのは女性陣が手伝ってくれた。
「皆がリンくんの料理はものすごく美味しいっていうからどんなものかと思ったけど、見た目は意外と普通ね」
「確かに、珍しく普通じゃない?」
「言われてみれば、まあ、今回は普通? ですかね」
「でもリンの料理だよ? 美味しくない訳がないんだし!」
「アゲハさんの言う通り、リン君の料理ですよ?」
「ハズレのはずがないだろう」
「見た目は普通のそうめんだぞ!? あるもので作ったから大したもんは作れなかったし、まあ食べようぜ!」
「「いただきまーす!」」
「ん? なんかタレの中に何か入ってます?」
さっそく晶が気付いた。
「鯖の水煮が入ってんだ、それ全部崩してタレに混ぜてから食ってみな」
みんな、教えられるまま鯖を崩してからそうめんを食べる。
「「んなっ!!」」
無言でズズズとそうめんを飲み込むように食べ始めた。
「これ、美味しいわね! 見た目は意外な組み合わせだけど旨味が凄いわ!」
「リンひぇんぱい、おいひぃれす!」
「そうめん啜りながら喋るな、女の子がそんなはしたない真似しちゃいけません!」
「にゃはははっ! リン、お母さんみたいだしー!」
「お母さんおかわりーっ!」
「誰がお母さんかっ! 今茹でるから待ってろ、ってショウゴ食べるの早すぎねぇ!?」
「あ、リン母さん! 僕もおかわりで!」
「ママ、あたしにおかわりちょうだーい!」
「誰がママかーっ!」
「出し巻き玉子も絶品ね! いい腕してるわねリンくん!」
「ちくしょう、腹一杯なるまで食いやがれー!」
乾麺のストックなら沢山あることが仇となった。
◇◇◇
お昼後は何故かウチでAPEX’s大会になり、キラさんがクッソ上手い!
「伊達に引き籠りやってた訳じゃないわよ? ちなみにプレデター常連よ」
だとさ、オレはプラチナで沼ってますけどね、しかし上手い。
実はアゲハも相当上手くて、ほぼ毎シーズンマスターを維持してる。
天南さんと晶が意外と喰いついて、今度教えてくれ鍛えてくれと頼んでいた。オレが女性パーティにボコられる日も近いようだ。
あっという間に夕方になり皆帰宅し、今週末の祭りを待つことになった。
あ、アゲハだけは帰ったフリしてちゃっかり戻ってきたけど。
◇◇◇
週末までの数日間は日々の訓練ぐらいしかやる事がなかったので、先日バイトした店に行ってまた呼び込みのバイトを3日間程やらせてもらった。
おーちゃんがもうオレに会えないかと思ったとマジ泣きしてきたので、一応ゴメンと謝っておいたが、お前はオレの彼女かナニかかっ! って突っ込んだら、お店の人らにはおーちゃんはオレの彼女っていうポジションで定着してしまったので、大変申し訳ない事をした。一応誤解は解いておいた。
3日間で新規でお客となったお姉さん方の他に、前回来てくれたお姉さん方もまた来てくれて、有難いことに売り上げにめっちゃ貢献してくれた。
売り上げ貢献の特別ボーナスも含め、3日間でなんと70万円も稼いでしまった。
一生懸命労働しているサラリーマンの方々に大変申し訳なく思いつつも、有難く頂きました。
そうこうしているうちにあっという間に週末となり、皆がウチに集まってきた。
「さあ、今日から新庄まつりが始まります! ぶっちゃけこれが終わると夏が終わります! なので楽しんで行きましょうー!」
「「おーっ!!」」
イベントリーダー晶の号令でオレ達の祭りが始まった。
いつもの通りウチの庭から銀山温泉近くの見えない駐車場に着地し宿にチェックインする。
今回予約が取れた旅館は「古勢起屋別館」で、大正ロマン溢れる銀山温泉の謳い文句にマッチした趣のある宿だ。
銀山温泉は皆初めて来たので、その大正時代のノスタルジック感に圧倒されながらも、早く散策に行こうと女性陣から促され宿の前で集合した。
「始めて来たけど、めっちゃ風情ある~! ね、めっちゃ写真撮ろうねっ!」
「あーしこういう雰囲気好きだー。落ち着くしー」
「そうですねーっ! これは映えるってやつですね! はい、みんなこっちきてー! はい、ピース!」
見事な連携で有無を言わさず事が運んで行く。
「ジュンタ君! ちょっと写真お願い! アゲハ! 晶ちゃーん! キラさーん! こっちー! カワイく撮ってねー! はい、ポーズ!」
カシャ!っと、ジュンタまで有無を言えないままカメラマンと化した。
夏とはいえこの山間の温泉は結構気温が低く、10時も過ぎているのに霧が出ている所もある。
真ん中に流れる川の側に足湯もあり、女性陣は靴下を脱いでキャッキャ騒いでいる、が、ギャル、少女、美人が4人も集まれば物凄く目立ち、周りの目を引く。
カップルで散策してる男性もこっちをガン見して、彼女さんに耳を引っ張られていたりするのがちらほら見えたり見えなかったり。
お土産屋も沢山あり、あちこちに頭を突っ込んではちょこちょこ買い物をしている。
「はいコレ皆にお裾分けね」
キラさんが何故か「銀山温泉」と書かれたキーホルダーを買って皆にプレゼントしてくれた。
「わっ! ありがとーっ! キラちゃん、大事にするしーっ!」
「かーわーいーっ!」
「私、大事にしますっ!」
勿論、オレも大事にするよ!?
「俺は家のカギにつけよう」
「僕は自転車のカギにつけます」
「オレは家に飾ろう」
「リンくんだけ扱いおかしくない? まあ大事にしてくれるならいいんだけど」
そう言って後ろを向くその横顔には笑みが零れていたので、オレ達も嬉しくなった。
歩いていると「カレーパン屋」があり、なんで? ってなったけど物珍しさから皆で買って、歩き食いしながら散策した。奥まで行くと洞窟とか滝とかあるみたいだったけど、お土産屋巡りで忙しくグルっと回ると2時間近くも経っていた。
宿に戻り温泉入りに行こうって事になり、フロントに聞いたら「温泉は本館の方で」って事だったので、銀山温泉の入り口ら付近にある本館に行き温泉を楽しむ事に。
ノーマルな温泉の他に「寝湯」ってのがあって、完全に横になった状態で入れる超浅い個別温泉がある。そこに男3人で横になり空を眺めてたら寝そうになった。
「……これ、最高ですね」
「最高だな……」
「オレの家にも作ってくれジュンタ……」
などと話しながら、後で夜にまた入りに来ようという事になった。
夜空を眺めながら、しかも寝ながらの温泉とか贅沢すぎてワクワクする。
女性陣の方も寝湯を試してきたらしいが、開放感が凄く気持ちよく入れたが流石に日中は恥ずかしかったらしく、やはり夜にまた入りに来ることになったそうだ。
宿に戻り少し寛いでから祭りに出かける準備をした。
晶からの事前の指令で「男性は浴衣で」と言われていたので、ネットで良さげなのを買っておいた。アゲハに選んでもらったんだから間違いない、似合ってるやつだ!
オレは黒ベースに赤と紫の模様が入ったもの、ショウゴは緑ベースに茶の模様が入ったもの、ジュンタは青ベースに濃紺の模様が入った浴衣に着替えた。
フロントに「新庄まつりに行って来ます」と声を掛け、玄関で待ち合わせをして見えないところからウチまで飛んで戻る予定だ。
「ごめーん、お待たせだしー!」
「結構着るの難しかったー!」
「大丈夫です! カワイイを待つのは男の義務ですから!」
「ちょっと、恥ずかしいんだけど!?」
と三者三様の声を掛け玄関を出て来た。
「「おおおーっ!」」
湯野浜温泉に泊まった時は旅館の浴衣だったので皆同じだったが、お祭り用となるとここまで違うのかという艶やかさだ。
天南さんは橙ベースで黄と白の模様に赤の帯と赤の巾着袋。
晶は白ベースでピンクと赤の模様に赤の帯とピンクの巾着袋。
キラさんは青ベースで白と赤の模様に臙脂の帯と巾着袋。
そしてアゲハは黒ベースに銀の模様、紫の帯に赤の巾着袋だ。
「……これは」
「どうにも……」
「人目を引きますね!」
「もっと素直にカワイイとか綺麗って言っていいんだよー? どう?」
「そうですよ、無言は肯定ととります」
「は、恥ずかしいからあんまり見つめないで……」
「みんな、すっげーカワイイし! すっげー綺麗だよ! うん!」
「お、俺も同じく、皆凄く……似合っている」
「めちゃくちゃイイですっ! まず写真撮りましょうかっ! バックも大正時代でなお映えますよ!!」
いやジュンタのテンション爆上がりしたな! わかるけどもっ!
ってか、オレとアゲハは何気にお揃いだけどね。
「折角だから皆で撮ろ? 私も家に飾っておきたいし」
「うんうん、撮りましょう撮りましょーっ!」
「すみませーん! 写真撮ってもらってもいいですかー?」
アゲハの行動が早い、近くを歩いていた人をあっという間に捕まえて写真を数枚程撮ってもらった。
「んじゃ皆に送るねー! いいよねーこういうのめっちゃ嬉しー!」
「分かります分かります、後で何度も見返すやつです」
「私は既に家のサーバーに転送して高画質で大判印刷済みよ」
「え、キラさんはっや!」
よく見ると天南さんと晶の胸元にPACSのフェザートップネックレスが見え、キラさんとアゲハの指にもリングが見える。
皆をしっかり守っているようで、何かいいなこういう感じ。
周りから見えない所まで歩き、秒でウチの庭に着地。
「よっし、祭りの始まりだな! 楽しんでいこう!」
「「いこーっ!」」
そう遠くない場所から、祭囃子が響いているのが聞こえる。
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