Side Story 解氷 ~御先 晶~
私には恩人がいる、名前も何も知らない私のヒーロー。
私が知っている事といえば、夕陽に照らされ真っ黒に染まった背中の影くらい。出来ればいつかお礼を言いたい、そして恩返しがしたい。そう、ずっと思っていた。だが、それも私が幼稚園の頃の話で、あれから時は流れ私も中学2年になっていた。
ここ最近は物騒な事件も多い、女子高生が誘拐され殺される悲惨な事件も起きた。いつどんな事に巻き込まれるか分からない、私のそういった不安をお兄ちゃんは感じ取っているのか、ずっと私を守ってくれる。だが、あの事件から二か月も経った頃から世の中は変わっていった。
街中でよく見かけるガラの悪い人たちやチンピラのような危ない人たちが次々と消え……というか改心? したのか、毎夜うるさかった暴走族も居なくなった。何が起きてるのか分からないけど、学校で男子たちがチームRっていう人たちの噂話をしているのが耳に入った。何でも悪い奴らを片っ端からやっつけているヒーローだとか何とか。
「中学生にもなってヒーローだとか、同い年の男子ってばやっぱりまだ子供ね」
なんて周りの友達と話したりしたけど「実は私にもヒーローがいるんです!」なんてとっても言えなかった。だってどこの誰だか顔すらも知らない、とっても強い背中のヒーロー。でも、誰にも言わなくてもいいの、だって私だけの秘密のヒーローなんだから。
最近お兄ちゃんが少し変だ、帰りが遅くなったり夜に出歩いたりする。何してるの? なんて聞かない方がいいって事は理解してる。だって、お兄ちゃんも私のヒーローの一人なんだもの、きっと悪い奴を倒しに日々頑張ってるんだって知ってるから。
それから少ししたらお兄ちゃんが私に聞く。
「晶、ちょとだけ昔話をしてもいいか?」
お兄ちゃんは私だけのヒーローの話をした。
覚えていてくれたんだと嬉しくなった。
けど、そしたら私だけの? じゃなくなるのかなって少し寂しくもなった。お兄ちゃんは、そのリンて人がもしかしたら私のヒーローなのかもしれないって言う、でも違うかもしれないとも言う。
「お兄ちゃん、私その人に会ってみたい」
私の心は高鳴った、会えるかもしれないと。自分自身の目で確かめたいと。後日、私とお兄ちゃん、それと天南さんという女の人と、三人でそのリンさんに合うことになった。
場所はあの時の公園、時間もまさに同じような夕暮れ時。初めてリンさんを見た感想は、細いけどしっかりした身体つきで、長髪でオシャレで顔も整っていてまるで芸能人みたい、と少し見とれてしまったぐらいだ。
「初めまして、私は御先 晶って言います、いきなりでごめんなさい、この公園、見覚えないですか?」
リンさんが私の背中のヒーローだったらいいな、そう思った。
「今から約9年程前、この公園で、今みたいな夕方、夕陽が眩しい時に、小さな女の子を助けた覚えはありませんか?」
違うかもしれない、でもそうかもしれない、周りをキョロキョロしながら何かを思い出そうと考えるリンさん、お願い!思い出して。
「……泥だらけの、幼稚園の、女の子?」
直後、私は走り出し、リンさんに抱き着き泣きじゃくってしまった、
ヒーローだ! 私のヒーローがいた! 会えた! 会えた!!
しばらくリンさんに抱き着いたまま泣いていたが、いざ正気に戻ってみると恥ずかしくて離れるタイミングが無くて、ごめんなさいと思いながらもしばらく抱き着いてしまった。
「あの、リン先輩!」
私は余計な事を口走っているのかもしれない、あの凄惨な事件の事を話題にし、必死にリンさんは悪くないんだと、頑張ったんだと、私達がいると、訴えかけた。最後の方は自分の感情が溢れてしまい、また泣きじゃくってしまった。
リンさんは夕陽を見つめ何か考えているようだった。
「あたしもいるよ? リンがやろうとしてる事、手伝わせて欲しい」
天南さんがリンさんの手を取ってそう言うのを見て、負けてられないと思った。
「私もいますから! ずっといますから! 何だってやれます!」
と思わず反対の手を取ってしまった。何でもって……。
「……分かった。なら、オレはお前らを、遠慮なく巻き込むぞ」
何か想像していた以上に大変な事が起こりそうで、不謹慎だけど凄くドキドキした。復讐だとしてもそれが悪い事で法に触れる事だっていうのは理解出来てる。でも、何て言ったらいいのか、これでよかったんだって思えた。
それから数日して、お兄ちゃんがリン先輩の家に遊びに行くから、何買って持っていったらいいと言うので
「えっ! リン先輩の家に行くの!? ズルい、私も行く! 絶対行く!」
とゴリ押しして、仲良くなったさちこ先輩にも声を掛けて三人で押しかけた。初めて男の人の家に来た事に気付き、少しテレてしまったけど、お家の中はすごく綺麗にしててビックリした。
それから、買ってきたケーキとリン先輩が淹れてくれた紅茶を飲みながら、リン先輩のほんとにトンデモな話を聞かされ、その濃さに泣きそうになった。
「あの事件に関わった結果……俺にこういう能力が芽生えた」
部屋中を飛び回るお菓子を見て理解した。
私のヒーローは、本物でした。
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