ヒーローの帰還
イチの世界に別れを告げ、師匠とイロハと三人で逆巻くゲートに飛び込んだ。
数多の光の粒が漂う中から、帰るべき元の世界の正しい時間軸を選択する。
「三回目ともなると、結構慣れるもんだな」
「しっしっし! 慣れたもんダな!」
「私はまだ二回目だからな! こんなに美しい空間、そうそう慣れてたまるかっ! 勿体ない」
慣れた、というのはこの時空間ゲートの扱い方にって意味だ。
要は、行先を強く念じれば然るべき出口の方から近づいてくる。
後は、勇気と確信とワクワクを持って、見えた世界の光に飛び込めばいい。
「見えたぞっ! しっかり掴まってろっ!」
眩い光に瞼を閉じると、身体は勢いよく引っ張られ、トンネルを抜けるような感覚を覚えた。
瞼越しの光が収まるのと入れ違いに聞こえて来たこれは……戦闘音か?
オレはあのディノと戦った日の夜に戻って来たのか? ……いや違う、知らない場所だ。
しかもなんだ? この凄まじいまでの破壊され尽くされた森と激しい火災。それとあちこちに転がってる機械は……ロボットか!?
しかも眼下で誰かが戦っている。
「チッ! 来る世界ミスったか?」
「リン、ここがお前の元の世界……にしては少々過酷な所だな。生き残るのが大変そうだ」
「なんか下に強そうなやつがいるゾ、アタイやっつけて来ていいのか?」
「いや、ゲート展開で消耗しただろうから、少し休め。回復したら今度こそ元の......」
今度こそ元の世界に飛ぶぞ……と言い掛けた時、眼下で戦闘をしていた人間の、叫ぶ声が聞こえてきた。
それは、とても懐かしい……そして、長い間待ち焦がれた相棒の声。
「あああああああっ!! リンちゃぁぁぁあああーんっ!!」
ああ……お前は、またオレの名を呼んでくれるのか.。……オレの帰りを信じてくれてたのか。
「リン、お前の名を呼んでいるようだが、この世界で合っているか?」
「……ああ、オレの名を叫ぶ相棒なんて、どこの世界を探してもたった一人だけだっ!」
お前がオレの名を呼ぶなら。お前がオレを必要とするなら。
オレは、時空間の果てからでも駆けつけてやるっ!
オレは大声でアルの名を叫び返した。
地上ではアルが敵と思われる青い肌をした奴に押されているのが見える。
「オレは相棒を助ける。師匠はイロハを」
「ああ勿論だ、ゲートを展開した反動でそろそろ眠くなるだろうからな。私に任せておけ」
「ゴメン、リン。アタイちょっと眠くなってきタ……」
「ゆっくりお休み、イロハ。落ち着いたら美味しいもの食べに行こうな」
「うん……わかっタ……」
オレたちは、敵から注意を逸らさずに、地上へ下りた。
みんながオレに言葉を掛けようとするが、手を上げそれを制す。
「感動の再会と積もる話は……」
敵を睨みつけ、歩きながらパーカーの袖を捲りあげる。
「コイツをぶっ飛ばしてから……で、いいんだよな? アル」
地面に膝を着け、二振りの剣で攻撃を堪えているアルと、青い奴の間に割って入り、至近距離で顔を突き合わせる。
「ははっ……、流石リンちゃん! 話が早い」
「フッ……ったりまえだろ。まぁ、今がいつなのか、ココが何処なのか、全く分かんねーケド。コイツが最後のボスってのは何となく分かる。お前にばっかりいいカッコさせておけないからな。選手交代と行こうぜ。桜煌、頑張ったな。後は俺に任せろ、アルを連れて距離を取れ」
コクンと頷くと桜煌は直ぐに動き、アルを連れて皆の所に移動した。
「アルっ! オレが連れて来た二人は、もしかしてお前にとって大事で懐かしい仲間なんじゃないか? これからよろしく頼むぜ!」
イロハは眠ってしまった様だが、師匠はアルの顔を見て目を丸くして驚いているのが、背中越しでも分かった。
良かったな……師匠。これからはずっと一緒に居られるはずだ。
もう寂しい思いとは、サヨナラだ。
そしてみんな。どうやら長い事待たせてしまったみたいで悪い。
後でゆっくり、今まで何があったのかを聞かせてくれ。
オレも話したい事は山程ある。何せ五年分もの異世界の話だ。
だが、その前に……。
「オレの大事な仲間達を甚振ってくれた分、しっかり返させてもらうぞ。オレは天狗 䮼。お前の名は?」
言葉が通じるのかは分からないが、オレの問いにコイツは答えた。
「ヴォォオオーイド! ヴォォォオオーイド!」
青い肌をしたヴォイドと名乗った敵は、オレの目の前で気持ち悪い程口角を上げ、笑みを浮かべる。
オレとヴォイドはゆっくりと上空へ浮かんで行く。
空には、夜が明けるのを今か今かと待ち望む月が、輝きを増して浮かんでいる。
さて。コイツとヤり合う前に必要なモンが……。
「リン君! コレっ! 必要だろっ!」
後ろからジュンタの声が聞こえ、何かを投げてよこした。
流石ジュンタ、機転が利くやつだ。
そして、あらぬ方向に投げ飛ばしてしまった事も、流石ジュンタ……と懐かしくなる。
オレはどこかに飛んでいくソレを引き寄せ、そのまま右手中指に装着し受け取った。
「流石ジュンタだ! サンキュー!」
ガブリエルの羽をイメージしたリングが手に馴染むと同時に、皆と繋がる感覚、身体を覆っていくベールの感覚が懐かしい。
ああ……いい感じだ。
だけど、もうちょっとだけ欲張っても、いいよな?
「気持ちいいヤツ、くれないか。Artemis!」
恐らく、ここは最後の舞台。
締め括りを飾るに相応しい曲を、くれないか。
「「了解!! マスター!!」」
Artemisが空に飛び立ち、注目せよとばかりにスポットライトを浴びる。
「我ら、Goddess of Purity 、 Undulation Resonance! Artemis !!」
Artemisの頭上で、大きく、そして強く輝く月が、戦場に光を降らせた。
今、我らの希望は降り立った!
今、我らのヒーローはここにいる!
今、世界に響けと、言わんばかりに!!
「「みんな!! ライブ! 始まるよーっ!!」」
タイトルコール『 Rising Force 』が戦場を飛び回る。
ド派手な演奏の開始と共に、五色の光を纏うオレと青い肌のヴォイドは、お互いに笑みを浮かべ、そして戦闘の火蓋を切った。
◇◇◇
繰り広げられる攻防に大気が震える、世界が揺れる。
それはまるで、連続で打ち上がる大輪の花火。
オーケストラで連打されるティンパニ。
耳を聾する炸裂音のシンフォニー。
戦闘をモニター中の夏生は勿論、遠方からカメラを向ける世界中のメディアも、ABC経由の生配信動画を視聴している世界中の人々が、最後の戦いに注目し声援を送る。
動画コメントは目が追いつかない程の速さで流れ、SNSの投稿やリポストは世界の明暗を分けた戦い一色に染まった。
僕たち、私たちに今出来る事は無いのか。
一体、勝利の女神はどちらに微笑むの。
スピード、パワーに差が見えない、実力は互角。
俺達に出来る事は見守る事だけだ。
どうか私達の世界を守ってください。
私達にも出来る事があるはず。
声は届かないかもしれないけれど、声を上げろ。
皆の声、想い、祈り、お願いです、届いて。
誘拐事件を切っ掛けに、多くが知る事となった天狗の名。
地下組織という巨悪が世界に露呈し、その悪と対峙するヒーローたちの姿。
戦いの果て、この世界から消失した天狗の存在。
それでも数々の国を股にかけ、悪を叩きのめして行くヒーローたちのニュースに、世界中が魅了された。
言葉では表しきれない程の惨状になった戦いの場、最後の戦場。
想像を絶する戦いにその身を投じ、全てを懸けて命を削って行く。
もはやこれまでと思われた場面で、常識では計り知れない手段で彼は帰って来た。
彼は、戦い続ける。
昔も今も、変わらず戦い続ける。
そして、おそらくこれからも。
ぶつかり合う力と力。
どちらが善で、どちらが悪なのか。
どちらが白で、どちらが黒なのか。
既に判別など付くはずもない。
これは、怒り、悲嘆、無念、忸怩たる思いを前面にした、互いの、誇り、傲り、自信、矜持を懸けた生死の駆け引き。
そこには、引く事の出来ない理由があるから。
負けられない理由があるから。
世界中から応援する声が聞こえるから。
信じてくれる仲間がいるから。
守りたい大切な人達がいるから。
太陽が昇り、また朝がやって来るから。
雌雄を決する瞬間は、その僅かな理由の差で刻まれる事になる。
曙光は朝焼けへと変わり、昇り始めた太陽が世界の始まりを伝えに来た。
彼の背から暁光が昇る。
眩過ぎる世界の始まりの光に、悪魔は彼の影に闇を求めた。
彼は闇を一蹴し距離を取る。
悪魔はその身を焦がしそうなまでの暁光に晒され、顔を歪めたその一瞬、仄かに薄緑色の光を放つ優しいベールに、幾重にも幾重にも包まれた。
彼に、白銀色の光の矢が突き刺さる。
すると、白銀の光を噴き上げた彼の手の中に、新たな光が生まれた。
小さいが、とても強く、生命力に溢れた、とても熱い、新たな太陽。
暁光に勝る輝きを持って解き放たれた光は、悪魔の身を焦がしながら、強く、大地に、空に、地球に光を降り注いだ。
果てしなく続く宇宙に、我々の存在を知らしめるかの様に。
そこには、昇る太陽を背負い、立ち昇る力の奔流を纏ったヒーローの姿があった。
夜が明けた空、力強い朝に『 Rising Force 』が鳴り響く。
ご覧いただき、ありがとうございます。
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