英雄の矜持
§ アル視点 §
チクショウ! チクショウ! チクショウ! チクショーッ!!
何でもいい! 何でもいいんだっ!! コイツさえ倒せればっ!!
怒りに任せ、一撃一撃ただ全力で打撃を浴びせ続けた。
途切れる事のないラッシュに続くラッシュで、敵は体の液体を四方に飛び散らせる。
周囲の地面は溶け落ちたうえに臭気も相当に酷い。
援軍に駆け付けたショウゴ先輩も同時にラッシュを浴びせるが、コイツはダメージを喰らっている様子など一切ないどころか、あれだけ散らばした液体分の体積すら減っていないのだ。
「クソッ! クソッ!! このクソがぁぁぁあああーっ!! 一体どうしろってんだ!! 俺が、俺が倒さなきゃいけないってのに!!」
いくら自動回復が効いているとは言え、敵の理不尽すぎる防御にして、溶解という圧倒的な暴力に、俺とショウゴ先輩の両手は手首から先は無くなり、腕の骨が飛び出ている状態。
俺に限っては右足の膝から下も溶けて既に無い。
「アルっ! 一旦距離を取れ! そのままだと命取りになるっ!! 今、晶が来る! 回復しろっ!」
「でもっ! でもっショウゴ先輩! 俺がやらなきゃ、今ここでコイツを止めなきゃ! 俺の大好きなみんながっ! みんなが死んじまう!!」
「バカ野郎っ! お前だって俺にとっては大事な仲間なんだっ! むざむざ死なせる訳には行かないんだっ!」
≪アルさんっ! お兄ちゃんっ! 今着きますっ!!≫
≪あたしも何とか動けるまでに復活したっ! 今行くっ!≫
≪私の方も直ぐに着く! 間違っても死んだりなんかしたら許さないからねっ!≫
≪アルっ! ボクらも直ぐに行くから絶対に負けんななのっ!!≫
≪アルさん! ショウゴさん! そいつの特徴を手短にお願いします!≫
皆がそれぞれに声を上げ、駆けつけて来ようとしている。
ロックさん、セオドラさんは離れた所から援護射撃してくれているが、奴の身体に弾が当たった瞬間に中に取り込まれ溶かされてしまっている。
「ヴォォォォオオオオーィッ!」
さも俺達を嘲り笑うかのような、気色悪い雄叫びを上げるナニカ。
「クソッ! クソォォッ! チックショウがぁぁああーっ!!」
いいのか!? 皆コイツの近くに集まって来てしまっていいのかっ!?
近寄る事で皆を危険に晒してしまうんじゃないのかっ!?
でもどうやって倒すんだ! やっぱりみんなで! いや絶対にダメだっ!!
クソッ!! 頭ん中がぐちゃぐちゃだっ!!
犠牲になるのは俺一人でいいよなっ! そうだよなっ! いいんだよなっ!?
おいっ! 俺っ!! アルっ! アルフォンスっ!!
お前はあの世界を救った英雄だろう!
アストルミナの世界を救った英雄だろっ!
ならこの世界だって救えるはずだっ!!
誰にもこの世界を壊させやしないって胸を張って叫べっ!!
叫びたいっ! 当たり前だろうっ! もちろん胸を張って叫びたいに決まってる!!
でも、俺は……どうやってあの世界を救ったんだ!? どうやって……。
……思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せっ!!
脳内の奥深く、前頭葉、後頭部、右脳、左脳、フルに使って思い出せっ!!
頭の中が焼き切れそうになるくらい、記憶を手繰り寄せ高速回転させる。
すると脳内に稲妻が走った。
そうだ……! 俺は掴んだ……! 掴んだ!! 思い出した!!
そうだ! そうだよ! 俺は掴んだ!! バールを!!
こっちの世界からアストルミナまで一緒について来た白と黒のバールは、世界の理に沿う様に二振りの剣に変化した。
そして戦いを重ねるの中、バールは悪魔バアルの二本角から生まれ出し稲妻を宿した二振りの剣に進化し、仲間を護る力となった。
俺が欲し、そして掴んだ力! 二振りの相棒!! 白と黒のバアル!!
「晶っ! ヒールをっ! 俺はまだ戦える!!」
「アルっ! 見つけたんだなっ!」
「ショウゴ先輩! 思い出したんだ! 俺の、心強い相棒の事をっ!!」
気が付くと既に皆が敵を取り囲みながら、俺の発した言葉、一挙手一投足に期待を寄せるのが伝わってくる。
完全回復した両手を空に向け、英雄然として力強く叫んだ。
「来いっ! 俺の相棒っ!! 二振りの剣っ!!」
俺の呼びかけに呼応し、濃紺の夜空に劈くような雷鳴と共に閃光が走り、両手に稲妻が収束する。
すると稲妻を辿り、空から人型の何かが降りて来た。
武人の佇まいをした着物を羽織った何かが言葉を発する。
いや、発するように見えたと言った方が正しいのかもしれない。
俺は思った……。
えっ……誰!? バアルじゃなくない!? あいつ、もっと禍々しく登場するの好きだったはず。
ってか着物? あっ、もしかして世界の理に沿って変化したってか!?
あり得ない光景に皆が驚き大きく口を開ける中、俺の口も大きく開いていた。
白の着物を着た武人が言葉を発する。
『よおっ主! やっと呼んでくれたなっ! 思いっ切り暴れていいんだよな? へへっ! 武御雷、いざ参った!!』
黒の着物を着た武人が言葉を発する。
『来たぜ来たぜっ! 出番が来たぜっ! 悪を滅ぼさんとオレが来たぜっ!! 相手はどいつだ! 燃えて来たぁ! 火雷、参上だぁ!!』
口上を述べ終えると、落雷音と共に人型は剣に形を変え、手中に収まった。
俺は思った……。
ああ……なるほど、そういう感じね。和風に変化したのな。
えーっと……どっちもバアルと同じ雷の神様に違いはないし……まっ、いっか!
「よろしく頼むぜっ! タケっ!! ホノっ!!」
名を呼ぶと刀身が反応し、タケはその身に宿す清なる凄まじい御雷の力を誇示し、ホノはその身を灼熱の如く焦がし雷を纏った。
あっちの世界の時とはちょっと変わったが、長年連れ添った二振りの相棒を手にすると、自然と様になった構えを取る事ができた。
周りの皆は、今起こったあり得ない光景と、あり得ない名前に驚きが隠せないみたいだ。
「「何それぇぇええーっ!?」」
「よお化け物! こっから第二ラウンドと行こうじゃないか! この世界を壊されてたまるかよ。俺が守ってみせる!!」
白と黒の二振りの剣、武御雷と火雷で切り結ぶアル。
タケで切れば、ナニカの体内中を凄まじい威力の御雷が走り、ナニカの身体から煙が上がる。
ホノで切れば、切り口が一瞬で沸騰し気化して煙が上がる。
攻撃を受けて体が溶けてしまっても晶が即時回復してくれる。
「負けて! たまるかってんだぁぁああーっ!!」
懐に入っては切って切って切りまくって。離れてはタケの轟雷とホノの獄炎を撃ち込む。
心なしかナニカの身体が少し縮んだ様にも見える。
「攻撃が効いてるって事でいいんだよな! 押してるって事でいいんだよなぁ!?」
どうしてもナニカが本気を出しているように見えず、不安の混じった雄叫びを上げながら、攻撃の手は止まらない。
「うぉぉぉおおおっ!! 全部、蒸発させて消してやるぁぁぁあああ!!」
切って切って切りまくって。辺りは蒸発した気体で霞がかかってくる。
順調にナニカの体積を削ってきていると思うのだが……何故か気味が悪い。
俺の直感が告げてくる危険シグナルは、時間が経つにつれ段々と強くなる。
握るタケとホノからも「コイツは危険だ」と伝わってくる。
「ン、ヴォォォオオオーィッ! ヴォォォオオオーイッ!」
最初、コイツを見た時には月光が透過してなかったか?
何故、コイツの身体は濃く、蒼黒くなってきてるんだ?
なぜ、剣の手応えが硬く重くなってきてるんだ?
ナゼ、コイツは人の形を成してきてるんだ!?
ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ! ヤバイっ!!
コイツはヤバイ!! コイツはおかしい!! コイツは何なんだ!?
時間が経過するにつれ、強く込み上がってくる感覚。
そう、これは恐怖だ。
俺は今、コイツを怖いと思ってしまった。
心がって話じゃない、生物学的に感じる恐怖。
まるで、ライオンの檻の中に放り込まれたネズミの様じゃないか。
「うぁぁぁあああーっ!! タケっ!! ホノっ!! 何でもいい、コイツを倒せーっ!!」
ナニカの顔面と心臓に突き立てた二振りの剣は、主の呼びかけに応え、硬くなり締まったナニカの身体をこれでもかと焼く様に、轟雷と獄炎がナニカの体内を暴れまくる。
激しく噴き上げる蒸発した気体。
そして今、ナニカの身体から最後の蒸気が上がり終わった。
とうとう人の顔を成し終えたナニカ。
俺に向かって両の口角を上げ、まるでピエロの様にニヤリと笑みを作り軽く首を傾げる。
「ヴオオォォィド!!」
咄嗟にコイツの胴体を蹴り、剣を引き抜いて距離を取った。
何だ!? 今なんて言った!? コイツは話すのか!? ヤバイ、ヤバ過ぎる!!
≪みんな今すぐ逃げろっ!! 遠くへ!! コイツの手の届かない所までっ!!≫
今、この場で最強であるはずの俺。
コイツの発する恐怖に、俺が言っちゃいけない言葉が漏れてしまった。
≪俺が絶対に何とかするから!! 今は逃げてくれーっ!! 生きてくれ!!≫
≪なっ、何言ってるのアルっ!? ボクはアルを置いて逃げたりしないのっ!!≫
≪アル君っ! あたしたちだってまだ戦える! 戦えるよっ!!≫
≪アルさんっ! 私だって白狐ちゃんの力を使えば!!≫
≪アルくんっ!? 独りではダメ! 独りでは絶対ダメよっ!!≫
自分の力の無さに、悔しさに、噛み締めた奥歯が砕けた。
情けなくてもいい、何よりみんなの命が大事だ!
犠牲は俺だけで充分だ!! 俺が足止めしているうちにっ!!
「バカ野郎っ!! 早くっ!! 頼むから逃げてくれぇぇええーっ!!」
「ンン……ヴオオオオォォォォーィド!!」
俺の咆哮を聞いたナニカの口角が更に上がり、悦を感じさせる表情に変わる。
グリンッと首が回り、桜煌、天南、晶、キラさんの方に顔を向けた。
姿が消えた様に見える程の速度で、桜煌に襲い掛かるナニカ。
「くッ!! だからっ!!」
超速で反応した俺は、激しい衝突音を響かせ、タケとホノでその攻撃を何とか受け止めた。
「あ……アルっ……」
「桜煌っ!! 頼むから逃げてくれぇぇぇえええーっ!!」
ナニカの凄まじく重い攻撃に、段々と膝が地面へと折れていく。
逃げてくれと桜煌に叫び続けるも、桜煌は逃げない。
「バカーッ!! バカバカバカバカーッ!! このカッコつけっ! オタンコナスッ! ボクがアルを置いて逃げる訳がないじゃないのーっ!!」
アルの背中に飛びつきポカポカと叩き始める桜煌。
そして、あろう事かアルの前に出てナニカを殴り始めた。
「離れろっ!! アルから離れろっ!! お前みたいな奴にアルは負けないなのーっ!!」
意表を突かれた様な表情をして、好きに殴られるナニカ。
俺と桜煌を交互に見て、何かを思い付いた様にまたニヤーッと嫌な笑みを浮かべた。
「や、止めろっ! 止めてくれっ!! 止めてくれぇぇぇえええーっ!!」
泣きじゃくりながらナニカを殴る桜煌に向かって、上段にゆっくりと腕を振り被るナニカ。
「止めろぉぉぉぉおおおおーっ!!」
その時、絶叫する俺の声に重なって、不思議な音が響いて来た。
――ブォンブォンブォン……ッシュゥーンッ!
奇妙な、空間が震える様な振動音と共鳴音。
ナニカも、振り被った手を止め上空を見上げた。
まだ暗い夜空に、さらに暗くポッカリと黒い穴が開く。
戦場に居る全ての者がそれに注目し、上空を見上げる。
その穴の中には、キラキラと沢山の光が輝いているのが見えた。
俺はこれが何かを知っている。
それに気が付いた時、俺の絶叫は、別の絶叫に変わっていた。
「あっ……ああっ……あああああっ!! リンちゃぁぁああーんっ!!」
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