ヒーロー_煌 星
§ キラ視点 §
ロックさんからの連絡で、さっちゃんが瀕死って聞いてすぐにでも駆けつけたかった。だけど、私が行った所で何が出来る訳でもない事は理解してる。今は晶ちゃんに任せるしかない。
待ってて! さっちゃん! 晶ちゃん! こんな敵なんて私が全部倒してみせるんだから!!
サトルくんとセオドラちゃんと連携して何とか攻撃を続けてはいるけど、敵の装甲が硬すぎて攻めあぐねる。
私がこの局面を打破しなければ!! 私が切り開かないと!!
精神力だけが削られる戦闘の中、突然意識が飛びそうになり目の前がホワイトアウトして行く。
「えっ、なに!? ちょ……」
気が付くと不思議な空間にいて、目の前で光が輝いている。
眩いまでの輝きを放つ『光』は『精』に昇華すると、どこからか声が聞こえてきた。語り掛けて来る声を聞きながら、私は……さっちゃんと晶ちゃんと手を繋いで、何かとても大きなものに抱かれた。とても懐かしく温かく。そしてとても優しい母の様なものに。
記憶が走馬灯のように流れて行く。
私の中にある母の記憶など、ほんの一欠片だ。
顔も声も覚えていない。まして抱き締められた記憶もない。
私はいつも独りだった、寂しかった。
周囲の普通が恨めしかった、絶望した。……そして諦めた。
けど、諦め続けた先で皆に出会った、温かかった。
嬉しかった、独りじゃなくなった。……もう寂しくなどなかった。
だから、私が知る母の温もりは、皆が居るという事なんだ。
とても温かく、とても優しく、とても愛おしい私の家族。
晶ちゃん……さっちゃん……リンくん……みんな。
私達はずっと一緒だから、好きよ……ずっと愛しているから。永久に。
私の意思・思考とは関係なしに感情が溢れ出して行く。
語り掛けていた声は段々と遠くなっていき、またホワイトアウトする。
とても大切な事を話していたと思う。勿論、内容は全て覚えている。
だけど、今はそれどころじゃない、だってこれは走馬灯……よね?
ああ、私は敵にやられて死んでしまったのね……。
ホワイトアウトの光が収まるにつれ、次第に聞こえ始める戦場の音
戦場の……音? まだ……死んでない!!
カッと目を開くと、さっき意識が飛びそうになってから1秒も経過していない様に見える。
今のは何!? なんで私、こんなに涙が溢れているの!?
でも分かる。さっちゃんは命を繋ぎ留めた! もう大丈夫だ!!
≪晶ちゃん! さっちゃんの命を繋ぎ留めてくれてありがとうっ! さっちゃんは休んでてね! 敵は私が何とかする!!≫
≪キラ姉っ! さっきは一緒にさちこ先輩を助けてくれてありがとう! やっぱりキラ姉はキラ姉だよ!!≫
≪二人ともごめんねー、ちょっと無茶……し過ぎちゃったみたい≫
≪そうね! 無茶が駄目っては言わないわ、けど自分の命はもっと大事にしてよねっ! でないと、悲しむ人が沢山いるんだから!≫
≪そうですよさちこ先輩! もっと自分を大事にしてくださいっ! ……でも、それがさちこ先輩の強さと魅力なのも知ってます≫
≪あははっ、痛いとこ突かれたなぁ。自分の気持ち大事にした結果、こうなっちゃったから。うん、気を付けるね。さっきは本当にありがとう≫
ん? 何故、会話が通じるんだろう? 3人とも同じ体験をした……。
≪そう、それよっ! 晶ちゃんも、さっちゃんも! さっき一緒にって……あなたたちも見たの!? あの不思議な空間の光と声を!≫
≪あれ? そう言えばそうですね、私も見ました!≫
≪あたしも見た。3人で手繋いで光? 精? を囲んで......≫
不思議な記憶に私たちは困惑する。
突然、知らない声が私たちの会話に割り込んできた。
≪はぁ!? なんや! ほんまにさっきの事、忘れたんちゃうやろな!?≫
≪まぁそう目くじら立てる事でもあるまいて。まだ妾たちも名乗り出ておらんのじゃ。のぅ? 赤の≫
≪黒の言う通りでありんす。白はせっかちが過ぎるんでありんせんか? 少しはわっちを見習っておくんなんし≫
声は幼いが、言葉使いは古く、それなりの年齢を感じさせる……。
≪……いや、誰ですかっ!? え? わらわ? わっち!? ―≫
≪わー、また何かおかしなのが出て来たー≫
≪ず、随分と賑やかね……で、どちら様? なのかしら?≫
≪いや、いきなり驚かせて申し訳なかったのだ。妾たちはさっき宇迦様が仰った通り、精霊であり『精』。お主らの能力の根源なのじゃ!≫
≪そうでありんすっ! わっちは『赤狐』、さっちゃんの『精』でござりんす。今後ともよろしゅういたしんしょうえ≫
≪あはー、ごめんねー、あたし今ボロクソでさー。何が何だか全然分かんないけど、えーっと『赤狐』ちゃん? よろしくー。でいいのかな?≫
≪あいっ! よろしくでありんすっ!≫
≪そもそも、前世も前世からずっと一緒やったんやって言うのに、なんで忘れてんねん! もっと早く気づかんかいな! 全く気が付かんってどないなっとんねん!?≫
≪白の、お主は特に初代からずっと懐いておった上に、一番の寂しがりじゃからなぁ。これも愛情の裏返しだと思って許してやってくれなのじゃ、晶殿≫
≪……唐突過ぎて何が何だか。えっと……私の精? 精霊の『白狐』? ってかなんで関西弁なんですか!≫
≪そんなん恥ずかしい事聞かんでええわっ! もういっぺん言うけどワイは晶の『精』。宇迦様の眷属。精霊の『白狐』や。ほんま忘れんといてーや!≫
≪最後に妾は『黒狐』。星殿の『精』なのじゃ! 今までも、そしてこれからもよろしく頼むのじゃ≫
≪今までも? これからも? ちょっとまだ理解が及ばないけど『黒狐』さん? ちゃん? ちょっと今は戦闘で取り込み中だから、後でゆっくり話聞かせてもらえるかしら?≫
≪あっはっはっはっ! 流石は星殿、いつの世も聡明なのじゃ! 今の状態了解した! まずは力を貸すとするのだ! それと、名なぞ後で好きに付けて呼べば良いのじゃ! 白の、赤の! 顕現して己が主を護るのじゃ!≫
何かしら、凄く頭が混乱してきたわ……。
ええーっと……ここはドイツ、シュヴァルツヴァルト、通称「黒い森」。
しかも地獄絵図の様な戦闘が行われている真っ只中。で間違いないわよね?
凄まじい戦闘音が鳴り響く中、思考を整理しようと混乱していたら、全く似つかわしくない透き通る様な神楽鈴の音が聞こえて来た。
――シャラシャラシャラーン……!
目の前の空気が渦を巻き、中心に向かって集中し凝縮する。
「空」から「氣」を集め「精」は中心で形を成し、そして狐達は色濃く現世に顕現した。
≪よっしゃぁぁあーっ! 久方ぶりの娑婆やでぇーっ!≫
≪んんーっ! 現世の匂いでありんすえーっ!≫
≪うほーっ! これまた知らんドでかい化物がおるのだ! これだから現世、人間界は面白いのじゃー!≫
突如として目の前に現れた、両手に乗る位のミニ狐。
しかも宙に浮いている。
≪≪なっ! なっ! 何これカワイイーっ!!≫≫
3人とも同じセリフで被ってしまった。
≪はぁ!? カワイイやとぉ!? 何ゆうとんねん自分! そんなん当たり前やろがぃ!≫
≪わっちは言わずもがなでありんすけど、さっちゃんもほんに可愛いでござりんすなぁ!≫
≪とりあえずカワイイは置いておくとしても、星殿! まずはこの化物共、片付けると行くのだ!≫
やり取りをしていた私は流れについていけたけど、必死の攻防を続けているサトルくんとセオドラちゃん。突然目の前に光が現れたと思ったら、宙に浮くミニサイズの狐が出現したものだから混乱する。
「キラさん危なっ! ……は? キツネ!?」
「ボスっ! 危なっ! ……えっ!? ちょっ! カワっ!!」
「ゴメン二人ともっ! 説明は後でするわ! それよりも黒狐ちゃん! こいつら倒すって、何か良い手があるってことよね!?」
黒狐は私の肩の上に飛び乗る。
「星殿! まずは妾に続いて復唱するのじゃ!」
「なっ! 喋れるんじゃない! って復唱!? わ、分かったわっ!」
何が起こるのかは分からないけど、打てる手があるのならそれに掛けるしかないっ!
それに……ううん、色々考えるのはこの戦いが終わってからでいい!
「精霊降臨!」
「精霊降臨!」
「そして妾の名を呼ぶのじゃ!」
「そして妾の名を呼ぶのじゃ!」
「ちがーうっ! ソコは妾の名を呼・ぶ・の・じゃ!」
「え! あ、そうなの!? 分かったわ! いくわよっ!」
そして私は新たな力を得る事になる。
「精霊降臨! 黒狐!」
――シャラシャラシャラーーン!
私がそう叫ぶと、黒狐は精に戻り、私の身体に飛び込んだ。
すると、薄っすらと黒い陽炎の様なものが、ユラユラと狐の形を取り私の身体から立ち昇る。
今まで感じた事が無い程の活力が漲り全身を廻る。
「すっ、凄いわね。力が体内で暴れまわってるみたい。んで、これからどうやって敵を倒すといいのかしら?」
≪身体的な強化と一緒に、自身の能力も数倍以上に強化されたはずなのじゃ! それを使って好きに暴れれば万事滞りなく解決なのじゃ!≫
「さっきまでは装甲すら貫けなかったけど、今度はイけるって事ね! ならこっからは私の独壇場って暴れていいって事よねっ!」
≪そう言う事なのじゃ! 何せ星殿は今、本物の『天狐』の力を行使しておるのだ! しかし好戦的なイケイケはずっと昔の前世から変わっておらんのじゃな! おっほーっ!! これは滾るのじゃーっ!!≫
「そうなの? ふふっ、私もあなたの事気に入ったわ! 後で名前付けてあげるわね!」
≪なっ! それは嬉しいのだーっ! そうと決まればさっさと鬼退治なのじゃーっ!≫
「了解っ! 鬼退治! 行っくわよぉぉおおーっ!!」
思考加速からの身体反応加速をするまでもない程の超加速・超パワー。
コックピットを一撃で粉々に砕き、勢いで敵パイロットの頭が破裂する。
「ボスっ!? えっ! 凄いっ!! カッコイイです!!」
「キラさん!? 一体何がどうなってんですかっ!? ちょ! 凄っ!」
凄まじいを越えた超能力で、槍を放つ黄色の敵4体をあっと言う間に屠った。
「セオドラちゃんは晶ちゃんの所へ治療に行って! サトルくんはアルくんの援護へ!」
「了解した!」
「了解です! 治療で一旦引きます!」
「私は晶ちゃんを虐めた巨大タイヤを潰しに行くわよっ!」
≪おっほーっい!! 楽しいのじゃ! 楽しいのじゃーっ!!≫
ロックさんとArtemisの皆が交戦している巨大タイヤまでの距離を、踏み込みの一歩で音を置き去りにして一瞬で移動した。
≪みんなっ! 応援に来たわよ! かなり手こずってるみたいね!≫
≪社長!≫
≪≪キラお姉様! って、ぐぁっ!≫≫
纏っている黒狐の陽炎からは、耳と尻尾が生えている。
Artemisの皆はそれを見て、何だか悶えている様に思えるのだが……。
≪社長っ! コイツら、まず図体がデカすぎる! 側面は柔軟性のある素材で攻撃が全く通らん! タイヤ部分も同じ個所を集中して攻撃してるが、表面を流れる高圧電流が邪魔して歯が立たない!≫
≪OK! 後は私に任せなさいっ!!≫
距離を取るロックさんとArtemis。
曲が変わり、タイトルコールは『 Stellar Evolution 』。戦場がハードポップに包まれた。
「んんーっ! 私の為にある様な曲じゃない! 流石は晶ちゃん、いいセンスしてるわねっ! それと黒狐ちゃん、高圧電流って耐えられるかしら?」
≪当然至極なのだ! 星殿、ブチかましたりゃぁぁああーっ!!≫
≪そうこなくっちゃ!≫
空高く、超跳躍する。
「皆の想いを乗せたこの一撃っ!! めちゃくちゃ重いんだからねぇぇええーっ!!」
空中を蹴って蹴って蹴って。音を遥か後方に置いてけぼりにして超加速する。
身体を反転し流星の如き炎の尾を引きながら放つ蹴りは、さながら火矢の様だ。
≪はっ! いいネーミング閃いちゃったかも!≫
≪いいのぉ! いいのぉ! 叫ぶのじゃーっ! やってしまえーぃ!≫
「喰らえぇぇええーっ!! 煌星・撃矢ーっ!!」
≪……微妙にダサいのじゃ。ま、それも何とも言えん魅力なのじゃー≫
「ええぇぇーっ!?」
ベールを変形させたウイングで自由曲線を描いた軌跡は、一瞬で超巨大な敵4体全てのタイヤ表面に風穴を開け、内部コックピットごと吹き飛ばした。
連鎖爆発を起こし見る間に火だるまになる超巨大タイヤ。
爆発音を上げながら徐々に崩れ落ちて行き、地上へ機械の雨を降らせた。
「「流石キラお姉様ですーっ!!」」
「おいおいマジかよ……っ! ウチの社長は一体どうなってんだ!?」
≪ロボット軍団! 殲滅完了よっ!!≫
§ ジュンタ視点 §
遠くからそれを見ていた僕たちは歓喜の声を上げた。
「キラ姉っ! やった! やったぁぁあーっ!!」
「あはははっ、もー凄すぎだよキラさん! ホント、皆を救ってくれてありがとー、大好き」
「流石ボスです!! 破壊神の二つ名が付きそうな偉業ですっ!!」
「はは……ははははっ、もう笑うしかないレベルですよ! 皆、凄すぎるとしか表現出来ません!」
死線ギリギリを彷徨う程の能力を行使し、身体を激しく損壊した天南先輩。
晶さんが行った、神の領域と言える治癒、再生。
突然現れた、精霊と名乗る喋る狐。
その狐の力を纏った超パワーで超巨大な敵を屠ったキラさん。
皆、途方もない能力を持った。
地上へ降り注ぐ、燃え盛る機械の雨を眺めながら、僕は思う。
……リン君、君が居ない間に皆がどんどん凄い事になっていってるよ。
いつか帰って来た時には、きっとビックリさせられると思う。
そして僕は、この戦いを世界中に知らしめるつもりだ。
君の周りに集まった仲間達は、こんなに凄いんだって。
世界を救ったヒーロー達なんだって。
君がその最初のヒーローなんだって。
立ち上がり、耳に装備してある通信機で交信する。
『こちらジュンタ、映像見えていますか? 夏生さん』
『お疲れ様です! こちらナツキ。ジュンタさんの超小型ドローン! 一体あれは何なんですか! 神ですか!? ノイズ一切なしの超クリア映像っ! 音声までバッチリですよ!』
『ははっ、それは何よりです。かなりの数飛ばしましたから、全員の行動・戦闘記録映像に問題は無さそうですね。で、守備の方は?』
『モチロン抜かりありませんっ! こちら、フランス、ストラスブール空港に待機中のハーキュリーズMk‐3改から衛星を中継し『ARTISTS JAM』S.A.K.U.R.Aにデータを転送。以降は、サクラちゃん主導によりABC経由で世界中のメディアへ情報を共有したとの事です。おそらく遠方から既にカメラが向けられているものと思われますが、そちらから確認出来ますか?』
CTLのマルチアイで確認すると、かなり遠方に相当な数のヘリが飛んでいるのが見えた。
『笑えるくらいの数、ヘリが飛んでますね。OKです、確認出来ました』
『これで世界中の人に、この世界にヒーローありって示せますね!』
『はい! 世の中にはまだまだ知られていない悪が蔓延っているのだと、世の中にはヒーローが必要なのだと。僕らは、世界中に知らしめるつもりです!』
『ラストはアル君が今戦っている敵だけですね! でもっかなり苦戦しているみたいです!』
『了解です! ラストは全員でかかります。最後までよろしくお願いします!』
『了解ですっ! 検討を祈ります!』
≪こちらアルっ! コイツ、液体で出来てやがる! 今の俺じゃ決め手に欠けるっ!!≫
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