ヒーロー_御先 晶
§ 地上 チームショウゴ視点 §
「貴様で! ラストだっ!」
シッ! と息を吐きながら引き金を引く。
吸い込まれる様に、寸分違わず敵パイロットにヘッドショットを決めたセオドラ。
最後の白いグリフォンが地上に墜落し激しく橙色の炎を吹き上げる。
「4つ!」
これで上空を飛び回っていた白いハエ共を、ボスの命令通り全て撃ち落とし終わった。
左腕を失った事よりも、命令を完遂出来たことに喜びを覚える。
自由落下していく途中の上空から見る限りでは、残りの敵は巨大タイヤ4体,槍の黄色マシンが4体。
「私が撃ち落とした白のグリフォン……いえ、叩き落としたハエの装甲が薄かったのでしょうか、この中では一番弱い敵だった様ですね」
ですが、皆様が相手をしているアレは体躯が巨大なだけにやはり苦戦しますか。
なら私も今以上に修羅にならねば。
眼下でボスとショウゴさんが黄色4体を同時に相手しているのが見える。
上空からパイロットを狙撃しようにもコックピット部分が斜めになっている為、跳弾するのが関の山だろう。
「なら!」
正確に、真正面から垂直に撃ち込みさえすれば!
上空で脚にスタビライザーのみを展開し、器用に体勢と落下位置を調整。
地面に着地する寸前のすれ違い様にAWMの引き金を腰だめで引く。
見えない弾丸は、狙った通り垂直にコックピットを襲う。
微かに響いた亀裂音。ほんの少しだが、コックピットのフロントガラスに小さなヒビを入れる事が出来た。
「よしっ!」
小さな一歩だが、大きな成果だ。大きく声を上げた。
「セオドラちゃん! 上空の敵一掃ありがとうっ! 随分戦い易くなったわ!」
「はいっ! ボスからの命令ひとつ完遂ですっ! 次の命令を!」
敵の攻撃を躱しつつ、キャタピラを破壊して移動を阻害しようと苦戦しているボス。
「分かったわ! なら一緒にキャタピラを破壊し......」
敵の攻撃を躱した一瞬、左腕の違和感に気付かれ、視線を移したボス。
「ちょっ! あなた左腕っ!! グァッ!」
左腕が肩下から無くなっている事に動揺したのだろう。ボスは敵の薙ぎ払いを喰らい、吹き飛ばされてしまった。
「ボスッ!!」
咄嗟に背後へ移動し受け止めた。
「セオドラちゃん!? もしかしてその腕! 私があの時......」
「違います! 私の不注意で持っていかれました! ですが問題ありません!」
「何言ってるのっ! 腕が無くなってるのよ!? 問題無いわけないじゃない!」
「ボス、勝てば何の問題もありません! 晶さんさえいれば元に戻りますから、ですので今は!」
ボスを抱き寄せ、撃ち込まれる槍を回避し、敵の機体の上に飛び乗った。
「ですので今は! この不格好な敵を蹴散らして、晶さんの方に一刻も早く向かいましょう!」
守られてばかりいる自分が悔しかったのか、ボスの目には涙が溜まっていた。
ボスと言えど、私よりまだまだ年下の女の子。思わず微笑みながら右腕の親指で涙を拭い取らずにはいられなかった。
「ボス! ショウゴさん! やってやりましょう!」
「勿論です! キラさん、作戦を!」
「分かったわ! なら次の作戦よっ! 最後まで生き残りなさい! そしたら必ず勝てるわ!」
「「はいっ!!」」
§ 地上 晶視点 §
一瞬たりとも気が抜けない、そんな時間が長く続いてる。
巨大過ぎる機体にどうやって決定打を与えたらいいのか。回避しては考え、また観察しては回避し、全力で殴ろうが蹴ろうがビクともしない。
体力に限界が来る前に精神的疲労でミスってしまいそう。
「だあああぁぁぁーっ!」
タイヤ中央に見えるコックピットまで跳躍し連打するが、ダメージを与えられないのだ。
タイヤ表面は硬い金属で表面を高圧電流が流れているのに対し、ホイール部分は透明で分厚い衝撃吸収性を持ったビニールかゴムみたいな素材で覆われている。
内部の駆動部分さえ破壊出来れば、幾らでもこのデカブツを止める事が出来るのに!
私じゃダメなのか!? この状況を打ち破るには私の力じゃダメなのか!?
回復と防御障壁の私じゃダメなのか!?
打撃しか持たない私じゃダメなのか!?
「こんのっ! クソがぁぁぁぁあああーっ!!」
この戦いで初めて見せた激昂。
いつもなら、観察と洞察、判断力で打破して来た私は咆哮を上げた。
Artemisのみんなも、私の叫びを聞いて表情を変える。
理解したのだ、叫ぶその意味を。打つ手無しと叫んでいるのだと。
「晶っ! よく頑張ったのっ!」
「晶! 十分やったんだぞっ!」
「晶! 後は私達がなんとかしますわ!」
お姉ちゃんたちは、自分たちArtemisではこの状況を覆すことが不可能という事を重々承知した上で私にそう言っている。
このままでは私が壊れてしまうから、だから下がれと言っている。
自分でも限界が近い事ぐらい分かる……だけど。
「私は……! 私は……っ! 諦めが悪いんだぁぁぁぁああーっ!!」
無我夢中で跳躍しては連打。跳躍しては連打を繰り返す。
「うぁぁぁぁぁぁああああーっ!!」
もう見ていられないと、皆が私を引き下がらせようとした時。
≪晶っ! さっちゃんが瀕死だっ! 頼むっ!≫
≪今地上に出ました! 何でっ! 何でこれで生きているのか分からない位なんです!! 晶さん!!≫
≪今俺がそっちに行く! 交代だっ!≫
……何て? 今、何て言ったの?
あの、さちこ先輩が……瀕死?
嘘……だよね? 居なくなったりしないよね?
やだ……いやだよ……絶対にイヤ。
怒りと無力感と悔しさで爆発しそうに熱くなっていた頭が一瞬で冷えて行く。
ギッと歯を食いしばって気丈に答えた。
≪了解しました! 私が絶対に助けますからっ!≫
「お姉ちゃん達! 私! 先にさちこ先輩を助けに行きますっ!」
「絶対に助けて来いだっちゃ!!」
「フルスピードで行ってくださいっす!!」
「晶はやっぱり凄い奴なんだぞ!!」
全力でさちこ先輩の下に跳躍すると同時に曲が変わる。
絶対に諦めないという強い想いを乗せたメロディが、戦場のボルテージを高めて行く。
タイトルコール『 何度だって奇跡を 』が戦場を飛び回った。
≪さちこ先輩!! 今、助けに行きます!!≫
空中で擦れ違い様にロックさんとハイタッチを交わす。
≪選手交代だっ! ロック、現着! 晶の代わり位には頑張ってみせるぞっ!≫
≪ジュンタさん! 見えました! すぐ治療に入りますっ!!≫
ウイング飛行から地面に着地して直ぐに目に入って来たのは、地面に置かれた何か小さなモノだった。
その小さなモノとジュンタさん。それと赤い髪をした怪我をしている2人の女性。
とりあえず赤髪の女性2人にベールを張り自動回復を付与した。
この2人はこれで問題ないだろう。
だが、見回してもさちこ先輩の姿が見えない。
「ジュンタさん! さちこ先輩はどこですかっ!! 早くヒーリングしないと!!」
焦る私の両肩を掴み、唾を飲み込んで真剣な表情でジュンタさんが伝える。
「晶さんっ!! いいですか、気をしっかり持って下さい!! そして、天南先輩を頼みます!!」
ジュンタさんは、肩に置いた手に力を入れ、視線を下げさせた。
そこにはさっき一瞥した小さなモノが……。
「ヒッ!! いやぁぁぁああっ!! さちこ先輩っ!! さちこ先輩ーっ!!」
「晶さん! まだ生きてるんです! こんな状態でもまだ生きてるんです!! まだ助けられるんです!! 晶さんっ! しっかりしてくださいっ! 大丈夫です! 僕が後ろで晶さんを支えてますからっ!! 晶さんっ! あなたならやれるっ!! あなたなら出来るっ!!」
両手足を根元から失い、腹部も四分の一、頭部も右半分が欠損。下顎も左側の一部しか残っておらず、左目と鼻しか残っていない状態。
これで生きていると言う方がどうかしている。
これでまだ助けられると言う方がどうかしている。
でも、間違いなくさちこ先輩はまだ生きている。
生きようとしている!
「いやぁぁぁああっ!! いやだぁぁぁあ!! いやだぁぁぁぁああーっ!!」
顔を涙でグジャグジャにして泣き叫びながら私はさちこ先輩に触れた。
悲しみの涙なのか悔し涙なのかなんて分からない。
でも今、私が流している涙は絶対に負けないと言う決意の証。
「いやだっ! いやだっ! いやだっ! いやだぁぁぁぁあああーっ!!」
ベールが幾重にも張られ、仄かに緑を帯びていた光は戦場の夜空をひと際眩しく照らす癒しの輝きとなった。
「私は……! 私は……っ!! 諦めが悪いんだぁぁぁぁあああーっ!!」
眩く輝く光の球に包まれた私とさちこ先輩。光の玉からは無数の光の雫がキラキラと天に昇って行くかの様な、神々しくも優しい力が立ち昇る。まるで、時間が巻き戻って行くかの様に、さちこ先輩の身体は失った頭部、腹部、手足が再生を始める。
それは、生命を創造するかの如き神の御業。
力の奔流は神性な響き「コー」を持ってそれを称えた。
包まれた光の中で私は不思議な体験をすることになる。
気が付くと、上も下も無く遠くに星々が瞬いている様な、静かで凛とした何も無い空間にいた。一糸纏わぬ透けた体となった目の前には、自身の癒しの能力の根源である神々しくも優しい『光』が漂っている。驚きはなく、寧ろ懐かしいとさえ思える程の安心感。
ふと、いつからそこにあったのか、隣に光があることに気が付いた。
キラキラと輝くとても優しく綺麗な光の雫。
……ああ、私には分かる。
これは、さちこ先輩の光……見通す能力の根源である『光』。
すると光に照らされ、さちこ先輩が現れた。
また気が付くと、隣には赤・青・緑の光がそこにあった。
三つの光は一つに重なり合うと、強く白光を放つ。
……ああ、この光も知っている。
これは、キラ姉だ……賢さの能力の根源である『光』。
するとまた光に照らされ、キラ姉が現れた。
私達はお互いの手を取り合う。
私達の中心で輝く三つの『光』は混じり合い、眩いまでの輝きを放つ『精』となった。とても懐かしく温かい、大いなる母に抱かれているような安心感。
どこからか声ともいえない声が聞こえた。
よくぞ集いた……
吾の眷属たる精霊達よ……吾の可愛い子らよ……天狐らよ……
御先とは……神の使い……先払い……
晶とは……星の光を指し……三位一体にして星々の輝きの意ぞ……
精らの先導、大儀であった……
精とは……生命の根源……心であり魂……
精とは……日、月、星であるぞよ……
日は『 赤狐 』也……
月は『 白狐 』也……
星は『 黒狐 』也……
吾の眷属たる精霊達よ……吾の可愛い天狐らよ……
三位一体と成りて……邪を祓い……魔を滅し……穢れを清めよ……
吾の心を奪いし大流星……憂流迦と共に……
とこしえに……精有れ……
吾は『 三狐神 』……『 稲荷神 』……『 宇迦之御魂 』也……
吾は待っているぞよ……
段々と声が遠くなっていくと、何も無かった空間に光が満ち溢れ、思わず目を閉じた。
そして光が収まるにつれ、次第に聞こえ始める戦場の音。
戻って……来た? 今のは……何?
恐る恐る目を開くと、先程と変わらない場所、戦闘の真っただ中。
目の前には優しい光のベールが見える。
何が起こったのか把握出来ずにいると、さちこ先輩に当てていた私の手の上に誰かの手が重なる。視線を向けるとそこにはさちこ先輩の手があった。恐る恐る視線を顔の方に移すと、まだ弱々しいがニコッと微笑んでいる顔が見えた。
私は思わず抱き付いて、声を上げて思いっ切り泣いた。
頭の上にさちこ先輩の優しい手が触れる。
顔を涙でグジャグジャにして泣き叫ぶ。
嬉し涙なのか安堵の涙なのかなんて分からない。
でも今、私が流している涙はもう絶対に負けないと言う決意の証。
私は、諦めが悪いんだ。
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