ナニカ
§ 地上 アル視点 §
気色悪い気を放つナニカを追いかけ、五色の光を纏いながら地上に飛び出たアル。
突如として飛び込んで来る悪夢の様な光景と凄まじ過ぎる戦場の音。
「なんだよ……コレ」
何もかも滅茶苦茶で四方八方から火の手が上がり、とんでもないデカさの巨大タイヤが全てを無慈悲に踏み潰し破壊していく。
「冗談じゃねーぞ……こんなの、許されねーだろ、許される訳ねぇだろうが!」
みんなはどこだ! どこで戦ってる!
CTLで位置を追うと、晶と桜煌達は巨大タイヤの方に、キラさん達は黄色い敵の方に分かれているのが分かった。
「まだ、皆無事だな……良かった」
なら、心置きなく戦えるっ! 俺は、俺は……っ!!
「お前を! 倒すっ!!」
地面を蹴って跳躍し、上空に浮かんでいる人間の形をした蒼黒いナニカに向けて猛烈なラッシュをかける。
すれ違い様の1秒にも満たない間で、100発以上の突きと蹴りをお見舞いしてやった。
……はずなのだが、一切ダメージを負っている様子がない。
なにっ!? どういう事だ!? 今、躱したか? いなしたか? 防御したか!?
なんで平然としてやがるんだ! 俺が見えない程の速さで動いたっていうのか!?
それとも……。
「俺なんか眼中じゃないってかぁぁー!? クッソがああぁぁっ!!」
さっきの倍程にも届きそうな手数で、限界超えのラッシュを繰り出し、重力に引き戻され、また落下していく。
敵は空中に浮かんでいるのに、その位置から微動だにしない。
今の攻撃を喰らってなお平然としている様子に、得体の知れない寒気を感じた。
手数の多いラッシュだからと言って、その一撃は決して軽くないはずだ。
少なくとも20cmのコンクリート壁程度なら簡単に破壊する威力だ。
「全く効いてない……ってのか!? 冗談キツイだろっ!!」
蒼黒の人形をしたナニカが、グルンと顔をアルに向けた。
頭の中に警鐘が鳴り、咄嗟に体を丸め被弾面積を最小にしてガードする。
「ン……ヴォォォィィィーッ!」
ナニカは振り返ると同時に右腕を突き出し、雄叫びを上げながら攻撃を放った。
なんだ!? 俺は今何の攻撃を喰らっているんだ!?
ナニカの手が伸びて俺に攻撃が当たった、としか分からない。
物理的に激しく吹き飛ばされるような衝撃も来ない。
ただ気色の悪い液体の様な物が通り過ぎて行った感覚。
頭の中の警鐘が鳴りやまない。何度もこの攻撃を喰らうのはマズイ、俺の直感がそう言っている。
全身に塗れた液体が酷く下水臭い。
地上に着地したアルは回避に専念しながらナニカを観察する。
ナニカと月が重なった瞬間、それが何であるかを認識した。
月光がナニカの体を透過し、体を構成する禍々しい蒼黒が光を拡散する。
「なにっ!! 液体の身体だとっ!?」
さっきの物理衝撃の無い攻撃を思い出し、何かの可能性に気が付きハッと体に目をやる。
なぜ衝撃が無いのか、それはその必要性が無いからだ。
無くとも敵を倒せる力だということだ!
全身に塗れたナニカの液体は、じわじわとベールを溶かし消滅させていく。
絶え間なく自身の蒼黒液体を撃ち込んで来るナニカの攻撃を回避しながら、思わずベールが消滅してしまった指先で付着している液体を払ってしまった。
――ゾュワッ!
右手小指の先から小指球にかけて、一瞬で溶かされ消滅した。
「痛ッ!! ……チックショウ! ザケやがってっ!!」
新たなベールを張り直し、アルはナニカを挑発する。
「おいっ! 俺はまだこの通りピンピンしてるぞ! さあ、掛かって来いよ下水野郎! 俺が怖くて地上に降りて来れねぇってか!? 下水野郎でチキン野郎か!? ああん! ドイツ語で言わねーと分かんねーってかぁ! ビビり過ぎて全身真っ青じゃねーか! なぁっ! おいっ!!」
コイツの興味が皆に行かない様に。
大事な人達がこれ以上苦しまなくてもいい様に。
誰も失わなくて済む様に。
誰も悲しまない様に。
「(独)Du Feigling! Du Arschloch! Komm her! 」
( お前こそチキン野郎だ! このクソ野郎が! 来いよっ! )
ここでコイツを足止めして!
俺がコイツをぶっ倒す!!
怒りの表情でニヤッと笑みを浮かべながら、ナニカに向かって左手を突き出し「来いよ」と挑発ジェスチャーをする。
「ン……ヴォォォォォィィィィィーッ!!」
気色悪い雄叫びを上げながら、ナニカの表情が少し変化した様な気がした。
§ WORMS 「マンティス・アサシン」チーム視点 §
拠点内という閉鎖した空間である場の状況も考えずに、N‐20が抜き放ったスタンソードのせいで激しい粉塵爆発が起きた。
モニターに表示されているバイタルではN‐20は死亡。機体も大破が確認出来る。
敵E‐1の側にはN‐17が、敵E‐2にはN‐18が近い。
N‐26は敵E‐3と共に地下に転落して行ったようだ。
『こちらN‐9! N‐17および18はE‐1、E‐2を殺れ! N‐19は私に付いて来い! 穴に落ちたN‐26とE‐3を追うぞ!』
『『了解!』』
エレベーターで上がって来た穴を今度は逆に落下し、背中と足のスラスターを噴射して、地下格納庫へ向かって加速する。
姿勢を入れ替え逆噴射で減速すると、最下部にE‐3とN‐26が未だ横たわっているのが見えた。
『好都合だ! 撃ち殺せ!』
動かない標的に向かって掃射する。気持ちがいいぐらいに着弾箇所のコンクリートが削られ粉が舞い上がる。視界は不良になるが、こちらにはモニターのサーモ表示がある。決して見逃したりはしない。
仕留めたという満足の笑みでモニターに目を配るが、反応している表示はN‐26の機体のみ。
『なにっ!? どこに消えた! ふざけるな、探せっ!!』
チッ! と舌打ちすると共に、未だ地面に転がっているN‐26を蹴り飛ばす。
蹴られた衝撃と吹っ飛び壁に激突した衝撃で目を覚ましたN‐26。
『こっ、ここは……? え? アレ!? 格納庫でしょうか……はっ! N‐9!? ごめんなさ......』
『さっさと起きろっ! この役立たずが! N‐19と共にE‐3を探し出せっ!!』
そう言い残してN‐9は格納庫内に消えて行った。
蹴り飛ばされたN‐26に駆け寄るN‐19。
『生きててよかった……ほらっ26ちゃん! 立って!』
『うん、19たんありがとう! あたし、役立たずでごめんね……』
『そんなことないわよ! 大丈夫だから、ねっ? 26ちゃんは私が必ず守るから!』
『あたしだって19たんを守りたい! そして2人で絶対生き残ろうね!』
『勿論! それにしてもいくら戦闘中だからって、女性の扱いを知らなすぎるわよN‐9は!』
『きっと、あたしがドンくさいのが悪いんだよ。もっと頑張るね!』
『26ちゃんはいつも頑張り屋なの私知ってるよ! さっ、こんな戦闘ちゃっちゃと終わらせに行こう!』
『うんっ!』
手を繋ぎながらスラスターを噴射し、格納庫内に入っていく2機の真っ赤なクォンタムアーマー。
通信からN‐9の音声が入る。
『E‐3発見! 戦闘に入る! さっさと合流しろっ! この愚図共がっ!!』
『『はいっ!』』
「チッ! 26ちゃんを虐める嫌な奴……」
なんで私たち、こんな奴の言う事を聞いてんだろ。
この戦闘に紛れて殺しても、誰も分かんないよね……?
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