蒼黒の刻
§ WORMS 「マンティス・アサシン」チーム視点 §
人型の小型軽量超高機動マシン「マンティス・アサシン」。
カマキリの名を冠するわりに真っ赤な機体が特徴のアーマードスーツ。
アサシンが後ろに付いている事で、血濡れたカマキリをイメージしたであろう事が伺える。
このクォンタムアーマーを選択したのは6名だった。
WORMSでは、非戦闘要員が固有名称を名乗る事は禁止されている。
戦闘要員となり得ない者は戦力外であるという意味で、頭に「無い」を表す「Null」を冠に、次に番号を付けられた。それらは全て略され「N」と呼ばれた。
そしてNの中でも優秀な上位30名が中央管制室の要員となる。
要は、自分の優秀さを示せばその番号は数が減り上位へあがり、示せなければ数が増え下位に落ちる。
入れ替わりは頻繁に起きる。故に固有名称は必要なく番号で認識された。
顔もNは皆同じ仮面を付けている為、個々が記憶出来るのは性別と声くらいのものだ。
司令官も同じNではあるが、Nを統括する、Nの集合体の意味で「何もない」を示す「Void」と呼ばれた。
『この部隊の指揮は俺、N‐9が取る! 敵は見つけ次第殲滅! 何がなんでも生き残れ! そして、我々WORMS、Voidに勝利をっ!』
『『勝利を!』』
地下格納庫から地上へ向けて上っていくクォンタムアーマー用巨大エレベーター。
地下5階まで到達すると同時に、機体から警告音が鳴る。
「ビッビッビッ! 敵性反応! 敵性反応! エネミー3」
メインモニターに人型のサーモ表示が現れ「E‐1」、「E‐2」、「E‐3」の識別コードが付された。
『見つけたぞっ! 4階に3体の敵性反応あり! N‐26! エレベーターを4階で緊急停止させろ! 中に突入後、壁をぶち破って一直線に敵に向かうぞ!』
『はいっ! 緊急停止まで、3、2、1、停止!』
――ゴゴォォン……
『1匹も逃すなっ!』
『『了解!』』
人の約3倍程の大きさを持つ真っ赤な機体に乗った俺たちは、扉が開くと同時に中に雪崩れ込んだ。
全員のメインモニターには人型のサーモ表示と識別コードが映っている。
『真っすぐだ! 目の前の壁をぶち破って真っすぐだ!』
容赦なく壁を破壊し進んだその先には、黒い狐の面を被った東洋の忍者の様な出で立ちをした男が2人。それと、白い狐の面を被った、ふざけた格好をした女が1人。
『随分とナメた格好をっ! 撃てぇーっ!』
見慣れたフロア形状が見る間に戦場へと変わっていった。
§ 南西エリア チームロック視点 §
壁を壊して現れた6体の真っ赤な機体は、接敵するや否や一斉掃射を浴びせて来た。
外で喰らった迎撃に比べれば可愛いものだが、如何せん室内でこの量の銃弾を浴び続けながら戦闘するのは現実的ではない。
大量の跳弾が周囲の壁を削っていき、粉を吹き始め視界を奪う。
≪かぁーっ! こりゃ場所が場所なだけにこっちには不利だな! 一旦離脱して俺達も地上で戦った方がいいんじゃねぇか?≫
≪ですがロックさん! 敵の掃射はベールが問題なく防いでいます!≫
≪そうっ! 寧ろこの視界不良を逆手に取って、少しは数を減らせるんじゃない! こっちにはCTLのマルチアイがあるし!≫
≪そうですね! 天南先輩の言う通り! それに敵の図体も僕達より大きいので、建物内では動きづらいかと!≫
≪分かった! なら小手調べといくぞっ!≫
両手にお気に入りの「M134ミニガン」を具現化し構えた。
「どこまで耐えられるか! 喰らってみやがれってんだーっ!!」
俺の発砲に合わせ、さっちゃんとジュンタは粉煙に紛れて両端から前方へ。
さっちゃんは右サイド、ジュンタは左サイドから敵を崩しにかかる。
敵の掃射を浴びながら掃射を浴びせ返すという、通常ではありえない行動に面食らった敵は面白いように被弾する。
激しい被弾音の連続が、俺にしっかりとした手応えを教えてくれる。
アーマードスーツにとっては狭い建物内でも、俺たちにはそれなりの広さだ。
さっちゃんとジュンタ、2人の素早過ぎる動きと、重すぎる打撃に翻弄され始める真っ赤な敵部隊。
≪この視界の悪い中で、こちらの動きにある程度ついて来ますね! 恐らく、何かのセンサーモニターを見ながら戦闘していると思われます!≫
≪よし! なら、慣れて面倒臭くなられる前に......≫
一気に潰す、と言い終わる前に、敵が抜き放った刺突タイプの近接武器が青白いスパークを纏う。
その瞬間、空気中に舞った大量の粉塵が大爆発を起こした。
耳を劈く激しい爆発音と風圧が、敵味方関係なく派手にその威力を発揮した。
吹き飛ばされるコンクリート片、敵、俺、ジュンタ、そしてさっちゃん。
俺とジュンタは対極に、さっちゃんは奴らが開けて入って来た穴の中に落ちて行った。
今の爆発で敵機体の1つが大破。
パイロットは死亡したのか機体の隙間から大量の血が流れ出している。
敵は俺の方に1機、ジュンタの方に1機。
1機はさっちゃんと同じく穴の中に落ちて行き、残りの2機はそれを追って穴の中に消えた。
爆発が起きた事で粉塵は消えたが、代わりにフロア内には黒煙が満ち、あちこちから炎が上がる。
≪おいっ! さっちゃん! 応答しろ! おいっ!≫
≪天南先輩! 天南先輩っ!≫
応答は返って来ない。今の爆発で気を失ったか!?
≪くそっ! ジュンタ! そっちは1人でやれそうか!≫
≪僕の方は大丈夫です! やれますっ! ロックさんの方は!≫
≪ああ、俺の方も大丈夫だ! それより早いとこさっちゃんを追わないと!≫
≪はいっ! こいつを片付け次第追いかけます!≫
チクショウ! いくら呼び掛けても返答がねぇ! こりゃあちょっとだけマズイか?
事態が良くない方向に傾きそうな事を感じた俺は一斉連絡した。
≪こちらチームロック! 今の爆発で――≫
地上は既に激しい戦闘を繰り広げている最中だろう。
救援に向かえる者なんていない。
「くそっ! 急がねぇと! 取り返しのつかない事になっちまう!」
§ 地上 チームアキラ視点 §
超巨大なメカが乗せられたエレベーターに飛び乗った私たち。
直後に地上に到達し、エレベーターから吐き出された。
だが、外に出て分かるその巨大すぎる体躯は、見上げる程の大きさだった。
「じょ、冗談にしても限度ってものがありますわよ!? デカすぎじゃなくって!?」
「こっ! この敵! タイヤの形してるんだぞっ!?」
「まさか、これ走り回るんじゃない……よにゃ!?」
「葵育っ! フラグ発言禁止っすーっ!」
グググッと地面に力が掛かる音を発すると、巨大タイヤは前に進み始めた。
「ちょっ!! だから即回収やめろなのーっ!」
「お姉ちゃん達っ! 周りを見てっ!」
私の声でやっと巨大タイヤから目が離れたお姉ちゃんたち5人。
素早く周囲を確認すると、他の場所からも同じ機体の敵が出現している。
その数なんと4。
たったの4体だが、直径がざっと50m、幅15mもありそうな体躯を持つ真っ黒な巨大タイヤだ。それが回転を始め、周囲を踏み潰し全てを破壊して行く。その回転はゆっくりに見えるが、地上を走るスピードは新幹線と同等かそれ以上だ。
地震となんら変わりない揺れを起こしながら、轟音と共に容赦なく突進し踏み潰していく様は、最早災害であり、私たちでさえ恐怖を覚えた。
しかも、あろうことか金属のタイヤ表面には高電圧が流れているのか、接地面がバヂバヂと激しいスパークを放っている。
「クソっ! こんなの一体どうしたらいいんだっちゃ!!」
「とにかく一体ずつやるしかないっすかねーっ!!」
「正直、逃げたい気持ちの方が大きいですわっ!」
「香! 気持ちで負けたらそこで終了だしっ!!」
「当然! 分かっていますわよっ!!」
≪こちらチームロック! 今の爆発で――≫
踏み潰しに掛かって来るデカブツらを必死に回避しながら考える。
連絡ではロックさんとジュンタさんがピンチ、さちこ先輩は地下へ落ちて行った。
CTLの3Dマップで、さちこ先輩は拠点の最下層まで落下している事が分かる。
どうする! どうする!? どう判断して動くのが最善なんだ!?
助けに行きたい、けど行ける状況じゃない! ……考えろ、考えろ私っ!!
敵の突進を回避し、側に寄って来た桜煌に伝えた。
「桜煌お姉ちゃんっ! 先ず1体! 先ずは1体っ! 私が何とかしてみますから! だからっ......」
「晶っ! 言いたい事は把握したなのっ! お姉ちゃん達に任せろなのーっ!!」
≪みんなっ! 歌で支援をっ!!≫
≪お姉ちゃん達っ!! お願いっ! しまっす!!≫
≪≪任せなさいっ!!≫≫
「全力以上の力を見せ付けてやるっすよっ!」
「「上等っ!!」」
「「ライブっ!! はじまるよーっ!!」」
巨大なタイヤが周囲一帯を地獄と化していく激しい戦闘の中、全く似つかわしくないポップなネオンやカラフルな照明、レーザー光線が出現し、戦場をド派手に飾っていく。
「我ら、Goddess of Purity 、 Undulation Resonance! Artemis !!」
疾走感あるイントロが流れると同時に、曲頭から熱気ある歌声を叩き込む!
光のギミックが『 絶対領域突破 』のタイトルコールを表示し戦場を飛び回る。
激しいビートに合わせ、五色の光が私の体表を走った。
「「フルバフ! 全開っ! 行っけー!! 晶ーっ!!」」
5人の声援と支援を受け、雄たけびを上げながら巨大な敵に立ち向かう。
「うおおおおおぉぉぉぁぁぁぁーっ!! 負けてたまるものかぁぁぁーっ!!」
§ 地上 チームショウゴ視点 §
晶ちゃんたちに続き、敵が運ばれていくエレベーターで地上に出た私たち。
巨大過ぎるタイヤが地上を踏み潰し、蹂躙していく様を見て愕然となる。
「なん……なんなのよこれ! チッ! サトルくん! 晶ちゃんの下に早......」
「ボスーっ!!」
突然横からセオドラちゃんが突っ込んで来て、私を抱き抱えながら地面を転がった。
何事かと自分が今居た場所を見ると、巨大な1本の槍が突き刺さっているではないか。
そこには巨大タイヤの三分の一程の大きさしかないが、それでも15mは優に超えている真っ黄色のマシンが立っていた。
槍が地面から引き抜かれ、自動で腕に再装填でもするかのように戻り、セットされた。
キャタピラをキャラキャラと鳴らしながら旋回し、両腕をこちらに向けてくる。
腕にハマった槍の根本、発射口だろうと思われる箇所から電磁的な嫌な音がする。
「キラさん危ないっ!!」
サトルくんが地面を蹴って、黄色のマシンに体当たりする。
発射寸前で態勢を崩された敵が放った槍は、私とセオドラちゃんのすぐ脇を掠め、後方の地面に突き刺さりスパークを放つ。
「セオドラちゃん! サトルくん! ゴメンっ! 助かった!!」
≪なんて厄介そうな敵なのよ! あんなの喰らったら、ひとたまりもないじゃない! でもこいつを倒さないと晶ちゃんの応援には行けそうにもないわ! やるしかないって事みたいね!≫
≪はいっ! 俺は腕をやります! キラさんとセオドラさんはキャタピラを!≫
≪待ってくださいっ!! 周囲を確認してくださいっ!!≫
セオドラちゃんの注意でやっと周囲を見回した。
そこには、強力な槍を持った黄色のマシンが4体、それと空を飛んでいる白い鳥獣型マシンが8体見えた。
白い鳥獣型マシンは恐らくグリフォンを模したもので、いくつもの機銃を装備している様に見える。
グリフォンは巨大タイヤの方、晶ちゃんたちが戦っている方に4体向かった。
残りの4体は、私達に容赦なく撃ちこんでくる。
「多勢に無勢じゃない……こんなの。 どうやって勝てっていうのよ!」
「ボス! 弱気になったらそこで終わりです! 最後の最後まで諦めないで下さいっ!」
「キラさん! セオドラさんの言う通りですっ! 先ずはコイツを! この1体からやりましょう!」
くっ! 私としたことがこんな事でのまれるなんて、情けないっ!
両頬をパンっと叩いて気合を入れなおした。
「了解っ! 私はキャタピラを! サトルくんはあの厄介な槍の腕を! セオドラちゃんは空の邪魔な白いハエを叩き落として頂戴っ!!」
「了解した!」
「任せて下さい! 全て撃ち落としてやります!」
「行くわよぉぉーっ! あああぁぁぁーっ!!」
黄色のマシンに向かって飛び込むと、タイミング良く体表を走る五色の光。
セオドラは、空を駆ける白いハエを撃ち落とす為、フルバフを受けて盛大に空へジャンプし、敵の遥か上空に位置取った。
お気に入りのAWMを具現化し、落下しながら右腕で構える。
伸ばした左足の上に銃口を乗せ照準を合わせ、フッと息を吐き引き金を引く。
発砲音もマズルフラッシュも無いその狙撃は完全なるサイレントアサシン。一撃で1匹目のハエを叩き落としてみせた。
「1つ!」
だが、カウントするセオドラの左腕は、上腕の中程から先が無い。
不意打ちの槍からキラを庇った際に失っていたのだ。
激痛に歪む苦悶の表情で冷や汗を流しながら、上空で独り静かに引き金を引く。
キラに最後の最後まで諦めるなと叱咤した手前、自分がそれを実行しないでどうするのだ。
誰にも気付かれない様に、皆の戦意に影響しない様に、キラが責を感じる事のない様に。そして、勝利を収める為に。
「2つ!」
2匹目のハエを叩き落としたと同時に、突如、地下拠点中央付近から黒と紺の悍ましい力の奔流が大きな柱となって天まで吹き上げた。
≪緊急っ! アルだ! 何かトンデモなくヤバイ奴が地上に向かってる! 俺が相手をする! 皆は絶対に近づかないでくれ!!≫
上空から落下しながら、そのおぞましく吹き上げる柱と戦場全体を把握するセオドラは、ギリっと奥歯を噛み締めながら修羅の形相となる。
「鬼畜の所業か、はたまた煉獄の試練かっ! これが無間地獄だと言うのなら、その桎梏を越えてでも私達が貴様らを奈落に叩き落としてやるっ! 覚悟なさいっ!!」
そして照準を合わせ、静かに引き金を引き続ける。
「3つ!」
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