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cry bitterly

作者: おとまろ

何の変哲もない、静岡県のとある場所。

今時ありきの『犯罪撲滅都市』とかいうキャッチフレーズを掲げているせいか、大きな事件もなく、犯罪なんてテレビのニュースで見るくらいだ。

そんな、当たり前の毎日だった。

そう、その日までは。


年季が入っているけど、一戸建ての家からランドセル姿の子どもが2人飛び出した。

『いってきま~す!!』

同時に家の中の母親に向かって叫び、競い合うように通学路を駆けていく。

その背格好から背中まである長い髪、顔まで全てがそっくりだ。

見て分かるように、芳尾海と空は双子だ。

そっくりな顔立ちをしてはいるが、海が女の子で空が男の子である。

よく間違われるが。

2人とも、いつもお揃いのシャツに短パンといった出で立ちで、違う所と言ったら海は髪を二つ結び、空は一つ結びにしている事くらいである。

どんな時も一緒の、近所の小学校に通う2人はご近所でも有名だ。

家族構成は…複雑なのだが、父親も3年前に死に今は母親との3人暮らし。

どこにでもあるような光景だ。

「よっしゃ、勝った!!」

小学校の正門に立つと同時に、海がガッツポーズをする。

わずか30センチ遅れでゴールした空は、悔しげに唸った。

「くっそぉ~~!!」

「へへん、これで3回連続勝ちだもんね!!」

海は大袈裟に喜んで見せ、口を尖らせる空に向かってにっと笑った。

「約束ど~り、今日のごみ当番空だからね」

「…わかってるよ」

空は大きく溜息を付いた。

「まぁまぁ、その前は空勝ったんだからいいじゃん」

「でも、最近ずっと海ばっか勝ってるじゃん」

「あ、海っち!空っち!おっはよ~~」

「おはよ」

「ねぇ、聞いた?昨日ね…」

そんな2人の姿も、同級生達の波に紛れていく。

友達の事、昨日のバラエティのこと、芸人さんのネタが面白かったとか、歌番組に好きなアイドルが出なかったとか…

そんな他愛もない話題に花を咲かせていたが、不意に友達の一人が言った。

「そういえば、また殺されたって。聞いた?」

「うん。今朝ニュースでやってたよ」

数人が頷く。

最近の話題は、これが多い。

ここ2,3週間、関東で『連続児童誘拐殺人事件』が起きている。

手口は余程巧妙なのか、目撃者なし。

小学生が5人失踪、内3人が遺体で見つかっている。

千葉だったり、神奈川だったりと出没エリアは大きく移り変わっていて、それも捜査が難航する原因だと、ニュースでアナウンサーのおじさんが言っている。

ただ、こういった事件は正直珍しい時代じゃないから、冗談半分で『こわいね~』なんて言っていた。

~。~。~

小学生にとって、大事なのも待ち遠しいのも授業なんかじゃない。

ようやくお弁当の時間になって、海たちは仲良しグループで机を寄せていた。

給食じゃなくて、お弁当だ。

なんと、給食センターで鳥だか豚だかのインフル大流行!!ってなわけで、給食停止なのだ。

遠足みたいで、わりと楽しんでいるけど。

お弁当を広げようとしたら、空が立ち上がった。

「その前にゴミ捨ててくる」

「え~、食べてからでいいじゃん」

海がブーイングをするが、空も半眼で海を見る。

「だって、どうせボクが捨ててる間に先に遊び行っちゃうでしょ」

それじゃ悔しいから、今行くなんて子どもみたいな理屈をこねて、空は大きなゴミ箱を抱えて出て行ってしまった。

「も~、自分勝手なんだから。ごめんね~、あんなワガママで」

海はお姉さんぶって口を尖らせ、お預けを食らわせる事となった友達に謝るが、先に食べる事はしない。

やっぱり、一緒じゃないと美味しくないし。

~。~。~

空たち6年生の教室は、ゴミ捨て場から一番遠い。

広くて綺麗な校舎は嬉しいけど、こういう時に困る。

空は空になったゴミ箱を両手で抱え、教室に戻ろうとしていた。

ふと、裏庭を見る。

人影が見えた。

子どもにしては大きいから、先生だろう。

でも……あんな先生居たっけ?

男がなんだか妙な動きで裏庭を横切っていった。

空はゴミ箱をそっと地面に置き、少しずつ近づいていった。

近づいて、顔が見えるくらいになる。

やっぱり、先生じゃない。

ボサボサの髪、顔色は悪いし、着ている服もよれよれだし。

行動もおかしい。

陰から、体育が終わって、校舎に戻っていく3年生をじっと見ている。

不審者。侵入者。先生呼ばないと。

パニックになりそうな頭で、殆ど無意識にポケットから携帯を取り出していた。

これも、しょっちゅう海と事件物の漫画やドラマを見てるからだ。きっと。

子供用携帯を開いて、カメラを起動していた。

チロリン♪と、可愛らしいシャッター音が鳴る。

男が振り向いた。

目を大きく見開きすぎて、血走っている。

今の音に、携帯を向ける子ども。

何をしたかは一目瞭然ってヤツだ。

空の喉の奥まで悲鳴が出掛かったが、声にはならなかった。

男が血相を変えて走ってくるのを見て、空はもつれる足でなんとか走る。

すぐに追いつかれ、太い手が伸びてきて……

口を塞がれそうになって、でもがむしゃらに動かした腕が男の喉に当たった。

喉を強打されて、一瞬男が止まる。

空は駆け出した。

こんなに足が遅く感じたのは始めてだった。

~。~。~

「遅いなぁ、空のやつ…」

何やってんだかと呟き、海は何気なく窓から外を見た。

その時、丁度空の姿が見えた。

真っ青になって、校舎の影…道ならぬ道を隠れるように必死に走っている。

あからさまに尋常じゃない。

その理由は、考えるまでもなかった。

一瞬、変な人影が見えた。

校舎の陰を縫うように、変な男がその後を追っている。

…いや、探してる?

アイツ、空のこと見失って……?

どうしてかなんて考えてる間もなかった。

海は立ち上がり、二つ結びの髪に手を掛ける。

「…ごめん。先食べててっっ」

友達に言い捨てるように声を掛けると、海は教室から飛び出した。

~。~。~

空は校舎に飛び込むと、そのまま近くの1年生の部屋に飛び込んだ。

そこでご飯を食べていた先生に駆け寄り、呂律の回らない舌で叫ぶ。

「そ、そこに…男のヒトが…!!!」

眉を顰めていた先生だったが、事態を把握したらたちまち蒼白になった。

一気に騒がしくなった校舎だが、あの男はもう逃げたらしくいなかった。

ナンだろう。嫌な予感がする。

空は先生の所を抜け出し自分の教室に戻る。

一緒にお弁当を食べようとしていた子達の中に…クラスに片割れの姿がないことはすぐに分かった。

「海は!!?」

詰め寄る空に、友達の一人が言った。真っ青で、泣きそうな顔で。

「う、うみっち…窓の外見て、急に髪解いて…髪一つに結びなおしながら…どっかいっちゃった」

空の血の気が一気に引く。

まさか、という考えが、何故か確信に近い形になって心に圧し掛かる。

自分達の見た目の違いは、髪型だけ。

あの気の強い片割れのことなら…双子の弟想いの姉なら…

その後大人達がどんなに探しても、その日海が帰ってくることはなかった。

~。~。~

こんな事って現実にあるんだね、なんてどこか心の冷めた部分が言う。

後の9割の思考といえば、情けないもので停止状態だ。

テレビでよく見るような機材が運び込まれ、刑事さんたちが電話を見張ってる。

身代金要求とか、あるといいんだけど…

最近多発している誘拐事件なら、身代金要求はないらしい。

だって、犯人の目的は……

空は怯えたように目を瞑る。

何人かの目撃証言と、何よりも空の撮った写メから犯人はすぐに特定された。

目撃者と言う事で、空もその容疑者の写真を見せられた。…もう10年近く前の写真らしく、少し若かったけど間違えなかった。

…その写真を見た瞬間、元々蒼白だった母さんの目が飛び出そうなほどに見開かれた。

物凄く動揺して、唇を震わせて、それから殆ど音にならない声で何かを呟いた。

『れい…』

そう聞こえた。

触発されるように、空の脳裏に一人の少年の顔が浮かんだ。

今までずっと忘れていた。

空は我を忘れて母親に詰め寄った。

「かあさんっ、れいってれい兄のこと!!!!?ねぇ、どうして…」

「うるさい!!!」

空の言葉を遮る母親の怒鳴り声に、そらはビクッと身を竦ませる。

母親は、うわ言のように呟いた。

「知らない…思い出させないで……っっ。あんな子……」

今まで信じてきた『日常』が、音を立てて崩れていくようだった。

~。~。~

自分には…海と空には、腹違いの兄がいる。

父親はバツイチで、12歳年上の男の子がいた。

遊んだりしたことはあまりない。

母親は、血の繋がらない息子を『息子』とは呼ばなかった。

と言っても、最初からそうだったわけじゃないらしい。

おぼろげな記憶だが、いわゆる『不良』な兄と母親がしょちゅう衝突して、ケンカしてた。

一緒に遊ばないようにと言われてたっけなとボンヤリと思い出す。

その兄は中学生になると家に帰らないことが多くなって、15歳の秋。

家出した。

そのまま戻って来なかった。

当時たった3歳だった海と空には、居たんだかいなかったんだか分からないような兄だった。

でも、抱いていた感情は、『怖い』だけではなかった。

その兄の名前が怜だった。

れい兄の事を言うと、母親が酷く不機嫌になったから、触れないようにしてきた。

その内に、すっかり忘れ去っていたというわけだ。

今回の事件に、何で怜の名前が出てくるのか分からなかった。

勿論、あの犯人はれい兄ではない。

れい兄はもっと…カッコ良かった。怖いヒトではあったけど、それでも自慢の兄だった。

自分達に怒鳴ったりしたことは無かった…と思う。

決して、あんな骸骨みたいな変な男ではない。

~。~。~

捜査の邪魔になるからと、自分の部屋に追いやられ、空はベッドに潜り込んだ。

海と一緒の部屋だ。今、部屋の中を見るのが怖かった。

ほんの半日前まではいつもどおり、隣にいたのに。

犯人が、自分と間違えたのかどうかは知らないし、考えたくもないけど…海が自分の身代わりで誘拐されたのは確かだった。

殺されてたらどうしよう。

考えたくないし、そんな事考えられるわけがなかった。

どうしよう。自分のせいだ。自分のせいで…

言いようの無い後悔と罪悪感が押し寄せてきた。

このまま部屋でたった一人で待ってるなんて耐えられない。

今も、町の大人達が海を探してくれている。

一応、誘拐と決まったわけじゃないから。

自分も、探しにいきたい。

町なんか探しても、見つからないだろうって分かってたけど。

だって、そうじゃん?学校で迷子になって、そのまま夜まで戻ってこないなんて…

崩壊寸前の思考で変な事ばっかり考えてしまう。

そのまま1時間が過ぎ、3時間が過ぎ…ついには真夜中になった。

まだ、リビングからは刑事さん達の声がする。

その怒鳴り合いにも似た声と母親の泣き声に耐え切れず、このままじっとしているのももうムリで、空は窓から家を出た。

当ては無い。

探せるとは思ってなかったし、そもそも探しに出たかったのかもわからない。

空は、逃げるように外へ飛び出した。

~。~。~

そのままがむしゃらに町を歩いてどの位経っただろう。

人目を避けるように走っていたが、今はとぼとぼとおぼつかない足取りだ。

気が付くと見慣れない風景が広がっていた。

町からそんなに遠くは無いはずなんだけど……

明るい場所を見つけて来てみたが、この深夜に明るい場所がまともな場所なわけが無かった。

普段から、不良の溜まり場になってるからと行く事を禁じられている場所だ。

俗に言う、歓楽街ってやつ。

たった一人で子どもが歩く姿を人々が怪訝な顔で見ているが、空はそれ所ではない。

下を向いてフラフラと歩いていた。

突然、足元を何かにすくわれ、空は顔からアスファルトにつんのめった。

「ぶっっ」

そこで、空ろだった意識が戻って我に返る。

空が顔を上げると、目の前に黒ずくめのおにーさんがいた。

サングラスに黒いシャツとズボン。

シャツに派手な刺繍がしてある。

黒髪は空よりも長くて、しかもすごく背が高い。

足を引っ掛けられて転ばされたことを半瞬後理解する。

そんじょそこいらの『おにいさん』では無い事だけは確かで、空は一気に頭が真っ白になる。

おにーさんは、サングラス越しに空をじっと見やり、にやっとした。

「こんな時間にこんな場所歩いてたら、とっ捕まって痛い目みるぞ?ガキ」

「あ…その…ごめんなさい…」

「わかったら、さっさと……」

煙草を咥えようとしたおにーさんが、不意に動きを止める。

サングラス越しに空をじっと見つめ、少し驚いていたが、さっきまでとは違ういたずらっ子のような笑みを浮かべた。

「…で?海は一緒じゃないのか?空」

「え……」

空は息を呑む。

何で、と言う前に、おにーさんは笑ってサングラスを取った。

銀色の目を細め、苦笑するその顔は何となく見覚えがあった。

「……れいにぃ……?」

「お、覚えてたじゃん」

怜は、にっこ~と笑って空の頭を撫でた。

~。~。~

怜に連れられるまま、空はネオン街のすぐ傍に建つ、ちょっと高級そうなマンションの最上階まで来た。

その一室に、『御堂』と書かれた表札が掛かっている。

御堂は父親の姓だ。

でも、自分達は母親の姓である芳尾を名乗っている。

表札を見つめていた事に気付いたのか、怜が振り返った。

そして、にやっとする。

「お前は芳尾の方を使ってるのな。御堂なんて苗字、覚えてるか?」

「なんで…」

ドキッとして聞き返したら、怜は指で胸元を指し示した。

空も自分の胸元を見て、小さく声を上げる。

名札が付いたままだった。

そういえば、学校から帰ってから着替えてもいない。

怜は小さく笑った。

「ま、美智子さんは犯罪者と同じ苗字なんて使いたくなかったんだろうな」

「え…?」

美智子は自分達の母親の名前だ。

怜は、一度も義理の母親を『母さん』と呼んだことは無い。

空が目を丸くするが、怜は何も言わずにドアを開けた。

「たっだいまっと」

「お?早かったではないか」

「つ~か早すぎ!!!!サボってんじゃないわよバカ!!!!」

広い部屋の奥から、2人の人間が顔を覗かせた。

怜より少し年上だろう黒髪の男と、怜と同い年か少し年下だろう女と。

2人とも、同じ刺繍入りのシャツを着ている。

その2人が、空を見て少し意外そうな顔をした。

「…お前、とうとう人攫いを…」

「うっげ~、どうすんのよ。ウチじゃ飼えないんだからね」

「違う。ほら、前に話したろ?腹違いの…」

怜の言葉を遮り、男の方が眉を顰める。

「弟だけか?妹もいたと思ったが」

「さぁね。そこらをうろついてたから、とりあえず連れてきただけだし。まだ何も聞いてないよ」

怜は素っ気無く言うと、ポカンとしている空に向かって二人を順に指した。

「そっちのバカ面したヤツは『透夜(とうや)』。で、隣のおねーさんが『莉琉(りる)』。俺の家に住み着いてるツレっての?もう一人いるんだけどさ。

お~い、明日果!!明日果!!!」

怜が奥に向かって呼びかける。

空は、紹介された二人と、部屋を忙しなく見た。

かなり綺麗で広い部屋だ。

革張りのソファ、黒いカーテン。

リビングの隅に、4着の揃いのジャケットが掛けられていることに気付いた。

黒くて、刺繍が入っている。

と、廊下の脇のドアが開いてもう一人長い黒髪のヒトが現れた。

名前と整った顔立ちから一瞬女性かと思ったが、すぐに男性だと気付く。

明日果と呼ばれたおにいさんは、空を見て少し驚いたがすぐに人懐こい笑みを浮かべる。

「どうも、明日果だ。よろしくな」

このお兄さんも、黒いシャツ。

皆同じ刺繍だ。

黒い城のモチーフに、凝った字で≪PANDEMOIUM≫と書かれている。

カッコいい。

怖いより先に、そんな事を思った。

~。~。~

「…へぇ、誘拐…」

意外にも真面目に話を聞いてくれたお兄さん達は、驚いた風もなくそう呟いた。

明日果はノートパソコンを叩き、程なくして呟くように言った。

「どれ……ああ、本当だな。今日の12:30頃、小学校で不審人物を発見。その直後女子児童が行方を眩ませている。警察は誘拐の線が濃厚と見ている。また、連日起きている児童殺傷事件との関連を疑っている。…か」

「ま、表の情報じゃそんなモンだな」

透夜が肩を竦めた。明日果は画面を睨んだまま言う。

「この事件は私たちも目を付けていたが…裏情報を集めるにも時間が掛かるのだ。少し待っててくれぬか?」

そのまま、明日果は脅威的な速さでキーボードを叩き始める。

画面に、次々に何やら怪しげなサイトが現れる。

それを暫く見ていたが、不意に空は怜を見上げた。

「…ねぇ、何やってるの?」

「ん?お前みたいなお利口さんは知らない方がいい事だよ。見るからに怪しいだろ?見た目どおりだ。あんまり関わらない方がいいよ」

「家出して、ずっとこんな事をしてたの?」

空の言葉に、4人がそれぞれ微かに反応する。

怜が目を細めた。

「家出…ねぇ?美智子さんがそんなことを?」

「え?違うの?」

空は目を見開く。

怜の頭を叩き、透夜が笑う。

「あはは、そんな可愛らしいものではないよ。あれから2年間、少年院にぶち込まれていたんだからな」

「…………え?」

「他人事か?困るなぁ、余計な事言われちゃ」

怜が透夜の腕を乱暴に払いのける。

唖然とする空に、怜がにっと笑った。

「…でも、本当のことだけどな。分かるだろ?お前らの母さんが俺みたいなクズ兄貴の存在を隠してた理由なんて」

「なんで…」

「それも殺人未遂。今だってまともな事はしてない、正真正銘の立派な犯罪者さ」

怖いか?なんて笑って聞く兄に、空は何と言っていいか分からなかった。

「何で…」

空が呟いた言葉に、怜は面白そうに笑う。

「何で?犯罪に理由が必要か?」

くっくと笑っていたが、怜は不意に呟いた。

「そうだな…あえて言うなら、ぶっ殺さなきゃいけないヤツがいるんだよ」

まるきり悪人のセリフに、空はヒッと息を呑んでしまう。

その反応を視界に納め、怜と透夜はまたくっくと笑う。

くだらないとばかりに会話を拒絶していた莉琉は、中々進まない様子の明日果のパソコンを半眼で見た。

「でもさぁ、顔も名前も分からない相手なんて、結局ろくなこと分かんないジャン」

莉琉がボヤく。怜が冷ややかに言った。

「お前は明日果の情報収集能力を甘く見すぎ」

「なによ」

「あ、顔わかる。僕撮ったモン」

ケンカでもしそうな雰囲気だったが、思い出したように空が放った一言で二人は止まる。

空が差し出した携帯の画像を見た怜たちの顔色が明らかに変った。

明日果も、パソコンから手を離して顔を強張らせる。

「~~のヤロウ…」

誰かが呟いた。

「事情が少し変った。何があっても刺し殺してやるから安心していろ」

透夜が空の肩に手を置いて、安心できないセリフを吐く。

空は顔を引き攣らせたけど……何故か、同時に少し気が楽になった。

~。~。~

空の家とは全く違う、高そうな風呂場でシャワーを浴び、空はリビングに戻った。

怜の服では大きいからと、莉琉の服を借りた。

莉琉は気が進まないようだったが、男3人に説得…というか唆され、不承不承貸してくれたのだ。

といっても、莉琉の服は何故か全て男物だったが。

女物の服なんて、透夜曰く『少年院の女子棟の制服以来着てない』らしい。

反応に困る軽口だったけど、莉琉がもんの凄く怒ったから笑うべきじゃないことだけは確かだった。

リビングでは、透夜が酒を飲んでいて瑠璃は漫画を読んでいた。

明日果は自分の部屋に引きこもってネットで何かしているらしい。

れい兄は?と聞きかけ、明日果の隣の部屋から怜の話し声が聞こえる事に気が付いた。

ドアを少し開けると、怜は携帯で何かを話している。

スピーカー越しに、空にとって聞きなれた声が叫んでいる。

空はじっと聞き耳を立てる。

「だから、空は今夜はウチで預かるから……心配しなくても悪いようにはしないって」

『ふざけないで!!!!よりによってアンタのところなんて…誘拐犯も同然じゃない!!!!』

妙にヒステリックな母親の声に、怜は恐ろしく冷静に言葉を返す。

「疑う気持ちは分かるけど…空と会ったのは偶然だよ?むしろ、あのままじゃどうなってたか分からないし、感謝して欲しいくらいだけどねぇ」

『あんたもグルなんでしょう?海だけじゃなく空まで…何が望み?今すぐ返して!!!!』

「この時間に、犯罪者の巣窟を出歩かせるのは危ないよ?それに、ある意味一番安全な場所だと思うけど?」

『何で…ナンであんたが出てくるのよ!!?人殺し!!!!』

酷く狼狽した母親の声と、恐ろしいほど落ち着いた兄の声。

ああ、昔もこんなだったっけなと空は思い出す。

狭いアパートで、毎日のように母と兄が言い争っていた。

それを見るのが怖かった。

兄の、声色とは裏腹に冷め切った眼が到底子どもとは思えなかった。

『空を…空を出しなさい!!!いるんでしょう!!!なら…』

母親の声。怜はちら、とドアを…空を見やる。

バレてる!!!

空は怖くなって、咄嗟に部屋から出るとドアを閉めた。

何が怖かったのかはイマイチよく分からなかった。

怒られると思ったけど、それが兄に怒られるのが怖いのか、母親が怖いのか、分からなかった。

部屋の中で、兄が苦笑したのが分かった。

「…出たくないとさ。……ま、そっちも少し頭を冷やしてから掛け直しな。…訴えたければそれでもいいよ……じゃあね、美智子さん♪」

部屋の外で立ち竦んでいると、ドアが開いて怜が顔を見せた。

「ハイ。携帯借りたぜ」

差し出された物が自分の携帯だと、少し間を置いてやっと理解した。

空が携帯を受け取ると、怜は人懐こく笑って空の頭を撫でた。

「そう怯えんなって。立ち聞きなんて、されるほうが悪いんだからよ。その証拠に、アイツらだって知らん振りしてただろ?」

怜はリビングにいる透夜と莉琉を指した。

透夜がテーブル越しに顔を覗かせ、ひらひらと手を振ってみせる。

どうやら、立ち聞きはバレバレだったらしい。

「ご…ごめんなさい…」

しかし、空の謝罪には触れずに怜は肩を竦める。

「ほら、一応お前の母親にも可愛い息子の無事は知らせとか無いと、後で大問題じゃん?でも…せっかく忘れてた厄介者が出てきたんじゃ、安心は出来ないよな」

「厄介者って…」

何でそんなこと言うの、と悲痛な色を見せる空に、怜は苦笑した。

「いいんだよ。お前らは覚えてないだろうケド…中学に上がる頃には、飲酒に喫煙。しまいにゃ暴力事件まで起こしてたんだ。お前の母親が嫌がって当たり前だよ」

シュボッとライターの音がして、紙が焼ける独特の臭い。

空が顔を上げると、怜は煙草を咥えていた。

少し間があり、黙り込む空に怜はにっと笑った。

「ま、立ち話もなんだ。入れよ。どうせ俺の部屋に泊めることになるんだしィ?ね?」

後半は、何故かリビングに向けてわざとらしく声を張り上げる。

「あったりまえよ!!!ガキに目の前うろつかれたんじゃ目障りなのよ!!!!」

まるで会話を聞いていたかのように、莉琉の怒声が返ってきた。

空は迷ったが、誘われるままに怜の部屋に入った。

~。~。~

怜の部屋は予想よりもずっと質素だった。

黒いジャケットに、古びた本が沢山。

机の上には、大量の紙。

オーディオの前にCDが積まれている。

「いやぁ、忙しくって最近片付ける時間がなくってさ。ま、適当に座ってて」

煙草をふかしながら、怜が言う。

空は遠慮がちに黒いクッションに座った。

部屋を見回す。

煙草と、微かに薔薇のような香り。

部屋の片隅に、無造作に置かれたナイフや銃火器にドキッとした。

それを見て、怜は苦笑する。

「ああ、悪いな。普段、誰も入れないもんでさ」

空は膝を抱え、そのまま黙り込んでしまう。

それを暫く黙ってみていたが、怜は煙草を灰皿に押し付けると空の前にしゃがみこんだ。

「どうした?やっぱこんな所嫌か?」

空は首を緩く振る。

怜は小さく息を吐いた。

「…海が心配か?」

「あたりまえだよ…」

「お前が心配したって、何にもならねぇよ」

「でも…!!!」

勢いよく顔を上げる空の頭に手を置き、怜は微かに笑う。

「安心しろとは言わないけど、こういうのはプロに任せとけ。明日果の情報収集能力はダテじゃないし、透夜も莉琉もアレで役に立つんだ。心配すんな」

空は再び俯く。

全く安心したわけではないけれど、怜の言葉は妙に心に響いて、不思議と落ち着けた。

自分がパニックになっても迷惑なだけだ。

こうして話をしているだけでも、少しは気が楽になった。

小さく頷くと、空は何か会話になるような事はないかと考える。

「れい兄って…ヤーさんなの?」

空の言葉に、怜はきょとんとし…弾けるように笑い出した。

「あはは、どこでそう言うのを覚えて来るんだかね。そこまで立派なもんじゃないよ。でも、似たような物か。暴力団には違いないからな」

「ぼーりょくだん?」

不安げに空が聞く。

「やってる事は同じだよ。『パンデモニウム』っていや、一部じゃ有名な私的営利団体だしな」

「ぱんでも…?…って、シャツのマーク?」

空が怜のシャツの背中の刺繍を指すと、怜はにっとした。

「そうそう、これは俺たちの作った、いわばシンボルなんだよ」

「って、透夜さん達と?」

「まぁな」

「ふぅん…」

空は小さく声をあげ、そこで会話が途切れてしまう。

少しして、怜が口を開いた。

「…あいつらとは長い付き合いでさ。ま、仲良しというより、ただの似た物同士の集まりなんだけど」

もう一本煙草に火をつけ、怜が苦笑するように目を細める。

「似たもの同士?」

「皆、浅~い事情があって、帰る家がないのよ」

怜はぷか~と煙を吐き出し、素っ気無く言う。

「帰ってくればいいじゃん!!!」

突然声を張り上げた空に、怜は目を丸くして空を見る。

「ボク達はれい兄のこと、家族って…」

しかし、怜の長い指が空の口元に当てられて遮ってしまう。

「お前と海は、俺があの家に行ってから生まれたからそうだろうケド…そんな簡単なもんじゃねぇんだ。それに、今俺があの家に行っちまったら、後が面倒なんだよ。言ったろ?ヤバイことしてるんだ」

「……ヤバイことって…人殺し?」

空の真面目な言葉に、怜はきょとんとする。

そして、くっくと笑い出した。

「は~、どうしてガキって考えがそう極端なんだろうね。どうせ『犯罪』と言ったら、殺人・強盗・詐欺くらいしかないと思ってるんだろ」

「そ、そんなこと!!」

バカにされた気になり、空は声を張り上げる。

怜はまだ喉の奥で笑いながら、肩を竦めた。

「い~や、ガキはそれだけ知ってりゃ充分だ。…余計な事は知らなくていいんだよ」

空は黙り込んでしまう。

怜も黙って煙草をふかしていたが、暫くして思い出したように言った。

「一応言っておくけど、俺たちは殺ったことはないよ。そんじょそこらのバカな犯罪者じゃないんだ。一線は守るさ」

「…殺人未遂はしたことあるんでしょ?」

ふと、思い出して空が言う。

言ってから、しまったと思った。怜の目が、少し冷たくなったからだ。

「…ま、色々あったんだよ」

怜の銀色の眼が冷たく光った。

怖くなって、空はそれ以上聞けなかった。

怜はまた底の見えない、人懐こい笑みを浮かべた。

「ガキが夜更かしするもんじゃないぞ。そこのベッド使っていいから、寝とけ」

どこかへ行こうとする怜に、空は問い掛ける。

「れい兄は?」

「風呂だよフロ。言っとくけど、部屋のモンにはあんま触るなよ?」

ヒラヒラと手を振り、怜は部屋から出て行った。

空は暫く怜の出て行ったドアを見ていたが、そうしていても仕方が無いしとベッドに横になることにした。

正直、到底眠る気にはならなかったけど、起きていて変な事ばかり考えてしまう事が嫌だった。

…少し目を瞑っていたが、眠りに付くまでの沈黙と暗闇が怖くて、眠れなかった。

困って、何とはなしに改めて怜の部屋を見渡す。

ふと、机のすぐ脇に新聞記事が貼られている事に気が付いた。

れい兄が新聞なんて読むんだと、ちょっと興味をそそられる。

近寄って、その記事を見る。

皺くちゃの記事は古いものらしく、黄ばんでいる。

日付は9年前になっていた。

その内容をちらっと見た空は固まってしまった。

息さえ忘れて、その記事を読む。

『未成年の凶悪な犯行再び!!?』なんて見出しのその記事によると、市内の中学生と高校生の男女4人がとある男性に刃物や銃火器で襲い掛かり、現場である倉庫ごと焼き殺そうとした。

少年達は、男性をその当時頻発していた児童誘拐殺傷事件の被疑者と断定して襲い掛かったと証言しており、警察はその男性に対し、厳密に取調べを行ったが、男性は容疑を否認。

肝心の、証拠品があったかも知れない倉庫は少年達の手で全て焼き払われていた為に証拠不十分で釈放された。

少年達は倉庫にガソリンを撒いて放火した事を認めており、この4人の少年達は逮捕された。

そんな内容だった。

~。~。~

デジタル時計を使っているから、秒針の音すらしない。

完全に近い沈黙の中、透夜は横目でソファを見やった。

莉琉は息さえ殺してるのではないかと言うほどに静かだ。

漫画を読んでいるが、その目付きは厳しい。

「…おい」

透夜が小さく呼びかける。

しかし、莉琉はピクリともしない。

透夜はもう一杯ブランデーを注ぎながら、呟いた。

「漫画、逆さまだぞ」

「げっ、マジ……って……」

ハッと莉琉が自分の持った漫画を注視する。

しかし、それはちゃんと正しい向きで持っている。

「逆さじゃないじゃん!!!どういうつもりよ!!!!」

唸る莉琉を面白そうに見て、透夜はくっくと笑う。

「同じ事だ。さっきから1ページも進んでいないだろ」

「見てんじゃねぇよ!!!変態!!!」

「不安か?」

尚も怒鳴りかけた莉琉は、透夜の言葉に口を閉ざす。

浮かした腰をソファに沈め、小さく吐き捨てる。

「…ベツに」

透夜は浅く笑みを浮かべ、言った。

「あの時とは違うんだ。何を恐れる事がある?」

「だから怖くないって言ってンでしょ!!!」

「そうか?真っ青だぞ」

「っ……」

「嘘だ」

「んの野郎!!!!!!」

莉琉はソファを踏みつけ、透夜に向かって中指をおったてる。

透夜はそれさえ可笑しそうに笑いながら、目を細める。

「…仕方あるまい。9年と言う月日は永かったからな。俺も…胸元の傷が疼いて仕方ないよ」

…透夜の、半ばまで開いたシャツの胸元からはタトゥーが覗いていた。

「……」

莉琉は答える代わりに、自身の腕を抱きしめた。

背中が疼いた気がした。

……その時、明日果の部屋のドアが開いた。

透夜と莉琉が素早く振り返る。

物音に気付いたのか、怜も部屋から出てきた。

「空は?」

「寝たよ。ま、疲れてたんだろ」

明日果の言葉に、怜は肩を竦める。

4人でリビングに集まると、明日果は真摯な表情でノートパソコンをテーブルに置いた。

地図が映し出されていた。

「ようやく尻尾を掴んだな」

「ああ…ガサ入れ行くか」

「『PANMODENIUM』出動だな」

4人は、掛かっていたジャケットを羽織る。

その背中には、あの刺繍が入っていた。

……その時、怜の部屋のドアが開いた。

4人が反射的に振り返ると、空が慌てて部屋から飛び出してきた。

「ねぇ、どっか行くの?…海の場所分かったの?」

「さぁね」

シラッと肩を竦め、空の脇を通って行こうとする怜だが、前に空が立ち塞がった。

「違うって言わないんだ?そうなんだね?」

「ちょっと、邪魔すんじゃないわよガキ!!!」

莉琉が眉を吊り上げる。

しかし、空は臆することなく言った。

「お願い、ボクも連れて行って!!」

「断る。お遊びじゃないんでね」

「こんな所で待ってなんてらんないよ!!!」

「分かってるのか?これはゲームでもお遊びでもないんだ」

明日果が少しキツイ口調で言う。

空は4人の顔を見上げ、口を開いた。

「…海をさらった犯人が、れい兄達が前に殺しかけた相手?今度は殺すつもり?」

4人の顔付きが変る。

「何で知っている?」

透夜が固い口調で呟き、半瞬後怜がしまっとばかりにあ~と唸った。

明日果が半眼で怜を見る。

「…怜。お前、見られてヤバイ物を堂々と放置するクセ、まだ直ってないな?」

「悪い…。空、新聞の切り抜き見たな?」

怜の言葉に空は頷く。

腕を組んでいたが、透夜が肩が仕方ないとばかりに口を開いた。

「そう言う事だ。アイツを追い詰めたのにも関わらず、俺たちがヌカった為にみすみす取り逃してしまった。今度は逃がしはしないよ」

「…殺すってこと?」

透夜はハッと自嘲するように笑った。

「…そうだな。あの時殺しておけば良かったよ。お陰で、ここ数週間で5人もあいつの手に掛かってしまった。そうしたら、海もこんな事にはならなかったろう?」

「それは…」

言い淀む空の頭を撫で、明日果が言う。

「わかるだろ?お前みたいなガキが来たって、死ぬだけだ」

空は黙って俯く。

その横をすり抜け、透夜達は出て行こうとする。

「…やっぱり行きたい!!!!」

空の叫び声に、透夜達は立ち止まった。

「あ?あんた何をきいてたわけ?ぶっ殺されたいの?」

陰の篭った顔で睨む莉琉に少し気圧されながらも、空は真っ直ぐに透夜達を見上げる。

「海が殺されそうなんだよ?こんなトコで待ってるなんて嫌だ」

「空」

怜が短く呼ぶ。空はビクッと身を竦ませる。

次の瞬間、透夜が声を上げて笑い出した。

「いいよ、連れて行ってやろう」

「はぁ!!!?」

「何をとち狂っているんだお前は」

「連れて行けるわけないだろ」

3人の仲間に非難の眼で見られるが、透夜はにやっと空を見つめる。

「9年前、俺たちに待ってることが出来たか?何も言う資格はないよ。それに…あの時真っ先に飛び出したのは怜。お前だ。その血を引く弟が、我慢できると思うか?」

3人の表情が変わる。

そして、それぞれ重い溜息を付いた。

「…わかったよ。ただし、俺達の命令には絶対に従えよ」

怜の言葉に、透夜は満足げに頷いた。

空は目を見開いた。

「う、うん!!!ありがとう!!!」

5人は、真夜中の夜へと足を踏み出した。

~。~。~

真っ赤なスポーツカーに乗り込み、透夜達は人気の無い道を走っていた。

「…9年前って…何があったの?」

黙っているのも居心地が悪くて、空が口を開く。

明日果が小さく笑う。

「空はやっぱり怜の弟だな。物怖じすることなく突っ込んでくる」

「俺は、もうちっと空気読むぜ?」

怜がボヤく。

運転していた透夜が、首を傾げる空と、シートの端で顔を背けて不機嫌な莉琉をバックミラー越しに見て目を細める。

「大したことは無い。…9年前、今と全く同じ、児童の殺傷事件があった。その時の最後の犠牲者が、莉琉なのだ」

「ハッ、死んでないし」

顔を露骨に背けたまま、莉琉が吐き捨てる。

透夜はこれ見よがしろに驚いて見せた。

「なんと。死ねばよかった物を。そうしたら死に花を咲かせられたし、現行犯でアイツも逮捕出来たのにな」

「ざけんじゃねぇよクソ野郎が!!!!」

「莉琉。騒ぐな。透夜もちゃんと運転しろ」

助手席から振り返り、明日果が怒鳴る莉琉と笑う透夜を咎める。

「…じゃあ、れい兄達が殺しかけたって言うのも正当防衛ってやつじゃ…」

空が言いかけるが、怜は肩を竦めた。

「そりゃ、自分を守るための場合だ」

透夜も声を立てて笑う。

「俺達はむしろガンガンヤったもんな。ナイフも俺達の物だったし、銃を撃った時だって極めて冷静だった」

「……」

「…ガソリンに引火して、爆発するとは思わなかったがな」

「…………それ、警察に言わなかったの?」

何となく、9年前の全貌が見えてきて、空は苦い顔をする。

明日果が小さく笑った。

「…一般人の大人と、不良のガキ共では警察がどちらを信じるかは分かるだろう?状況証拠では、私たちがアイツを半殺しにしたことしか分からなかったし、私達は警察の常連だったからな」

~。~。~

人気の無い、廃工場に紅いスポーツカーが停まった。

黒いジャケットに身を包んだ男女が4人と、少年が一人、静かに降り立つ。

怜が空の頭を撫でた。

「ここで待ってな」

「あ…」

行きたいと言いかけて、空は口を噤む。

これ以上でしゃばらないと約束したし、何よりも怜の眼が反論を許さなかった。

明日果が空に時計を渡した。

「見取り図によると、向こうに搬送口がある。子ども達を閉じ込められるとしたら、そこだろうな。私達はアイツを闘りやすい場所に連れ出すから、10分経ったら行ってもいいぞ」

怜と莉琉が何か言いたそうに明日果を見たが、何も言わなかった。

いいの?と驚いて明日果を見上げると、明日果はにこっと笑った。

「姫を最初に助け出すのは、王子の仕事だからな」

「いくぞ」

透夜が胸元に手を入れる。

取り出した手には、黒く塗り潰された銃身があった。

怜達も、冷たく光る拳銃を手にする。

4人は足音を殺し、工場の壊れたドアに入っていった。

~。~。~

薄汚れたドアの前で立ち止まった。

中から男の声がする。

聞いただけで総毛立ちそうだ。

子どものすすり泣く声。

9年前の記憶がフラッシュバックする。

あの時は、まだ子どもだった。

そして、自分は攻め入る側ではなくて、あの中で……

過去に立ち戻りそうになる考えを遮ったのは、怜の拳だった。

莉琉の頭を軽く小突くと、怜が押し殺した声で囁く。

「しっかしりろよ」

「はん、言われなくても」

大丈夫。もう、あそこで震えていた子どもじゃない。

莉琉は手に持った拳銃を握り締めた。

4人は顔を見合わせ、頷く。

バン!!と派手な音を立ててドアを蹴り開けた。

中にいた男が、ビクッとして振り返る。

記憶と同じ顔が。

その陰で、子どもが柱に繋がれて倒れているのが見えた。

2人。

怜達は表には出さないように舌打ちする。

男が警戒した声色で唸った。

「警察か?」

「だと思うか?」

片手で銃を構え、透夜が浅く笑う。

4人の侵入者を見ていた男が、眼を見開いた。

「お前ら……!!!あの時のっ」

「覚えているか?あの日、お前が殺しかけた子どもの顔を」

嘲るように笑う透夜だが、男も同じように嘲笑する。

「お前ら、捕まったって聞いたが?」

「生憎、未成年は刑期が短いのよ」

怜が茶目っ気を含ませて言う。4対の銃口を前に、男は低い声で言った。

「…何をしに来た」

「お前に傷つけられたアイツの背中と我らのプライドの借りを返しに来た、と言えば分かるか?」

明日果が目を細める。

莉琉は何も言わずに、口を引き結んで男を睨みつけている。

男は素早く近くに転がっている鉄材に手を伸ば…

ズキュゥゥン

火薬の破裂音と焦げる臭い。

透夜は、微かに笑みを浮かべたまま血の溢れ出した手を抱えて喚く男を見下す。

「もうお終いか?」

男の目が子ども達を捉える。

その時、もう一発銃声が響いた。

銃弾は男の脇を掠め、積み上げられた廃材の山に着弾する。

不規則に詰まれた木材やパイプが派手な音を立てて崩れる。

男の注意が反れ、廃材を振り返った。

怜が跳んだ。

一瞬で子どもと男の間に立ち、そのままドアへ向けて男の背中に回し蹴りをぶち込む。

男の体は呆気なく吹き飛ぶ。

「任せた」

「よし来た」

透夜が男にジリジリと詰め寄る。

男は息を呑み、

「っくしょ…!!!」

暴れるように腕を振り回して明日果と莉琉の間を強引にすり抜ける。

廊下へ消えていった男を見やり、怜がにっと笑う。

「ま、こんなモンか」

「簡単に片が付いてもつまらないからな」

透夜の呟き。明日果が短く言う。

「追うぞ」

怜達も駆け出した。

やがて、広い場所に出た。

元は車やトラックの修理工場だったから、それなりの広さがある空間にはクレーンやら工具やらが散らばっている。

出口は、怜たちが入る時に鍵を掛けたから開かない。

追い詰められたと悟った男は、商用の柄の長いレンチを持つ。

「ふん、武器としてはまぁまぁだな」

悪魔のように透夜が目を細めた。

男はレンチを振りかぶって突進してくる。

しかし、片手を撃たれている為にその威力は半分以下。

それでも男は襲い掛かってくる。

明日果と怜は軽く避け、透夜が男の頭を掴んだ。

「ヒドイ顔だ。俺達が怖いか?ん?…ああ、コレか」

透夜は、男の引き攣った目線を追い、初めて自分が銃を持っていたことに気付いたように笑う。

何を思ったか、透夜は銃を投げ捨てた。

「何のつもりだ?」

男が戸惑いを浮かべる。

透夜はにぃっと目を細めた。

「何のつもりかだと?決まっている。愉しむつもりだよ!!!」

透夜の拳が男の顔面に入る。

血と共に、歯が何本か地面に落ちた。

その男にゆっくり歩み寄り、透夜は囁く。

「どれ、せいぜい足掻けよ?」

「あ~あ、火ィ付いちゃったよ」

脇で、怜が煙草に火をつける。

透夜は心外とばかりに吐き捨てる。

「何を言う。こんな相手に本気を出すわけがなかろう」

「それもそうだが、やりすぎるなよ」

明日果が素っ気無く言う。

そして、這って逃げようとする男の腕を勢いよく踏みつけた。

骨の折れる、嫌な音と男のくぐもった悲鳴が聞こえる。

「私たちの分も残しておけ」

「保障は出来んがな」

透夜の軽い笑いに、男は引き攣った顔で透夜達を見つめた。

そして、さっきから自分を睨むだけで動かない女…莉琉に眼を止める。

男は立ち上がり、莉琉に掴みかかろうとする。

「くっそぉぉぉ!!!!どけ!!!!また…」

その先は言えなかった。

莉琉の手が男の胸倉を掴んだ。

「っにが…『また』だって!!!!!?舐めんじゃないわよこのゲスが!!!!!!!」

殺気の滲んだ眼で莉琉が男を睨む。

同時に男の体がふわりと浮いた。

そう思った瞬間、男の体はコンクリートに叩きつけられていた。

地面が揺れる。

莉琉は吐き捨てた。

その手には、黒光りするモノ。

「誰に手を出したか思い知れっての」

莉琉の銃口がゴリ…と男の額に押し当てられる。

怜が嘲笑した。

「俺達が警察じゃなくて残念だったな。ついでに、自分の不運さも呪っとけ」

「あ…あ…」

男の瞳孔が恐怖で開く。

情けなく震える男に、明日果と透夜も歩み寄ってくる。

その革靴の音が、死神か悪魔のソレに思えた。

「怖いか?」

静かに明日果が口を開く。

何も言えない男に、怜が小さく笑う。

「怖くなんて無いよなぁ?子ども達を何人も同じ目に合わせておいて。当然…」

怜は煙草を落とし、踏みつけるとゆっくりと歩み寄ってくる。

「死ぬ覚悟も出来てるんだよな?」

男はブルブルと震え、その足の間がジワ…と濡れる。

失神寸前の男の頬を怜が叩いて覚醒させる。

「おっと、気絶はさせねぇよ?」

半瞬後、断末魔のような悲鳴が響き渡った。

その時、お馴染みのサイレンの音がした。

~。~。~

銃声にモノが崩れる音。

空は生きた心地がしないまま、時計を握り締めていた。

時折響く、獣のような悲鳴に身を竦ませる。

それでも、海がいると思うと中に入る決意は揺るがなかった。

永遠に思われた10分が過ぎた。

もう、さっきまでの騒音もあまりしない。

空は意を決して、搬入口から中に入った。

血の臭いにビクッとする。

そして…

「うみ!!!!!!」

ぐったりと床に倒れている片割れを見つけ、我を忘れて駆け寄った。

縄で手足を縛られ、柱に繋がれている。

腫れた頬や手足。

でも、生きていた。

空は海の体を抱き起こす。

「うみ!!!うみ!!!!」

空の悲鳴のような呼びかけに、海の目が薄っすらと開いた。

「あ…そら……」

呟き、我に返ったのか眼を見開く。

まだ状況が把握出来ていないらしく、怯えきった顔をする海を、空が抱きしめた。

「もう大丈夫だよ。ごめん…ごめん、うみ……っっ」

「…安心しな。あのクズは再起不能だから」

不意に割って入った声に、空と海は顔を上げる。

怜はナイフを取り出すと、海を縛っていた縄を切った。

海は惚けていたが、次の瞬間わっと泣き出した。

「そ、そら!!!そらぁ!!!!」

ぎゅっと抱きついてきた海の背中をさすりながら、空の目にも涙が溢れてくる。

幼児の様に声を上げて泣く双子に、怜は眼を細めた。

空の足元にナイフを放る。

「もう一人の子も、助けてやんな」

そのまま背を向けようとする怜に、空が声を上げた。

「れい兄!!!」

「れい…にぃ?」

海も恐々と怜を見上げる。

しかし、怜が何か言う前に、紺色の制服の人たちがなだれ込んで来た。

「大人しくしろ!!!!」

十数人もの警察たちは、一斉に怜に銃口を向ける。

「や、やめて!!!!!そのひとは違…」

空が飛び出しかける。

しかし、怜は動じた風もなくにっと笑った。

「違わないよ。俺達も犯罪者。銃等違反に、暴力…いや『殺人未遂』か?」

警察の一人が怜の手に手錠を掛けるが、怜は抵抗をする様子も無い。

「行け」

警察は怜を連行しようとする。

自分達を保護しようとした警察の手をかいくぐり、空がその後を追う。

「まって!!!やだ!!!!止めてよ!!!!!!れい兄!!!!」

止めようとする警察の手を振り払い、空が追いすがる。

広い場所に出て、空は愕然とした。

何十人と言う警察。まぶしいほどの赤いランプ。

透夜と明日果、莉琉も手錠をかけられその中に立っている。

誘拐犯の男は、血塗れで救急車へ運ばれていた。

「なんで…皆…」

空が叫ぶが、透夜がにっと笑った。

「こうなることは予想済みだ。あれだけ派手に銃声がすれば、警察が飛んで来るだろうと思っていた」

なぁ?と透夜が親しげに警官を見る。

「私たちも犯罪者だ。当然だな」

「…ま、俺達なら逃げるのは簡単だけどさ」

にやっと怜が笑い、周りの警官がビクッとする。

明日果が苦笑した。

「指名手配されると後が面倒だ」

「犯罪者にはなっても、逃亡者にはならない。私たちの美学だ。よく覚えておけ」

透夜がにやっと笑う。

「そんなのガキに分かるかっての」

莉琉が吐き捨てる。

空がポカンとしてるのを見て小さく笑い、透夜達はパトカーに向かって歩き出した。

「あ…っ!!」

駆け寄ろうとした空に、怜が立ち止まる。

「おい…」

「いいじゃん、すぐ済むよ」

制しようとした警官に手錠ごと手を振り、怜が空の前にしゃがむ。

「お前がそんな顔すんな。こういう生き方のほうが、性にあってるんだよ。俺達は。お前が心配する相手は他にいるだろ?それに…」

怜は立ち上がり、一瞬苦笑した。

「お前らは、『母親』をこれ以上悲しませんな」

じゃあなと笑い、怜もパトカーに向かって歩き出す。

「っ…ありがとう!!!!」

空が叫ぶ。

怜は振り返らず、手をひらひらと振ってパトカーに入っていった。

~。~。~

海ともう一人の子は多少衰弱していたけど、大きな怪我もなく解放された。

母親は喜ぶんだか怒るんだか、ワケが分からなくなって泣いてたけど、れい兄の事を話したら冷めた顔になった。

せめて会ってと言ったけど、会わないと言って黙り込んでしまった。

…怜達はもう未成年ではないし、銃やナイフを持っていたのも、今回ははっきりと意志を持って相手を半殺しにしたことも揺るぎようが無い事実だったから、そのまま刑務所行きになった。

ただ、情状酌量の余地はあるようだと聞いて少し安心した。

また、海と2人で日常に戻っていって。冬が来て春になり、ボク達は中学生になった。

そして、アレから一年が過ぎたある日。

日曜日。海と2人で近所に買い物に出掛けていた。

このまま真っ直ぐ行って、裏路地に入ると怜達のマンションがある。

高いマンションだから、ここからでも見えるけど。

あれから、何度あのマンションを遠くから見ているだろう。

海も一緒に、マンションの最上階を見ている。

と、海が何かに気付いて息を呑んだ。

海が何も言わずに空の肩を叩く。

空も振り返って、ギョッとした。

黒髪に黒いシャツの青年が、手を上げて「よっ」と挨拶した。

「「れい兄!!?」」

空と海が同時に呟いた。

「久しぶり。ちょっと来いよ」

怜は側のファーストフードを指す。

付いて行くと、透夜や明日果、莉琉もいた。

空はポカンとして兄たちを見る。

普通の往来だからか、皆ジーパンに普通のシャツ姿だ。

「マンションから姿が見えたんでな。一応挨拶くらいはと思って」

明日果が笑う。

「どうして…まさか脱獄…」

空の呟きに、莉琉が舌打ちした。

「んなわけ無いじゃん」

「堂々と、警察の了解を得てだよ。勿論」

明日果が片目を瞑る。怜がにやっとした。

「本当は一ヶ月前に出所だったんだけど、莉琉がちょっと問題を起こして伸びたんだ」

「うるさいっつーかしつこい!!!!」

莉琉が噛み付くように言う。

理由を求めるようにじっと怜たちを見る双子に、明日果が小さく笑った。

「簡単な話だ。模倣囚だったし、罪状と言ってもあの時の銃や暴力しか追求されなかった。犯罪者を捕まえるのに一役買ったこともあるし、司法取引で片が付いたってわけだ」

「しほーとりひき…」

ポカンとする双子に、怜が囁く。

「蛇の道は蛇というかね、警察が犯罪者の検挙に協力するなら、懲役一年でいいと言って来たんだ」

「これも、警察よりずっと早くて正確な明日果の情報力と、俺達の犯罪界への顔の広さ故だな」

「いばるな」

透夜に肩を抱かれ、明日果が半眼になる。

「…じゃあ」

「むしろ、警察にも恩が売れ、晴れて警察黙認となったわけだ。これから忙しくなるぞ?」

「…透夜。ここは天下の大通りだぞ。お前はもう一度ムショへ行って来い」

明日果が回された透夜の手を叩く。

透夜は座り直し、頬杖を付いた。

「…まぁ、こうしてまんまと抜け出せたのも、空。お前が俺達のアジトを警察に『知らない』と言ってくれたお陰だ。あそこをガサ入れされたら、数十年は拘束されたに違いない」

「…だと思った」

空が呟く。

透夜は声を立てて笑った。

「そういう物言いは、怜の幼い頃にそっくりだな」

「…お前、余計な事を言ったら殺すよ?」

怜がボソッと呟く。

「…あの…れい兄のこと子どもの時から…?」

空が眉を顰める。

透夜達はきょとんとした。

「なんだ、知らないのか?」

「私達は幼馴染だ。それこそ、お前らが生まれる前…怜の母親が蒸発する前から知っているよ」

「…ねぇ、余計な事を言わないでって言わなかったっけ?俺」

怜が低い声で言う。

「蒸発…」

「そうなの?れい兄…」

驚く海と空に、怜は肩を竦めた。

「昔の話さ。母親の顔も覚えてねぇよ」

空と海は顔を見合わせる。

怜は小さく笑った。

「そんな顔すんな。お陰で、好き放題生きてこれたんだからよ」

「さて、もうそろそろ行かねばな。暫くは監視付きだ。あまりゆっくりは出来んのだ」

明日果が呟いた。

「えっ」

海と空が声を上げる。

しかし、怜たちはさっさと帰り支度を始める。

「その…また会いに行ってもいい?」

「やめとけ。こんな相手とつるんでいると思われたら、一生傷が付くぞ」

透夜が笑う。

俯く双子に、怜が紙切れを渡した。

「……メールくらいならいつでも相手になるよ」

いつの間にやら、紙ナプキンに4人分のアドレスが書かれていた。

「あ~~!!!テメェ勝手に教えてんじゃないし!!!!」

莉琉が目を吊り上げる。

しかし、莉琉を手であしらい、怜はにやっとした。

「じゃ、またな」

「あの…ごめんなさい。私たちのせいで捕まって…」

海が小声で言う。

透夜達は振り返り、肩を竦めた。

「むしろ、礼を言いたいくらいだ。少年院帰りより、ムショ帰りの方がハクが付くだろ?」

透夜が口元を引き上げる。

まだ文句を言っている莉琉を引きずり出し、4人の黒服の姿はあっという間に見えなくなった。

「……」

「ね、本当にいい人だよね」

残念そうに俯く空に、海が囁く。

「うん」

空は、アドレスの書かれたナプキンを握り締め…間に、何かが入っている事に気が付いた。

「あれ?……お金だ」

それも、諭吉さんだ。

ここの会計を頼むと言う事だろうが……

大金に目を丸くしながら、改めて今まで4人が座っていた席を見る。

双子は全く同時に息を呑んだ。

いやぁ、ファーストフードで、こんなに食べる人間がいるんだねぇと言うほどの紙くずと皿が盛られていた。

しかも、莉琉が座っていた席限定で。

「………」

「…面白い人たちだね」

海の言葉に、空は黙って頷いた。


                               ≪終了≫







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