第十八話『自分に似てると思ったら……。』
「*********。」
ハァ……とため息を吐く、目の前に現れた中年男性。
「俺にそっくりだ。」
俺が綺麗に老け始めたみたいな容姿だな……。
ベッドから起き上がったままその男を観察していると、あちらからこちらに近寄ってくる。
「日本語はわかるな?」
あぁ。と答える。
男は懐から手で巻かれた紙巻きタバコを取り出し、両の手に嵌めてあった手袋を左手だけ外す。
男の手袋の下、手首から先が機械になってる。
人差し指の第一関節と第二関節の間を掌側から押すと反対側からライターのような火が出てくる。
吸い出すようにタバコの火をつけたかと思えば、今度は長く吸引している。
大きく煙を吐き出してからこちらを見てくる。
「便利だろ?この手。この世界に飛ばされる前に左手を落としたんだが、タバコの火をつける時だけは重宝してるんだ。」
ライターを探す手間がなくなる。
遠いところを見るような目をしてから再びタバコに口をつけている。
「様子を見る限り、アンタが俺の処遇について話をつけてくれたんだよな?ありがとう。」
俺は頭を下げる。
俺がそういうと向こうは驚いたように煙を吐きだす。
「よしてくれ、俺にそっくりな顔から改まって礼を言われても複雑な気持ちになるし、俺は俺で見返りがあるもんだと思ってしたことだ。」
そうなのか、まあそうか。
助けてくれる理由があると知って納得した。
「それでだ、どうやってこの世界に来た?」
男はタバコの火を義手の掌から揉み消してたった今空いた穴へ吸い殻を入れる。
「俺は、自分の世界に突然コイツが来て、3年間一緒に暮らした。」
掛け布団で隠していた結実を見せる。
「一緒に暮らしてて楽しかったんだが、突然迎えが来て、帰ってほしくなくてついてきてしまった。」
そう、それで結実を抱きしめた。
自分の家の壁が遠くなったと思ったら、目の前がぐちゃぐちゃになって、一瞬だけ胃の中身がひっくり返りそうになったのを覚えてる。
「気づいたらじいさんと数人の白衣を着たやつがいてガスかなんかで眠らされて、走馬灯みたいな変な夢を見た気がする。」
「……それで、それがどう繋がるんだ?」
流石に話が長いのか、イライラしてるように見える。
「次起きたときにコイツがボロボロで現れて、俺の世界へ帰してくれようとしたんだが、トラブルか何かで帰れずにここにいる。」
「なるほどな、コイツが転送装置なんだな。」
目前の男の目の色が変わった、俺を置いていくとか考えているのかもしれない。
「助けてくれてありがとう。差し出がましいのはわかっているんだけど、コイツを治してくれないか?」
頭を下げる。
「俺、寝ている間にコイツと居られなくてこんなボロボロにしてしまって、何も無いなんて言ったけど絶対無茶をしたんだと思うんだ、どうか、俺とコイツを助けてくれ。」
どうか、どうか……。
そんな思いで頭が上げられない。
頭を上げろよ、と声がかかる。
「みっともないからやめてくれよ、さっきも言ったろ、俺とそっくりな奴にそんな言われると困るって。」
ハァとため息ついて俺とそっくりな中年はまた胸元からタバコを出す。
「お前は被害者寄りというか、巻き込まれた側なのか。ただ俺はお前にしたことに対して無駄じゃなかったってことがわかればいい。」
タバコに火をつけて天井を見て煙を吐く。
「吸うか?」
金属のタバコケースを右手で出してくる。
「いや、いい。俺は吸ったことないから。」
「そうか、吸ったことないならそれに越したことはない、体は大事にしろよ。」
胸元にケースをしまいながらそんなことを言う。
ならやめればいいのにと思ったが、今言うことではないな。
「知り合いに何人かこういう機械系の技術者がいるからアテを探せると思う。俺もお前と同じ漂流してきたようなもんでな、これで帰れる。」
え?
「そうなのか?てっきりこの世界へ移住してきた俺なんかと思ってた。」
男はフッと笑う。
「なんだ、サラとそんなに話してないんだな。」
「サラっていうのか、あの女の人。ボカボカ叩かれた覚えしかない。」
何が引っかかったのか、年取った俺は腹を抱えて笑い出した。
「そうか、そうか!相変わらずぶっきらぼうだな〜。」
「なっなんだ?どうしたんだ……。」
気にするな。といいつつタバコの火を消して話を続ける。
「この世界はな、2500年くらいで一度滅びかけてから1番の先進国やそこに続く国々はだいたい滅んでる。俺が生きていた時代の黄色や白人なんて呼ばれるやつなんかもういない。」
西暦にするなら3000年くらいだと言う。
「とんでもない話だな……なんで?」
気になってしょうがない。
「日本で言うなら初めはデモ活動が行きすぎたテロ。為替、上がる物価、低い賃金。対応しきれない人間が多発して市民の不満が爆増していった。」
にわかには信じられない話だなぁ。
「他の諸国は最初は武力は使わないようにしてたが、結局議論も平行線で続いてしまい、次々と最終手段に出て、日本もテロで疲弊したところに巻き込まれて行って滅んでいった。」
「そんなもんなの?」
「少なくとも、この世界はな。」
それでな、と話が続く。
「どこの国も領土が燃やし尽くされ、住めなくなり難民が何人も出てて当時の後進国へ逃げていった。」
絶対数が少ないからそこで取り込まれていったってことか。そこは納得できた。
「そんな世界だからこそ、同じ国の出身なんだから助けたいって帰属的な気持ちもなくはない。」
だから安心しろと言った。
異世界とはいえ自分自身だからか余計に安心する。
「ありがとう……。」
「まだ早い、これからのことを話そう。」