第十四話『偉く長い間寝たなぁとおもったら……。』
───俺、どうなってるんだっけ?
よく思い出せないな……。
真っ暗だけど心地いい温度でなんとなくフワフワとして、いい心地だな。
なんだっけな……。
あぁそうだ。
ある日突然、アンドロイドを名乗る美少女が現れたんだった。
それで俺は疲労と酒で頭がおかしくなって幻覚を見てるんだとおもって寝ちまったけど、朝起きたらゴミ屋敷一歩手前の部屋がすっかり綺麗になって、妙に距離感が近かったり、性処理もできるだの言い始めたんだ。
変なオーバーリアクションもするし、なんなんだこいつっておもってたんだった。
さっさと帰ってもらいたかったけど、帰りたくない感じがしたから仕方なく外観的な生活必需品を用意したんだ。
社畜で娯楽の金はサブスクか安酒にしか使わない俺は、貯金が余りまくっていたから良かったけど、それでも合計十数万の買い物はちょっと痛かったな。
普段は家事をしてくれて、寝ようとおもったら日干しした布団が敷いてあって、好物を中心にバランスが取れた飯を作ってくれて。
(なんて便利なやつだ、これならこのまま住まわせてもいいか。)
なんておもっていたら、前から女性関係がない俺をいちいちドキドキさせて、近くに寄ってきたり、添い寝してきたり、突然名前呼びしたり……。
身も蓋もないムードが全くない誘い方をしてきて、気分は台無しになる時もあったな。
所詮ロボットかと思っていたら、過ごしているうちにだんだんと辛かった時は気を使い始め、自分が何か嫌な方があったら表情には出ないけど態度が少し変わったり、少しずつ少しずつ人間臭いところが出てきたんだよな。
最近だとイルミネーションのデートというものがしたいと頼まれたり、温泉が健康にいいから一緒にいきましょうとか言われて出かけたんだっけか。
どういうことだかわからないけど、未来の技術ってすごいんだなぁって感心してたよ。
ただ、どんどんと人間らしくなっていくコイツは俺や俺と過ごした時間をどう思ってるのだろうか。
最初のうちは『マスター』なんて呼んでたから余計に考えてしまう。
所詮はプログラミングされただけなんだろうか、それとも本当に俺と居て楽しかったのだろうか。
何も考えるようなことはなく、ただただ誰かのために俺を世話しているだけなのだろうか、不安に思う。
聞いたところで俺に都合いい答えしか返ってこない気がするしな。
こうやって自分じゃわからないことを悩むのも俺の悪いところだとは思う。
俺の悪いところで言ったら、普段から周り興味が薄く、夢もなく、だからと言って何かを探しにでかけるわけでも知人との連絡もしない。
だけどアイツがきてから世界が変わった。
頭は前より冴えている気がするし体が少し軽くなって、健康診断でもいい感じの数値になってきた。
何より1人で部屋にこもって寝ていたのが嘘みたいだ。
幸せだな、なにか、アイツに返せるものがあれば返したいな。
……"アイツ"?
アイツって…なんて名前だったっけ?
思い出せない。
そう思った瞬間、体が重さを感じ始めて少しずつ身体が冷えてくる感覚がする。
まるで、身体が左右で引きちぎれるかのような不安感が俺を襲う。
その不安から逃れたくて俺は完全に覚醒した。
バッと勢いよく起きようとしたが、頭に何かが当たって怯む。
痛い。
「そうだ、結実だ。」
そう呟きながらゆっくりと目の前の天井を横にずらし、起き上がる。
そこは上下左右どこを見ても正方形が敷き詰められた、タイルの世界と言い表したくなるようなドーム型の建物の内部だった。
しかもなんかタイルが全て動いている気がする。
少しずつ記憶が鮮明になっていく。
「そうだ、急に帰ろうとした結実に抱きついて気がついたら白衣の連中に囲まれて気を失ったんだった。」
自分の中の1番新しい記憶が出てきて、この不思議空間はなんだと立ちあがろうとした瞬間、背後に何かいることに気がついた。
金属が軋むような音がする。
嫌な予感がする、正直振り向きたくない。
「だ、誰だ?」
俺は思わず問いかけた。
「了助さん。」
その声は1番呼ばれたい声だった。
「結実か!」
そういいながら勢いよく振り返る。
胸に飛び込んでこいと言わんばかりに両腕を開いたが、そこには何も飛び込んではこなかった。
顔と胴体が半分丸く抉られて向こう側がよく見える結実が少し離れたところで座っていた。
「は?」
ショックで止まりそうな頭を動かして、結実のそばへ慌てて駆け寄る。
「おま、結実……一体何があったんだ‼︎」
目の前が歪んで焦点が合わなくなる。
息が止まりかけ、腕が震える。
残った右手を持ち上げようとしたら手首の先も無くなっていた。
よく見ると右足もふくらはぎの半ばくらいから無くなっている。
「お目覚めになりましたか……、よかった。」
安堵した様子をしているが、俺はそれどころではない。
「おまえ、俺がグースカ寝てる間に何があったんだ!」
声まで震え出す。
「なニもないでスよ、了助さんがブジでよかったでス。」
「……ここはどこなんだ?」
埒が開かないと別の質問を結実へ投げかける。
「ここハ私の4次元空間で、この1帯ヲ三次元へ落とし込んダえりあデす。」