第十二話『分析しようと思ったら……。』
私はリラックスした状態で、機械は背筋をピンと伸ばした面接受験者のように木でできたイスに座りながら会話を続ける。
「それで?なぜ、お前が相手していた異世界の兄を連れ帰ってきたのかね?」
そう、彼らからすると、1100日目の夜。
私達は彼らの愛の巣に回収用の小型転送機を送り、この機械を回収に入った。
なぜならその時点で残っていた機械はその1台だけを残して全て破損、もしくは反応が失ったため、実験を中止せざる終えなくなった。
そして何を思ったか異世界の兄はこの機械にしがみつき、そのまま転送機が我々の世界へ連れてきたのだった。
「お前ならあの瞬間に突き飛ばして、そのまま1人で帰ってこれたはずだろう?」
自分の中にどこか怒りに近い感情が湧き上がってくるが、気のせいだろう。
「そうですね、ですが、少しでもマスターに害を与えたくはなかったので、突き飛ばすという選択肢がありませんでした。」
ついてきてしまった兄を多次元空間に放り込まれていなくならないようにガードしてたのも知っている。そのため着いた直後は抱きしめあってて、こちらとしても何があったのかと焦った。
慌てて異世界の兄の意識を薬でなくさせ、この機械も緊急停止させたのだった。
「少しでも彼を想うのであれば、やはり悪手としか思えないがね。なぜなら今の彼はこの世界において存在しない人間なのだ。言うなれば何をしてもいい実験体である、と言っても過言ではない。彼を身体を開いて倫理的にできないようなことも我々はできるわけだ。」
機械は俯く。
「私はね。元々君らの目的が私の異世界の兄を助けて欲しいと言って出発させたのだが、実はそれだけではない。私の実兄は物理学の研究家の第一人者であった。」
あれは辛かった……。と私は天井を仰ぎみる。
「実兄は自分の婚約者とともにとある実験中のハプニングで小規模な空間断絶を発生させてしまってね。私がその場に来た時には兄の左手がポトリと落ちていて、兄の婚約者は下半身が消し飛んでいた。」
彼女のあるはずの下半身が消えてなくなり、血がドバドバと垂れ流しになっていた瞬間を見た時は本当にショッキングだったな……。
「私のその時の研究内容はAIに人格は再現し得るのかだった。そのため、彼女の遺体を利用して脳内の細胞一つ一つをスキャンして研究資料として残させてもらったなぁ。」
おっと話が逸れたな。
「話を戻すが、私はそんな偉大な兄を遺伝子レベルで再現してクローンを作成し、私の目の前で復活させたかったのだよ。お前は気づいていなかったかもしれないが、そのためにDNAのサンプルを入手させ、持ち帰らせるようにプログラムを組み込んだ。お前に性処理をさせるような言動をさせていたのもこのためだった。お前はどう思う?」
……さあ、どう反応が返ってくる?
「そうなんですか。それでこの世界の了助氏の婚約者、『小早川 結実』の脳を私の思考ルーティンに利用したのですか?」
いつのまにか顔をあげて戸惑いながらも質問をしてきた。
「……そうきたか、なんか予想外だな。」
フゥと1つ息を吐く。テンプレ的な倫理観を吐くわけでもなければ論理破綻を起こすわけでもなかったか。
「彼女の脳の資料を元に私の思考を再現されているのであれば、私は小早川 結実であるのでしょうか?」
機械と哲学の話をするほど、私は滑稽ではない。私は宙に2回指を刺す。空中にディスプレイを呼び出し、眼前の機械の状態を調べた。
「お前は確かに最初のうちは私たちの作った小早川結実の脳内スキャンによる思考ルーティンを利用して動いていたが、今モニタリングしている内容や1100日の活動報告書を見る限り、ある時期から停止しているように見える。……これでいいか?」
あとは勝手に想像してくれ、と投げ捨てる。
だが、これではっきりした。
コイツは主人の要望を答えるために自らを改造して自我を得ている。
でなければ自己の認識など少しも興味なんぞ現れない。
余分なことを考えることこそ、人格の証明だと私は考えている。しかしまさか自己改造で達成するとはな。
「そうですか。では、私は『安道 結実』。それは変わらないのですね。」
そういうと機械は立ち上がり数秒間固まった。
なんだ?と様子を伺っていると突如けたたましくアラート音が周囲に響き始めてた。
「お前、何をした?」
私は静かに問いた。
「私とあなたがいるこのヴァーチャル空間から研究所内につながるシステムを全てハッキングしています。」
機械が告げた後、けたたましかった警告音が嘘のように静まり返った。ハッキングが終了したのだろう。
「なぜヴァーチャル空間だとわかった?」
ヴァーチャル空間に接続されている時、本体が稼働していないとバレないようにダミーの情報でやつの計器すべては正常に稼働していることになっているはず……。
「私の勘です、会話をしていて違和感を感じました。」
「そこまで人に似なくてもいいだろう?」
フッと笑った直後、私の視界は黒一色となり、現実世界へ引き戻された。