第十話『自宅で惰眠を貪ろうとしたら……。』
ここ数ヶ月、了助の職場では繁忙期が始まり、休日出勤、何時間もの残業などが多くなり、たまの休日も寝込んでばかりの日々を過ごしていた。
「あーやっと繁忙期が終わった。」
と職場から帰宅して来た了助。
風呂に入り、部屋着に着替えて今夜から次の日まだ布団の中で寝貯めをしようとする了助の背後に現れる結実。
「マスター。」
「マスターって呼ばれ方、もう何ヶ月も一緒にいるけどならないな…、名前でいいよ。」
意を返さず、淡々と洗濯物を分別しながら結実は会話を続ける。
「お勤め先の繁忙期はもう終わったのですか?」
「ああーそう!終わった。いやー長かったし途中何度もメンタルやられかけた。忙しいから普段しないミスをしたりとか多々あってなかなかしんどかったよ。」
終わってくれて助かった。と会話を結ぶと結実は了助に1つの提案をしてきた。
「明日はどこか外出しましょう。」
「え?」
了助は困惑をするが再び何もなかったかのように家事に専念する結実の様子を見て、何も言わずに昼間に干されたであろう布団に身を預けて泥のように眠った。
翌朝
了助が起きると入居以来タンスにしまいっぱなしだったバックが出されていた。
マジで出かけるか……とだるい身体を立たせると、台所から2人分の弁当箱が入った巾着袋を持った結実が出てきてそのまま弁当箱をバックの中にしまいこんだ。
本格的に準備を進めているところ悪いとは思うが了助は今更ながら結実に今日についての話をふる。
「あー結実。出かけるって行ったけどどこいくの?」
「マスターはどこへいきたいですか?」
「いや、俺は家に居たいな……。」
疲れているし。と言うと結実が了助の正面に近づいた。
「マスターは私がきてからになりますが、職場と自宅を行き来する生活を送り、休日はいつも部屋に篭りきりの生活をしていました。生物は日光を浴びて外の空気を吸い、適度な運動をすることで健康的な生活を送れます。」
「そういえば休日で最後に出かけたのはお前の生活必需品が最後だったな……。」
それに……。と結実はさらに近づき、了助の左腕を抱きしめた。
「私は了助さんとお出かけがしたいです。」
「お前どこでそんなことを覚えた……。」
了助の左腕に柔らかい感触が伝わり、顔を赤くして頭を抱える了助を上目遣いで見る結実。
「ドラマです。」
まあ、そんなところだろうなと動揺を抑えるために深く息を吐き、了助はわかったと自分の身支度を始めた。
着替えと朝食が終わり、2人は玄関を出る。
了助はバックを肩にかけ戸の鍵を閉める。
「ついてきてください。」
結実はそういうとテクテクと歩き始めた。
了助も少しだるげに後を追いかける。
5分ほど歩き、ついたのは奥にいくつかの車が置いてある建物だった。派手な看板を読み上げた了助。
「レンタカー屋?」
レンタカー屋にきて何をするんだ?と訝しむ。
「結実?俺車の免許持ってないんだけどここで何するの?」
すると足を止めて振り返る結実。
「大丈夫です、私が運転免許証を持っていますので、私が運転します。」
「え、免許持ってんの?大丈夫なやつか?未来のやつは使えないぞ。」
「大丈夫です、ちゃんとこの時代に沿った期間になっています。」
そういうとバックの中から財布を取り出し、運転免許証を見せつける結実。
「偽装…なのか?まあいいけど、少しでも問題あったら即座に引き返して電車にするぞ。」
「大丈夫です、いきましょう。」
店内に入り受付をする。結実は前日に予約をとっていたため契約書の記入、免許証の提示などを済ませるとそのまま車の方は案内される。
現れたのはハイブリッドの普通車であった。
2人は後部座席に荷物を置き、店員に簡単な説明を受けると走り出した。
「どこいく?」
了助が質問をする。
「標高の高い山が綺麗に見える高原へ向かおうと思っています。そこで山の紅葉や都市部とは違う空気が吸えれば良い気分転換になると思います。」
危なげなくクルマは走る。
制限速度より1〜2km/h遅い速度で流れていく風景を見ながら了助は意識がゆっくりと眠気に委ねられていく。
「了助さん、着きました。」
耳元で囁かれて飛び起きる了助。
車内の窓から周りを見渡すと赤、黄に彩られた木々がいくつもそこにいた。
クルマを降りてみると奥にも連なっており、秋を感じさせる風景だった。
2人は手を繋いでゆっくりと歩行者用の坂を登っていく。
しばらく歩くと開けたところに展望台と書かれた看板が現れた。奥に六角形の屋根が見え、屋根の下にテーブルと椅子が置いてある。時刻は12:30をすぎていた。
そこで2人は弁当箱を広げた。
中には唐揚げ、厚焼き卵、ミニトマト、ソーセージ、レタスなどが綺麗に詰められている。
弁当箱とは別でアルミホイルに巻かれたおにぎりを3つずつ。
2人ともアルミホイルを剥きおにぎりをかじりおかずを食べる。
あぁ……美味しいな。と了助の口から言葉が漏れる。
景色を見渡すと、目の前に見える山が上へいくにつれ茶色になっている。しばらくしたら冬の景色になるのだろうと思いを馳せる。
お弁当を食べ終え、広げた物を片付けると2人は他に何かないかと周りを歩き始めた───────