ストーカー
俺は、大学卒業後、入社してから暫くストーカー行為に悩まされていた。会社帰りに付きまとわれ、家に着くと無言電話の嵐に、やっている人物も分からず、一時はノイローゼになっていた。
そんな俺にも彼女が出来た。会社の教育係の先輩で、五つ上だったが、憧れていた。打ち上げの帰りに、二人での飲みに誘うとオーケーしてくれたので、そのまま次の日は二人して同じ服で出社するという、ちょっと赤面するようなことをしてしまった。
順調に愛を育み、結婚に至った。その頃になると、俺に彼女が出来たからか、ストーカーも居なくなってホッとしていた。
結婚後も子供が出来るまでは、同じ会社で働くことを許され、妻とは部署は変われど同じビル内で働いていた。
ある日、家に一人で帰る時、後方から付きまとわれる感覚があった。説明は出来ないが、前のストーカーと同じ人だと確信した。
同じ距離感、靴音、シルエット……。あの時と同じだったのだ。
全身に汗が吹き出る。軽くパニックになってしまったのだ。
だがすぐに思い直した。妻も同じ道を帰ってくるに違いない。それに妻を出会わせたら危険だと思ったのだ。
俺はスマホを取り出して、トークアプリを立ち上げ、妻にメッセージを送信した。
『昔、話したことがあるストーカーがいるだろ? あれにまた付きまとわれている。君はタクシーなど使って、危険を回避してくれ』
すると、すぐに妻からトークの返信があった。
『今、あなたの後ろにいるけど、私以外誰もいないよ』
私は、震える体を抑えて後ろを振り返ると、遠くで女が手を振っていた。
同じ距離感、靴音、シルエット……。あの時と──。