第8話
変えてどうするのか。
現状を変えたいという思いに囚われていてそんなことを考えたこともなかった。
でももし本当に変えることができるのなら、
__皆が幸せになる国を作りたい。
「私が女王になる」
「……正気なのか?」
「もちろん」
ルタは目を伏せるだけでそれ以上何も言わなかった。
私もこれ以上言う必要はないと思い、食事を再開した。
しかし元々満腹になるまで食べたことがないからか、少し食べるだけでもう入らなくなってしまった。
フォークが止まった私をルタが不思議そうな顔で見てくる。
「どうした?」
「…何でもない」
これ以上食べられないという満腹感と、今食べないと次いつ食事にありつけるか分からない焦りがせめぎ合う。
でもルタにそんなことを言うわけにもいかず、結局盛り付けられた文のお肉を全て無理矢理飲み込んだ。
「ごちそうさま……」
苦しそうに言った私を見てルタは心配そうにしている。
「おい、大丈夫か?具合悪いなら寝室も作ったからそこで寝ておけ」
「…むり、はく」
「え?」
机の上に突っ伏すと、ルタが慌てて背中を擦ってくれた。
それでも吐き気は止まらず、むしろ増すばかりだ。
「とりあえず治癒魔法をかけるから異変を感じたらすぐに言ってくれ」
体中が温かい光に包まれる。
しばらくすると吐き気が取れてきたので、ゆっくり顔を上げれば早々に両頬を摘ままれる。
「何で食いすぎてんだよ」
「だって、今食べておかないと次いつ食べられるか分からないんだよ?」
「それは昨日までの話だろ」
ルタは仕方ないというように優しく笑っていた。
たしかに昨日までのことだが、どうしても不安になってしまうのだ。
「明日からも食事なら用意してやるから。それに、女王様目指すんなら作法も覚えねぇとな」
冗談交じりにそう言われて頭を撫でられる。
「……ルタは優しいね」
「はぁ?」
「私のことを見捨てたりしないし、助けてくれるし」
「たしかにこうやって助けないまま見殺しにすれば契約は簡単に切れただろうけど、クーデター起こすんだろ?どうせ吸血鬼なんて人間よりもはるかに長生きするんだし、お前とお前が作る国を見届けてから自由に暮らさせてもらうよ」
「……ありがとう」
「ほら、もういいからさっさと休んでこい。今日は色々あったから疲れてるだろ」
「うん!」
ルタに言われた通りリビングを出て寝室に向かうため、改装される前の家にはなかった2階への階段を上る。
そして扉を開けるとそこには植物性の蔓が組み合わされた布のようなものが壁から壁にかけて吊るされていた。
「これ何?」
「ハンモックっていうんだが、この辺ではあまり見ないものだな。本当はベッドを用意できれば良かったんだが流石に無理だったから今日はそれで寝てくれ」
「分かった!」
初めて見るものに興奮しながら、そっと乗っかると想像していたよりもずっと心地良く、そのまま眠ってしまいそうになる。
今までは路地裏で座ったまま寝ていたから横になって眠ることができるだけで全然違った。
「おやすみ」
「え?」
ルタはそのまま1階に下りて行こうとしていたから慌てて呼び止める。
「一緒に寝ないの?」
「まだ風呂入ってないし」
「じゃあ私も起きてるよ」
「お前じゃないし1人では入れるわ。それにお子ちゃまが寝る時間はだいぶ過ぎてるんだよ」
「でも…」
「俺はこの首輪がある限りどこにも行けないんだし安心して寝てくれ。また明日起こしに来るからさ」
「……わかった」
渋々と返事をしてからルタの後ろ姿が見えなくなるまで見送り、それから瞼を閉じる。
いつもよりぐっすり眠れたのは、誰かがいてくれる安心感があったからかもしれない。
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