第21話
「じゃあちょっと早いが風呂入るか」
「あれ、今日外行くんじゃないの?」
「風呂はお前のだ。俺は後で入る」
「お風呂入ったらついていっていい?」
「ダメだ。せめて1人で風呂に入れるようになってから言ってくれ」
それを言われては何も言い返せない。
仕方なくお風呂場に向かえば、思いだしたようにルタが小さな声を漏らす。
振り返れば少し気まずそうな顔をしていた。
「今気づいたんだが、術が使えないとお湯が張れない…」
「あ、本当だ」
「…どうしようかな」
術が使えないとお湯が張れない。
しかし術を使うためには生物を食べる必要がある。
そしてルタの中では私をお風呂に入れないまま寝かせることに抵抗があるのだろう。
「…頼むからそんなにキラキラした顔すんな」
私にとってはこれはルタの食事についていく絶好のチャンスだった。
「ね、いいよね!?」
「ダメだって。いい子だから家で待ってろ」
「でも私が許可出さないと外に出られないでしょう?」
「お前こういう時本当に頭回るよな」
恨めしそうに見られたが、事実を述べただけだからそんな顔で見ないでほしい。
しばらく悩んでいたようだが、諦めたのか小さく息を吐いてこちらを見た。
「分かった。じゃあ1つお願いを聞こう」
「ルタのご飯に連れて行って」
「それ以外で」
頬を膨らませて不満をアピールしても首を振られるだけだ。
どうやらこの点に関して譲る気はないらしい。
ならせめて自分の要望を伝えるべきか。
「…じゃあ、名前呼んでくれない?」
「名前?」
「うん、ずっと私のことお前って呼んでるけれど私にはロウスっていう名前があるの」
「あー、悪い。ついな」
ルタは頭を掻きながら申し訳なさそうに謝った。
別に今まで呼ばれなかったからといって特に気にしていなかったが、折角なら呼ばれたい。
「いつもじゃなくて、たまにでいいの。でもルタが1人で食事に行く時と帰ってきた時は絶対ね。これが私からのお願い」
「分かった」
そういうとルタは私をソファーに座らせ、その前で跪いた。
「じゃあほら許可くれ」
「この前みたいな感じでいいの?」
「あぁ、頼む」
この前のようにルタの顔を両手で包んで額同士をくっつける。
「私の所に生きて帰ってきてくれるなら行ってきていいよ」
「約束する」
「名前呼んで」
「…分かった。ロウス、約束する」
それを聞いて満足して顔を離す。
ルタは立ち上がり玄関のドアノブに手をかけてから何かに気づいたように振り返った。
「俺がいない間どうするつもりだ?暇だろ」
「ちょっと眠たいから寝てる」
「分かった。風呂がまだだから俺が帰ってきたら起こすからな」
「うん、行ってらっしゃい」
手を振って見送ればルタは片手を上げて出ていった。
ルタを見送ると途端に眠気が襲ってくる。
先程までは全くそんなことはなかったのに、今は瞼が落ちてくるのを止めることができない。
ルタが無事に帰ってきてくれることを祈りながらソファーで横になった。